サブキャラたちが、出番が欲しそうにこちらを見ている。
「君が新しくドリクロを始めた子だな!」
広場では5色の5人組が俺たちの前に現れた。
そういえば、昨日の冒険者ギルドでこの集団を見たような気がする。その時は掲示板を眺めていて、直接話をする事は無かった。
その集団にいきなり呼びかけられて、俺は思わず言葉を詰まらせてしまう。
隣ではカストルが先頭の赤色の青年を指さしている。その指先はわざとらしく、軽く震えていた。
「な、何者だ! お前たちは!」
「よくぞ聞いてくれた!」
赤色の返事と共に、背後の4人が左右に並ぶ。カストルは指さした時の震えは嘘のようであり、俺に5人組を見るように促した。
「俺がリーダー! レッド!」
赤の短髪が上に跳ねている青年は、ボイルたちより少し若そうに見える。金属の胸当てや篭手、具足を身に付けているが、動きやすさを重視しているようだ。
「クールでイケメンなブルー」
そう自称する青年の青い髪は、前方に長く垂れ下がっている。頭の左右からのびる角や尖った耳、背中から広がるカラスのような翼から、彼が人間でない事は明らかだ。
「オレ、イエロー。『タイヨーランチ』ノ、カレー、オススメ」
褐色茶髪の青年の手には、カレーが盛られた皿とスプーンが握られている。その両腕は太く強靭で、前方が開かれたベストから見える筋肉もたくましい。
「故郷から大量の蜂蜜が送られてきた、グリーン」
緑髪で少女に見えなくもない、少年は5人目より背が低い。大きな、辞書のような本を両手で抱えている。また、背中からは昆虫のように薄く透明な羽が広がっている。
「わたし、ピンク! よろしくね!」
5人目は、他の4人とは世界観が違う気がする。桜色の髪の少女は孤児院のラガーちゃんと同じぐらいの身長で、アニメの魔法少女がそのまま目の前に現れたようであった。自分の身長より長い魔法の杖は、その先端が宝石と羽根で飾られている。
「俺たち5人合わせて!」
「「「「冒険者グループ! ペンタゴン!」」」ゃん!」
俺たちの前で5人組が決めポーズを取る。
ブルーが中央を陣取っているのだが。イエローが黙々とカレーを食べ続けているのだが。ピンクがポーズを取る前に、自分の杖に足を引っかけて転んでいるのだが。
隣のカストルも、いつの間にか眺めていた他の冒険者も、この光景は当たり前のように眺めている。決めポーズに対するツッコミは無粋のようだ。
「困った事があれば、俺たち『ペンタゴン』に任せてくれ。冒険者ギルドに依頼をする時の依頼書に『ペンタゴン』と書いてくれればOKだ!」
「あ、ありがとう」
ペンタゴンは最近結成した冒険者グループのようだ。今は依頼を沢山こなしていき、将来は街を守れるヒーローになりたいそうだ。
俺はペンタゴンに自己紹介をする。俺が6属性を全て使える事に驚いていたが、都合の良い事でもあった。5人ともドリクロをしていたが、使うカードの属性がばらばらであった。全員とカードを交換する事ができて、とてもいい気分だ。
カストルもレッドとイエロー、ピンクとカードを交換していた。
彼が受け取ったカードのうち、枠の色が赤と茶の2種類がちらりと覗かせていた。
『熱血闘士 レッド』
火属性ユニット、5コスト4/4、『突撃』
入場:味方ユニットが5体の時、このユニットに+2/+2し、『守護』を得る。
『イケメン角度』
水属性イベント、3コスト
自分の手札が1枚の時に使用できる。自分は3ドローし、6回復する。
『守備形態のイエロー』
地属性ユニット、4コスト3/3、『守護』
入場:敵ユニットの数だけ、このユニットに0/+1する。
このユニットはダメージを受けていない限り『神秘』を得る。
『往復する伝書鳩』
風属性ユニット、3コスト3/3、『突撃』
入場:自分は1ドローする。
退場:自分の手札をランダムに1枚、デッキに戻す。
『シャインブレイカー』
火属性イベント、6コスト
ユニット全てに4ダメージ。破壊したユニットの数だけ、相手に1ダメージ。
「自分の姿が描かれたカードを使うのって、恥ずかしく思う事はあるの?」
「んー……。自分に近いカードほど、他の人に使われた時に強くなれる気がするから、つい自分の姿のカードを作ってしまうよなー」
俺はペンタゴンから受け取ったカードの中に、その人自身のカードが含まれていた事について、カストルに聞いてみた。恥ずかしいけど、それで自分の魔力が上がりやすくなるなら、自分もつい作ってしまうかもしれない。
「待たせたな。こっちの用事は済んだ」
ボイルが建物から出てきた。これで冒険者ギルドを後にするようだ。ペンタゴンの皆と別れの挨拶をして、建物に振り返る。扉の前ではエリシャが笑顔で手を振っている。キアヌはカードブックを取り出して、1枚のカードを取り出した。
「餞別だ。取っておけ」
「あだっ!」
キアヌの手から放たれたカードは俺の額に命中した。指で挟んで受け取ったら格好良かったけれど、思うようにはいかない。俺もカードブックから自分のカードを取り出し、キアヌに向けて投げる。
ぺしっ
俺の足元で力の抜ける音が聞こえる。自分で投げる方も失敗して、顔が赤くなりそうだ。
ボイルはため息をついて、カードを拾って代わりに投げてくれた。吸い込まれるようにキアヌの指の間に収まる様は、俺の理想の光景であった。
「……経過観察」
「気になるなら俺から連絡を入れてやる。だから監視は必要ない」
キアヌの言葉は不気味であったが、すぐにボイルが釘を刺した。一瞬の出来事であったが、背中に冷や汗の余韻を感じてしまうものであった。ともあれ、キアヌともカードを交換する事ができて、冒険者ギルドの用事は済んだ。
『ショベルの傭兵 キアヌ』
地属性ユニット、4コスト3/4
入場:自分のデッキを無属性カードが出るまで破棄し、そのカードを手札に加える。
キアヌから受け取ったカードをしまい、俺とボイルは先をゆくカストルの背中を追いかけた。
(つまり、ミカンがリアルファイトする事は)ないです。