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1503/1515

1503:割と自由。

 再度トライしている釣りであるが、何故かヴァルトルーデさまの竿で針を海へと投げるたび、魚が入れ食い状態となっていた。ドワーフの職人さんに作って貰った竿がぐぐぐとしなり、一番沈んだタイミングでぐっと勢いよく引き上げて糸を巻き始める。

 魚は針の返しで逃げられないけれど、捕まってなるものかと遠くへ逃げようと試みる。釣り好きの人曰く、この駆け引きが楽しいというが、私は食べる時が一番楽しいし嬉しいし美味しい。とはいえ私の竿は昨日から二、三回しかあたりがこず、釣れた魚も二匹である。今日、そして釣り初心者であるヴァルトルーデさまに大敗を喫したようで、私は凄く複雑な心境だ。


 一緒についてきたおばあは興味深そうに海を眺めている。背中に抱えているポポカさんたちは眠そうな顔で朝陽を浴びていた。

 ジャドさんとイルとイヴと他のグリフォンさんは私たちが釣りをしている様子を興味深そうに眺めながら、欠伸をしたり、翼を広げてみたり、森の中へ向かってみたりと自由に過ごしている。今日もまた釣りのレクチャーをしてくれている魚人の青年と中年男性は彼女たちの雄大さに口をポカンと開けて驚きつつ、ヴァルトルーデさまの入れ食い状態の竿にも目を丸く見開いたまま固まっていた。

 

 今もヴァルトルーデさまはリールを巻き魚を釣り上げ、私とリンとみんなに得物を掲げてドヤと胸を張っている。


 「羨ましい……」


 私は口をへの字にしながらヴァルトルーデさまを見上げる。海は満ち潮の時間となっており、海水面がどんどん上がっていっていた。もう少しすれば完全に潮が満ち、海の流れが穏やかになる。そろそろ潮時なので私もヴァルトルーデさまのように挽回したいけれど、魚たちがヴァルトルーデさまに忖度しているようにしか見えなかった。


 「楽しいね、ナイ」


 「ソウデスネ」


 海の中に沈めた網篭の中には大量のお魚さんたちが入っている。これには魚人さんたちも驚いており、本当にヴァルトルーデさまの運が天元突破していた。

 

 「みんなの分、足りるかな?」


 「十分かと」


 ヴァルトルーデさまは私の声に『じゃあ、そろそろ止めよう』と竿を海から引っ込めた。釣った魚を持ち帰って捌くのは大変だが、みんなで消費できる量に収まっているので無駄にはしないけれど。刺身に焼きに蒸し。アラでお吸い物を作っても美味しそうだ。窯があるなら大量の塩で包んで焼いてみるのも面白そうである。

 アルバトロス王国風にするならカルパッチョ系だろうか。そちらの知識は私にないためエーリヒさまか料理人の方たちにお願いしてみよう。久方ぶりに包丁を持てる環境にいるから魚を捌く練習もできる。


 侯爵位となったので身に着けても意味は薄いけれど、じょりじょりと包丁の背で鱗を落とす作業は無心になれる。精神統一のような側面を持っているよねえと、海から網篭を上げようとするのだが引き上げた途端に魚の重みで腕が痺れそうになる。リンが持とうかと言ってくれるものの、彼女でも重いのではないだろうか。本当に凄い量が釣れたと横目でヴァルトルーデさまを見れば『私、こんなに釣っていたのか』と驚いていた。

 

 「半分持つよ、ナイ」


 「ん。お願い、リン」

 

 じゃあ帰ろうかと荷物を纏めるのだが、ヴァルトルーデさまの釣った魚の量が本当に異常である。魚人の方たちにも持って帰って貰っているが、それでも私たちの手元には大量のお魚さんが残っていた。重いねえ、そうかなと私とリンが話していると、おばあが持とうかと顔を突っ込んできた。私はポポカさんたちが背に乗っているから無理はしないでと伝えると、おばあが少しだけしょぼんとした顔になる。

 役に立てなかったことが悲しかったようで、ジャドさんが苦笑いを浮かべながら『おばあの代わりに私が持ちましょう』と告げ『私は代理ですから、おばあが持ったも同然ですよ』としょぼんとしているおばあに伝えれば、ぱあと顔を明るくしておばあは元気に歩き出した。


 「おばあは素直」


 ヴァルトルーデさまはグリフォンさんたちのやり取りを微笑ましそうに見つめながらコテージを目指している。ジャドさんの言葉におばあが騙されているような気もするが、本人、本鳥……本獅子……? であるおばあが気にしていないなら良いかと、私もリンと一緒に歩き始めた。

 

 そうしてコテージに戻れば、木陰でフィーネさまとアリサさまとウルスラさまとアリアさまとロザリンデさまが本を読んでいた。芝生の上に敷物を敷き、各々好きな体勢で過ごしている。

 敷物の真ん中にはリームのお芋さんをスライスして揚げたものが鎮座しており、視界に納めた瞬間にお腹がぐうと鳴った。向こうに行って味見をさせて貰おうと玄関へと向かっていた足をフィーネさまたちの方へと向ければ、先にヴァルトルーデさまがフィーネさまたちの下へと辿り着いていた。

 

 「はや!」


 「一瞬だった」


 私は驚いてつい声を口に出してしまう。リンが耳聡く私の声を聞いていたようで、速攻でフィーネさまたちの方へ行ったヴァルトルーデさまを見ながら微妙な顔で見つめている。ジャドさんたちは微笑ましそうにヴァルトルーデさまを眺めているから、人間と魔獣や幻獣の皆さまの間では西の女神さまに向ける感情が違っているようだ。

