4 レッツ家庭菜園
「……ということで、まずは家庭菜園を作ろうと思うの」
「はあ」
「必要なものは本で調べました。買い出しに行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
セアナに見送られ、意気揚々と買い出しに。
町には何度か足を運んでいたけれど、こうもはっきりとした目的を持って繰り出すのは初めて。
私たちが住んでいるのは、東方の町、リケレ。
クロード様が生まれ育った場所で、お父上のセイジ男爵もこの町に屋敷を構えている。
私はリケレの男爵、セイジ家の長男の妻ということになるのだ。
なので、町に出ると――
「あら、あなたもしかして……。クロードの奥さん? 噂通りきれいだわ~!」
「あんたがクロの嫁さんか! 少ないが祝いの品だ! 持っていきな!」
「え? モカ様? 本当だ、モカ様だ!」
と、色々な人が声をかけてくれる。
入籍後、体調のいいときにセイジ家に滞在し、町の人にも挨拶をした。
だから、まだ数度しか町におりていなくても、私がクロード様の妻だとわかる人がいる。
誰か一人が気がつけば、他の人も振り向いて。
祝いだと言って、野菜や果物を渡してくれる人までいたり。
「……クロード様は、町の方々にも慕われているのですね」
新参者の私がよくしてもらえるのは、旦那様、クロード様がみんなに好かれているから。
私の腕の中には、たっぷりと中身の入った紙袋が。
お買い物はこれからなのに、と笑みがこぼれた。
町を進み、園芸用品を扱う店で土や苗、スコップなどを購入。
量が多かったため、セイジ家まで運んでもらえることになった。
「では、よろしくお願いします」
「おう、任せときな! 明日には、苗以外、全部持っていくから」
植える準備も必要だから、苗は後で送ってくれるそうだ。
お店の人とそんなやりとりをし、紙袋を持ったまま帰路につき……。気が付く。
「……クロード様の許可、いただいてませんでしたね」
思いついたその日に実行に移したため、クロード様にはなにも話していない。
「ま、まあ、許可はいただける……はず!」
セイジ家の庭は広い。
その一角に、ちょっとした菜園を作るだけ。クロード様からの許可は出る。きっと。おそらく。そのはず。
今日も、クロード様は夕方には帰宅するだろう。
夕食のときにでも、確認してみよう。
***
「家庭菜園? かまいませんが」
セアナが用意した食事の前に、向き合って座る。
購入後の報告になったことを謝りつつ、菜園を作っていいかと聞けば、クロード様は、少し驚いたような顔をしながらも頷いてくれた。
「ありがとうございます! よかった……」
ほっと胸をなでおろす。
もしもダメだったら、明日届く土やらなにやらの行き場がなくなってしまう。
「菜園を作ること自体は、なんの問題もありませんが……。どうして家庭菜園を?」
「ああ、それはですね」
クロード様の疑問ももっともだ。騎士とも伯爵家の娘とも結びつかない。
騎士時代にはできなかったことをしたいのだと話すと、なるほど、と納得してくれた。
「必要なものが届くのは、明日でしたっけ」
「はい。苗以外のものを、お店の方が届けてくださるそうです」
「明日……」
そう呟くと、クロード様はなにか考える様子を見せた。
「日程、まずかったですか……?」
「いえ、そういうわけではなく。明日なら俺も休みなので、お手伝いできるなと」
「え? あっ……!」
そう。そうでした。
明日、クロード様は非番。お休みの日なのである。
妻として、休日や勤務時間帯などのざっくりとした予定は事前に教えられている。
なのに、クロード様のお休みの日に菜園作りをぶつけてしまった。
私はいいのです。退役後で時間はあるから。でも、お仕事をしているクロード様に、貴重な休日にお手伝いなんてしてもらうわけにはいかない。
優しいクロード様は、空き時間を見つけては私を気遣ったり、話し相手になったりしてくれる。
普段から申し訳なく思っているのに、休みを使わせるなんて、できるはずがない。
「お休みの日にそんなことをさせるわけにはいきません! 私一人でできますので、クロード様はしっかり休んでください!」
「でも、重いものを運んだりとか」
「なおさらやらせるわけには……! 後衛だったとはいえ、これでも元騎士ですから、大丈夫です! 退役した今だって、普通の女性よりは力も体力もありますよ」
明日は、夫婦生活開始後、初めてのお休み。
クロード様だって、新しい生活が始まってお疲れのはずだ。
そこに菜園作りをぶつけたうえに気を遣わせてしまい、本当に申し訳ない。
そんな気持ちから、大丈夫! 力もある! と慌ててまくしたてると、わかりました、という言葉が。
手伝わせずに済んでよかった……!
「モカ」
「はい!」
「……少しは、頼ってくれていい」
ほっとする私とは対照的に、クロード様はどこか寂し気で。
彼の黒い瞳も、口角も。笑顔の形をしているのに、無理をしているように見えて。
「……?」
彼のその表情に、少し、つきりと胸が痛んだ。




