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ギルドと神殿と襲撃者

~INオリンピア

 私はシャイルーンの戦士カラクノラと巫女エーレノアの子オリンピア。カラディア王国の南に広がる大砂漠フレイナラムに住まい、【新月の女神アルティナ】様に仕える部族シャイルーンの戦巫だ。戦巫というのは巫女の資格を持ち戦士としての実力を持つ者に与えられる役職にして称号であり、シャイルーンの歴史を紐解いても戦巫の称号を持つ者は少なくこの地位に就くことは非常に名誉なことなのだ。

 さて、私は現在カラディア王国の南部トロイア地方に来ている。元々私は一族の村を拠点としながら冒険者として周辺の土地を旅していたのだが(もちろん一族の長から了承を貰っている)、今回に限ってはある使命を承ってのことだ。

 私に与えられた使命、それは砂漠のある場所に眠る神殿より持ち去られた【猿魔の宝珠】を見つけだし再び神殿へと封印すること。【猿魔の宝珠】は不遜にも神に成り代わろうとし、かつては緑豊かだったされるフレイナラムの地を僅か七日という短い月日で砂漠へと変貌させた堕ちた神獣の魂を封じたオーブであり、私たちシャイルーンを含む砂漠の六部族が長年隠し続けてきた厄災の種。

 思い出すのは一月ぶりに部族の元へと戻ったあの新月の晩、私の夢枕に立たれ宝珠を奪われたことを告げ、それを早急に取り戻すよう【新月の女神アルティナ】さま直々に使命を与えてくださった時のことだ。アルティナ様の御期待に応えるためにも、なんとしても宝珠を取り戻さなくては。


~・~・~・~・~・~・~・~・~


「お、見えてきたな。あれが【アヴェントゥラ】か」


 川に沿ってバギーを走らせていたコウジは、遠くに見える城塞都市の姿に感嘆の声を上げた。


「冒険者ギルド発祥の地、ギルドを司る現神【ギルド神リュウスクェ・サイト】様が降臨した街」


 助手席の後ろから顔を覗かせたオリンピアがアヴェントゥラの簡単な解説をし、コウジは感心したように声を漏らす。ミラー越しにオリンピアを見れば、その腰元には盗賊に焼かれた村【トリオン村】で助けた少女、ウィーリア・シュンティアがけして離れまいとしがみつき怯えていた。

 川辺で一晩を過ごした今朝、気を失うように眠ってしまっていた彼女が目を覚ましたが見知らぬ人間(一部狼)に囲まれている状況に悲鳴を上げて逃げ出そうとしたのだが、それをオリンピアが捕まえ宥めてからずっとこの調子である。彼女が受けた仕打ちを考えれば仕方のないことなのかもしれないが、助けた張本人であるコウジは目を合わせることもできずオリンピアの後ろに隠れていた。ただトリオン村では森に住むアスルヴォルフのことを森の守り神として敬っていたらしく、エヴィエニスの正体を知ってからは怯えも多少収まったようではある。そんな彼女だが、助けたときは着ていたものをほぼ失っていた状態で、助けた後はコウジがリュックから出したコートを被せていたのだが、今ではそのコートは村の火事で荷物を失ったオリンピアが革鎧の上から羽織っており、ウィーリアは荷台下の収納スペースから引っ張り出したコウジのTシャツと裾を捲り上げたズボンを履いている。正直サイズが合わずぶかぶかであるが仕方がないことだろう。彼女の処遇についてはコウジとオリンピアで話した結果アヴェントゥラで孤児院などを探して預けることにしているが、アームズコングの素材を売った金で余裕があれば服の一着や二着は買ってやろうなどとコウジは考えていた。


(やっぱ男と一緒にいるのは怖い、か。オリンピアから離れようとしないし大丈夫なのか?)


 ウィーリアの様子が心配ではあるものの、カウンセリングの心得など無いのだから時間が傷を癒すのを待つしかないかと内心でため息をつく。


 そうこうしている内に街へとたどり着きバギーのスピードを落とす。外壁の周囲にも貧困街らしき建物が並んでいるのが見えたが、そういう場所は治安が悪いことが多いのでそちらには向かわずに迂回してアヴェントゥラと他の街を繋ぐ街道へと出る。日が中天に差し掛かろうとするこの時間帯は街道の使用者は少ないのかちらほらと旅人らしき姿が見えるだけだった。今まで道無き道を走ってきたため、舗装はされていないが、大勢の人たちによって踏み固められた道に出ただけで車の揺れが大幅に少なくなる。

 そして進んで行けばようやく目的地アヴェントゥラへ到着したのだった。


「これのまま入れるのかな?」


 街の前まできてバギーをどうするべきかという問題に気づきコウジは表情をひきつらせる。この世界の人たちがバギーを乗り逃げできるとは思わないが、街の外に置いておいて壊されでもしたら目も当てられない。


「おそらく大丈夫だろう。馬車で旅する者も多いから、アヴェントゥラのような大きな街なら中に馬車用の貸し駐車場があるのが普通だ」


「それは助かる」


 オリンピアの言葉に安堵の息を吐き、風除けに掛けていたサングラスを外す。大きく観音開きで開かれた城門へとバギーを進め馬車用の入場者の列の後ろに付ける。それから10分ほどして彼らの番がやってきた。


「な、なんだこれ………………」


 エンジン音は聞こえていたのだろうが、目の前に来たバギーの姿を見て緑色のそろいの鎧に身を包んだ衛兵が素っ頓狂な声を上げた。


「一応魔力で動く馬なしの馬車みたいなもんなんですけど」


 頭を掻きながらした説明に嘘は無い。ウルラが魔法で施した改造はガソリンの変わりに魔力を取り込むことで動力としており、魔力を用いている部分がエンジンだけとはいえこのバギーは間違いなく分類的には魔道具と化しているのだ。


「そ、そうか。魔道具、なのかこれは。

 うむ、そうか、それなら問題はない、な、うん」


 隣に立つ同僚と顔を見合わせながら、以前にも馬を必要としない魔力で動く馬車という物が街に入ったことがあるらしく、一応納得する衛兵達。


「それで、後ろに乗ってるのは魔物か?」


「魔物だけど俺の連れ。人を襲ったりする事はないよ。相手から手を出してきたら別だけど」


「お前は魔物使いか?」


 荷台から身を乗り出そうとするヘジンを押さえるエヴィエニスを見た衛兵が警戒しているのを見て、コウジは彼女達が問題になる可能性を考えていなかったことに気づく。しかし今更気づいても後の祭りで、どうするべきかと焦る。


『トリオンの森のアスルヴォルフ、気高き牙エヴィエニスだ。依然意志疎通ができるのなら入ることができると聞いたが?』


「な、今の、ってアスルヴォルフ、【原初の狼】か!」


「なに!森の守護獣!」


 エヴィエニスが直接問いかけると、衛兵達は驚き慌て始める。そして片方が隊長を呼んでくるとその場を離れコウジ達はその場でもう少し待つように言い渡される。


「なんかすごい慌ててたけど?」


『アヴェントゥラはギルド神が作った街のようなものだ。そのギルド神リュウスクェ・サイト様がギルドを立ち上げるさい、魔物からも手を貸した者がいたのだ。我が祖先もその一つだ。

 それからこの街では意志疎通のできる魔物に関しては条件付きではあるが街に入ることができるようになったのだ』


その話を聞いてコウジとオリンピアは感心したように頷き、衛兵が戻ってくるのを待った。そして5分と待たずに戻ってきた衛兵の後ろには房飾りの兜を被った明らかに先の衛兵よりも格の高そうな男が続いていた。


「お前達がアスルヴォルフを連れているという者達か」


「あぁ、コウジ・ムラマサ。アスルヴォルフのエヴィエニスとヘジンが俺の連れだ。そっちの二人はここに来る途中で色々とあって目的地が一緒だったからこいつに同乗してもらった」


「衛兵隊隊長コングラック・チェイスンだ」


コウジが手を差し出すとコングラックも名を名乗りながら握り替えしてきた。その後残りのメンバーに視線を向けてエヴィエニスへと向き直った。


『紹介にあったエヴィエニスだ。こちら我の息子のヘジン』


「わん!」


「たしかに意志疎通はできるらしいな。わかった、入場の許可を出しておこう。そのかわり街にいる間はこれを身につけて貰うことになる」


 コングラックが懐から取り出したのは二本の鎖だった。


「これは街にはいることを許可された魔物であること示す認識票のようなものだが、同時に街の中で問題が起きたときに必要なものだ。この鎖には装着者の周囲2メートルの事象を記録する魔法が掛けられており、問題が起きたときに相手に非があればあなたの無実を証明する物となる」


「逆にこっちが問題を起こせばその証拠となるわけだ」


 魔物という本来ならば敵対する存在を街に入れることを考えればずいぶんと甘い処置だろう。ただコウジ達にしてみればこの街で問題を起こすつもりはない。目配せをすれば彼女は小さく頷きそれを付けることを了承する。


「さて、それでは入場の手続きを続けよう。大人二人に子供が一人、魔物が二頭か。大人一人銀貨一枚、子供は銅貨が一枚、アスルヴォルフ殿達はそれぞれ銀貨二枚だ」


「え?」


「すまない、私はここに来る道中で荷物を紛失してしまっている。税はこれで頼む」


 街にはいるのにお金がいることを予想しておらず、そもそも無一文のコウジが間の抜けた声を漏らす後ろで、オリンピアが胸の谷間から取り出した宝石の付いた親指サイズの金属片を引っ張り出す。埋め込まれた宝石が青く輝くと空中に文字を映し出し、コウジはその光景に目を丸くする。


「ほう、Cランクの冒険者か。まだ若いのにたいしたものだな」


 オリンピアから金属片を受け取り懐から取り出したオーブを近づけると、金属片に埋め込まれた宝石が一瞬赤い光を放った。


「それとこの子はトリオン村の住民なのだが、村が盗賊に襲われて壊滅した。この子だけは助けることができたのだが、そう言う理由でこの子も頼るべき者がいない」


「なに、トリオン村が!」


 オリンピアの言葉にコングラックが驚き、すぐ後ろに控えていた衛兵も驚きの表情で隊長を見る。


「おい、今の話を上に伝えてこい!」


「はい!」


 急ぎ走り去っていく衛兵を見送り、コングラックの顔がウィーリアへと向けられる。男であるコングラックに視線を向けられ、ウィーリアは息を飲んでオリンピアの着るコートの裾を掴みその後ろに体を隠そうとする。


「(盗賊に乱暴を働かれそうになったんだ、彼女にとって男は恐怖の対象になってる。助けた俺もずっと避けられてる状態だ)」


 耳元に口を寄せて囁くと、コングラックは小さく頷いて彼女から視線を逸らした。


「そういう事情があるなら仕方あるまい。一応この場は税を払って貰うことになるが、トリオン村の現状が確認できれば入場税免除されるように手配しよう。その際にはここで払った税は払い戻されるから安心してくれ。

 それとギルド神殿にて孤児院の受け入れをしているのでそちらに連れて行って貰えば、ギルドの方で責任をもって預かってもらえるはずだ」


「神殿で受け入れて貰えるのか、こりゃ探す手間が省けたな」


 パチンと指を鳴らして笑みを浮かべ、コウジはちらりとウィーリアを見る。家族を失ったこの女の子が無事に新たなスタートが切れればと思いながら視線をコングラックへと戻す。


「ところで、俺金がないんだけど………………」


「は?」


 コウジの言葉に間の抜けた声が漏れ、なにを言っているんだ?と訝しげな視線が向けられる。


「金がないのか?ならばギルド証を出せばいいだろう。あれには入場税に限りギルドで立て替えてくれるようになっているのを忘れたのか?」


 コングラックから返された金属片、冒険者証を手にオリンピアからも訝しげな視線を向けられコウジは引きつった笑みを浮かべてエヴィエニスを見るが、彼女も彼女で知らぬとばかりに視線を逸らされる。


