ドラマ
目を覚ますと、外が明るく、朝になったことを知らせる。
スマホで時間を確認してみると、いつもより時刻は早く、セットしてあるタイマーも起動していなかった。
早く起きたにしては眠気はなく、目覚めがやけに良かった。
こんな気分に二度寝してしまうのは、なんだかもったいなく感じて、体を起こして、自室の扉を開ける。
扉を開けると、リビングの方から賑やかな音が聞こえてきた。
そこには、瑞希がテレビの前に陣取って、食い入るように画面を見ていた。
『あのね、後輩君。私言いたいことがあるんだ』
『なんですか?』
『私、後輩君のことが・・・』
そのタイミングでちょうどよく、スマホに着信がかかってくる。
『いいよ、出て』
『あ、すみません』
『それで、何だったんですか?』
『・・・ううん、何でもない。また明日ね』
『はい・・・』
そうして、悲しそうな先輩の後ろ姿を主人公は見送った。
「この先輩、告白しそうだったのに可哀そうだな」
「そうなの、私もこんな風にちょうどよく・・・って司!?」
「おはよう。なんでそんなに驚くんだよ」
「だって、いつも起きてくる時間より早かったから。おはよう」
瑞希はどうやらドラマを見ているようだった。
「たまたまこの時間に目覚めちゃってな。瑞希こそ早いじゃん。いつもこの時間じゃないだろ?」
「まぁね、私も早く目覚めたから暇つぶしにドラマでも見ようかなぁーって」
「それにしては見入ってるような気がしたけど」
「そんなことないから!」
なんだか、強めに否定された。
そんなこんなで、俺まで瑞希と一緒にドラマを見ていたら、すぐに朝の準備をする時間になっていた。
「あ、司。今日部活終わったら電話していい?」
「いいけど、どうしたんだ?」
「部活終わりにスーパー寄ろうと思うんだけど、今日は司の好きなもの作ってあげようと思って。それで色々相談したいから」
瑞希の部活が終わる時間はちょうど俺のバイトが終わって少ししたくらいなので、電話に出られるだろう。
「分かった。楽しみにしてる」
***
「おはようございます」
「あ、おはよう。早乙女君」
土曜日の午前だけの学校も終わり、瑞希は部活に行ったが、俺はシフトが入っているため、りらホットに出勤していた。
出勤して、今日のシフト表を確認してみるが、やはり美琴先輩の名前は載ってなかった。
また会おうね、なんて言ってたから出勤するのかと思ったが、違ったみたいだ。
俺をからかっただけか。そう思うと少し肩を落とした。
「司君、お客さん来たから対応してもらえる?」
「はい!」
***
あれから、順調に時間は過ぎて行って、シフトが終わるまであと30分になった頃、お店のドアが開いてお客さんが来た。
「いらっしゃいま・・・美琴先輩!?」
「来ちゃった」
少しだけ舌を出して、からかうように言う。
「どうしたんですか?忘れ物ですか?」
「いやいや、予約してあるよ?」
「・・・ほんとだ」
予約表を確認してみると、確かにリストに追加されていた。
しかも、指名は俺だし。
「本当に俺でいいんですか?今は店長とか空いてますよ?」
「いいの、司君がいいんだから」
「わ、わかりました。じゃあ、こちらにどうぞ」
「は~い」
楽しそうに美琴先輩は俺についてくる。
「それで、なんで来たんですか?」
横たわっている美琴先輩に質問する。
「私は来ちゃいけないの?」
分かってるのにあえてとぼけて俺をからかってくる。
「そうじゃないです。美琴先輩はここで働いてるのにどうしてって意味です」
「いやいや、ボディケアをする側の私こそ、こうやって癒して貰うことが必要なんだよ?」
「それはそうかもしれないですけど・・・」
「それにね、もう、こうやってやるのも最後かもしれないし」
「?」
「それにしても、やっぱり司君は上手いね」
「あ、ありがとうございます」
「思わず声が出そう。あ、あぁー」
「そんな声が出るとこ揉んでないですよ」
「バレたか」
そして、時間は過ぎていき受付にて。
「今日、私のこれが終わったらシフト終わりでしょ?」
「そうですね」
「じゃあ、私すぐそこで待ってるから」
「待っててくれるんですか!?」
「あと、5分だけ。司君に用事があるから」
「分かりました」
5分という部分に少し引っかかったが、あまり考えることなく了承した。
「だから私が寒くて凍えちゃう前に早く来てね」
***
「美琴先輩、はぁはぁ、お待たせしました」
「息切らすくらい急がなくて良かったのに」
「だって、美琴先輩が・・・」
「そうだよね。私が言ったからだよね。じゃあ、そんな司君にご褒美をあげよう」
美琴先輩はバッグの中に手を入れて、そこから箱を取り出す。
「はい、これ」
「いいんですか?」
真っ白な箱に真っ赤なリボンが巻かれていた。
「薄々貰えること気づいてたくせに」
「まぁ、薄々は・・・」
元々、バレンタインのことは美琴先輩から教えてもらったし、今日会ったときに貰えるかもしれないくらいは思っていた。
「ちぇー、つまんないの」
「流石に俺もそこまで鈍感じゃないですよ」
美琴先輩は分かりやすく口を尖らして、拗ねた様子を見せたかと思えば、急に真剣な顔になった。
「じゃあ、次は予想していないことを言おうかな」
「えっ?」
「あのね、司君。私言いたいことあるんだ」
それは今朝、聞き覚えのあるセリフだった。
「な、なんですか?」
思わず、あの主人公と全く同じセリフを返した。
「私ね・・・」
その瞬間、俺のポケットに入っていたスマホが着信音とともに震える。
「あ・・・」
そう言えば、瑞希が部活終わったら電話すると言っていたな。
これも、今朝のドラマと同じ展開だ。
「いいよ、出て」
「すみません」
美琴先輩に断りを入れて、瑞希の電話に出る。
『・・・うん、分かった』
『それじゃあね』
電話を切る。美琴先輩は相変わらず俺の顔をじっと見ている。
「それで、何だったんですか?」
少し声に力が入る。
でも、俺が知っている展開なら・・・
「やっぱり素直には言わせてくれないか」
「えっ?」
「でも私はこれくらいで負けるような女じゃないからね」
まさか、本当に・・・
「私ね、来月でお店辞めるんだ」
全く違う展開、セリフが飛んできて、俺は言葉が出るわけもなく、ただ美琴先輩を見続けることしか出来なかった。
158話も読んでいただきありがとうございます。
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