1515:正体不明対策。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうすれば良い?
俺の星から逃げて助けてくれそうな者を見つけたのは良いけれど、どうやって接触すれば良いのか全く持って分からない。衛星軌道上に寄せている俺の艦隊――母艦と護衛艦数隻という少数――が目の前に見える星を調べてみたところ、俺たちが住む星とは文明の成長が凄く遅れている。凄く原始的な生活であり、宇宙に上がる技術を持っていない。それ故に俺は現地の者たちとどう接触すれば良いのかと頭を悩ませている。おそらく地上の者たちから見た俺たちは『侵略者』であろう。
今頃、二つの衛星が並んだ間に奇妙なものが見えると騒いでいるに違いない。唯一の救いは地上の彼らと俺たちの見た目が似ていることだろうか。もし仮に接触したとすれば、安堵感を多少は得られるはずである。
だが、仮に俺たち艦隊が成層圏突破を試み地上に降りたとして、彼らが歓迎してくれるのかと言えば否だ。否。
確実に侵略者だと思われるし、過激な国は俺たちの技術を得ようと艦隊の鹵獲を試み、俺たちもあわよくば捕まえようとするはず。地上の者たちと俺たちの間に面識などないのだから。殺される可能性だって――そうなればこちらも相応の覚悟がある――あるのだ。俺が難しい顔をしていれば、幼い頃から助言役として付いている爺が渋い顔をして告げる。
「二つの衛星の片方に付いている不自然な傷は真新しいものです。殿下」
爺が眉根を潜めると、その横にいる年若い侍従も口を開いた。
「傷の付き方から計算して、彼の星の地上から撃たれたものかと思われます」
歪なクレーターであったから調べてみろと命令していたのだが、どうやら調査が終わったようである。優秀な部下たちだと俺は褒めたくなるものの、彼らの報告はにわかに信じられない結果であった。
「まさか! 弩級戦艦の主砲から放たれるものであれば地上から衛星まで届く可能性がある。だが彼の者たちは戦艦など要していないのだぞ!」
「お気をつけなさい、という献言でございます」
俺が声を荒げると爺が落ち着いた態度で言葉をくれる。爺のいつも慌てふためくことのない態度は俺にとって、落ち着きを取り戻せるものだ。
「すまない、言葉を荒げてしまった。しかし、地上の者たちとどう接触すれば良いのか……早くしないと……」
そう。俺たちは地上の者たちに匿って欲しいのだ。だが、友好的に身を匿ってくれるとは限らないから、今いる場所に辿り着いて数日身動きが取れずにいた。
向こうから接触してくれれば良いのだが、如何せん技術の進歩が単細胞生物レベルなのだ。あ、いや。彼らからすれば今の文明が発展したものだが、俺たちから見るとどうしてもとても幼いものに見えてしまう。
こちらからなにかの信号を発信したとして、受け取ってくれるのか、理解してくれるのか分からない。むしろ地上に混乱を招くのは申し訳ない限りである。だが、俺たちは追われる身だから保護を求めたい。
そうすれば母国の者たちは自国以外の星々に感知してはならぬという掟が発動する。もちろん地上の者たちが母国の者たちに手を出し怪我を負った者が出れば……地上は火の海に包まれるのだが。が、我々『ミョゥミェ共鳴種』はルールを逸脱することはない。それが我々ミョゥミェの矜持なのだ。でも守れない掟が当然ある。だから俺は早く保護されねばならぬのだ!
「見つかってしまうでしょうな」
「本国の艦隊が出張ってくれば、我々の戦力では対抗できませんからな」
爺と侍従がはあと息を吐く。たしかに俺が逃げてきた理由は掟破りであるから二人が呆れても仕方ない。仕方ないのだが、こうする他なかったのだ。そして地上の者たちに逃げてきた本当の理由を告げることはないだろう。
――婚約者が怖くて逃げてきたなんて言えるはずがなーーーい!!
