2 もりのくまさんはお腹がすいている
こんにちはリュウです。
突然ですが、絶体絶命です。
俺が今必死に隠れている岩の奥をご覧ください。大きな熊が何かを探していますね。
探し物は俺です。どうしましょう。
時はさかのぼります。
◇◇◇◇
ステータスや進化先の確認も済んだ俺は、洞穴を抜け出し、森へとくり出した。
この森は良いところだ。キノコや食草がたくさん生えている。とにかく素材が豊かだけどその分毒を持つ物も多いな。まあ《鑑定》があるから間違えることはない。
なぜか分からないけど、この体はとにかくお腹がすくのだ。
途中、トロキノコというキノコを見つけた。
前世でもよくシチューなんかに使われていた食材で、肉のトロの部分に味が似ていて美味だったけど、生で食べてみたらあんまりおいしくない。まあ食えなくはない、って感じかな。
腹は膨れるけど、最低限やっぱり火を通したいね。
カサカサ!
不意に木の上から物音がする。
見れば大きなリスが木の実に噛り付いていた。
結構大きいな、俺の体長が多分80cmくらいで、あのリスはその半分はあるから40cmくらいか。
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オオリス
種族 リス科
バラモンの森のみでみられる固有種。
木の実を頬袋に貯める習性がある。
肉が美味。
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魔物ではないみたいだな。
バラモンの森ってのは今いるこの森の名前か。
メスドラゴンいるかな。いるといいなぁ。でもたぶん殺されちゃうだろうな。もし会ったらこっそり見るだけにしよう。
いや待て、俺にはエイリューンたんという将来を約束した相手が・・・
話が逸れた。
オオリスは肉が美味いらしい!これは捕まえるしかないでしょ!
爪を使えば木登りくらいできそうだけど、せっかくだし《火の息》使ってみよう。
よし、まだオオリスはこっちに気が付いてないな。
食らえ!《火の息》!!
のどの奥から何かがこみ上げ、それが口からでると、炎のブレスとなってオオリスに襲い掛かった。
おおお!!マジで俺ドラゴンになったんだ!!
前世で何度・・何度ブレスを吐くことを夢に見たか・・・!!
「ぴぎゅ!」と鳴いて、焦げたオオリスがポトリと落ちてくる。
思ったよりすごい火力だったな。せっかくのお肉が丸焦げで台無しだよ。
爪で焦げ部分を取り除くと、少しだけ無事な肉が見えた。
ん!これはうまい!!《鑑定》の言っていた通りかなりの美味さだ!
おっと、おいしくてあっという間になくなってしまった。もったいない。
さっきのトロキノコも、この肉と香味料なんかと炒めたら美味いだろうなあ。
今のままじゃ料理なんて精々串焼きがいいところだ。フライパンが欲しい。
まあ無いものねだりしてもしょうがない。とりあえずオオリスを見かけたら積極的に狩っていこう。《火の息》の火力調節もできるようにならないとな。
また散策を再開する。
今歩き回っているのは最初の洞穴の周りだけだ。
まだ魔物には会っていないけど、今の俺のステータスでは殺される可能性が高いので、すぐに隠れられる場所があったほうがいいのだ。
洞穴の入り口はちょうど俺くらいのサイズなので、俺より大きい魔物は入ってこれないだろう。
キノコや野菜をかじりながら歩いていると、木々が開けた場所に出た。
ん?地面になんかいろいろ落ちてるな。
お、これは剣!鎧もあるな!なんか既に人間の装備が懐かしい気がするわ。
おそらく冒険者の物だろうけど、この散り具合は魔物に負けて食い散らかされたって感じだな。よく見たらあちこちに血がついてるし。
冒険者に勝てるほどの魔物がいるってことだよな・・・
警戒しながら道具を漁ると、キラリと光る物があった。
あ、あれは・・・鍋!鍋だ!!
