2章6薙刀が発動するって何
レアドロップ素材の素材の武器が輝く。まるで「海のトリトン」のオリハルコンの短剣みたいね。蛇が嫌いと言いながらも、ここで逃げたら何も変わらない。おばさんは諦めないのよ。
どうなったって?
私の心の叫びが届いたのかどうかわからない。ただ、不思議なことに薙刀が赤く輝きだしたのだ。それだけじゃなく、まるで意志を持つかのように私の手は薙刀の力に委ねられていくではないか。
ええそうよ、セリカがきっとそばにいる。そう思えてならない。
赤く輝きだした薙刀を見て、とぐろを巻き始めていた半身半蛇は私から距離をとりだした。これは恐れているということだ。ならばこれに策があるに違いない、と私は薙刀を高く掲げて叫んだ。
「セリカの魂よ、輝け!」
なぜそう叫んだかわからない。恐らくセリカの意思がこの薙刀にあるのだろう。安易な考えだけどそんな気がした。私の言葉とともに輝きを増す薙刀の刃。あたりは真昼の如くだ。
益々私から距離をとる半人半蛇の魔物。そうか、そんなに怖いのかい。お前の弱点見たり。
変化はそれだけでなかった。なんと固まっていた仲間たちが呪縛から解放されて我を取り戻しているではないか。
だが、折角呪縛から解き放たれているのに、彼らは次なる恐怖に恐れおののいた。我に返ってまっ先に怪物が視界に入ったらちょっとしたパニックだろう。
「ラ、ラミア!なんでここにいるんだ」
冒険者たちが口々に騒ぎ恐れおののく。
「ラミアって何よ。この怪物のこと?そんなに有名な怪物なの」
せっかく人々の呪縛がとかれたというのに簡単な問題じゃなさそうだ。ラミアなんて転生者の私は知らん!
「伝説のラミア容姿そのものだからな。こいつは目で人の心を惑わし、虜にさせる。男は特にあの上半身に惑わされてうっかり関係を持つと喰われてしまう」
上半身……そうか、確かに上半身だけ見ると女性だ。嫉妬からねちねち言いそうな感じだ。でもだからって負けるわけにいかないわ。女神パイディアが不在である以上、魔物から人々を守らないとえらいこっちゃですわ。というより、あんな魔物に男が魅了されるなんて私のプライドが許さない!
こうなったのも遊び惚けている女神のせい。パイディアとやら、今度会ったらぶんなぐってやる!
セリカが守護している(と勝手に思っている)薙刀は益々輝きをみせ、あたりが明るくなるほどだ。少しずつ距離を開けてダンジョンの奥へ逃げようとするラミア。人々は目を見ないようにラミアの胸元を見ている。
こらっ!そんな豊満なバストを見てどうする。まあそこしか見ることができないのか。そういや、ミラはどうした……。なんとミラまでラミアの胸元を見ているのではないか。……う、羨ましいのか……。知らんけど。
その隙に攻撃をしていく冒険者と兵士たち。蛇の部分の攻撃だ。
でやああっ!
彼らの攻撃は容赦なく続く。さしものラミアも絶えず攻撃されてはたまったもんじゃないようだ。
「今よ!魔法使いたち」
私の声にミラと他のパーティーの魔法使いがタッグを組んで詠唱を唱え始めた。
「エクスレーレ・アングエム・サクラ、テネブラース・アビゲ!セルペンテム。神の光をもちて蛇を焼き払え!闇を追い払え!」
パリンに比べたら長めの詠唱だ。すると魔法使いたちの杖から光やら炎やら渦巻くように現れ、たちまちのうちにラミアを包み込んだ。
ギャアー!
ラミアは苦しがってもがきだした。正直、このままいけるんじゃないかと思ったけど、ラミアも怪物とあって簡単なもんじゃなかった。なんとこの場に及んで男たちに妖気を放ったのである。まるで危険を感じておならをぶっ放すイタチだ。
「アルフォード!」
目がトロンとして武器を投げすてていく男たち。いかん、この目はラミアの女の体にやられている目だ。全く!なんで男はこうなのよ。
私は情けなくて仕方がない。アルフォードのようなおっさんまで虜にするとは、全くもって嘆かわしい。
「しっかりしてよ、アルフォード!あんたには私がいるでしょう?」
私はとっさにアルフォードを抱え込むと顔を胸元にうずめた。い、いやもう必死なのよ。
ラミアの妖気から守るかのようにギュッとアルフォードを抱き締める。
おばさんをなめんなよ。おばさんだって異世界転生、若いもんには負けやしない。
「サ、サユリ……」
我に返ったアルフォードは状況判断がまだできないのか、顔を赤らめたまま次の言葉を探している。
「みんな、いくわよ。ラミアが弱っている今、攻撃を仕掛けるのみだよ!」
私の声に正気を取り戻した男たちも次々に武器を手にして立ち上がった。
だが、なかなかどうして相手は諦めの悪い魔物だった。
私たちに背を向けると洞窟の奥の方へ逃げていくではないか。
ここで逃がせば問題は解決しない。私たちは年齢関係なく追いかける、追いかける、追いかける。
ああ、ほんっとに若ければ追いついたかもしれない……と思うくらい悔しいけど……逃してしまった。
逃げ足の速い半身半蛇め!
