1512:ぷす。
ピザパーティーが終わった次の日。今日はバーベキューパティーである。
去年と内容は一緒だし、参加している面子も変わらない。魚人の方たちとおばあと四頭のグリフォンさんたちが増え、行動範囲が広くなった大蛇のガンドさまがいるくらいだろうか。
ガンドさまは頭だけ森から出して、バーベキュー会場にきていた。おばあが不思議そうな顔をしてガンドさまの身体をつんと嘴で突けば『いやん』と声が出るのは恒例行事と化している。
炭に火が入る前に食材の用意をしようと、宿泊メンバーが外へと出てきている。野菜もお肉も大量に用意しているし、ダークエルフさんたちの村と魚人の方たちの村からも差し入れが机の上に『どん!』とてんこ盛りになっていた。楽しいパーティーになりそうだと、食材を切っていれば顔だけ出しているガンドさまとお酒をぐびっと飲んでいるグイーさまが私を見ている。なんだろうと私が首を傾げると、蛇と神さまが面白そうな顔になった。
『沼地から移動範囲が広くなったのは、ナイのお陰だのう』
「ナイの力は不思議だな!」
どうやらガンドさまとグイーさまは島が大きくなったことに言及しているようである。魔力を寄越せとグイーさまに言われたから注いだだけなのに、この言われようである。腑に落ちないと、私はウインナーに切れ目を入れている手を止め、握っている包丁をまな板の上に置いた。
「私の魔力を利用して島自体が成長したなら、私のお陰とはならないのでは?」
島に注いだ魔力が凄いのではなく、魔力を利用して成長した島の方が凄くないだろうか。確かに島が育つためのエネルギーを私は注いだわけだけれど、大きくなったのは島の意思である。
だから島を作ったグイーさまの意思なわけだけれど。グイーさま曰くこの島は四女神さまは関知していない。星が創造された頃にグイーさまが足掛かりとして、神の島の次に作った島だとか。ただ島を作ったあとでご自身で管理するのは面倒だと気付き、先ずは長女であるヴァルトルーデさまを創造して西大陸を造らせたとか。話のスケールが大きすぎるけれど、まあ、南の島はグイーさま管轄となるそうだ。
『でも魔力を島に注いだのはナイじゃろう?』
「だなあ。ちょっぴり儂も影響受けたし」
蛇と神さまがドヤ顔で私を見ている。グイーさまはガンドさまに『お前さんも飲むか?』と問い『有難き幸せ』と言って、酒瓶を一本空にしてガンドさまが舌をちろちろ伸ばしながら飲んでいる。
ヤマタノオロチみたいになりはしないかと心配しつつ、まあガンドさまより格上の方がたくさんいるから大丈夫だろう。私は蛇と神さまを見て溜息を吐き、ウインナーに切り目をいれていた作業を再開させる。
「あ、切り目入れ過ぎた」
仕方ない。こんな簡単な作業を失敗するとは。焼けていないけれど証拠隠滅しようと、私は真っ二つになったウインナーをそのまま食べる。皮のパリっとした感じとお肉の肉汁が出てくる。焼けばもっと味に深みが出るだろうと私が目を細めれば、お盆の上に別のウインナーを乗せているリンがこちらへとやってきた。
「ナイ。大きいのはどうするの?」
「串を刺して焼こうか。ケチャップとマスタード付けて食べると美味しいよ」
リンが持ってきてくれたサイズは露店やコンビニのホットスナックのような大きさだ。真っ直ぐではないけれど、どうにか串を刺せる程度の曲がり具合だ。ロゼさんに竹串を出してくださいなとお願いすれば、ぽいとロゼさんが投げてくれる。リンと一緒に作業を始めてすぐに、テラさまが軽い足取りでこちらへやってきた。
「フランクフルトかあ! 屋台みたいで良いわね~!」
にこりと笑ったテラさまがウインナーと竹串を見比べる。
「ナイ。それくらいなら私も手伝える。見ているだけなのは暇だし、娘たちは相手してくれないし~」
テラさまは今まで食っては寝て遊んでを繰り返していたけれど、最後の最後に手伝う気になったようだ。まあ相手にして貰えなくて単に暇になっただけかもしれないが。フランクフルトを知っているなら説明は必要ないだろうと、私はお願いしますと告げてふと不思議に思ったことを口にする。
「あれ、自活しているのでは?」
自活しているのだから料理はできるはず。ウインナーに竹串を刺すなんて小学生でもできることだから、テラさまの『それくらいなら』という言葉が引っ掛かった。
「自活しているって言っても、掃除、洗濯、料理は適当だもの~私が日本で生活できているのは文明が発展しているからこそね」
適当で済ませられているのが羨ましい気もする。でもまあ確かに掃除機があって、洗濯機があって、各調理家電のある地球は便利だなあと目を細めた。
次代が進めばグイーさまの世界も同じようになるけれど、一体何年掛かるだろうか。グイーさまはなにも考えていなさそうだし、地上に干渉するつもりもないから、本当に時間が掛かりそうだ。あ、でも神さま基準なら百年、千年は一瞬か。ヴァルトルーデさまの二千年の引き籠もりを『ちょっと』と称していた。
