3人
「良かったら涼風さんも一緒に食べない?」
「「え!」」
俺と瑞希の驚いた声が重なる。
「それとも約束してる人とかいたりした?」
「いえ、いませんけど・・・」
瑞希は文化祭を一緒に回る人は当日決めると言っていた。それがこんなことになろうとは。
「・・・」
瑞希は、俺から一緒に回れないと言われたのを気にしているのか俺を向いて「いい?」みたいな訴えをしてくる。
本当なら世森先輩も帰り、遥紀とも合流して、やっとすれ違う人から睨まれることもなくなったところに瑞希なんて入れたらさっき以上に注目を浴びてしまうからお断りしたいが、ここまで話が進んでいるのに断ると、水上さんに変な誤解をさせてしまうかもしれない。
しょうがなく、瑞希の訴えに静かに首を傾げた。
「!分かりました。それではご一緒させていただきます」
学校の中で、水上さんがいるので、言葉遣いは綺麗なものになっているが、いつもの学校の瑞希に比べれば大はしゃぎしていた。
「水上さん、申し遅れました。私は涼風・・・
俺はさっきの遥紀のように、瑞希が誰なのかバレそうになったことを反省して、瑞希に会ったときに準備していたスマホの画面をばれないように水上さんの後ろから瑞希に見せる。
『下の名前は言わないで!』
そう書いてあるスマホの画面を見せると、一瞬困惑した様子を見せるが、すぐにいつも通りに戻り水上さんの方を向き直す。
・・・と申します。早乙女君と黒瀬君とは同じクラスです。よろしくお願いします」
「もちろん、知ってます!お願いします」
お互いの自己紹介もおわったところで休憩スペースとして開放されている教室まで移動して、4人でたこ焼きを食べる。
もちろん、たこ焼きを4人で食べているときも、周りの視線をすごく感じる。
あれ、これもしかして周りからはダブルデートみたいに見えてる?
「おいおい、ついに涼風さんと黒瀬が付き合ったのか。水上さんも隣の男子と?」
「マジかよ、っていうか誰だよ。水上さんと付き合ってるやつ。俺が狙ってたのに」
周りの席に座っている男子たちから、声が聞こえてないつもりなのだろうが、全然聞こえてくる。
「おい、全然そんなんじゃないからなー」
「照れんなって、黒瀬」
遥紀は知り合いなのか声が聞こえると、一応否定するが、それを聞いた同級生は照れ隠しだと思って全然信じようとしない。
せめて、女子側から否定してくれると少しは誤解が解けると思うんだが、瑞希は言われすぎて、今更否定するタイプでもないだろうし、水上さんは黙っている。
なんで顔を赤らめて固まってるんだよ。お願い!誤解だと言ってくれ!
俺の願いもむなしく、水上さんがこの件について、言及することはなかった。
すると、スマホの着信音が鳴った。俺はこんな音じゃないし、瑞希も遥紀もこんな音じゃない。となると水上さんだな。
「あ、すみません。電話来ちゃいました。出てもいいですか?」
「全然、大丈夫だよ」
「もしもし、・・・・・・あ!もうそんな時間!ごめん今すぐ行く!」
水上さんは、焦った様子で電話を切った。
「先輩達、すみません!私、この時間から自分のクラスの担当でした」
「そうなんだ、じゃあ、早く行ってきな」
「はい!楽しかったです、ありがとうございました!失礼します!」
水上さんは、そそくさと教室から出て行って、自分のクラスに戻っていった。
「ちょっと、集合」
水上さんがいなくなり、俺と遥紀と瑞希の3人だけになると、俺はもうすでに向かい合って座っているのだが、前のめりになって、集合をかけた。
すると、遥紀と瑞希も前のめりになったので俺は、周りに聞こえないように小さな声で話し始めた。
「え、これどういう状況?」
「世森さんと水上さんと司で文化祭を回って、世森さんが途中で帰って、俺と合流して、その後、涼風さんと合流して、水上さんが自分のクラスに戻ったから今は俺と司と涼風さんとの3人だけになった状態」
「冷静に解説すんな」
俺の目立たないように頑張ったのは全部台無しだ。1日目は良かったのに、2日目は考えうる限り1番目立ってるじゃねえか。
「というか司、さっきの下の名前は言わないで!ってどういう意味?」
「さっき、瑞希のお母さんに会ったときに瑞希の話を聞かれたんだが、水上さんは瑞希が誰なのか分からなかったみたいなんだよ。だから下の名前まで言われるとばれるかもしれなかったんだよ」
「そういうことね」
「それで、どうする?たこ焼きも食べ終わったし、水上さんもいなくなったから私とも別れた方がいいよね?」
「いいんじゃない?このままで」
「!?」
瑞希の若干、声に元気がなくなった質問に遥紀が即答する。
「お、おい」
「だって司、考えてみてよ。今日はこの状況と水上さんと世森さんがいて、これ以上ないってくらい注目を浴びたでしょ?」
「それはそうだな」
「そしたら、もう遅いんだし、俺もいるからこれから涼風さんと3人で一緒に回ったってもうあんまり変わらないじゃん」
「ま、まぁ、確かに?」
「じゃあけってーい!」
「やったー!」
遥紀の勢いに思考が追い付かずに思わず頷くと、ことが決定してしまった。
64話も読んでいただきありがとうございます。
文化祭編もそろそろ、終幕。
これからも応援よろしくお願いします。




