第28話 均衡と言う名の薄氷
「献金をもらっていたって、そうする理由が彼らにあったように思えないのだけど」
大国の国々が同じく大国であるフリーギドゥムに献金していたのはどうにもきな臭い。絶対に何か裏があるでしょ。
国家の腐敗かそれによって容易になる内部干渉なんかを狙っていたのかしら。――まぁ、納得できることではあるのだけどね。
確か先帝が在位の頃は、フリーギドゥムが国家侵攻を盛んに行っていた時期だから。
「先帝はよく国土侵略を行っていらっしゃいましたからね。穏便に済ませたいという周辺国家が少なくなかったのです」
「確か、先帝は『冷血皇帝』と呼ばれていましたよね。余りにも無慈悲に人々を惨殺するものだから、きっと血すらも凍っているのだと」
やはり、私の予測通りだったみたい。
だけど、待って。
『冷血皇帝』と呼ばれていたのは先帝なの?イヴァン様ではなくて。
え、お父さまにフリーギドゥムの皇帝が『冷血皇帝』と呼ばれていると聞いたのはいつのことだった?
考えようとすればするほど、頭の中がぐしゃぐしゃになる。
思い出せない。思いだそうとすればするほど、霞を掴んだように記憶が霧散する。
「ルイーズ様、どうなさいましたか?顔色が悪いですよ」
「申し訳ございません、ルイーズ様。お茶と共に聞くには余り気分の良くない話でしたよね」
二人が心配そうな顔で私の顔を覗き込む。
あら、いけない。また考え事に集中しすぎてしまったみたい。
彼女たちを変に気遣わせてしまった。こちらから、彼女たちが話しにくいことを聞いたというのに。
「大丈夫よ。ちょっと考え事をしていただけよ。……献金していた訳は理解した。姫君たちが送られてきたのはその延長線上のことなのね」
お茶を飲んで深呼吸をする。これでもう大丈夫。
ちょっとだけ手が震えているけど、気合で止めよう。
でも、この話でだいぶここまでの現状の概要が見えてきたみたいね。
「最初、彼女たちがやって来たときは丁重に対応していたのです。陛下も『彼女たちに嫁にはできない』と言ったうえで、この国に残るのかと尋ねていました」
「実際、何人かの姫君たちは帰国なさっていましたし」
ちゃんと意思表示をするように言ったうえで彼女たちは残ったのか。
いや、残るしかなかったということはありえるのかもしれない。
私もいい性格とは言えない。程よく悪いところもあると自覚している。
でも、あの姫君たちは『自分の言うことが絶対に正しい』と純粋に思っていそうだ。
厄介払いみたく断られたパターンもあり得るのでは?
「ただ、彼女たちの祖国に帰そうとしても、あっち側から拒否されてしまって」
「『我らはこれほどまでに資金援助をしたのだ。その見返りぐらいあってもいいだろう。』と。3国すべてで言われたら、どうしようもなく」
あの癖の強い姫君たちは普通ならかなり婿探しが困難になるとみた。
自国の貴族とかと婚約させても、相手方の負担が大きくて破棄されていそうだ。
とはいえ、他国の王子と婚約させても、今のフリーギドゥムでの態度を見る限り、傲慢な態度を貫いていそうだ。
だから、皇帝の婚約者と言う立ち位置にどうしても就かせたいわけだ。
過去の彼らに借りを作ってしまったフリーギドゥムは彼らの言うことに変に逆らえない。そこの弱みに漬け込んだんだな。
もし、彼女たちが上手く入り込めば、フリーギドゥムの高い技術力を容易に担保できる。
彼らにとって色々といいこと尽くめになるはずだった。
皇帝の人間不信の酷さと、私と言う全くの外野から現れた人間がいなければ。
「つまり、薄氷のような均衡が私と言う存在でひび割れそうなわけね。現状、この国の令嬢は宮殿あるいは帝城に暮らしていたことは?」
そういえば、この城に来て聞く女性の話はもっぱら姫君たちについてなのよね。
この国だって貴族制度があるはずなのに、その令嬢たちの話を全く聞かないのは不自然だ。
高位の貴族の令嬢だったら、候補に挙がってもおかしくないのに。
「一切いらっしゃいません。何人か陛下をおとそうとした方々は居ましたが、全部不発に終わりました」
「そもそも、ほとんどの家が陛下に自分の娘を嫁がせる気がないのです。なので、これからそうなる方は出てこないのでは?」
まさかの一切いないとは。何人かいるものだと思っていたけど、事実はそうではないらしい。
少し頭を捻れば分かることか。
姫君が一人も彼に見向きもされない現状、わざわざ自分の娘を皇帝の相手にさせるのは時間の無駄に等しい。
それなら、自国間の繋がりを強める方が何倍もいいのだろう。
「それならば、ある意味良いけど。不安定な立場にいることには変わりないのよね」
なにせ、彼女たちとは違って大きなな後ろ盾がいないから。
彼女たちの後ろには国がついているけど、私の場合あくまでも実家なんだよね。
いくら名前が有名でも、他国で権力を与えられるわけではない。
彼らが強力な手段を私に使われたらひとたまりもないのだ。
正式に婚約しているけど、権力で打ち消される可能性があるのがその不安定さを助長させる。
はぁ、これからどう動くのが正解かしら?
「ルイーズ嬢、そんなに不安がる必要はないわ。だって、お貴族様は誰もあなたのことを悪く言っていないんだ・か・ら♪」