「この街に来た目的の一つがまさに冒険者ギルドに登録することだったから。金も街で魔物の素材を売って作るつもりだったから、今は売る素材はあってもお金は無いんだよね」


 いやぁまいったまいった。笑いながら頭を掻くコウジにコングラックとオリンピアは盛大にため息を吐いた。


「一応金の宛はあるんだな?」


「いくらで売れるかはわからないけどね」


「城門でも素材の買い取りはしている、係りの者を呼ぶから用意して待っていろ。ただここで行う買い取りは臨時で行っているようなものだ、よって正規の価格よりも低くなるが構わないな?」


「そうしないと中に入れないから問題はないよ」


 さっきからご苦労掛けますと笑うコウジに胡乱な視線を向けながら去ってゆくのを見送り、コウジは運転席から荷台へと移る。収納スペースを開いてビニール袋に入ったアームズコングの素材を取り出し、それを見ていたオリンピアが首を傾げる。


「なんだ、初めて見るな」


 コウジが手にする素材、ではなくそれを入れていたビニール袋に興味を示すオリンピア。そこでこの世界にはビニール袋が無いことに気づく。


(そっか、よくよく考えれば当たり前か。元の世界由来の物はもう手には入らないだろうし、もう少し考えた方がいいかも)


 すでに中の素材によって穴の空いてしまっているビニール袋を見て眉を顰め、中からアームズコングの牙や爪を取り出してゆく。取り出した素材を布の上に並べ終わる頃になってコングラックが若い男を連れて戻ってくる。


「こちらがお売りいただける素材でよろしいですか?」


「解体にあまり慣れてなくて質が悪くなってるかもだけどな」


「拝見させていただきます」


 青いローブを着た若い男は、懐からモノクルのような物を取り出すと手にした爪を観察し、顔を顰めた。


「まさか、これはアームズコングの爪?」


「ここにあるのはアームズコングの爪と牙、それに毛皮の三種類だけだよ」


 どう見ても数体分はある素材の数に男の表情が変わり、同時に横から眺めていたオリンピアの表情も険しい物へと変わる。


「現在あなたの目的は入場税分の金を手にするということでよろしいですか?」


「え、いや街で色々と買う金も欲しいんだけど……………」


「どうやらあなたはこれの価値がわかっておられないようだ」


 コウジの言葉を遮った男は小さく頭を振ると、爪を元に戻して牙を同じように観察して元に戻し視線をコウジへと向けた。


「アームズコングは常に群で行動し、個体の能力以上の厄介さ持つことから冒険者ギルドではその討伐依頼を出すときはBランク未満の冒険者には受注できないようにしています。Bクラス以上の魔物の素材と言えばどれも高額で取り引きされる物ばかりです。アームズコングの素材はBクラスの中では安い値段で取り引きされる方ですが、それもBクラスの中ではです。入場税を得るならばこの牙一本で十分にお釣りがくる値ですよ。

 この場においてはこの牙一本のみを買い取らせていただきます。それ以外は冒険者ギルドなどきちんとした素材やでお売りになられることをおすすめします。それともこの場で格安の値段でお引き取りいたしましょうか?」


「………………………………牙だけでお願いします」


 思っても見なかった結果にコウジはひきつった笑みを浮かべながら素材を見下ろし、牙を渡すと残りの素材を先ほどまでの扱い方は何だったのかと言いたくなるような手つきでしまい始める。

 牙を受け取った男は、先に聞いていた入場税を引いた額をコウジに渡した。渡されたのは銀貨が44枚に銅貨が99枚だった。


「牙一本が安値で銀貨50枚?」


 この世界の通過は金銀銅の三種類のコインだ。銅貨100枚で銀貨1枚分、銀貨100枚で金貨1枚分と非常に分かりやすい。一応金貨1000枚分価値を持つ中金貨や中金貨100枚分大金貨という物も存在するが、そのような物はいくつもの街に支店を持つような商家や国同士のやりとりで使用される代物なので一般には出回っていない。そしてアヴェントゥラのような大きな街で三食付きの防犯もしっかりとした宿に泊まるのに必要な額が銀貨3枚である。つまりアームズコングの牙が二本もあればアヴェントゥラで一月は遊んで暮らせるということだ。しかもこの場合安値で牙を打った場合であり、正規の値段となればもった多くの金に化けるというのだ。


「いかん、目眩がしてきた」


「いつまでもここに停めていたら他の馬車の邪魔になる。もう中に入って貰えるか?」


 呆然としながら空間拡張を施した前の世界から使っている蝦蟇口にお金をしまい、コングラックに促されてバギーのエンジンをかける。


「それでは、街での滞在が良き物になることを祈っている」


「お世話になりました」


 コングラックに礼を言いながら、一行はようやくアヴェントゥラへと入ることができたのであった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~


 冒険者ギルド発祥の地アヴェントゥラ。かしこで上がる呼び込みの声を聞きながらコウジは物珍しげに周囲を見回していた。 


「コウジ、ギルドに行くならばこっちだぞ」


「ん、あぁ今行く」


 オリンピアの言葉に我に返ったコウジは、急ぎ彼女の後を追った。オリンピアの腰にはいまだウィーリアがしがみついていて何とも歩きにくそうだったが、それも仕方がないのだろう。周囲には冒険者らしい見知らぬ男達に溢れていて、今の彼女にはきつい状況であることは間違いない。しかし街の中では一部を除いて馬車での移動が制限されており、バギーで動き回ることができなかったのだ。そのバギーは現在城門近くの貸し駐車場に預けてあり、好奇心旺盛なヘジンがはぐれると大変だからと留守番を申し出た狼親子に任せて来たのだった。

 素材をバギーからリュックに移し、門で思わず手にした金を懐にコウジ達は冒険者ギルドを目指す。本来ならウィーリアを先に神殿へ連れて行く方がいいのかもしれないが、生憎と神殿は街の中心にあるため先にギルドによることになったのだ。

 遠くに見える神殿を眺めながらたどり着いた冒険者ギルドの建物は、煉瓦造りのごつい三階建ての大きな物だった。ウェスタン映画の酒場のような両開きの扉をくぐって中に入れば正面にはいくつもの受付が、左右を見れば順番待ちだろうか椅子に座っている者や冒険者同士で情報交換などを行っている。奥の壁には紙が大量に張られた掲示板があり、それを幾人かの冒険者が真剣な表情で見比べている。

 そんな光景を見回していたコウジはオリンピアに促されて総合受付と書かれた看板を掲げた受付へと向かう。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 対応するのは黒縁の眼鏡をかけた若い女性だった。白いシャツにギルドの制服らしい緑色のベストを羽織ったその女性は笑みを浮かべて頭を下げた。


「ギルドへの登録を」


「私は私の用を済ませてこよう」


 用件を告げたコウジに背後から小さく告げたオリンピアは、離れる気配のないウィーリアを連れてその場を離れていった。


「ギルドへの登録ですね。登録には登録料として銀貨20枚が必要ですが大丈夫でしょうか?大丈夫でしたらそちらの机でこちらの用紙へ記入をお願いします」


 渡された羊皮紙を受け取って近くの机に向かい、その机に設置された筆を手に内容に目を通す。記入欄があるのは氏名、年齢、性別、種族など。他にも出身地や特技、趣味などを書く欄もあったがそちらは記入必須となっていなかったので無視してゆく。


(個人情報はなるべく秘匿しておく方がいいしな)


 種族の欄については少し迷ったものの、人間と書き込むことに決める。現人と書けば彼の対処能力を大きく上回る問題がごろごろと転がり込んできそうな気がしたからだ。


(なんだっけ、ジャパンじゃこういうときなんて言うんだっけ?触らぬ神に祟りなし?)


 全然違う。

 書き上げた用紙を先ほどの女性職員に渡すと番号の書かれた札を渡され、呼び出しがあるまで待つように告げられた。呼び出しには時間がかかるらしいので、ギルドで素材の買い取りをしているかどうかを訪ねて、教えられたカウンターへ向かう。

 素材買い取りの担当者は白いシャツと緑色のベストという点では先の女性と変わらなかったが、こちらは髪もすでに白り執事服がこれ以上ないほど似合いそうな年輩の男性だった。アームズコングの素材をその職員に渡せば、最初こそ門で素材を見せた若い男と変わらず驚いた様子を見せたが、そこは年の項なのかすぐに表情を平常に戻すとうっすらと笑みを浮かべて鑑定を始めた。

 素材の買い取りは解体の際にできた傷などで多少価値が下がってしまったが、それでも十分すぎる、具体的には金貨数十枚という額で買い取られることになった。この世界の物価がまだよく分かっていないコウジはアメリカドルで言ったらどれくらいの価値になるのだろうかなどと考えながら金貨を財布へと流し込み、暇つぶしの為に掲示板へと向かおうとしたがそこでカウンターから呼び出しがかかった。


「お待たせしました」


 今度も対応は先ほどと同じ女性だった。深々と頭を下げられた後に差し出されたのは、一本の針が付いた黒いオーブ。いったいなんだろうかと考え始めそうになったところで職員の説明が始まった。


「こちらの針を指先に指して血液を採取させていただきます。採取された血液は下のオーブ経由でギルド証に登録され、それ以外の用途に使用されることはありませんのでご安心ください」


(血液認証?いやDNA認証か?魔法のある世界って変なところが元の世界よりも進んでるのか?)


 首を傾げつつ人差し指を針に押しつけ、小さな痛みが走ると指から一滴の血が針を伝ってオーブに垂れ、黒かったオーブが一瞬赤黒く輝きすぐに元に戻る。

 もう結構です、と渡された使い捨てらしい小さな布片で指をふき、女性職員がカウンターの下から例の宝石の付いた金属片、ギルド証を取り出しカウンターの上に置いた。ギルド証は元の世界で言えば免許証などのカードよりも、軍隊などで使用されるドッグタグに似たもののようだった。肩は時には3ミリほどの青い宝石が填められており、その逆端には鎖などを通すためのものらしき穴が空けられている。


「こちらがコウジ様のギルド証となります。ギルド証は登録者が魔力を込めると、はめ込まれた魔石が反応して登録者の冒険者ランクと最低限の情報が映し出されます」


 確認のために魔力を込めて欲しいと言われてコウジは眉をしかめた。当然だろう、今まで魔力など話には聞いていても扱ったことがなかったのだから。

 どうしたものかと悩むも、とりあえず試してみようとギルド証へと意識を集中する。すると魔石が反応して城門でオリンピアのギルド証がそうしたのと同じように青い光を放ち、その光が空中に文字を書き出してゆく。空中に書かれたの先ほどの用紙の必須項目と書かれた欄に書き込んだ情報と、その横に大きく書かれた『E』の一文字だった。ギルドでは冒険者をE、D、C、B、A、Sの六つのランクでランク付けを行っており、そのランクに応じて受けられる依頼を振り分けている。冒険者となったばかりのコウジにつけられたランクはE、当然一番低いランクだ。


(あ、思ったより簡単だった)


 あっさりと出来たことに拍子抜けするコウジだったが、この瞬間彼の存在の力が【魔力コントロール】というスキルを想造していたのだが彼にその事実を知ることは無かった。


「ギルド証は魔力を通して情報を映し出すことによって身分証として使用することが出来ます。各街の施設で身分証の提示を求められた場合、ギルド証に魔力を通して情報を映し出してください。

 またギルド証は街に入るとき通行税の立て替えが可能です。通行税の立て替えを行った場合はなるべく早くギルドのあちらの窓口で精算を行ってください。立て替えの精算は現金支払いの他、ギルド内口座の貯金や、依頼の達成報酬から支払うことも可能です。