ハアハアと息を切らしてその場にへたり込む私たち。
「あと、あと一息だったのに……。でもこれで弱点はわかったわ。蛇の弱点そのものね。あいつの弱点は光と熱よ。だからこの武器の光を恐れたし、魔法使いの攻撃でダメージを食らった。逃げてしまった以上、このままにしておけないわ。ダメージから回復して力をつけるとやっかいなことになるでしょう?あいつの弱点を狙う攻撃魔法やスキルを持っている者はこの好機を逃がさないで。手負いをそのままにしておくと危険というからね」
元居た世界の町内会におじいさん猟師がいた。クマや鹿の駆除で頼まれては山へ入っていくおじいさん猟師だ。手負いの動物は命を顧みず、反撃に出るからあぶないって言ってたっけ。その言葉を思い出した。
ここまで来た以上、人間に危害をもたらすラミアを逃がしたままにしておくわけにいかない。そもそも私たちは覚悟のうえでここへきているのだ。
態勢を整え、気持ちを新たに列をなして洞窟の奥へ進む冒険者たち、兵士たち。その中で魔法使いたちが魔法であたりを照らしており、暗闇の恐怖から幾分逃れられたのは有難い。
通路にはラミアの緑色の体液だか血だかは知らないけど、何か点々としていた。恐らく傷ついたラミアはどこかで回復を待っているだろう。そう、この点々の先に。
そしてその点々はある一点の前で終わっていた。特に洞窟とか何があるでなく、行き止まりの壁だ。
岩肌を前にしてきょろきょろする人々。確かにここで点々は終わっているのに肝心のラミアの姿がないとはどういうことだろう。
騙されない。姿がなくてもそこにいるのでしょう。
「かくれんぼはもうおしまい。姿をあらわせ。テ・オステンデ・ラミア!」
なんだか知らんけど無意識に知らない言葉を発した私。もちろんアルフォードたちは私たちの行動に何ごとかと見つめてきたが、それも次なる展開で大きく変わった。
岩肌に擬態するかのように皮膚をカモフラージュしていたラミアが姿をあらわしたのだ。まさにカメレオン!
「いっけえー!」
「ウォーッ!」
一斉にラミアへ向かって攻撃をしていく。
べ、別に私はリーダーじゃないのよ。だけどなんだか自然とそうなっている。あの一言で薙刀が輝きを見せてからほんとに調子いい。っじゃない自分が自分でないような……。ああ、そんなこと考えてる暇はないわ。ラミア、ラミアをしとめなければ。こいつが人々の心理操作を行っているのなら尚更だ。
だが、さすがに魔物。しぶとすぎる。
「ジムニー、ラミアってこのダンジョンのラスボスあたりなの」
ゲームオタクの息子が言っていたけど、ダンジョンには極端に強いラスボスがいるらしい。もしかしたらこれもそうか。
「ラミアはこのダンジョンが荒れてから住みついたのだろう。元々いた魔物やら怪物は狩りつくされていつのまにか何も現れなくなった。レアドロップ素材がでなくなったのもそれからだ。ラミアは関係ない」
ジムニーは反撃しながら答えた。
そうか……もしかしたらラミアがこのダンジョンを乗っ取ったのかもしれない。ホトトギス……いや、まるでヤドカリやんけ!
そのラミアは傷を負いながらも必死に攻撃から身を守るごとく、暴れて抵抗をしている。せっかく手に入れたマイホームを奪われたくないのだろう。
ドーン!ドーン!
地響きがし、ラミアが暴れるたび人々は跳ね飛ばされたり降られたりしてけが人続出。魔法使いたちが回復を試みるが間に合っていないくらいだ。
おっと、これ以上暴れられたら周辺が崩れてしまう。こんなところで生き埋めなんてごめんだ。
私の薙刀が唸るような音を出してきた。えっ?こんなことってあるのか。私は鍛冶職人から何も聞いてないし、アルフォードとマリスの方は何も起きていないので私だけの異変のようだ。もしかしてセリカ?何だか知らんけどセリカがいる気もする。
「サユリ、あなたに大きな力が宿っています。魔力ではありません。それは何かのスキルですか」
ミラや他の魔法使いたちが私の異変に気付いたらしい。でも知りたいのは私の方よ。何が起きているかわからないもの。
「わ、わっからんちーん!」
なんか私の体が軽い。サポーターを着用したみたいだ。日常の家事ダイエットが効いたのかもしれないけど確実に私は昔の体型に戻りつつある。だけどそんな問題じゃない。本気で体が軽い。
「いったいどうなってんのよ、これ。なんでこの薙刀だけが音を出しているの?」
ラミアと対峙しつつ、唸るような音を出す薙刀に正直ビビっている私。わけがわからないから何をどうしていいか考えが及ばない。周りの冒険者たちは援護をしようと位置している。でも私がこれから何をするか私自身がわかっていないのよ。
「サユリ、あなたの薙刀の力が発動します。私も微力ながら援護します」
ミラがそう言って私の側へ来た。
「は、発動って何よ!」
私は混乱している。魔法使いのミラは確かに何か感ずいているようだ。そして私の異変はついに行動に出たのである。
「いきますよ、サユリ。薙刀をラミアへ向けてください」
ミラの声掛けで私は薙刀をラミアへ向けた。もはや体が勝手に動いている気がする。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想突っ込みお待ちしております。




