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007

遅めの昼寝をしたら、投稿予定していた時間を過ぎていました。


「まさか、これほどまで落ちていないとはのう」


 あれから二週間ほど経った。

 

 アテルマが餌を落としそうな穴は簡単に見つかった。だが、その穴から降ってくる餌は今までの場所に比べたら微々たるものだった。


「いや、驚きましたよ。スグリのじいさん。まさか、あいつら穴に餌を放り投げることを忘れたんでしょうかねぇ。今までこれまでありましたか?」

「いや。こんなことは一度もなかった。奴らは基本的に人間を穴の近くまで集めるために、多めに餌をやってきたはずじゃ。なのに、どうしてかのう?」

「ひょっとして、俺たちを干物にする気か?」

「それなら、一度捕まえてから天日干しにした方がずっといいじゃろ。こんな地下で飢えさせても水分は飛んでいたとしても、舌触りは悪いじゃろ」

「いや、そんな物騒なこと話しあっていないで、これからのこと考えましょうよ」

「リョーのくせに至ってまともなこと言うじゃねぇか? 気が狂ったのか? それともそこらへんの蠅でも食べたのか?」

「食べてませんよ! ここ最近はあの餌しか食べてませんよ!」


 僕からしたら、人を干物にするか否かで話し合う方が気が狂っているような気がするんですけど。


「これから辛くなるのう。ここには300人が住んでおる。ただでさえ、餌が減っとるのだからかなりまずいじゃろう。持ってあと二日か三日と言ったところかのう?」

「そりゃ、ただごとじゃねぇ! 村の長老衆は? あいつらはなんて言っている?」

「あやつらは自分のことしか考えておらんからのう。倉庫から出すことはせんわ。仮に倉庫から出すにしても、高く売りつけるかもしれんわ」

「こんな非常事態にあいつらは何を考えているんだよ!」

「それなら、お主たちがへこへこと売るんじゃなかったのじゃよ」

「そんなの生活するには必要な金だったんだよ」

「あれ? お金ってあの餌を買う以外に使うことあるんですか?」


 すると、二人は揃って溜息をついた。


「じゃあ、どうやってこの集落に暮らすんだ? ここ以外にアテルマのやつらにビクビクしないで暮らせる場所なんてあるか? 住むために金を払わなきゃお前みたいに村を追い出されるんだよ!」

「リョーは何もかも忘れておるんじゃよ。だから、あまり強く言ってやるな」


 エインリッヒを宥めようとするスグリに彼はきょとんとした顔をした。


「──ほんと、あんた、丸くなったな」

「昔からわしはこんな感じじゃよ」

「へーへー。そーかい」

「わしも一応、あやつらにかけおうて見る。じゃが、期待するでないぞ! エインリッヒ」

「分かってるよ。俺はこいつを連れてまた、あちらへ行ってみるよ。もう腰の方は治っているだろ?」 

「──ま、まぁ」


 かなり歩きまわされて今度は太腿のあたりが痛いんですけど。


「なら、すぐに行くぞ。ひょっとすると、また餌が落っこちているかもしれねぇ」

「──こういうときはあまり期待するものではないがのう」

「餌が落っこちないと俺たちは生きていけねぇよ。だから、少しでも期待しなきゃいけないだろ」

「まぁ、それくらい考えてもおかしくないのう」


 ******


 スグリのじいさんと別れて、僕はエインリッヒと二人で険しい上り坂を歩いていた。


 そんなとき、エインリッヒは僕に語りかけた。


「そういえば、おめぇどうやってあの爺さんに取り入ったんだ? 昔はあんだけ嫌われていたのにどうしてこんなに仲良くなっちまったんだ?」

「そんなの僕には分かりませんよ」

「そういや、お前記憶無くしたって言っていたよな。なぁ、どこまで記憶が無くなったんだ?」

「それが、まったく」


 憑依しているとか言っても、この人は信じてくれないだろうしな。ここは普通にそう答えておくことにした。


 すると、エインリッヒは深く溜息をついた。


「村八分受けたことでここまでなるのかね。──あぁ、そういや、ミヌエットのことは覚えているのか?」


 ──また、ミヌエット。いつも、ミヌエット。会う度にミヌエットって。いったい誰なんだよ?


「いったい誰なんですか? そのミヌエットって」

「おい。てめぇの恋人の名前も忘れたのかよ」

「恋人?」


 どういうことなんだ? この身体の持ち主に恋人がいたのか? 周りの人から聞いた評判じゃどう考えてもそんな器量は持ち合わせていなかったはずだが……。


「──いや、てめぇとミヌエットは恋人ではなかったのか。てめぇはたしか度胸の欠片もねぇから愛の告白すらできていなかったのか」

「何度言ったら分かるんですか? 僕は記憶喪失だって」

「あぁ、そうだった。そりゃそうだよな。記憶がねぇなら分かるはずもねぇか」


 エインリッヒは一息おいてから言葉を続けた。


「ミヌエットはお前と昔からの幼馴染で弱虫で泣き虫なお前にいつも付き添ってくれていたんだぜ。『あたしがいなかったら、リョウはアテルマに喰われちゃう』って言っていつもお前にべったりだったよ。まぁ、つい二、三か月ほど前にお前をかばったせいで死んじまったがな」

「ひょっとして、そのミヌエットは……」

「そうさ。あの爺さんの孫娘さ。だから、お前さんにはあんまりいい印象は持っていないはずだぜ。恨んでいるかもしれねぇな」

「なのに、どうして……」

「そんなこと俺が知るかよ。聞きたいなら、爺さんに聞きな。──しっかし、やっぱりねぇな。奴さん、どうして急に食料を落とすのを止めたのかね? あんまり食事に苦労していないだろうによ。俺たちを好き好んでお菓子にするくせに、あんな泥みてぇなもんまで食うのか?」


 エインリッヒはそう呟いてから、舌打ちをした。


次回は明日中に投稿したいです。

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