 ギルド証の発行は無料で行われていますが、再発行には金貨で20枚かかるうえにギルド証が無ければ口座からお金を引き下ろすことも依頼達成の報告も出来ず、現金支払いでのみ行っていますのでくれぐれも紛失などなさいませんようお願いします」


 その後、コウジはギルドの規則及び施設についての説明を受けることになった。説明にかかった時間はおおよそ1時間。しかもその1時間ですべての説明が終わったわけではなく、やたらと分厚い本を渡され一通り目を通しておいてくださいと笑顔で言われて彼は顔をひきつらせた。


 グゥ、という腹の虫の鳴き声が響いたコウジは、見ようと思っていた依頼の一部が張り出されている掲示板を後回しにしてオリンピアとウィーリアを探してフロアを回る。


「終わったようだな」


「あんなに時間がかかるとは思わなかったよ。腹減ったしまずどっかで飯にしないか?」


 コウジが見つけるよりも前にオリンピアの方から声をかけられ、苦笑しながら振り返る。コウジの提案を聞き腰に抱きつくウィーリアにそれでいいか?と視線を落とすと、彼女はオリンピアに顔を押しつけたまま小さく首肯した。


~・~・~・~・~・~・~・~・~


 鐘の音が周囲に響く。顔を上げた先、神殿の中央から天へと建てられた切っ先のような尖塔の上からきっかり14回鳴り響いた鐘の音は、時刻が14時を回ったことを示している。この世界において時間は魔導仕掛けの時計で測れているのだが、魔導仕掛けの時計という物は非常に高価で貴族や豪商でもなければ個人で所有していることはほぼ無く、ほとんどの街では神殿が鐘の音で時刻を告げているのだ。

 腕時計を確認して時刻にずれがないことを確認したコウジは、遅めの昼食をとるために冒険者ギルドからほど近い食堂の扉を潜った。


「いらっしゃい、食事かい?泊まりかい?」


「食事で」


「あいよ、空いてる席に適当に座っとくれ」


 コウジ達の入った店は宿と食堂を兼業しているらしかった。皺が目立ち始めてはいるが昔は美人だったのだろうことを容易に想像させる女将に礼を言って食堂の端の席につくコウジ達。ギルドが近いからか冒険者らしいグループが先客で居り、ウィーリアのことを考え彼らから離れた場所にしようと考えた結果である。


「果汁水とカルク鳥の串焼き、それと果汁水をもう一つとサラダを適当に頼む」


「水とこのおすすめサンドで」


 メニューに目を通して料理を頼んだオリンピアは、席に着きながらも離れようとせずメニューに視線を向けもしないウィーリアに一つため息を吐くと、彼女の分適当に頼む。それに続いてコウジも料理を頼む。正直書いてある料理がどんなものか分からなかったため、おすすめならそう外れはないだろうというとふんでの適当な注文だったが。

 注文をしてさほど時間をかけずに飲み物が運ばれ、それを運んできた女将が去っていくの見送ったオリンピアは急に真剣な表情をして聞きたいことがある、とコウジの名を呼んだ。


「ん、なに?」


「先ほど換金していたアームズコングの素材、どこで手に入れた?お前は先日トリオンの森から来たと言っていたがあの周辺にアームズコングは生息していないはずだ」


「トリオンの森で倒したんだよ。連中いろんな場所に群で移動するだろ、今回トリオンの森に移動してきて森を守ってたエヴィ達が負けて居着いちまってるんだよ。森はアスルヴォルフ達が守ってたらしくてな、今までにも何度も森に進入しようとして撃退してたらしいんだけど、今回ついに守りきることが出来なかったらしい」


 その内の何頭かを倒したと告げて水を口に含み、温いそれに眉を顰める。


「氷を求めるのは贅沢だろうか?」


 元の世界の飲食店で出される物との違いというしょうもないところで世界の違いを感じて考え込むコウジを見つつ、彼女もまた何かを思案しながら果汁水を口にする。


「………………アームズコングどもの襲撃は以前からあったことなのだな?」


「エヴィの話だと昔からあったらしい。なんでも相手がどれだけ多くても撃退してきただけに、奇襲とはいえほぼ全滅状態になったのはショックだったみたいだな」


「アームズコングが急激に強くなった、というわけか?」


「さぁ?俺はこの前初めてゴリラどもと戦ったからそれ以前のことはさっぱり。でもまぁ、今まで撃退できてたのが出来なかったってことはその可能性もあるんじゃないか?」


 出来立てのサンドウィッチを頬張りながらウィーリアを見ると、やはり空腹には勝てないのか木製のフォークをサラダへと伸ばすところだった。ただフォークを持たない左手はオリンピアが羽織るコートの裾を掴んだままだったが。


「何か気になることでもあるのか?」


「………………少し、な」


 軽く頭を振って串焼きを食べ始めるが、思考は目の前の食べ物ではなく別の物へ向けられているように見受けられた。


「気になるならエヴィに聞いてみたらどうだ?アームズコングに襲われたのは彼女たちだし、今まで戦ってきたのも彼女たちなんだ。又聞きの俺に聞くより当事者に聞いた方がちゃんとした話が聞けるだろ」


「そうだな、あとで彼女たちを訪ねてみよう」


 そしてやっと食べることに集中し始め、コウジも残るサンドウィッチを腹に納める作業へと集中することにした。


~・~・~・~・~・~・~・~・~


 それに最初に気づいたのはウィーリアだった。残りわずかになったサラダにフォークを伸ばそうとしてその身を強ばらせる。視線はテーブルの上からオリンピアを挟んだ向こうへと向けられ、フォークを皿の上に落とすとまたオリンピアにしがみついた。


「どうした?」


 ウィーリアの急な反応に困惑するオリンピア。サンドウィッチを食べ終え旅支度の為に買う物を考えていたコウジもウィーリアを見て眉を潜める。しかしそれも一瞬のことで、彼らのテーブルに近づく影に気づいて同時に振り向いた。


「よぉ姉ちゃん、そんなガキに構ってないで俺達と一緒に飲まねぇか?」


 真っ昼間から飲んでいるらしく顔を赤らめ酒気を振りまくいかにもなチンピラ風の男に、コウジは頭を抱えたくなった。正直男の雰囲気は昨日戦った盗賊とあまり大差はない、ウィーリアの反応も頷けると言うものだ。男の背後のテーブルを見てみれば同じように顔を赤らめた連中がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて成り行きを見守っており、さらに女将の方を見ればまたかとばかりに天を仰ぎ、いざこざには関わらないとばかりに厨房へと引っ込んでしまう。


(おいおい、それでいいのかよ)


「悪いが昼間から酒を飲む気はない。それにこの後用事もあるんでな。他を当たれ」


「そんな硬いことこと言わないでさぁ、それに店の中を見てみろよ、他なんて見あたらないぜぇ?それとも俺の酒が飲めないってか!?」


 酔っぱらい。相当酒を飲んでいるらしい男に絡まれオリンピアの表情が見る見るうちに不機嫌なものに変わっていく。昨日出会ってから今までわずかにしか動かなかった表情のわかりやすい変化に、思わず見入ってしまったコウジだったがこのまま放置するととばっちりが来そうだということに気づき割ってはいることを決める。


「おい、彼女はきっぱり断ってんだ、男ならぐちぐち言ってないで潔く退いたらどうだ。みっともないぞ」


「あぁ!外野が煩ぇんだよ!引っ込んでろ!」


 つばを飛ばしながら怒鳴った男がコウジの目の前のテーブルに短剣を突き刺し、ドゴン、と鈍い音が響く。コウジの視界の端にウィーリアが怯えて身を竦ませる姿が映り、眉間に青筋を浮かべる。


「誰が外野だ酔っぱらい。お前が声かけてるのは俺の連れだ、外野はお前の方だろうが。さっさと失せろ!」


「………………人が下手に出てりゃいい気になりやがって!」


(いったい誰がいつ下手に出たんだよ!)


 男の連れ立ちが面白そうに武器を手に立ち上がるのを見たオリンピアがいつでも動けるように腰を浮かせるが、コウジは席に着いたまま見下ろしてくる男を睨みつけてコートの内側に手を伸ばす。

 酔っぱらいには何をいっても駄目という事実を実体験しながらコートの内側から引き抜いたそれを短剣に押しつける。


 雷鳴と紛うばかりの轟音が食堂に轟いた。


 短剣の柄が床に落ちた音が空しく響き、次いで男が尻餅をつく。


「少しは酔いも醒めたか?」


 静寂に満ちた食堂。正確には食堂の外の喧騒が聞こえてきているが、食堂内にいる人間にはコウジの声以外耳には届かず、誰もが顔を驚愕の形に歪めてその惨状を凝視していた。


 テーブルの上には男の突き刺した短剣の刃が半ばで砕け折れた状態で突き刺さっており、さらにその向こうのテーブルの上に置かれていた酒瓶やグラスなどが粉々に砕け散り、周囲に残っていた酒が飛び散っていた。そしてさらに向こうでは、二階へと上がる階段の手すりが一部粉砕され、その木屑が散らばり、壁に小さなを空けられそこから周囲に放射状に罅が広がっていたのだ。


 全員の意識が自分に向けられていることを確認し、撃鉄を引いて男の眉間へとその惨状を作りだした拳銃、S&WM500の銃口を向ける。


「俺の連れはお前のお誘いを断った。誘いを断られたお前の前にある選択肢は二つ。一つは大人しく引き下がること。もう一つは………………」


 そこでたっぷりと溜をつくり、一度周囲を見回してから男に笑みを浮かべて口を開いた。


「さっきの短剣とお前の頭蓋骨はどっちが堅いかを試すこと」


「ふ…、ふざ、ふざ、ふざけんなよ………………!お、俺を誰だと思ってやがる!Cランク冒険者『鉄槌』のアルドレイルだぞ!」


 冒険者としてのプライドか、こけにされたことが気にくわなかったらしく眦をつり上げる男ことアルドレイルを見下ろしながら盛大にため息をつく。


「知らん。今日この街に来てギルドに登録したばかりなんだ。お前が誰だろうと知ったことか」


「き、貴様…………!」


 新人冒険者にこけにされた。その事実に憤怒の表情を浮かべるて掴み掛かろうとしてくるのを見て予想通りとばかりにため息をつく。


「ッバッッンッッッッ!」


「ヒィッ!」


 一喝。狭くはない食堂の隅々まで響くコウジの大声。とはいえ先の銃声には及ばない音量ではあったのだが、アルドレイルを名乗る冒険者自分が先の短剣と同じように撃たれたと思ったのか、情けない悲鳴を上げて後方へと倒れ周囲にアンモニア臭が漂い始めた。


「なんていうか、お約束の反応だな」


 白目を剥き泡を吹いて気絶する姿にため息をつくと、アルドレイルと同じテーブルについていた冒険者達へと視線を向ける。


「ひっ………………」


 内の一人が息を呑む音が聞こえるが、コウジはそれを無視して厨房から顔を出して様子を伺っていた女将へと声をかける。


「騒がしてすまなかった。食事代ともろもろの弁償、迷惑料はこいつ等が払ってくれるから存分に搾り取ってくれ」


「な、何で俺らが……………………!」


 さすがにそのセリフは聞き逃せ無かったらしく魔法使い風の男がくってかかろうとするが、コウジがテーブルに刺さったままの短剣の刃をM500の銃口で叩いて甲高い音を響かせると、言葉を飲み込んでおびえの色を見せながらも悔しそうに睨みつけてくる。


「俺達に絡んできたのはお前等のお仲間、先に物騒な物を引き抜いたのもお前等のお仲間。こっちだって迷惑かけられてるんだ、お仲間の失態はお前等が責任を持って償うべきだろ。連帯責任だ」


