5 突然の来客 働く女の勘 もしや旦那様のことが!?
翌日の午前中には、土や道具が到着。
用品はお店の人が見繕ってくれたから、不足はないはずだ。
汚れてもいい服に着替え、早速作業を始める。
セイジ家に来てからは、きれいめのワンピースに若干のスリットをいれたものを着ていることが多かったが、今日はおもいっきり作業着だ。
長い髪も、まとめてお団子に。
菜園として使う場所にレンガをおいたり、土をまいたり。
ちなみに、位置はセイジ家正門のすぐそばだ。
だから、家に近づく人影に、すぐに気が付くことができた。
門の前に、一人の女性がいた。
長く赤い髪はきれいなストレートで、服装も胸元にリボンがあしらわれた可愛らしいワンピース。
どこか不安げに、きょろきょろと辺りを見回している。
「なにかご用ですか?」
「ひっ!」
そう声をかけると、女性は大袈裟なほどにびくっと身体を跳ねさせた。
「も、モカロリーゼ、さま……!?」
「はい。モカロリーゼです」
「わ、わわ……わわわ……」
女性は水色の瞳を大きく開き、わなわなと震えながら自身の口を手で押さえている。
驚いている、とも少し違う気がするけれど、この反応は一体……?
伯爵家の出身らしくない服装のせいかしら、と改めて自分の格好を確認した。
「あの、あなたは……?」
「は、はいっ! 私は、クロード隊所属、ビスカ・ハイカリスと申します! 本日は、隊長の忘れ物を届けにお宅へ伺いました!」
「ビスカ、さん……?」
これまでの、可愛らしい女の子、といった雰囲気から一転。
ぴしっとした敬礼に、はきはきとして聞き取りやすい話し方。
ビスカという名前。この赤い髪と水色の瞳……。
「……ビスカ! 治癒術師のビスカね!」
私の中で、幾度かの任務をともにした女性騎士と、目の前にいる彼女が、繋がった。
ビスカ・ハイカリスは、クロード隊所属の治癒術師。年齢は、私たちの少し下で、まだ10代。
赤い髪をきれいにまとめあげ、隊服を着崩すことなどもしない、かっちりとした真面目な人だ。
任務中と雰囲気が違いすぎて、すぐに気が付くことができなかった。
手元を見れば、忘れ物が入っているのであろう紙袋も持っている。
「わ、私のことを覚えていてくださったのですか……!? はい。ビスカです! 何度か任務でご一緒しました、ビスカです!」
「もちろんよ! また会えるなんて。嬉しいわ!」
「モカロリーゼさまあ……!」
退役してから、クロード様以外の騎士と話す機会はぐんと減っていた。
懐かしさもあり、「みんなはどうしてる?」「怪我はしていない?」などなど、門の前でつい話し込んでしまった。
女性二人できゃっきゃと盛り上がってしまってから、はっとする。
「……そうでした! クロード様に用があったのよね? 取り次ぐから、ちょっと待っていてくれる?」
「クロード、『様』……?」
それまで和やかに話していたのに、一瞬、雰囲気がぴりついたのを感じた。
心なしか、「さま」の部分に力が入っていた気がする。
「ビスカ?」
「いえ。なんでもありません。よろしくお願いします」
今度は、ぴしっとした騎士の顔。
さっきの不穏な感じは、気のせいかしら。
それにしても、女の子って任務中とプライベートですごく変わるのねえ。
そんなことを考えながらも、室内で過ごしていたクロード様に声をかけ、取り次いだ。
ビスカを中に通したら、菜園(予定地)に戻る。
この家の奥様としておもてなしをするべきなのだけど、服装や汚れ具合の都合で諦めた。
セアナとクロード様の二人に、こちらで対応するから大丈夫、と言われてしまったのだ。
ちょっとしゅんとしながら作業を再開しようとして……。急に、ぴーんと、女の勘が働いた。
私に出会ったときの、ビスカの慌てように、「クロード様」と呼んだときの、ぴりっとした雰囲気。
お互い非番の日に、わざわざ忘れ物を届けに自宅まできた。
きれいに整えておろした髪。女の子らしい、可愛いワンピース。
任務で一緒だったとき、クロード様と話している姿もよく見た。
まさか、ビスカは――
「クロード様のことが……!?」
好き、なのでは!?
それなのに、私が責任と出世を盾に急にクロード様を奪ってしまったのでは!?
「……どうしましょう」




