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陽キャラ、陰キャラになる  作者: 二篠秋士
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満、陰キャラになる。

窓から漏れた微風が机に突っ伏している俺の頬を撫でる。今日の朝方まで雨だったのかやけに湿っぽい。ふと顔を上げ窓の外に目を向けると、数日前まで校庭の木々を彩っていた桜色が今朝の雨が原因なのか申し訳程度にしか残っていなかった。



『陽キャのお前に陰キャの俺の気持ちなんかわかんねぇよ』



これは俺、工藤満(みちる)が半年前くらいに言われた言葉だ。なんだか陰キャラが誰しも思っていそうな言葉をぶつけられた俺だが、最近この言葉を思い出して考えていることがある。

それはあの時の相手の気持ちだとか、自分が言うべきだった言葉だとか、相手を怒らせずに穏便に場を収めることが出来た方法だとかではない。

そんなことを考えたところでもう過去のことであり、今更掘り返すことでもない。そして何より俺とその相手はもう同じ学校には通っていないので会うこともないだろう。



とはいえ今後同じようなことが起こったときのことを思うとしっかり考えておく必要があるとも思う。俺に言葉を投げかけてきた彼の言うことには、「陽キャラ」は「陰キャラ」の気持ちが分からないのだから。そして皆どこかで自分や他人に対して「陽キャラ」、「陰キャラ」の印象を抱いたり抱かれたりしているのだから。

そう、俺が着目したのはまさにその部分なのだ。俺が焦点を置いたのは俺があの言葉をかけられた一連の流れではなく、言葉そのものだ。



陰キャラ、陽キャラなんてもので相手の気持ちが理解できないということなどあり得るのか。率直な気持ちを言うとありえないと思う。だが根拠を示せと言われると言葉に詰まってしまう。そこでこの疑問を晴らすために最近行動を起こし始めたのだがその前に俺の人となりを話しておこう。



現在高校一年生で誕生日は6月1日で血液型はA型、好きな食べ物は麻婆豆腐で嫌いな食べ物は特にない。

そして俺が「陽キャラ」に分類されるのは、小・中を通して学級委員長や部活のキャプテンや生徒会長を務めていたことやそれにより周りには常に人がいたからだろう。しかし完璧な人間かと言われればそうではなく短所もある。



一つ挙げるとコミュニケーション能力が低いところだ。リーダー的ポジションの人はコミュ力が高いと思われがちだがそうではない。リーダーはいろんな人と接する訳だがそのほとんどが事務的なことなのだ。先生やあまり接点のない生徒と話すときというのは何か用件があった時のみで個人的な話などはほとんどしない。そしてリーダーをしていると、休み時間に人が集まってきたり、遊びによく誘われたりする。常に相手から近づいてくるので、自分から個人的に仲良くなりに行く機会がなくなったことで自分から距離を詰めるコミュ力がつかなかったのだ。

ふと周りに耳を澄ませるとクラスメイトの談笑の声が聞こえてくる。



「今日帰りカラオケ行こうぜ〜」

「え〜昨日も言ったやん」

「まじ昨日のデュエット勝負のリベンジしたいし〜、昨日めっちゃ練習したからまじ自信しかないわ〜」

「いやいや昨日の今日でどうにかなるかよ・・・」



青春真っ只中な会話を聞いて、そういえば中学までは部活漬けで学校帰りの遊びなんて一回もしたことなかったな。なんて思いつつ、今日の放課後はまっすぐ家に帰ることを決める。



さてさてもう一つ短所を挙げておこう。それは勉強嫌いなところだ。しかし勉強が嫌いなだけで不真面目ではない。授業中はしっかり集中しているおかげで中学の時の成績は中の上といったところだった。ただ予習復習をしないのでそれ以上にはならなかった。まあここからは余談なのだが勉強嫌いが災いして受験生の時に親に勉強しているフリをして隠れてwetubeを見ていた結果、受験前に成績を落とし志望校を断念。高校はどこでもいいやと思っていた自分に親が進学校に行きなさいとのお達しが下り、今の成績で行ける進学校は家から遠く離れたところしかなく結局そこに行くことになったのだが、家から遠いということは通っていた中学からも遠いということで、さらにレベルの高い進学校でもなかったので母校からの進学は俺の知る限り俺一人となってしまった。

突然背中を突かれたので顔を上げると先ほどまで騒いでいた生徒たちがいなくなっている。突かれた方に振り向くと気まずそうに女子生徒がこちらを見ている。



「あの・・・次体育だから・・でその・・私教室の鍵閉めないといけないから・・・」

「ああごめん」



高校生になって給食がなくなり購買や食堂を利用するようになった生徒が現金を持ってきたり、携帯の持ち込みが許可されていることなどからこの学校では移動教室時に委員長が鍵をかけるのが義務付けられている。俺は短く謝罪を述べると更衣室へ向かった。



最後に一つだけ言わなければいけない短所がある。俺は人見知りということだ。一度仲良くなれば気さくに接せるのだが、あまり話したことがない人と事務的な話でなく距離を詰めるような話をしろとなると低いコミュ力も相まって言葉が出てこないのだ。



今の時点で何か思うところがある人もいるかもしれないがはっきり言おう、それは勘違いだ。

長くなってしまったがここで話を戻そう。「陽キャラ」と「陰キャラ」は理解し合えないのかという難問を解くために最近行い始めた行動というのは、高校進学を機に「陽キャラ」だった俺が「陰キャラ」になることだ。

この方法を選んだのは片方の視点だけでは判断できなくても両方の視点を得ることができれば答えに辿り着けるだろうと考えたからだ。決して皆が思っている理由で現在「陰キャラ」になっているわけではない。



休み時間誰とも話さず寝たフリをしたり、校庭の散った桜を眺めたり、話しかけてきたのが委員長の事務的なことだけだったのも決して不本意にそうなったのではなく、俺が意図的に友達を作らなかっただけなのだ。

着替え終わった俺が体育館に出るとちょうど授業開始のチャイムがなる。初めの挨拶を済ませた後、ジョギングと準備体操を終えると一旦集合がかかる。



「よし今日の授業は二人1組で行う。ペアを決めて決まったペアは座っていくように」



先生の話が終わると最初から決まっていたのかというほどに次々とペアを決めて座っていく。その光景を眺めながら自分に言い聞かせる。俺は決して望まない形で「陰キャラ」になったんじゃないと。周りに気づかれないように一つため息をつくとペアを探すべく行動に出る。



こうして俺は意(・)図(・)的(・)な逆高校生デビューを成功させたのであった。



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