 安全装置を掛けた銃を西部劇よろしく指先でクルクルと回転させ見せびらかすようにし、握りなおしたそれを男に向けると反論することもできずに席について肩を落とす。


「ま、そういうわけで。サンドウィッチ美味しかったよ。ごっそさん」


 それだけ告げてオリンピアとウィーリアを促し、コウジは食堂を後にするのだった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~


 腕時計に示された時刻は午後3時を回ったところ。つい先ほど神殿の鐘が15回なったことからある程度の差違はあれ、ともに落ちてきた時計で十分に時間を測れることを確認したコウジは目の前の店を見上げて小さく呟いた。


「どこでも、女性の買い物は長いものなのな」


 その呟きは道を行き交う人々の喧騒に紛れて誰の耳に届くことなく消えていってしまうが、誰に聞かせるために呟いた言葉でもないため視線をギルドで貰った分厚い本『冒険者ギルド案内書』と表紙に書かれたそれへと落とした。本にはギルド証など先ほど受付で受けた説明の他にも、覚えておいて損はないものから覚えておかなければいけないことまで幅広く、わかりやすく解説付きで載せられていた。なんでもこの本はギルドの創始者である【ギルド神リュウスクェ・サイト】が書いた物をそのまま複製して配っている物らしい。


「リュウスクェ・サイト、リュウスケ・サイト、リュウスケ・サイトウ………………。なんか日本人みたいな名前だな。現神ってことは元は現人なんだしあり得るのか?」


「待たせたな」


 ふと浮かんだ疑問を半ば真剣に考えようとしたところに声をかけられて顔を上げると、店から出たオリンピアとその腰にしがみつくウィーリアの姿を見つけて本を閉まった。


「ギルドで貰ったやつを読んでたからな、あまり待った気がしないな」


 オリンピアとウィーリアが入っていた店はギルドからほど近い場所にある衣類やそのための布などを扱う店で、二人は盗賊の襲撃で着の身着のままの状態になってしまい(ウィーリアに至っては着る物すら失ってしまっている)ここで当分の着る物を買いに来ていたのだ。

 オリンピアの見た目はそう大きく変わっているわけではない。彼女はコウジから借りていたコートの代わりに外套を纏い、新品の背負い袋をしょっているようだ。そして彼女の特徴的な武器である四本のショーテルはその切っ先が外套の下からわずかに覗いている。そんな彼女の腰にしがみつくウィーリアは、草色に染められた貫頭衣に鼠色の丈夫そうなズボンを穿いている。


「とりあえずはこれで大丈夫だろう」


 二人が着ていたコートと服が包まれた布袋を受け取り三人は歩き始めた。


「このまま神殿へ行けばいいのか?」


「あぁ、最近何カ所か村が壊滅して孤児が増えたらしい。それで引き取り手のいない子を神殿の方で引き取り始めたという話だ」


「そんなに盗賊が出てるのか?その手の討伐依頼はギルドで出てないのか?」


 神殿へと続く大通りを通行許可をもらい商品だろう荷物を積んだ荷馬車が追い越してゆくのを目で追いながら村で見た虐殺死体を思いだし、コウジは顔をしかめた。


「まさか、盗賊の被害が出れば即刻依頼が出る。とくにアヴェンドゥラは正義感の強い冒険者が他の街より多い。依頼が出れば盗賊どもは即座に討伐されるのが常だ。

 村の壊滅は………………、魔物に襲われたのが原因だ」


 オリンピアは表情を深刻なものへと変えると、ウィーリアの頭を撫でながら言葉を続けた。


「今までにも村が魔物に襲われることはどこに行ってもあることではあった。中には当然魔物の手により壊滅することもな。だが、此度の件は異常だ。短期間に複数の村が魔物に襲われて壊滅するなどということは」


 ふとコウジの脳裏に過ぎるのは、現在バギーで留守番をしているはずの二頭、エヴィエニスとヘジンのことだ。彼女たちもまたアームズコングという魔物に群を壊滅させられたのだ。見方によれば彼女たちもまた同様の被害者ということになるだろう。


「ギルドには村を壊滅させた魔物の討伐依頼がいくつか出ていたが、おそらくこの件はしばらく続くだろうな」


「やっかいな魔物なのか?」


「やっかいなのは魔物じゃない。状況だ。壊滅したそれぞれの村を襲ったのは別種の魔物達なんだ。

キラーエイプ、シンミャフォーコ、マハトケルド、クリミナルアッフェ、コングトルーパー…………。どれも別種で、しかし近い系列の、いや猿型の魔物ばかりだ。お前が森で戦ったというアームズコングを含めてな」


「え?」


 奇しくもつい今し方コウジの脳裏に浮かんが考えを後押しするような、壊滅した村々と森での出来事を結びつけるようなセリフに思わずコウジの足が止まる。


「後で彼女たちと話すとき、お前も一緒に聞いてくれ。おそらくこれらは私が追う物に通じるものであり、すでにお前も巻き込まれている可能性があるからな」


 立ち止まったコウジを振り返ったオリンピアはそれだけ言って歩みを再開する。コウジも慌ててその後を追いかけてその横に並んだ。そこから先、神殿にたどり着くまで二人の間に会話はなく。コウジはどういう事だろうかと考えを巡らせるが、手元にある情報では解を導き出せるはずもなかった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~


 ウィーリアを連れて神殿を訪れたコウジ達は神殿内の一室で非常に、困っていた。


「なぁウィーリア、頼むから離してくれないか?」


 困り顔でやんわりと諭すように声を駆けるオリンピアに対し、幼い少女はコートの裾に顔を埋めたまま嫌々と顔を左右に振りたくった。


「私はこれからも旅を続けねばならないんだ。旅は危険を伴う、すまないがそれにお前を連れて行くことは出来ない」


「ウィーリアさん、お知り合いの方とお離れになりたくない気持ちはよく分かります。不安に思う気持ちも分かります。ですがあなたを危険な目に遭わせたくないというオリンピアさんのお気持ちも分かっては頂けないでしょうか?」


 神殿に仕える女性神官であるオーリエがウィーリアの傍にかがみ込み優しく頭を撫でながら声をかけるが、ウィーリアの反応は変わることなく、二人はほとほと困ったように顔を見合わせた。そんな様子を見ながら紅茶を啜っていたコウジどうしたものかとため息をつく。決してなにも考えずにボケっとしていたわけではない。男に対して恐怖を覚えているだろうウィーリアに男であるコウジが諭そうとしても効果はない、どころか下手すれば大変なことになるのではと考えたからだ。

 今朝も声をかけたてみたりしたのだが、そのときは小さく悲鳴を上げてオリンピアの背後に隠れてしまうという怯えぶりで、コウジは内心ショックを受けていたりした。


(お前もどうにかしてくれ!)


(いやいや、俺が口出したら逆効果でしょ)


 助けを求める視線に否と即返したコウジだが、どうしたものか内心ではしっかり考えていた。良い考えが浮かばない時点で『下手な考え休むに似たり』と言われても文句は言えないが。


(とはいえこのままじゃ埒があかないのも事実だし、可哀想ではあるけど無理矢理ひきはがすしかないのかな?出来ればそれは最後の手段にしたいけど)


 そっと腕時計を覗いてみればこれらのやりとりを始めて一時間が経とうとしていた。


(もう少し待つか?いやここまで取り付く島もないと少しぐらい待っても同じか)


 口を聞くことなく頑なに首を振るウィーリア。これはどうやっても納得しないだろうと天井を仰いだ。


「オーリエ、どうしたのですか?廊下まで声が響いてますよ」


 空になったカップをぶらぶらと揺らしていると、彼の座っているソファの後ろの扉が開きどこか呆れの混じった声がかけられる。後ろを振り返るとオーリエの物よりも立派な法衣に身を包んだ女性が部屋に入ってくるところだった。髪はすでに白くなり目元や頬に皺が目立つものの、背筋はピンとしており若々しくも見える老婆だ。


「ジョロナ様…………!」


 老婆、ジョロナの姿を見たオーリエは慌ててその場に両膝を突くと、両手を胸のまで交差して頭を垂れた。この世界の神殿における上位の存在への礼を示す姿勢だ。


「構いませんよ。それよりどうしたのですか?」


「は、はい。あの、トリオンの村が盗賊に滅ぼされてしまい、こちらの方々が唯一生き残ったこの子、ウィーリアさんをお連れして下さったのですが………………。当のウィーリアさんが彼女から離れるのを嫌がってしまいまして」


「そう」


 オーリエの説明を聞き、ジョロナはウィーリアのすぐよこに膝を突くと優しくウィーリアの頭を撫でる。


「初めまして、私はジョロナ。ギルド神殿の司祭をしている者です。貴女とお話をしたいのだけれど、聞いて下さるかしら?」


 頭を撫でられビクリと震えるウィーリアに優しく言葉をかける。頭を撫でるのを続けながら静かにウィーリアの返事を待っていると、ウィーリアは恐る恐る顔半分をジョロナへと向けた。先ほどまで頑なにコートから顔を上げようともしなかったウィーリアの反応に残る三人は驚きの表情を浮かべる。


「初めまして、貴女のお名前は?」


「………………ウィーリア」


「そう、良いお名前ね。【豊穣の女神バーミラ】様の加護を受けた聖女様からお付けになられたのね」


 ここに来てから一度も言葉を発していなかったウィーリアが始めて口を開き、ジョロナが目を細めて浮かべた笑みと共にかけられた言葉に小さく頷いた。


「貴女は豊穣神様の信徒なのね。だからギルド神様の神殿に預けられたくないのかしら?」


 端で聞いているコウジですら心が落ち着くような感じを受けるジョロナの声。ウィーリアは再び掛けられた質問を首を振って否定した。


「その人から離れたくないのね。

えぇと、貴女は?」


「オリンピアだ。【新月の女神アルティナ】様の戦巫を勤めている。

 アルティナ様から使命を承って旅をしている途中で彼女の村に滞在していたのだが、そこで盗賊に襲われることになった」


「女神様から使命を………………。戦巫である貴女が承ったということは危険な旅なのでしょうね」


 オリンピアが肯定すると再び視線をウィーリアへと戻し、頭を撫でていた手を頬へ添えて目線を合わせる。


「オリンピアさんが承った使命は命を失う可能性がある非常に危険なものです。自らの身を守る術を持たない貴女が一緒では、彼女が命を散らす可能性が大きくなってしまう。貴女はオリンピアさんに命を失って欲しいのですか?」


 わずか十歳程の少女に向けるには辛辣とも言える言葉を優しく諭すように尋ねる姿にコウジは表情を僅かにひきつらせる。ウィーリアはジョロナの言葉に唇を噛みしめ目元に涙を浮かべて首を振るい、顔を俯かせながらオリンピアのコートから手を離した。


「よく頑張りましたね」


 コートから完全に手を離したのを確認すると、ジョロナはウィーリアの小さな体を優しく抱きしめた。


~・~・~・~・~・~・~・~・~


 ウィーリアを神殿へと預けた夜。コウジは家から持ってきた櫛でヘジンの毛を梳きながらオリンピアから聞かされたある神具【猿魔の宝珠】のことを考えていた。


「なぁ、エヴィエニスはどう思うよ?」


『………………今まで問題なく撃退できていた相手だ。あれなら急に奴らが強くなったことも納得できる』


 堕ちた神獣を封じた神具【猿魔の宝珠】には、神獣と同じ系統の生物を強化し統率することができるという。封じられた神獣は宝珠の名の通り猿系の神獣。コウジが倒したアームズコングを含め近隣の村を襲撃しているという魔物達は全て猿系のモンスターであり宝珠の影響下にある可能性が非常に高いのだという。


「てことは、猿魔の宝珠を持ち去った輩は魔物を操りそこら周囲の村を襲ってるってことになるよな?一応村を襲う理由は想像つくぜ。食料やら金目の物やらを強奪してるんだろ。

