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とある札幌のバーの扉が色んな異世界に繋がってしまったようです。さて、今夜のお客様は?  作者: 萩原詩荻


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第4話 当店は抜刀禁止です

「ほう……つまり貴殿の流派は、初太刀で終わらせることを是とするのか」


「左様。拙者の国では、刀を抜くということは、即ち斬るということ。二の太刀を考える時点で未熟とされるのでござる」


「なるほど。実に美しい思想だ」


「いや、でも一撃で終わらなかったらどうするのだ?」


「その時は?」


「さぱっと死せい」


「……潔すぎない?」


 カウンター席で、剣士さんたちが盛り上がっていた。


 今日のお客様は四人。


 一人目は、和装の侍さん。


「この琥珀色の酒も見事にござる。香りが深い」


「それはウイスキーです」


「ほう」


 二人目は、銀色の軽鎧を着た騎士さん。


「マスター殿、この酒は実に良い。喉を焼くようでいて、後に米の香りが残る」


「それは日本酒です」


「ニホンシュ」


 三人目は、砂漠の国から来たという大柄で見るからに強そうな剣士さん。


「このれもんさわーというのをもう一杯貰えるか、うまい」


「かしこまりました」


 四人目は、黒い外套を着たままの細身の女性。


「……甘いのを」


「カシスオレンジをどうぞ」


 本人いわく、剣も魔法も使うらしい。


 つまり、魔法剣士さんだ。


 響きが非常に格好いい。


 勇者だろうと、剣豪だろうと、魔法剣士だろうと、好きなお酒を飲んでいい。


 そういう店でありたい。


「それにしても、面白い夜だ」


 騎士さんがチーズをしげしげと眺めながら言った。


「まさか、これほど異なる剣の道を歩む者たちと酒を酌み交わせるとは」


「実に」


 侍さんが、グラスを置いて静かに笑う。


「拙者、生まれてこの方、数多の武芸者と立ち合ってきたが、異なる世界の剣士と酒を酌み交わすのは初めてでござる」


「俺の世界では、酒場で剣士が集まると、だいたい決闘になる」


 剣士さんがレモンサワーを飲みながら笑って言う。


「私の国でも、剣士が三人以上集まると誰かが『一手ご指南を』と言い出しますな」


 魔法剣士さんが若干不穏なことを言う。


「そうですね。剣士とは、結局そういう生き物です」


 騎士さんが微笑む。


 嫌な予感がした。


「……一手」


 侍さんが小さく呟く。


「拙者たちの技量で、一手だけなら店の物を壊さずに見せられるのでは?」


「同感だ」


 魔法剣士さんが静かに頷いた。


「異なる世界の剣術。これほど興味深いものはない」


 侍さんの目が輝く。


「型ならば、斬らずとも見せられるでござる」


 まずい。


 みんな完全に少年の目だ。


 こういう目をした大人は、止まらない。


 いや、この人たちは大人なのだろうか。


 当店では、見た目と本人申告と雰囲気で判断している。


 深く考えると営業できない。


「なら、少しだけ広い場所を……」


 剣士さんが店内を見回す。


 広い場所。


 この店にそんなものはない。


 カウンター六席、四人掛けのテーブル三つ。


 広い場所など、ない。


 あるとすれば、入口付近のわずかな空間だけだ。


「お客様」


 私は静かに声をかけた。


 四人が、ぴたりと止まった。


「店内で剣を振るのはご遠慮ください」


 少しの沈黙。


 剣士さんたちは互いに顔を見合わせた。


「……そうでござるな」


 侍さんが、静かに腰を下ろした。


「酒場の掟は守らねばならぬ」


「うむ」


 四人は、実に素直に武器から手を離した。


 私は心の底から安心した。


「当然のことです。ここは酒場でした」


「すまぬ、ますたー殿。酒と剣の話で、少し浮かれていたでござる」


「うむ、これだけ剣の道に生きる者と会う機会というのはなかなか無くてな」


「反省している」


 皆さん、本当に礼儀正しい。


「いえ、わかっていただければ」


 私はそう言って、少し笑った。


 侍さんが、しみじみと言う。


「うむ。ここで飲めなくなるのは困る」


「それは困りますね」


 騎士さんが深く頷いた。


「困るわね。こんな変な酒場、他にないもの」


「失うには惜しい」


 剣士さんと魔法剣士さんも頷いた。


 変な酒場と言われた。


 否定はできない。


「それに」


 騎士さんが、グラスを掲げる。


「剣は振れなくても、話はできるものね」


「左様」


「なら、もう一杯ですね」


「同感だ」


 四人の視線が私に集まった。


「かしこまりました」


 私は笑顔でグラスを用意した。


 平和が戻った。


 と思ったその時。


 一番奥の誰もいない席から、小さく声がした。


「えー、ちょっと見たかったのに」


 四人が一斉に振り向いた。


 私は振り向かない。


 いつものことである。


「魔法使いさん」


「なーにー?」


「煽らないでください」


「だって、絶対すごいじゃない。たぶんこの四人の剣舞なんて、人によっては血涙流すレベルよ」


「見たいか見たくないかで言えば、私も見たいです」


「でしょ?」


「ですが、店では困ります」


「つまんなーい」


 そう言いながら、フワッと魔法使いさんが姿を現す。


 いつものように、最初からそこにいたような顔で脚を組んでいる。


「透明化か。それも非常にレベルが高い」


 魔法剣士さんが目を丸くする。


「おお」


 侍さんが感心した声を上げる。


「見事な隠形でござる」


「隠形じゃなくて透明化」


「ほう」


 騎士さんが真剣に頷く。


「戦場で使えば強力だ」


「まあね」


「だが、酒場で使うものなのか?」


 騎士さんの素朴な疑問が飛ぶ。


 魔法使いさんは少しだけ目を逸らした。


「使うわよ。便利だし」


「便利なら仕方ないでござるな」


「仕方ないな」


「仕方ないですね」


 仕方ないのか。


「ふむ。次の議題は、透明な相手の斬り方というのはどうだろうか」


「ちょっと」


 侍さんの議題提案に魔法使いさんが焦っているが、剣士さん達はもはや聞いてない。


「興味深い」


「見えぬ相手を斬る技も、あるぞ」


「おお、それはどのような!!」


「私の場合、魔力を剣に纏わせる」


「うむむ、それは誰にでもできるのだろうか」


 非常に盛り上がってしまっている。


「……ねえ」


 魔法使いさんが珍しく不貞腐れたように話しかけてくる。


「はい」


「私、そのうち斬られちゃうかも」


「店外でお願いしますね」


 この魔法使いさんが、そう簡単に斬られるような人だとも思わないけど。

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