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千里、あの朝から。▲2014/01/05 06:31

 窓の外で小鳥が忙しなく囀っている。そんなに朝が嬉しいのだろうか。千里は寝ぼけ眼にそう思った。

 次の瞬間には脳が自分の置かれている状況を再認識し始める。そこはいつもの自分の部屋。ベッドは背後にありながら、しかし今は椅子に座っている。つまり昨晩は勉強机に突っ伏して眠っていたということらしい。枕にしていたのは数学の問題集だったようで、開いた状態でしっかりと折り目が付いてしまっていた。

 時計を見ると午前六時半を回ったところ。冬休みとはいえ受験間近の身の上、普段なら五時に目覚ましのベルを鳴らしているはずなのに。

「――やばっ!」

 そこまで考えてようやく危機感を覚え始める千里。昨日はこの問題集を終わらせようとして、解けずに煮詰まって、気付かぬうちに寝てしまったのだったと思い出す。迂闊だった。

 急いでペンを取り直し、解きかけの問題集に視線をやる。式を何度も書いては消した跡が残っているのは、努力の証か。どうしても解答のきっかけが見つからないで頭をこねくり回した記憶が蘇る。大げさに言えばトラウマのような苦手意識に、少し身体が固まる。

 だが千里の心は、不思議な感覚に包まれていた。

「何でだろう……いける気がする」

 この問題を解くことは可能だという、根拠の無い自信が胸にふつふつと湧き上がってくるのを感じていたのだ。解かなければいけない、という義務感と共に。

 やがてそれらは熱に変化する。勉強の目標である受験のそのまた先、必ず合格して大学へ行くんだ、という強い思いを動かす原動力に。その為には、こんなところでつまづいてなどいられないのだ。

 式自体の形はどことなく見覚えがある。だから過去の基本的な公式でも何でもいい。とにかく使えそうな鍵を手当たり次第に差し込めば、いずれ答えに辿り着けるはずだ。答え合わせはその後だ。

「あ」

 それはあまりに単純な式変換。どうして見落としていたのか笑えてしまうくらいに簡単なことだった。ちょっとした整理をするだけで、残りはいくつかの技法を駆使すれば解けるところまで変形することができた。

 数分後、千里の顔は輝いていた。

「やった……っ!」

 数時間前の自分を乗り越えて掴んだ正答は、千里に更なる自信を与えてくれる。

 確かに千里の受験に対する立ち上がりは遅かったが、時間はまだ二週間もある。最後の仕上げや追い込みをするには十分だろう。

 自分ならやれる。何が何でも合格を勝ち取ってやる。そう改めて決意して千里は、黄ばんだ『絶対合格!』を見据えた。

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