 だがそれだとトリオンの森を襲う説明がつかないと思わないか?確かにあそこなら森の恵みもたっぷりだろうけどそれらを得るためには手間がかかる。それこそ村を襲ってすでに収穫、加工された食料を奪った方が効率的だ。現在確認されてるらしい魔物の中でもアームズコングが最も強いんだろ?それを手に入れてもそこから手間のかかる森に向かわせる、それこそアームズコングを村に向かわせた方がいいはずだろ?」


『………………そうだな。しかしアームズコングは敵の尖兵。その奥にいる敵のことを知らぬ我らにそやつの思惑を察しようにも情報が足りぬ』


 宿のソファに寝そべりながら顔を上げた彼女にブラッシングを終えたヘジンを渡して宿のベッドに体を沈める。


「そうだなぁ。まぁ敵さんの目論見がわかったところで、俺達のやることは特に変わらんか。アームズコングを打倒して森の平和を手に入れる。そこにオリンピアからの頼みも加わるだけだしな」


『うむ、アームズコングを片づけたところでそやつに何やらの思惑があるならば、第二第三のアームズコングが攻めてくることになる。オリンピアは出来るならばと言っていたが、宝珠の奪還は我らにとっても解決せねばならぬ問題だ』


『もし宝珠を見つけることが出来たならそれを取り返して欲しい。それが出来ずとも宝珠について何か分かったことなどがあったら連絡をして欲しい』そう言って去っていったオリンピアのことを思い出しながら呟いた言葉にエヴィエニスが相槌を打つ。


「とりあえず、明日からどうしようか?」


『情報の収集だな。その後なんとか助力を得れる相手を捜すことだ。彼女は中々の手練れだった故力を借りたかったのだがな』


「仕方ないでしょ?俺たちの目的は似てるようで違うんだ。俺たちの目的はトリオンの森の安寧。彼女は宝珠の奪還。

 トリオンの森の安寧を得るためには宝珠の奪還が必要だろうけど絶対じゃない。彼女にしてみればトリオンの森には何かしら手がかりがあるかもしれないけど、それは壊滅した村も同じ。トリオンの森を中心に動く俺たちがいるんだからこっちは俺たちに任せて自分は別口を調べる。その方が彼女にとっては手が増えることになるんだからな」


『我とてそのくらいのことは分かっている』


 腕を頭の後ろで組んで寝転がりながら天井を見上げる。エヴィエニス達と泊まるために魔物使い御用達だという宿に部屋を取ったはいいが、この世界では大きな街であっても一部を除いて夜は早い。時計を確認すればまだ10時にもならない時間だというのに開けられた窓の外から喧噪が聞こえてこない。目をつぶり耳を澄ませてみても客引きらしい若い女性の声が遠くからかすかに聞こえる程度だ。しばらくその声に耳を澄ませていたコウジだったが、急に立ち上がるとコートを羽織って荷物の中から取り出したH&KHK45をしまいこんだ。


『む、どこか出かけるのか?』


「ん、やることがなくて暇だからな。こんなことなら暇つぶし用に本を持って来るなり勝手来るなりするべきだったわ」


『やることがないのであれば寝ればよかろう』


「こんな早い時間に寝れるかよ」


呆れ気味な言葉に肩を竦めると、母親の懐ですでに寝息を立てているヘジンの頭を軽く撫でてやる。


「そんなわけで俺は出かけてくる。もしかすっと昼頃まで戻らないかもしれないけど飯の用意は頼んでくから心配すんな」


『…………………………そうか、交尾か』


 鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で扉を開けようとするコウジの姿にかつて群の雄共が見せた姿を重ね見て、耳を澄ませたエヴィエニスはコウジが聞いていたものと同じ声に気づいてため息混じりに呟き、コウジはコントのようにずっこけるのだった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~


 コウジ達が泊まる宿屋は大都市であるアヴェンドゥラでも数少ない魔物同伴で泊まることの出来る【魔物の塒】という名の宿だった。魔物の塒は魔物同伴可能という性質柄アヴェンドゥラでも繁華街から離れた門の傍にあるため、宿を出たコウジは夜になっても唯一明るい花街の方角に見える灯りに鼻歌を歌いながら早足で路地を進んでいった。


「さってと、この世界にはどんな女の子がいることやら。そういえばオリンピアも獣人だったけどなんて種族の獣人だったんだ?耳の形は猫とかが近そうだったけど」


 正解は豹族。

その毛色から黒猫かもなどと好き勝手に推測しながら暗い路地を抜けてゆく。思考がオリンピアの種族から再び今晩出会えるだろう女の子達へと戻った頃、コウジは背後から一定の間隔を保ってついてくる足音に気付いた。訝しげに意識をそちらに割くとおそらくは3人分の気配が後をつけてきていた。


「ん、物取り、かな?知り合いもいないこの街じゃ恨みを買うような理由もないしな。

 にしても結構手慣れてる?思ったより治安が悪いのか?」


 背後の三人の他にも進行方向へと回り込むように動くに3人分の気配を感じ取り、ため息をついて空を見上げた。薄暗い路地裏とはいえども森とは違って頭上を覆う物は無い。星や月のささやかな光が【五感強化】のスキルで強化された視界に十分すぎる明るさを提供してくれている。

 懐のHK45が取りやすい位置にあるかどうかを確認して路地を曲がり、その道を半ばまで進んだところで相手が姿を現した。前に二人、後ろに三人、右手の屋根の上に一人。屋根に陣取った輩は直接姿を見せたわけではないが、気配を隠しきれずあまつさえ細く堅い物がシャカシャカと小さいながらも音を立てているのがコウジの耳まで届いていた。


 あえて屋根の上には視線を送らず、前後で道を塞ぐ五人を軽く見回してから改めて正面の二人を見る。

 正面の二人は意匠は違うがどちらも金属製の鎧で身を包んでおり、兜も格子状のバイザーが付いたもので全身を見回しても金属で覆われていない箇所はほとんど無い。それは背後の三人も同じ様で誰一人としてどこの誰か、その表情すら伺い知ることが出来ない。


「さて、あんたらどこの誰だ?俺に何の用だ?」


 腕を組んでいるかのように見せかけて懐へと手を入れてHK45のグリップを握り、何かあればすぐにでも引き抜けるように準備する。とくに屋根の上にいる相手の気配には特に注意を向けている。


「………………………昼はよくも人前で恥をかかせてくれやがったな!このままただで済まされると思ってんじゃねぇぞ!!」


 正面にたった一人が腰から抜きはなった剣先をコウジへと向けて怨嗟のこもった声を向けてくる。しかしその言葉を向けられたコウジは眉をしかめてく美を傾げていた。


(昼、何かあったか?昼ってことはギルドを出た後だろ?

あの後飯食ってオリンピア達の服を買いに行って、神殿にウィーリアを連れて行ってオリンピアと猿魔の宝珠について話したのは夕方過ぎてからだったよな?)


 剣を突きつけられる理由が思い浮かばずさらに首を傾げる。そんな彼の様子に剣を突きつけている男は苛ただしく歯ぎしりをすると、勢いよく音を立てて剣を振り払った。それが合図だったのか男と並ぶもう一人と背後の3人も剣を引き抜き、シャランと小気味のいい音を奏でる。


「恥だか何だか知らないけど人違いじゃない?俺覚えが無いんだけど」


「殺す………………!!」


 男から怒気が膨れ上がるのを感じると共にコウジはHK45を引き抜き、自分へと向かってくる敵を余所に視線を頭上へと向ける。視線の先では今まさに弓を引き絞らんとしている軽装な男の姿があり、抜きざまに頭上へと銃口を向けたHK45の引き金を引く。気付かれていること気付いていなかったのか視線があった軽装の男の表情が驚愕に歪み、銃口から放たれた弾丸は紛うことなく男の手元、弓のグリップへと命中して弓を半ばから破砕してみせる。弓が半ばから折れることで引き絞られていた弦が滅茶苦茶にため込まれた力を解放し、折れた弓の破片が男の顔面を強打した。


「…………ッ!!」


 声にならない悲鳴を上げてバランスを崩した男が屋根の上から落ちてくるのを身を翻して避け、避けざまに突っ込んでくる5人の位置をしっかりと確認。前後から襲いかかる男達に対して半身をさらす形で立つと、避け様に引き抜いたもう1丁のHK45を後方の男達へと向ける。先に抜きはなったHK45を前方の二人へと向けて同時に発砲、合計5回の銃声が路地裏に響く。放たれた弾丸は唯一鉄に覆われていないブーツを打ち抜き、男達は仲良く路地裏に転がることとなった。


「ヒギィィィィッ!」


頭上から落ちてきた男の腿を打ち抜き、全員起きあがれそうにないのを確認するとコウジは左手のHK45を懐にしまって最初に剣を突きつけてきた男の元へと歩み寄った。


「く、クソがぁ!」


 足の甲を撃たれ痛みに立ち上がれなかった男が上半身だけを持ち上げて剣を振るおうとするが、それをバカ正直に見ている道理は無い。即座に剣の柄元に狙いを定め左手に持ったHK45の引き金を引く。

 バキィ、と音を立てて剣の柄元が砕かれ、石畳の上に落ちた刀身が耳障りな音を立てて転がった。


「木製の柄、安物か?」

(それにしてもスキルってのは凄いな。夜目は利くし全体的な力が増したおかげで銃の反動を前より抑えやすくなって命中度は上がった。おまけに第六感のおかげで狙い通りに当たるかどうかも撃つ直前に何となく分かる。おかげで敵さんの制圧が容易いこと)


「がっ、う、うぅぅ………………!」


 左手を抑えて呻く男の胸を蹴るようにして押さえつけて被っている兜をひき剥がすと、そこにはどこか見覚えのある顔が怒りと怖れなどの感情が混ざり合ったような複雑な表情で睨みつけていた。


「ん?

 ………………あ、お前昼の酒場の、アンデレだっけ?」


「ぐぅ、貴様、どこまでも………………」


 コウジの様子から昼の酒場での出来事のことなど完全に忘却の彼方に追いやっていたことに気付いたのか、よりいっそうの怒りを込めた目でコウジのことを睨みつける。しかし対するコウジは男、アルドレイルの怒りもなんのその。呆れたとばかりに盛大なため息をついて方を竦めてみせる。


「これってあれか?酒場で小便漏らした腹いせか?ちょっかい掛けてきたのはお前の方なんだ、あれは自業自得だろ?」


「ふざけるなぁ!あれのせいで俺たちの評判がどうなったと思ってやがる!なんの功績もない新米にのされた臆病者扱いだ!朝受けた仕事も、あれのせいでキャンセルだ!他の冒険者には嘲笑の的、懇意にしてた他の依頼主にも今後の付き合いは改めさせてもらうだと!どれもこれも貴様のせいだろうが!」


「おいおいおいおい、どんだけ情報速いんだよ。昼の今だぞ」


 アルドレイル達の境遇よりあっという間に広まったらしい噂に呆れるコウジだが、実際は彼らの普段の素行がお世辞にも良いものとは言えず、しかし実力だけはそこそこあったために良くも悪くも名が売れていたが故の現状であった。しかしそれを知らないコウジは何か失敗すればその情報は瞬く間に広がるのかと眉をしかめて空を仰いだ。


「まぁ今そんなこと気にしてても仕方ないか。

 あんたに俺のルールを教えておいてやる。よっぽどのことがない限り、二回目まではこの程度で済ませてやることにしてる。けどな、これが三度目になったら……………………」


 踏みつけた男のに顔を近づけてHK45を眉間に押し付けると、銃口にまだ熱がこもっていたらしく顔をしかめるがそれを無視してアルドレイルの顔をのぞき込み、敵意を篭めた笑みを浮かべてみせる。