冒険者は旅に調理器具を持つことがあるのでおそらくそれだろう。
よしよし、これで料理ができるぞい!
とりあえず鍋だけとって、その場所から離れた。
◇
さて、途中で拾ったトロキノコ君や、やや焦げたオオリス君!それに野菜達!
おいしくしてあげるからね。
食材を爪でカットし、鍋に入れる。トロキノコは油成分が出るのでちょうどいい。
鍋の下には枯れ木を積んで《火の息》で火をつけた。
肉と野菜が焼けてきたら、たまたま見つけた“ペッパの実”という木の実を細かく砕いて振りかける。
手先が器用なドラゴンでよかった。人間レベルとはいかないが、大抵のことはできそうだ。
料理するドラゴンなんて、人間が見たらさぞ驚くだろうな。
あー、いい匂いがしてきましたねえ。ピリ辛のペッパの実がいいアクセントになってそうだ。
ありがとう鍋!おかげさまでまともな料理ができたよ!
パキキ・・・
背後で木の枝を踏んだような音がする。
んん?またオオリスかあ?よろしい、おいしく調理してあげようでは・・・
振り向いたそこには、俺の5倍はありそうな大きな熊がいた。
鑑定さん、あの子は?
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ハングリーベアLv.20
体力 150/150
魔力 0
攻撃力 150
防御力 100
素早さ 100
称号 【悪食】
スキル 《噛み砕く》《地ならし》
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「ガウ・・・(Oh・・・)」
口からよだれがダラダラ垂れている。明らかに「僕お腹すいてます。」って顔だあれ。
なんてこった、料理の匂いにつられてやってきたみたいだ。
右目で鍋を見て左目で俺を見てる。駄目だこれ完全に俺も食料とみなしてる。
神竜になるってのに、こんなところで熊公に食われてたまるか!!
鍋の中のおいしく焼きあがった肉をハングリーベアに投げつける。
ああ勿体ない!でも気をそらしてくれ!
「グルァ!!」
思った通り、ハングリーベアは勢いよく肉に飛びつく。
今だ!逃げろ!!ダーッシュ!!
まだハングリーベアは肉に噛り付いてるな。
くそ、鍋ゲットに浮かれてた。もっと洞穴の近くで料理するんだった!
「ガフッガフ!」
うお!もうオオリス食い切りやがった!ハングリーって名前は伊達じゃないな。
ハングリーベアは一つゲップをすると、恐ろしい速さで追いかけてくる。
やばいやばい!とりあえず何かに隠れないと!
隠れ場所を探すと、すぐそばに岩場が見える。
かなり大きめの岩がゴロゴロ転がっている。あれだ!。
よし、まずは視界を封じないと。
俺はすぐ後ろまで迫っていたハングリーベアにくるりと振り返り、その顔面に向けて《火の息》を吐く。もちろん最大火力だ。
「ガフアアア!!」
さすが獣、火は苦手みたいだな。
ともかく今のうちに岩の裏に!!
―――――冒頭に戻ります。
幸いそこまで鼻は良くないようで、いまいち俺の場所を掴めていないようだ。
でも時間の問題だな。だってだんだんと俺の隠れている岩に近づいているもの。
たぶん出て行ったらすぐ見つかる。
どうしましょう、これは戦うしかないんじゃないか?《火の息》でか?
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ハングリーベアLv.20
体力 140/150
魔力 0
攻撃力 150
防御力 100
素早さ 100
称号 【悪食】
スキル 《噛み砕く》《地ならし》
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馬鹿言え、最大火力の《火の息》で体力10しか削れてねえぞ。現実的じゃなさすぎる。
なにか・・・なにか打開策は・・・
すると、手元に鈍く光る鉱石に気付く。
これはたしか・・・
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ニトロストーン:火に反応して爆発する鉱石。
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こ、これだ!!
生まれ変わって数時間で命の危機。
乗り越えて神龍めざします。