先輩な後輩
「じゃあ、始めよっか」
今日行うのは研修最後のチェックだ。
お客さんの前で最低限のパフォーマンスが出来るかを直接店長が判断するものになっている。
店長はマッサージを採点に集中しているため、第三者から姿勢のチェックや会話を担当するのは俺の役目になっている。
さっそくチェックが始まると、小倉さんは俺になんて話を切り出すか迷っているようだった。
俺もこの時は美琴先輩に何の話をするべきか迷って、なかなか言い出せずにいたのを思い出した。
「小倉さんは、なんでこのバイト先を選んだんですか?」
「えっと、私は体のこともっと知りたくて、将来そっちの道に進むのもアリかなって・・・」
人と話すのはそれほど得意そうではなかった。
「マッサージの経験とかはあるんですか?」
「い、いえ!やったことはないんですけど。これから勉強しようと思って・・・未経験じゃダメですか・・・?」
「俺も始める前まではほぼ未経験みたいなもんだったので、全然大丈夫です!」
小倉さんは、春で大学生になる高校3年生で受験が終わったばっかりらしい。
年的には小倉さんの方が先輩ということになる。でも、ここのバイト歴では俺の方が先輩になるため、どういう感じで接していくべきか少し迷った。
それからもあまり会話は活発とまではいかないけれど、マッサージ自体はつつがなく進んでいき、時間を迎えた。
「はい、小倉さん、ありがとうね。研修はこれで終わりだよ」
「は、はい」
「マッサージはとっても良かったよ。会話はまだもう少し足りないところはあるけど、今は緊張もするだろうし、これから頑張ってね」
「ありがとうございます」
どうやら、小倉さんも無事研修を終えられたようだった。
俺の会話の引き出しが少ないせいで、もう一度とかなったら申し訳なさ過ぎたので、そこは俺も一安心だった。
「じゃあ、私はカウンターで受付をするから、司君はバックヤードで詳しい手順とかを教えてあげて」
「分かりました」
「じゃあ、小倉さんこっちにお願いします」
「はい」
小倉さんは真面目で、おとなしい感じの人という印象を受けた。
俺の周りにはあまりいないタイプだ。
関係を構築するには少し難しいだろうが、こういうタイプは一緒にいて落ち着くため、バイト仲間としてはすごくありがたい。
そんなことを思いながら、バックヤードまで歩いて、扉を閉めて、俺と小倉さんの2人になった。
「ねぇ司って、お姉さまとどういう関係なの?」
「!?」
急に小倉さんの口調も変わったし、お姉さまってだれ!?
「・・・小倉さん?」
「何?私の方が年上なんだから、私には敬語ね。私は呼び捨てにするけど」
いや、まぁそこは良いんだけど。
「お姉さまって・・・?」
「お姉さまって言ったら世森美琴先輩しかいないでしょ!」
いないわけじゃないでしょ。
「えーっと、美琴先輩とはどんな関係なんですか?」
「私とお姉さまは同じ高校で出会って、お姉さまの素敵さに気づいたの。ここにもお姉さまに会いに来たの」
「えっ?だって、体について勉強したいって・・・」
「あんなの嘘に決まってるでしょ。私はお姉さまがここで働いてるからここに来ただけ」
「じゃあ、将来ってのも・・・」
「嘘よ。まぁでもお姉さまと一緒の会社に行きたいし、あながち間違えてないかも?」
すっごい美琴先輩にベタぼれしてる・・・
それなら気になることが1つあった。
「でも、なんで今更なんですか?」
「今更って?」
何も知らないかのようにぽかんとしている。
「だって、美琴先輩あと1カ月でやめちゃ・・・」
「えっ!?!?!?」
小倉さんは分かりやすくテンパりだす。
知らなかったのか。
「じゃ、じゃあ私がここに入った意味ないじゃん!どうしよ、辞める? でも、1カ月はいるし、そこまで続ける?いやでも、それはそれで・・・」
なんだか分かってきた気がする。雰囲気は美琴先輩に似ているのに、この人見た目よりしっかりしてないぞ。
「ねぇ司!どうしたらいいと思う!?」
「俺に聞かれたって知りませんよ」
「使えないわね。まぁ一旦それは置いといて司はお姉さまとはどんな関係・・・」
その瞬間、足音がして、バックヤードの扉が開いた。
「おはようございま・・・」
「お姉さま!!!」
出勤してきた美琴先輩に飛びつくように小倉さんは近づいた。
「司君、ごめんね。今日予定があって早く来れなくて」
「あ、いえ。全然」
「葵もちゃんと司君の言う事聞いてた?」
「はい、もちろんです!司先輩のありがたいお話しっかり聞いてました!」
こいつ、美琴先輩の前だけいい後輩面しやがって。
さっきは俺のこと先輩付けずに呼び捨てだったのに。
「小倉さん?さっきと様子違くない?」
美琴先輩にこのこと告げ口してやる。
「そうなの、葵?」
「わ、私ちょっと緊張しちゃって・・・すみません、司先輩」
「ごめんね、司君。私からも謝るから」
「あ、いやいや!謝ってほしいとかじゃないんです!」
ダメだ。高校からきっと美琴先輩にはこんな感じなんだろう。
今更俺が言っても、信じてくれないはずだ。
すると、小倉さんがくるっと顔だけこっちに向けて、美琴先輩に見えないように舌を出して、ベェーっとしてきた。
先輩なはずなんだが、どうやら俺には個性的な後輩が出来たらしい。
160話も読んでいただきありがとうございます。
新キャラ、小倉葵も好きになってくれたら嬉しいです。
これからたくさんの一面が見れると思います。
これからも応援よろしくお願いします。