「徹底的に叩きのめす。

 こんな世界だ。命の保証まではしてやらん。

 理解したな、これに懲りたらもうこんなことはしないことだ」


「ざ、ざけんじゃ………………!」


 アルドレイルが言葉を言いきる前にコウジは引き金を引いた。銃口を横にずらしたため縦断は顔のすぐ横の地面を穿っただけであったが、耳のすぐそばで響いた銃声は男の言葉を途中で遮りそれ以上なにも言えなくさせるのには十分なものであった。

 さらにマガジンの中に残っていた残弾を残らず顔の周囲へと撃ち込んでやれば、アルドレイルは表情を青ざめさせガチガチと歯の根を合わせることもできずに怯えの表情を浮かべる。その様子を確認し呼びマガジンをたたき込んで銃を懐にしまい、踏みつけていた足を退けてそれ以上彼らを振り返ることなくコウジはその場を立ち去っていった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~


「ちとやりすぎたかな?」


 夜のアヴェントゥラでほぼ唯一灯りの灯る場所である花街に到着したコウジは、客引きの娼婦たちを目で楽しみながらふと先ほどの襲撃犯達、とりわけリーダー格らしきアルドレイルのことを思い出していた。


「弾も無限にあるわけじゃないし、あぁやって湯水のごとく使うのは不味かったかな?」


 しかし当然と言うべきか、やりすぎというのはアルドレイルに対して行った行為そのものではなくそのために消費した弾薬のこと。店にあるものを含めて弾薬の残りには限りがある。現在懐に納められているH&KHK45の使用する45ACP弾や、9mmパラベラム弾といったよく使われる弾ならば在庫も多いが、それとて先ほどのように消費すれば底をつくのはすぐだろう。ほか、彼の愛銃であるFNFiveーseveNの5.7mm弾等のような需要の少ない特殊な銃弾となれば在庫の数はぐっと下がる。おそらく今日のように使い続ければ一年どころか半年いや三ヶ月と保たずに在庫がつきてしまうのではないだろうか?


「補給ないし代わりになる物を手に入れられればな。一応火薬の混合比は分かるし自分で調合してみるのも一つの手か?いやその場合原材料をどうやって集めるか………………、というかこの世界に材料が全てそろっている保証もないか。

 とにかく情報を収集してなんか考えてみるしかないか」


 現状考えたところでどうしようもないと思考を戻したコウジは改めて花街を行き交う人々を見回し、元の世界では空想(妄想とも言う)の中でしかお目にかかれない存在に感嘆の息を吐いた。

 ふと右を向けば狐の獣人らしき女性と狸の獣人らしき女性が、二人から腕に胸を押し付けられ顔を真っ赤にしているまだ少年の域を出ていないだろう冒険者風の男の子を店へと誘っている。さらにそのそばでは少年の兄か父親か、顔立ちの似通った男性が豊満な体で淫靡な色気を振りまく美女を侍らせ大笑いしているのが見える。逆に左を向いてみればコウジにしてみればまだ10を越えたぐらいの少女が露出の多い服を着込んで、身長は低いががっしりとした体格をした髭面の男にしなだれかかっていた。


(ジジィと幼女って、いやそれは犯罪だろ………………)


 などと思ったところでどちらも肌が浅黒いことに気づき、それがウルラから聞いていたある種族と合致していることに気付く。


(いや、もしかしてあれがドワーフか?やべ、ドワーフの女性ってもろに幼女だろ。対する男はもろジジィ面なのに………………)


 変なところで種族の違いという物を知り、乾いた笑みを浮かべてその場を通り過ぎると改めて周囲に視線を向ける。透けるような白い肌をほんのりと赤らめている細長い耳をした女性はおそらくエルフだ。首回りなどに鱗を生やした切れ長の目をしている蛇の獣人。翼膜を持った翼を持ち、蛇の獣人のように鱗と尾を生やした竜人。背に翼を生やした翼人に羊のような角にコウモリのような翼を生やした夢魔。膝ほどまでの水を貯めた水槽から男を誘う人魚とはいったいどうするのかと疑問を感じながら、隣の店ではおそらく普通の人間らしき女性が冒険者の手を引いている。


「本当に、(18禁の)マンガかゲームの世界に飛び込んできたみたいな光景だな」


「おにいぃさん、一晩泊まっていかない?」


 さてどこにしようかと足を止めたコウジの背後から鈴の鳴るような声が掛けられる。声に振り返るとそこには、烏羽のように黒い髪と処女雪のように白い肌をした少女が笑顔で立っていた。見た目少女とも大人の女性ともとれる印象を持たせるその少女は、元の世界では彼の家系の祖国ともいえる日本の浴衣にも似た紺色の生地に桜の花びらを模した意匠の服で、水色の帯で纏めている。背まで名がした黒髪の合間からは羊の物に似た角、さらにはコウモリのそれに似た小さな翼が生えており、その種族が夢魔であるが伺えた。


「夢魔……族か」


「ふふふ、たまに羊族と間違えられることもあるけど、おにいさんの言うとおり夢魔族よ」


 すっと自然な足取りでコウジの横に移動するとそれがさも当然であるかのように彼の腕を胸に抱き、その袂へと誘いながらわずかに顔を赤らめ恥じらうように上目遣いで見上げてくる。


「もし、今晩のお相手が決まってないなら………………、私じゃダメかしら?」


 袷の合間から白く細長い脚が露わになり、そっとコウジの脚に絡められる。露わになった太股が自分の匂いを染み込ませようとするかのように押し付けられ擦り付けられる。


「それとも私みたいな夢魔族とはその気になれない人なのかな?」


「いや、俺は今まで人間しかいないとこにいたからさ。ちょっと戸惑っただけさ」


 笑いかけて夢魔族の少女の腰にてを回して抱き寄せると少女は嬉しそうに、しかし淫靡さを感じさせる笑みを浮かべて歩き始める。腰に回された手が体の柔らかさを確かめるかのように動くを感じ、少女はコウジに体を預けてくる。


「花街に初めて来た風なのに手慣れてる感じね」


「人並みには遊んでたからな」


 花街が初めてなのは否定できないけど、と内心思いながら少女とともに娼館の一室へと招かれたコウジは椅子に腰掛け膝の上に腰を下ろす少女を抱きしめる。


「いかが?」


 すぐ側のエンドテーブルからワインの入った水差しを手にする少女に頷き、手渡されたグラスを互いにカチリと鳴らしてから同時に煽る。水差しは魔道具の一種なのか部屋の中に放置されていたのが嘘のように冷たく、宿から歩きどうしで(途中で短いながら戦闘もこなした)乾いていたのどを十分に潤してくれた。


「ふふふ、初めまして私の名前はサキュバスのアウロラ。今晩はよろしくお願いします」


 自己紹介とともに首に腕を回され、近づけられる口づけに応えて舌を絡める濃厚なキスを交わしたコウジは、アウロラの細いからだを抱きしめ袂の中へと手を滑り込ませる。


「コウジ・ムラマサだ。よろしくアウロラ」


 再度口づけを交わすとアウロラの手が首から離されコウジが羽織っていたコートを脱がしにかかる。されるがままコートを脱がされながら三度目の口づけを交わす。


「あぁ、そうだ」


「何かしら?」


コウジの衣服を脱がす手を止めることなく顔だけを向けるアウロラ。コウジは少しばかり口元に手を添え何事かを考えるそぶりを見せると再びアウロラの体を抱きしめた。


「いや実はさ、俺今日冒険者になったばかりなんだけどさ。アウロラは他にもたくさんの冒険者を見てきたんだろ?」


「その通りだけど、お客さんをさしおいて他の男の人のことを思ったり話したりするのはマナー違反よ?」


 シャツを脱がされ露わになったコウジの胸元に顔を押し付け甘えるような声で応えるアウロラの髪を指先で梳き、弄びながらコウジは首を横に振るう。


「そいつは悪かったな。でもさ、今言ったとおり俺はまだ新米で冒険者としての経験はもちろん、情報も皆無。アウロラが寝物語に他の客から聞いた成功話とか失敗談とか、教えてくれるなら俺喜んで君の常連になろうと思ってるんだけど?」


「あら、成功話ともかく失敗談も聞きたいの?」


「失敗例を知ってれば、同じ様な失敗をすることもなくなるだろ?情報はなるべく集めて起きたい口でね」


「珍しいのね、冒険者になったばかりで情報の大切さを知っているなんて。見たところ結構若そうなのにね」


「君ほど若くはないと思うけどね」


「女性に年の話は禁句よ?」


 胸を軽く摘まれて苦笑いし、コウジは首元に顔を埋めてアウロラの甘い香りを胸一杯に吸い込んだ。


「お願いできないかな?その分上乗せするしさ」


「………………そうねぇ、お金はいらないわ。その代わりに条件をクリアできたら、教えてあげる」


 膝の上に座るアウロラが脚を広げて跨がるようにして向き直ると、まさぐられはだけた胸元をコウジの胸元に押し付けると、下から上目遣いに挑発するように艶美に微笑んだ。


「………………私はサキュバス。生まれついて性技に長けた種族。生きるための何よりの糧である精気を得られ特技を最大限に生かせる職業といえばやっぱり娼婦しかないの。けどね商売である以上私たち娼婦にはお客様を喜ばせる義務が生じるの。生まれついて性に強く、相手を喜ばせることを第一に体を交える。

 経験を積んだサキュバスの娼婦はね、閨で自分が心の底まで楽しめる機会が少なくなるの。

 私を、楽しませて?初めて快楽をしった生娘のように、精も根も尽き果てるぐらいに私を楽しみ喜ばせ、感じさせてちょうだい。そうしたら私が知っていることなら何でも話してあげるわ」


「へぇ、面白い………………」


 アウロラの笑みに楽しげに笑うと二人は互いに唇を合わせあい、薄暗い室内に長々と粘液のかき混ぜ合う音が響いた。


~・~・~・~・~・~・~・~・~


「さて、魔具作成についての本はこれでいいとして。後は地図だな」


 日が中天に差し掛かろうという時間、コウジは買った本のページをパラパラと捲りながら道を歩いていた。魔法関連の書物を専門に扱う店から向かう先は昨日も訪れた冒険者ギルドだ。道の先に見えるギルドの建物を眺めながら昨晩のことを思い返し、口元がゆるみ掛けるのを手で隠す用事して抑える。


 アウロラとともに過ごした昨晩の一時。彼女の持ち出してきた条件をコウジは苦もなく余裕でクリアし、彼女が睦言を交わして得た多くの情報を聞くことが出来た。元の世界よりも夜の持久力があるような気も僅かにするものの、この世界に落ちてきたのが原因だろうと深くは考えていなかった。実際は彼が気づかぬうちに『楽しもう』『負けたくない』等の感情から【性豪】【閨の帝王】なる読み方こそ仰々しくも中身がアレなスキルが創造されていたからであり、もしも気づいていたら顔を隠して悶絶していただろう。


 そして現在、アウロラの元を出たコウジは昨日買いに行けなかった魔法や魔具に関する本や、地図などのこれから必要になるだろう物を探してアヴェントゥラの街を歩いていた。

 鞄でも持ってくれば良かったと思いながら本を脇に抱え冒険者ギルドでアヴェントゥラのある国、カラディラ王国周辺の地図を買い求め、荷物も増えたために一度宿へと戻ることにする。それとなく周囲に気を配るが昨晩のように誰かに後を付けられているような様子もなく無駄弾を使わなくてすむと安堵する。


(とりあえず新しく弾を作れるか試してみないとな。全く同じ物とは言わないけど最低限互換性のある物が作れるといいんだけど)