◇
大会議室は重い空気に包まれている。
俺、エーリヒと同僚であるユルゲンはアルバトロス王国の外務官として、大会議場にて開かれている各国の王が集まっている緊急会議に末席として参加していた。俺たちは壁際で控えているのだが、フィーネさまは教皇猊下と聖王国の代表として、ナイさまはアルバトロス王国の貴族の一員として緊急会議に召集されている。
まあ、ナイさまは呼ばれたのかもしれないが、聖王国のフィーネさまは一大事だと慌てて参加したに違いない。フィーネさまは凄く困った顔を浮かべ、今の状況をどうしたものかと悩んでいる。ナイさまは感情の読めない顔で席に腰を降ろしていた。先程、ヤーバン王が身籠っているというのにアルバトロス王国まで出張ってきたことに憤っていたから、怒りの尾を引いているのだろうか。
ただ命に関わることだから、ナイさまらしい怒りだ。
俺はフィーネさまとナイさまから視線を外して、各国の陛下方の表情を見る。どの方たちも前代未聞の出来事に緊張しているようだ。狡猾な国があるならば、抜け駆けして功績を挙げようと試みるけれど、予測不能な事態に手をこまねいているだけのようである。
しかし、自由連合国の新代表がアルバトロス王国に呼ばれているとは。向こうから接触した可能性もあるのだが、生憎と俺は彼女がどうやってアルバトロスと接触したのか報告を受けていない。情報を取り寄せれば教えてくれるだろうと、会議の成り行きを見守っているところである。
「アストライアー侯爵に魔術で威嚇射撃を行って貰うことも考えたが、沈黙を守っている相手を挑発するだけ」
アルバトロスの陛下が重い口調で声を上げると、各国の陛下もアルバトロス王国の高位貴族も頷くだけである。ナイさまはご自身の名が上がり少し驚いていたものの、双子星に傷をつけた身であるためなにも言えないようである。
ナイさまであればアルバトロスの陛下から命を受ければ、双子星の前に居座る物体に射撃を行うだろう。もちろん狙いは外して。そこから外交的手段を得られるなら御の字であるが……相手がどんな者なのか全く分からないため、本当にどう行動にでるのか未知数だ。
衛星軌道上に浮かぶ物体の絵を見せてもらったのだが、SF作品に出てくる宇宙船や宇宙艦隊そのものだった。遠見を行った人の話を聞いた絵師の想像だから、食い違っているところがあるかもしれない。だが、俺の見る限り、あれは宇宙船や宇宙艦隊だ。しかも複数。迂闊に手を出せば地上を焼け野原にされかねないと俺は溜息を吐くと、北と東と南大陸の陛下方が入場を果たす。
議題が振り出しに戻り、また沈黙が訪れ、どうしたものかと皆さま頭を悩ませる。痺れを切らした一部の王が机に両手をだんと叩きつけ声を上げた。
「このままでは地上の者たちが恐怖に包まれたままです! 早急に対処を行いましょう!!」
たしかに対処すべき案件であるが、彼ら自身になにかできる術はない。痺れを切らした一人の陛下により恐怖心が伝播したようで、耐えきれなかった他の陛下数名も席から立ち上がる。
「だが、あれは神の使いかもしれない!! 我々が神に手を出すのか!?」
「しかしアストライアー侯爵の言によれば、創星神さまのものではないと!!」
ナイさまの名が上がれば、大会議場に集まっている方々の視線が彼女に集まる。身勝手な物言いにジルケさまが怒りを見せており少し空気が重くなるのを感じれば、ナイさまがジルケさまに一瞬目配せをして『手出し無用』と伝えたようである。
重くなった空気が一瞬で霧散して、俺は安堵の息を吐く。今のジルケさまの少しばかりの圧を感じたのは会場に何人いるだろうか。前代未聞の出来事にほとんどの人が慌てふためいているから、気付いている人は少ないはず。
「創星神さまの言によれば、他の星のものであり、ご自身は関知していないと仰っておりました」
「何故、創星神さまは我々を助けてくださらないのだ!! 堕ちた神の対処はなさってくださったというのに!!」
「神々が関わっていたのであれば、今回も創星神さまは我々地上の者たちを助けてくださったでしょう。ですが助けてくださらないのは、神々が起こした事柄ではないと暗に仰っておられるのでは?」
怒号を上げるとある国の陛下にナイさまは落ち着いた態度で言葉を返している。アガレス帝とヤーバン王と亜人連合国の代表護衛としてついてきているエルフのお二人が『もっと言ってやれ!』とナイさまに言いたげだ。フソウのナガノブさまは『無能が吠えているな。己でなにもできやしないというのに』とボルドー男爵さまに良い顔を向けていた。アルバトロスの陛下は深く溜息を吐いている。
「アストライアー侯爵」
「はい」
「皆、未曽有の事態に混乱している。先程の複数名の無礼な言葉は如何しよう?」
アルバトロスの陛下がナイさまに今のことをどうするかと問う。ナイさまは一瞬右上に視線を向け、アルバトロスの陛下に視線を向けた。
「では、教会にお酒を献上していただければ創星神さまが喜ばれましょう」
ナイさまは自分に矛先が向きそうでグイーさまを利用したのだろうか。いや、しかし……今の言葉で俺はグイーさまが小躍りしている姿を想像してしまった。テラさまがグイーさまと一緒にいれば『ラッキー!』と明るい声を上げていそうだ。まあ、ナイさまとグイーさまがwin-winな関係であるなら俺はなにも言うまい。ナイさまの後ろではヴァルトルーデさまが面白そうに笑い、ジルケさまが溜息を吐いている。
「誰か、双子星に浮かぶ物体と接触できる方法や交信できる方法を知る者はいないだろうか……?」
アルバトロスの陛下が神妙な顔で告げると、亜人連合国の代表さまと白竜さまが困り顔を浮かべながら言葉を紡ぐ。
「我らが飛び、向かおうとも考えたが……飛べる高さを超える位置にいる」
「攻撃すれば、巣から蜂が飛び出る可能性もありますから」
二竜の方が口を閉じれば、今度はアガレス帝が言葉を紡ぐ。
「アガレスの飛空艇をとも考えましたが、同じく高い空を飛べる技術を有しておりませんので……力になれず申し訳ない限りですわ」
航空戦力を持っている国のトップが公の場で無理だと口にしているので、本当に衛星軌道上まで辿り着く方法はないようだ。緊急会議で口にしなければ『衛星軌道上まで行けるかもしれない』と各国への牽制となっていただろうに、状況を判断して国の内情を語ってくれている。
俺もなにか陛下方に協力できないだろうかと頭を捻る。しかし原始的な方法しか浮かばないし、相手に意思があるのか分からない。けれどやってみる他ないし、とりあえず進言してみようと紙に字を認めて、アルバトロスの陛下に目を通して頂くように係の人にお願いするのだった。
【お知らせ】急ですが明日2026.01.19~2026.03.07まで魔力量歴代最強な~の投稿をお休みします。理由は他作品の書籍化作業に入るためです。戻る頃にはなにかお知らせできることがあると思うので、三月まで少々お待ちいただけると幸いです!┏○))ペコ






