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蹂躙、或いは防衛

 ゴブリン語で呼びかけながら東門まで歩いたけど、結局ゴブリン商人には出会わなかった。

 上手く逃げたみたいで、僕は手柄を挙げ損ねた。


 そうやって東門に着いた訳だけど、そこは割と安全だった。

 腹に響く地響きが鳴り、遠くで木々が吹き飛ぶ。

 街壁の上から見渡す限りに点々と人が倒れていて、それらはどう考えても生きていない形状をしている。

 所々に見える地面の亀裂は多分刃物傷なんだろうな。

 どうやったら刃物で地面を切り裂けるのかは分からないけど。


 遠くには粒の様な人影がちらほらと見え、そのうちの一つがあり得ない速度で動き回っている。

 あの動きの違う粒が我等が冒険者ギルドマスターなんだろう。


「ここ、ギルマス一人で良いんじゃない?」

「私もそう思うがそうもいかんのだ。情報の共有に問題が生じる」


 兵士のおじさんが何かを書きながら生真面目そうな口調でそう言ったけど、最初の一言は言わない方が良かったんじゃないかな?

 冒険者ギルドのギルドマスターが戦う所は初めて見たけど、何と言うか壮観だね。

 いやまあ、見えてはいないんだけど。


 このおじさんの話によると、最初に南側から人間の襲撃があったらしい。

 そこには魔法使いギルドのギルドマスターがいて、襲撃者達は派手に蹴散らされて潰走。

 直後に西側でゴブリンのスタンピードが発生して、それとほぼ同時に東側と北側にも人間の襲撃が入ったそうだ。

 そこから先の展開は分からないけど、取り敢えずルファは無事らしい。


 南からは無事を知らせる青の狼煙が上がってるしね。

 東側は見ての通り、冒険者ギルドのマスターが蹂躙中で今おじさんが青色の狼煙を準備している。

 北と西は黄色と白色で状況は分からないけど、黒い煙は上がってないから多分大丈夫。


 そんな事を言っている間に遠くで爆音と共に土砂の柱が立ち上がり、轟音と共に降り注いだ。

 これが本当の土砂降りか。


「正に土砂降りだな」


 おじさんがどこか満足気に言ってから頷いでいる。

 いや、僕が言うのを躊躇う程度にはしょうもないからね?


「それで、小僧はゴブリンを探して来たんだったか?」

「ええ、冒険者として協力を頼まれたのでね!」


 こう言うのは言い切った者の勝ちだ。そしてケイトさんにも堂々と言い切るのだ。

 兵士のおじさんも証人ですと。


「ゴブリンは本来臆病な害獣だからなあ。いや、多少交戦的でもこの音と振動で逃げちまうか」

「人間も逃げていますからね」

「私も逃げ出したいよ」


 このおじさん、色々と兵士向きな性格しているな。


「でも仕事だから逃げられないからね、代わりに君に逃げてもらおうかな?」


 そう言っておじさんは黒い封書を僕に手渡した。

 凄く見覚えがあるな、この封筒。


「君に上級配達クエストを依頼するよ。南門にライン卿がいらっしゃるから、渡してもらえるかな?」

「うへ、お貴族様……」


 思わず変な声が出た。

 折角前回は会わずに済んだのに。


「ははは、君中々に正直だね」


 兵士のおじさんは笑いながらそう言うけど、僕にとっては笑い事じゃない。

 あれ? でも上級配達クエストって銅等級には受けられないんじゃなかったっけ?

 首から下げているこの白革のプレートを見せたら回避出来ないだろうか。


「僕銅等級なので受けられないです」

「スタンピードの時には無制限になるんだよ。大丈夫さ、多分ライン卿と直接会う事はないと思うよ? 精々が下士官辺りの対応だろう。緊急時だから一ギルの報酬が貰えるし」

「俄然やる気が出て来ました」


 このクエストは僕が出遅れた事を誤魔化すのにも丁度良いんじゃないかな。

 何より報酬が良い。


「ははは、良い事だね。じゃあ頼んだよ」


 おじさんが笑いながら差し出した黒い封書を受け取って裏表を見る。

 見た所で何か分かる訳でもないが。

 持って行くのは南門だったっけ。


 ルファの南側にはほとんど立ち入った事がない。

 畑が広がるルファの南側は中央の次に警吏が多くて、兵士農夫も多い。

 前線から遠いルファで兵士は比較的暇らしくて、その暇な時間は訓練と体力作りを兼ねた農作業に割り当てているとか。

 ルファの兵士が斧槍を標準武装に採用しているのは農具と扱いが近いからだそうだ。

 この話を訓練所で聞いた僕は冒険者になる事を決めた。

 兵士を希望しても冒険者になっていた可能性は高いけど。


 うーん。気軽に引き受けてしまったけど、南側に立ち入るのは少し不安だ。

 迂闊に立ち入った鉄等級が姿を見なくなるとか良くあるしね。

 鉄等級の間で度胸試しに南側に行くとか少し前に流行ったな。


「これって、見せながら歩いても大丈夫ですか?」

「うん? 隠す物じゃないから構わないが、出来れば歩くんじゃなくて走って欲しいかな」

「あ、はい」


 あー、余計な事聞いちゃった。

 まあ、走るか。


 どかんどかん鳴らしてるギルドマスターを一瞥して、黒い封書片手に僕は東門を後にした。

 西側へ繋がる大通りは門の上からは良く見えるんだよな……。


 取り敢えず手を抜いている様に見えない程度に走って、僕は南門を目指した。

 ゴブリン商人を探しながら向かおうかとも思って、訓練所で走りながら声出す訓練があった事を思い出したから無言で走った。

 ヒューズとスノウから逃げ切るくらいだから、どうせ僕が見つけられる範囲にはいないだろうし。


 でも実際どこに逃げたんだろうか。

 全方位警戒しているから普通に考えたら逃げ切れる訳もないんだよな。

 そもそもどうやってゴブリン商人はルファの中まで侵入したんだろう。

 謎だ。

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