 魔法や魔具の作成にそのヒントとなる物があればと視線を抱えた本へと落とし、自然と引き締められた表情を首をふって解すのだった。


「ただいま~」


『む、遅かったな。良き雌と子作り出来たか?』


「いや、子作りって。たしかに内容はその通りだけどさ………………」


 部屋に入ったコウジを迎えたエヴィエニスの言葉に、入ってきたときの元気はどこへやらか、肩を落として乾いた笑みを浮かべる。そんな彼の様子にエヴィエニスは怪訝そうに首を傾げる。


『何か間違ったのか?』


「いやいや、ある意味間違っちゃいないけどさ。今後こういうことあだろうけどそこには触れないで、お願いだから。まじめな顔で聞かれるとさすがに恥ずかしいから」


『時代を残す行為のどこが恥ずかしいのだ?人は我らと違い常に発情期だったと記憶しているが……………………』


「ほんとお願いだから、それ以上はストップ」


『む、ぬぅ?』


 自然の中に生きる彼女たちにとって、性行為とはただただそういうものなのか。娯楽としての性行為という物を説明するのはさすがに恥ずかしいのだろう、とにかく頼み込んでこれらの話を強制終了させたコウジは苦笑しながらソファに腰を下ろし、買ってきたばかりの地図をテーブルに広げた。


『何をしているのだ?』


「昨晩聞いた情報をな。

 猿型のモンスターの目撃情報がやけに多い。俺は地理に詳しくないからな、こうやって地図に目撃された場所を記入すれば何か分かるかもしれないから……………………な?」


 オリンピアが言っていた壊滅させられた村、昨晩アウロラから聞いた他の冒険者達が目撃したという場所。すらすらと書き込まれる情報にコウジの眉間に皺が寄せられる。


『どうした?』


「いや、なんか分かれば思ってやったことだけどさ………………、ものすごく偏ってる」


 先に印を付けた壊滅させられた村はアヴェンドゥラから見て北西に固まっており、目撃情報のあった森や山などとなるとほぼアヴェンドゥラ周辺からサントペルフェクト帝国との国境付近までに広がっており、唯一トリオンの森が飛び地のように離れているが目撃情報は王国内に留まっており、国境を越えたサントペルフェクト帝国領内はいるとぱたりとその目撃情報が無くなっていた。


「なんかあからさまだろ。これは俺が情報を得ていないだけか、それとも本当に国境を境に猿型モンスターが動いていないのか………………」


 前者ならその規模によれどそこまで問題ではない。しかし後者の場合最悪猿魔の宝珠がサントペルフェクト帝国に、それも国政に関われる存在の手にある可能性が出てくる。アウロラから聞いた中には近年帝国が軍備を整えているという情報がある。帝国はかつてより領土的野心が強く各国と戦争を繰り返してきた国であるため、今度もその例に漏れないのだろうと思われている。そんな時期に起こるモンスターによる被害の拡大。それも国境を境に帝国内では目立つ被害が起きていないときている。王国では騎士隊が各地に散って被害を抑えようとすでに動いているらしいが、そこに帝国がなだれ込んだらどうなるというのだろうか?

 こんな偶然があり得るのか?普通ならそこまで穿った考えを持つことはないだろうが、コウジは猿型のモンスターを操ることの出来る魔具が行方知れずになっていることを知っている。【魔物の戦争への利用】。それ故に考えついた事実だった。


「とにかくできる限り調べてみるしかないな」


『何を調べるつもりなのかはわからんが、これからどうするつもりなのだ?森の猿どもの件、すぐさまどうこうできるわけでないことはわかっているが、このままと言うわけにはいくまい』


「ん、あぁそうなんだよなぁ。

俺、最初はギルドの方に依頼を出すつもりだったんだよ」


『できんのか?』


「イエス、マム。

アームズコングの絡む依頼はBランク以上の冒険者じゃないと受けられないのは門のところで聞いたけどさ、今回のように数もが不明で間違いなく群と戦わなければいけない依頼の場合必要なランクはA以上なんだと。で、Aランク以上となるとアームズコングの素材を売った金じゃその報酬には到底足りないんだよ。一人ぐらいなら何とか雇えるかも知れないけど、群相手に一人雇ったところで焼け石に水。依頼を出す場合パーティー単位での受注しかできず、そうなると依頼料も報酬の額も足りない」


『一度森に戻って奴らの素材を集めてくるか?』


「いやいやいや、アームズコングを駆逐する冒険者を雇うためにアームズコングを狩るって本末転倒だから。ぶっちゃけAランク冒険者のパーティーを雇う額をアームズコングの素材で賄おうとしたら相当な数倒さない無理だから。しかも今回は数が不明だから最低三パーティーは集めないといけないらしいし。それ下手すると森のゴリラ達全部狩っても足りない額らしいから」


『む、なら我々の手で奴らを排除するしかないか』


「……………………それが難しいと思ってるから依頼を出そうと考えてたんだけど。というかそれが無理って最初にいったのエヴィだよね」


『アームズコングをほぼ無傷でしとめた男とは思えん言葉だな』


「いくら倒せるからって、一人、二人じゃ戦力的にたかが知れてるから。いくら質が良くても数の暴力の前には無力なんてことはよくあることだろ。こいつは戦争じゃないけど『戦争は数だよ兄貴』なんて名言もあるくらいだからな」


『……………………最後のはよくわからんがたしかにな。やつらの箇々の能力が上がっていたのもあるが、我らもそうして敗れた側面はあったのだったな』


「とりあえず、現状では森のゴリラ共を直接どうこうするのは現実的じゃない。オリンピアも言ってたけど連中は猿魔の宝珠影響下にあるのは間違いないだろ。となると俺たちも宝珠の捜索をしてこれを確保、宝珠の力でもってゴリラ共を退かせるってのが一番可能性が高いんじゃないかな?」


『ずいぶん遠回りをしているように聞こえるな』


「急がば回れ、ってな。けどそれが俺の考えてる今後の指針だよ」


『代案があるわけでもなし、今はそれに従うしかないか』


「そんな気落ちした声出すなよ。もし高位のランクの冒険者達とと知り合えることができれば森のことを頼んでみるつもりだし、俺もちょくちょく戻ってゴリラ共を狩る予定だ。それで奴らを間引いていけばほかの突破口も見つかるかも知れないだろ」


 脚の上に顔をおいたエヴィエニスの頭を撫で、コウジは地図をしまい始める。


「そうと決まれば出発だ。まずは国境付近に行くぞ。そこで猿型モンスターの動きを調べる」


~・~・~・~・~・~・~・~・~


「ウォフォッウォフォッウォフォッウォフォッウォフォッ!」


「グギャー!」


 カラディラ王国からサントペルフェクト帝国へと続く街道近く、小型の馬車ほどの大きさの巨体を持つ銀毛のゴリラが胸を叩き己の存在を誇示する周囲、その個体をボスとする群だろうその半分ほどの大きさの白毛のゴリラ達が奇声を発しながら両手を天へと掲げて踊っている。その数は六頭。

 ボスのそばには馬の死骸や原型がわからなくなるほど破壊し尽くされ、そばに転がる車輪からようやく元は馬車だったことのわかる残骸が山となり、果物などの食料が散乱していた。

 銀毛のボスが胸を叩いていた手を止めて残骸の中へと手を突っ込むと、そこから何かを引きずり出した。それは元はきれいなブロンド立っただろう髪を血に染められた元女性。すでに事切れたその死骸を掲げたボスは大きく口を開いてその遺体に食いつこうとした。


 赤い花が咲く。


 大口を開いたボスゴリラの後頭部から血と脳漿がまき散らされ、遠くから『タァァァン』と乾いた音が響いてくる。

 いつの間にか右目の潰れたボスゴリラの手から遺体が落ち、続いてその巨体が崩れ落ちる。一体何が起きているのか理解できず、右往左往する中またも一頭の頭部が炸裂し血と脳漿を周囲にまき散らした。そしてまたも響いてくる『タァァァン』という乾いた音。

 彼等にとって何か恐ろしいことが起きていることはわかるのか一斉に逃げ出そうとするゴリラ達。しかし姿無き襲撃者は彼等のことを逃がすつもりはないらしく、一頭また一頭と頭部から真っ赤な花を咲かせながら倒れてゆくのに一分とかからなかった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~


「ロバーズコング六頭及びシルバーバックの排除完了」


 バギーの荷台に伏せていたコウジは構えていたドラグノフ狙撃銃のバイポットを畳みながら身体を起こし、周囲に散った空薬莢を荷台脇の排莢を捨てる溝へと転がして運転席へと戻りエンジンに火を入れる。


『こんな離れた場所からよく仕留められるものだな』


「目測400メートルほど、これくらいなら十分にこいつの射程範囲だからな」


助手席に置いた狙撃銃を軽く叩いてアクセルを踏み込み、バギーは緩やかに走り始める。


『そういうことを言っているのではないのだが、まぁいい』


コウジが作業のように淡々とロバーズコング達を撃ち殺してゆく姿を見ていたエヴィエニスの呆れ声に苦笑しながらハンドルを操作し、カラディラ王国とサントペルフェクト帝国との国境線代わりとなっている川に掛けられた橋を渡り、ロバーズコングの死骸が転がる場所へと移動する。


「エヴィ、連中を一カ所に集めておいてくれ」


『よかろう』


 エヴィエニスの返事を受け取りコウジが向かったのはシルバーバックの死骸のそばに転がる女性の遺体の元。彼女のそばに膝を突き、目を見開き恐怖に表情を固めたまま生き絶える女性の瞼を閉じてやり両手を腹の上で組ませる。女性は二十代半ばの人間で、瓦礫と化した馬車を調べると彼女とどういう関係かは分からないが彼女よりも年上の人狼族の青年と子供の遺体を見つけ、中から引きずり出してやる。馬車の幌で遺体を包んで身元を確認できる物がないかを探すと、アヴェントゥラにある商業ギルドの会員証を見つけそれを懐にしまう。


「行商人ってところか。アヴェントゥラに親族がいるのかもな」


 三人に対して十字を切って手を合わせて遺体をバギーの荷台に乗せる。


『こちらは済んだぞ』


「ご苦労さん」


 死骸を集めてきたエヴィエニスに礼を告げ、ロバーズコングの換金素材をはぎ取りにかかる。


『しかし、話に聞いていたとおりだったな』


「そうだな、ここは川があるから向こうとこちらで猿型モンスターの有無に違いがあってもおかしくはないだろうけど。ほかは見事に国境を境に差が出てきたし、国境越しに攻撃しても国境を越えようとはしなかった。まるで何かに制御でもされているかのように」


 先日倒したトロルコングという大型の猿型モンスターを思いだして眉を顰める。最近カラディラ王国に出没する猿型モンスター達が何者かに操られていることはもう確実と言ってもいいだろう。問題は操っている者が一体何処にいるのかということだ。コウジの予想では最近軍備の増強に余念がないというサントペルフェクト帝国、それも軍部なりなんなりの上層部の人間が臭いと思っているがそれを肯定する証拠は何一つ持ち合わせていない。状況証拠としても弱い代物しかないためこのことをカラディラ王国に報告したところで鼻で笑われるのは目に見えているし、もし真剣に聞いてくれたところで他国のこと故に手を出すことは出来ないだろう。


「ふぅ、それでも一応忠告くらいはしといた方がいいか。あくまで可能性とは言え知っているのと知らないのとでは知っていた方がいいだろうしな」


 カラディラ王国に知り合いなど居るはずもないため報告はギルドを通してと言う形になるだろうが、たかがランクEの冒険者に過ぎないコウジの話をどれだけ真剣に聞いてくれるだろうかと思いながらもはぎ取った素材を荷台下の収納にしまい、再びバギーのエンジンをかける。


『これからどうするのだ?』


「アヴェントゥラに戻って剥ぎ取った素材の換金と、一応商人ギルドにこの三人のことを届けて一度家に戻る。無補給で一週間も国境沿いにいたからそろそろ残弾も三割切るから弾の補給にいかないと」


『たま?』


「そ、弾。弓矢の矢みたいなものだよ。ウルラに聞いた限りこの世界に銃は無いから弾を補給しようと思ったら一度家まで戻る必要がある」


 街道をバギーにゆっくりと走らせながら小さくため息をつく。アヴェントゥラを出て一週間、購入した本はすべて読み終えていたが、この世界では火薬のたぐいもあまり発達していないことが分かった。こうなると弾を補給しようと思ったら、本当に一から作成する必要が出てきそうだったのだ。


(とりあえず、材料になりそうな物をアヴェントゥラで探して実験してみるしかないか。せめてもの救いは家に帰れば火薬のレシピがいくらかあることか。近い性質の物とか集めれば何とかならないか?)