「向こうの技術は便利ですよね」
「ナイは再現しようとしないわねえ」
私は目を細めながらウインナーに竹串を刺せば、テラさまはグイーさまの方を向いてウインナーに竹串を勢いよく刺した。そのあと直ぐ私の方を見て『地球の技術を持ち込まないの?』と問うてくる。
「中身はさっぱりですから。それにこちらの世界は魔術と魔法が発展しているので、技術形態が違います。下手に持ち込むのは危険かなと」
向こうの技術とこちらの技術が悪魔合体しても困るだろうし、地球の存在を知りテラさまの星に行ってみたいと願う人がいるかもしれない。そう考えると、地球からの転生者という事実は身内以外には言わない方が賢明だ。
「と言いつつ、料理関係は遠慮なく持ち込んでいるわねえ」
カラカラとテラさまが笑みを深める。
「料理はまあ、平和利用できるかなと」
たしかに遠慮なく持ち込んでいるけれど、世界征服を目論んでいるとか、世界中の人たちの胃を掴みたいとか考えていない。もし、なにかあれば食事で接待しようというだけだ。
「え?」
「えって」
テラさまが片眉を上げながら短く声を上げた。私はなにも考えないまま言葉を返す。
「ナイが満足するためでしょ?」
まあ確かに自己満足のためだろうと、私はなにも告げず作業を続ければテラさまが笑みを深めた。
「そこまで深く考えていないわよね。ナイだもの」
テラさまがうんうんと一柱で納得していた。どうしてみんな『ナイだから』で納得してしまうのだろう。私が一番納得できないと、ウインナーに竹串を思いっきり刺すのだった。
◇
父さんが股に手を当てながら顔を青褪めさせているけれど、どうしたのだろう? 私が首を傾げながら野菜を切っていると、末妹が『姉御、余所見すんな。危ねえぞ』と声を上げる。野菜を切っていた手を止め、末妹に疑問に思っていたことを話せば『あー……』と言い辛そうな声を上げた。
「姉御は分からないままで良いんじゃね? というか母上殿だろ、原因」
「母さん、ナイと一緒に作業してるだけ」
後ろ手で頭を掻いている末妹は気まずそうに私を見上げる。
「そうだな。まあ、理由は……あー……エーリヒには酷か。ナイか母上殿に直接聞けば良いさ」
またぼりぼりと頭を掻きながら面倒そうな顔になった末妹は何人かの名前を挙げた。
「分かった。あとで聞いてみる」
エーリヒに聞くのは駄目らしい。何故だろうと疑問に思うものの、ナイか母さんに聞けば私の疑問は解決できるようである。私は止めていた作業を再開させる。
「去年より、上手くなった」
「そうだな。切り目、綺麗になったし、上等じゃねえか。というか北と東の姉御は動く気ねえのな」
末妹が言ったとおり、私の手元にある野菜は綺麗に切れている。上手くできないと嘆いていたけれど、回数をこなせば慣れてくるようだ。ナイと他の人たちが言っていた『慣れれば上手くなりますよ』と言っていたのは真実だったようである。女神という身でありながら、こういうことは人間の方が詳しい。本当に地上では学ぶことが多くあるから楽しいと、コテージ近くにあるハンモックで寝ている北と東の妹に目を向けた。
妹二人は準備を手伝う気はなく、食べることで精一杯だと告げていた。末妹曰く、北と東は他の連中に気を使っているだけらしい。となれば私と末妹は気遣いのできない女神だろうか。良く分からないし人間の心の中は分かりづらいと、私は末妹に視線を向け直す。
「それは末妹も。見てるだけだ」
「手、切ったらどうすんだよ。自分で治せねえし」
末妹も見ているだけで手伝うことはない。私の周りでごそごそしているだけだ。気が向けば生の野菜をつまみ食いしている。私は我慢しているというのに、末妹は先程こっそりウインナーを食べていたナイみたいだ。
でもまあ、嫌な気持ちはしないから構わないけれど。しかし末妹は本当に不器用というか。女神というのに治癒に関しての力の使い方が全くなっていない。原因はどこにあるのだろう。使えないはずはないから、私が包丁で野菜を切っているように訓練すれば使えるようになりそうだ。とはいえ今は野菜を切って貰えれば凄く助かる。
「治してあげるよ?」
手を切ったら治せば良いだけだ。地上に降りているから私たちの身体は限りなく人間に近いものとなっているため、魔力量が多い者であれば私たちの怪我は治せるはず。
多分大量に魔力を消費して動けなくなるはずだから私が治す方が無難だ。そう考えるとナイは本当に稀有な魔力量の持ち主である。私の怒りの波動を防いだことがある上に、いろいろ他にも信じられないことをしている。本当に面白いし、見ていて飽きない。変わった子だけれど。
「姉御に治して貰うと、高くつきそうなんだよなあ」
末妹が両手を頭に当ててしたり顔で私を見ている。別に治したことで、なにかして貰おうなんて考えていなかった。でも冗談で末妹が口にしているのは分かる。だから。
「酷い」
と、ナイが時折口にするように私は末妹に言葉を返すのだった。さあ、バーベキューがそろそろ始まる。