 

 「ナイさま、おかえりなさい! お魚は釣れましたか?」


 「はい。ヴァルトルーデさまがたくさん釣り上げてくださいました」


 フィーネさまが私とリンに気付き、笑みを浮かべ声を掛けてくれる。木陰の下で本を読んでいる彼女の姿は本当に絵になる。アリサさまとウルスラさまとアリアさまとロザリンデさまも可愛い系か美人系だから、敷物の上に腰を降ろしているだけで雰囲気があった。

 その中に混じっているヴァルトルーデさまは真ん中に置かれた木製の深皿に手を伸ばして、揚げたお芋さんを口に運んでいた。美味しかったようで目を細め、二口、三口目と手を進ませている。ウルスラさまがヴァルトルーデさまの姿に見惚れ、他の面々は微笑ましそうに女神さまを見守っている。フィーネさまは私たちに視線を向けたまま、お魚さんがたくさん釣れたことにぱんと手を合わせる。


 「そうなんですね! 今日の夜が楽しみです!」


 「いろいろな料理ができそうですよ。刺身に焼き魚は定番ですけれど、ムニエルとか煮つけとかも良いですしね」


 私の声に一同がお魚料理に想いを馳せている。ただ大陸内部で生活してきたみなさまは魚料理に良いイメージがないようだ。去年食べた焼き魚は美味しかったけれど、他の料理として提供されて食すことができるのか不安なようである。リンは私がお魚さんを平気で口にしているから、彼女たちのような苦手意識を持っていない。本当に育った環境や常識で反応が違うのは興味深いものだ。

 

 『ナイさん、こちらはどうしましょうか? あまり空気に触れさせておくのは、よろしくないでしょうから』


 ジャドさんの声に私は料理人の皆さまに渡しに行こうと告げる。それなら玄関を通らずに裏から入った方が近道だと、ジャドさんにそのまま荷物を持って貰ったまま裏手の方に回る。リンも一緒にきてくれ、おばあたちグリフォンさんたちはフィーネさまたちと一緒に涼むことを選んでいた。

 

 調理場に顔を出せば、料理人の方たちが昼食の準備に精を出していた。ジャドさんは窓から顔を覗かせて、私たちの様子を伺っている。


 「ご当主さま、これは凄い量ですね。去年より釣果が上回って良かったです」


 私は仕事の邪魔をして申し訳ないと思いつつ声を掛けたのだが、料理人の方たちは快く受け入れてくれる。コテージの台所にはダークエルフさんがおり、人間の料理研修を受けていた。逆に料理人の皆さまはダークエルフさんたちの食文化を習っている。異文化交流でなにか得られるものがあると良いのだが。

 対応してくれた料理人さんは窓の方へと顔を向け、ジャドさんが嘴から下げている網篭を見て苦笑いを浮かべた。たしかに量が多いよねと私は小さく肩を竦める。

 

 「ほとんど西の女神さまの釣果ですけれどね。あ、無理のない範囲で料理として出してくださると嬉しいです」


 私は数々の魚料理を思い浮かべながら笑みを作る。料理人さんが『え?』と驚いているのは、きっと釣ってきた魚の多さに驚いているのだろう。足りなくなればヴァルトルーデさまを連れ、また釣りに向かうのもアリかもしれない。とりあえず釣った魚を料理人さんたちに預けて、温泉に入りに行こうと廊下を歩きながらリンに伝え、私は凄く大事なことを思い出した。


 「あ!! お芋さん、食べ損ねた!!!」


 そう。フィーネさまたちに提供されていたお芋さんを揚げたチップスを食べていなかった。今、彼女たちのところへ向かってもヴァルトルーデさまが消費しているかもしれないと絶望の淵に立たされる。


 「あとで貰いに行こう、ナイ」


 リンが目を細めながら、落ち込んでいる私を慰めてくれる。まあ、なければ最悪自分で作ろう。せっかく南の島にきているのだから、外で火を熾し、お芋さんをスライスして油の中に投入するくらい許されるはず。部屋を出て、また廊下を歩いているとぼさぼさの頭を掻きながらテラさまが部屋から顔を出して、くわっと大きな欠伸をしてリンを見て私を見下ろす。

 

 「大きな声が聞こえたから目が覚めちゃったじゃない。ありゃ? ナイ、ジークリンデ。道具を抱えてどこ行くの?」


 臍が見えていますよという突っ込みは敢えて飲み込んだ。欠伸の所為でテラさまの両手が上に上がっていた不可抗力だ。ちょっと出ベソ気味だったなんて、記憶の彼方に吹っ飛んでいる。私は釣りから戻ってきたことと身体についた潮を洗い流そうとリンと一緒に温泉に向かうことをテラさまに伝えた。


 「温泉? この島、温泉あるの!?」


 ふぁっと驚いたような顔にテラさまは浮かべて再度口を開く。


 「私も行くわ!!」


 私は特に問題ないとリンを見上げれば『好きにして良い』という無言の返事を貰った。


 「分かりました。あ、ヴァルトルーデさまも誘わないと。ねちゃねちゃして気持ち悪いですから」


 温泉に浸かりに行くならヴァルトルーデさまも回収しようと、ウッキウキのテラさまと引き連れて私とリンはテラさまを後ろに連れて玄関横を目指すのだった。

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南国リゾート温泉付き……全力で楽しんでますねテラ様w
ナイの殺気いや食い気が魚に伝わってしまったかな?
フィーネちゃんかわいいなあ
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