 運転しながらああでもないこうでもないと頭を捻っていると、不意に首筋に悪寒が走った。


『コウジ!!』


 同時に響くエヴィの声を聞き終える前にコウジはハンドルを切りアクセルを踏み込むバギーを加速させる。急速に風景が後ろへと消えてゆく中、つい先ほどまで進んでいた進路じょうに爆発が起こる。


「く、なんなんだ!」


『敵襲だ!』


 再度ハンドルを切ると再びバギーの進んでいた先が爆発を起こし、睨みつけたサイドミラーに映る騎馬を確認する。


『魔導師がいるぞ!』


「今の爆発はそいつか!」


 先頭の馬に乗った男が腕を振るうとオレンジ色の火球が放たれる。


「くそ、なんなんだあいつらは!盗賊か!?」


『わからん。少なくとも友好的とは言い難いのは確かだ』


「現在進行形で攻撃してくる奴が友好的だなんて言う奴いてたまるか!」


 ハンドルを切ってバギーを右に左にと操って、次々と放たれる火球を掻い潜りバギーをひたすらに走らせる。


「くそ、こう、道が悪くちゃ迎撃できない!」


この世界の道はたとえよく使われる街道であっても舗装などされているはずはなく、ただ踏み固められただけの道はスピードを出して車を走らせるには到底向いていなかった。スピードを上げるにつけて暴れるようになるハンドルを力付くで押さえ込み、徐々に引き離してゆく盗賊にほっと胸をなで下ろした。


「とにかく今は、奴らを撒くことか…………………」


「きゃんっ!きゃんきゃん!」


 突如助手席にしがみついていたヘジンが鳴き喚く。一体何がと思ったコウジの視線の先に複数の人影を見つけてその表情が強ばる。それは大小四人の旅人らしく、先ほどから続く爆音が聞こえていたのだろう顔は見えないがこちらに体を向けているのが目に映った。そしてさらにサイドミラーに映っていた先頭の騎馬が横にずれ、すぐ後ろを走っていた騎馬が前に出てくるのが見えた瞬間、コウジの脳裏に最大級の警鐘が鳴り響く。

 先頭に躍り出た騎馬の騎手が両手を振りかぶると両の手のひらから頭上へと電撃が放たれ、それがぶつかり合った瞬間前方、すなわちコウジの操るバギーへと向けて扇状に広がる雷が放たれたのだ。


「だぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


奇声を上げながらハンドルを滅茶苦茶に切り、電撃を一筋二筋と躱して見せる。しかしそうして避けることが出来たのも四度目まで。前方の人影は長身のおそらく男性が一同の前にとびだし片手を前に突き出し半球状の光のドームを創り出し、コウジのバギーを追い越し飛来した電撃を防いでいる。しかしそうなると必然的に動くことが出来なくなり、バギーが彼等を避けざるをえなくなる。ドームが形成されると同時に左へと無理矢理曲がらせたバギーの足下を雷が穿ち、突如出来た穴にタイヤを取られバギーが大きく跳ね上がる。


「!!!!!?」


 視界が空へと登り次の瞬間には頭上に大地が見えた。

 強い衝撃が体を襲いシートベルトが体に強く食い込み肺の中の空気が無理矢理絞り出される。視界が上下左右と滅茶苦茶に移り変わり、コウジの身体はそのたびに振り回される。


「かはぁっ!」


 唐突にジェットコースターも真っ青な動きが止まる。バギーは運良くひっくり返ることはなく、しかし完全に横転した状態でシートベルトをはずした瞬間重力に従い地面に落とされる。


「く、そ……………………、ヘジンと、エヴィ、は?」


 顔を前に向けながらも咄嗟にハンドルに伏せるようにしがみついていたため、どこかにぶつけたということはなかったものの、それでもあの衝撃はコウジの脳を揺さぶっており、横転したバギーを支えにしなければ立ち上がることすらままならなかった。


「きゃんきゃん!」


 鳴き声に顔を振り向かせると、離れた場所から駆け寄ってくるヘジンとその後ろには平然とした足取り歩いてくるエヴィエニスの姿があった。どうやら車が跳ねた時かその前か、エヴィエニスはヘジンを連れてバギーを飛び降りていたらしい。


『大丈夫か』


「……………………すんごい、フラフラする」


 片手をバギーに付けながら懐のHK45を引き抜きせめてとばかりに臨戦態勢をとる。耳に届く爆音に襲撃者が底まで来ていると歯を食いしばる。


「くそ、まさかこんなことになるとは……………」


 うつむき掛けていた顔を上げると、バギーが転がってきただろう道に先ほど荷台に乗せた布に包まれた痛いが転がっていることに気づき唇を掻む。


「エヴィ、連中は?」


『うむ、もう気にする必要もなさそうだ』


「は?」


 予想していたものとは百八十度くらいは方角の違う言葉に思わず聞き返してしまうが、エヴィエニスの視線を追ってコウジもそちらを向くと調度いいタイミングで馬ごと高く打ち上げられる襲撃者の姿があった。


「は?」


 再度呟かれる言葉。一体何が起きているのか目を凝らすと、先ほどバギーを避けさせた四人組が襲撃者を迎え撃っていた。


「は?」


 三度目の呟きは馬を跳ね上げた人影に向けられた物だった。なにせ馬ごと襲撃者を跳ね上げたのは小柄な人影だったのだから。桃色の髪を振り乱し、自身の身長の実に三倍は長い鉄棍を両手に一本ずつ持って振り回し、先頭を走っていた二頭の騎馬を瞬く間に頭上に跳ね上げたのだ。

 そしてあまり身長の変わらないががっしりとした体格に鎧を身に纏った人物が、巨大なタワーシールドを手に鉄棍を振り回す人物の前に飛び出すと続く騎馬のチャージを受け止め、片手で振るったハルバートが騎手の首を跳ねる。さらにたぶんの肩を蹴って跳躍した人影がこれまた自身の身長よりも巨大な大剣を空中で苦もなく振り回し、騎馬ごと騎手を切り裂いて地面に着地する。

 ドゴン、という轟音が響き大地を走る振動に足を取られて倒れそうになったコウジが見たのは二頭の騎馬を跳ね上げた小柄な人影が、その手の凶器を先に跳ね上げた二人の襲撃者に振り下ろす姿だった。一体どれほどの重さがあるのか想像もしたくないような鉄の塊を振り下ろされた襲撃者は、騎乗していた馬ごと大地に叩きつけられ仲良くミンチと化し、飛び散った肉片が大地を赤グロく彩った。

 運良く後方を走らせていた襲撃者はその光景を見るや否や騎馬を翻して馬に鞭を入れ、尻に火がついたかのように一目散に逃げ出してゆく。


「………………に、がすかよ!」


 あまりの光景に絶句していたコウジは逃げ出した襲撃者の生き残りの背を睨みつけると、横転した衝撃で開いていたバギーの収納スペースからライフルケースを引きずり出し、乱暴に蓋をあけてうつ伏せになりながら中のライフルを構えた。

 対物ライフル【バレットM82】のカスタムバリエーション【XM109ペイロード】。中身を確認することなくマガジンを差し込み最低限の準備を終えて敵を睨みつける。


「地獄、落ちろ!!」


 間近に雷が落ちたかのような轟音とともに放たれたのは、目標の貫通破壊を目的としたフルメタルジャケットの徹甲弾。放たれた弾丸は運良く(相手にとっては運悪く)一直線に並んだ襲撃者を背後から襲い、一人目の身体に大穴をあけて貫通させた後にはその騎馬の首を吹き飛ばし、次の襲撃者とその騎馬にも同じ運命を辿らせる。


「は、ざまぁ見ろ」


 敵をしとめたのを見届けたコウジは乾いた笑い声を上げながら仰向けに転がり、額を抑えながら空を見上げた。


「体中が痛ぇ」


 その呟きは誰の耳にも止まることなく宙に溶けて消えた。


~・~・~・~・~・~・~・~・~


 薄暗い室内にペンが羊皮紙をひっかく音が途切れることなく響く。時折書物のページをめくる音が続きそのたびにペンが走る音が一時的に加速する。


「ふむ、さすがは神の施した封印ということか………………」


 ペンの音が途絶えまだ若い男の声が静かに闇に響く。ペンをペン立てにしまい小さなエメラルドを指先に摘んで羊皮紙に向けると、たった今文字を描いたインクが瞬く間に乾いてゆく。インクが乾いたことを確認して本を閉じ、羊皮紙を丸めて紐で結んで引き出しへとしまう。

 席を立ってそばの本棚へと調べごとに使っていた本を戻し、部屋の中央に設けられた台座に向き直る。その台座の上には複雑な幾何学模様で描かれた魔法陣が敷かれ、魔法陣の中心の少し上を薄紫色に発光する拳大の宝珠が浮かんでいた。


「この魔法陣も書き直さなくてはな。

 とはいえ通常の描き方では歯が立たん。どうにかしてウルラ・ルーナが操ったという【立体式魔法陣マジック・スフィア】を再現でせねば………………」


 右手の人差し指と中指を立てて腕を振るう。すると宝珠から発せられていた光が消え、浮いていたオーブがまるで重力の存在を急に思い出したかのように落下し、台座にぶつかる前にそれを捕らえて懐にしまう。


「それにほかの宝珠の探索も行わなければ。

 く、降臨の時も近いというのに………………」


 苛立たしげに呟く男の背後でドアをノックする音が響く。男は小さく頭を降ると中に入るように指示して元の椅子に座る。


「どうした」


 部屋に入ってきたのは黒いフード付きのローブを身に纏った少女で、席に着く男の足下に跪くと掛けられた言葉に顔を上げることなく口を開いた。


「探索隊からの報告にございます」


「続けろ」


「は、遺跡はどこも荒らされた後であり、【雷鳥の聖石】【赤竜眼レッドアイズストーン】【永久氷石】どれもすでに持ちさられているとのことです」


 少女の報告を聞いた男の表情が醜く歪む。今にも歯ぎしりの音が聞こえてきそうな形相で椅子の肘掛けを叩く。


「また冒険者か………………、あの忌々しいこそ泥共が……………………」


「探索隊への指示はいかがなさいますか?」


「無論続行だ。なんとしてでも探し出せ。あれの価値も分からん冒険者共から奪ってでも手に入れろ!」


「手段は問わずに、ですか?」


「当然だ!」


「御意」


 座っていた椅子を蹴倒して立ち上がり少女に背を向けると、少女は慣れた様子で部屋を後にする。一人残された男は棚から酒瓶を取り出しそれを空けてグラスに注ぐ。琥珀色の液体がグラスに注がれ強いアルコールの香りが部屋を漂う。


「そうだ、どんな手を使ってでも手に入れるんだ。…の座は俺にこそ相応しいのだから!」


 グラスに注がれた酒を一口に飲み干し、喉を落ちる熱い感触に身をゆだねる。高ぶり掛けていた気持ちを落ち着かせ、机の上に乗った水晶球を見る。水晶球には淡い光が静かに発せられていた。







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