2章3バレバレの冒険者と女傑セリカ
おばさんともなれば面の顔も厚くなり、言葉にひと癖二癖もある人もいる。
でも、うまく付き合えば、互いに距離をとることでいい付き合いができるんですけどね。
あれから本当にエウルス国との国境が封鎖されてしまった。戦争になるかどうかはわからないが、互いに人と物の流れが止まってしまうということだ。人の流れの影響は大きい。親せきや知人と離れ離れになってしまったという人もたくさんいたからだ。
「まるでベルリンの壁ね。こんなことで人と物の流れを止めてしまうなんて馬鹿げている。国境を封鎖したところで敵は山の茂みに潜みながらでも入るわよ」
私は第二次世界大戦で分断してしまったドイツの国を思い出した。戦後長い間東側(ソ連・現ロシアに占領された部分)と西側(アメリカ・イギリス・フランスに占領された部分)にわかれてしまい、そこにはベルリンの壁というものがあった。ベルリンの壁を乗り越えようとすると容赦なく命を奪われた。それぞれの戦後は経済格差をうみ、人を分断した。その後ベルリンの壁は政局の変化によって崩壊するまでの28年間この状態が続いたのだ。社会でベルリンの壁を学習し、大人になってベルリンの壁が人々の手によって崩壊するシーンをニュースで見た私は、まるでドラマのような歴史の大きな転換にワクワクしたものだ。どのメディアの映像か忘れたが、BGMにベートーヴェンの「歓喜の歌」が流れていたように思う。
そんな壁を人々の心に植え付けてしまってはダメだと思う。一市民でしかない私だが、本当に国王がそう思っているのならぶん殴りたい。……無茶苦茶言うけど。
「サユリは時々難しいことをつぶやくんだな。あまり難しいことを言うと先へ進めなくなってしまうぞ」
アルフォードはそう言って私の手を握ってきた。ああっ!ドキドキがとまらなくなってきたじゃないの。
そんな私をみてミラが微笑んだ。年下のくせに舐められたようでイラっときたわ。でもそんなことを気にしないミラはちゃんとすべきことをする。
「幻獣サラマンドラよ、我の求めに応じその姿を変え、我らを運べ。拡大せよ、エンゴーシオ!」
たちまち姿を変えるサラマンドラ。そしてミラは周りから視認できないようにと追加の魔法をかける。
サラマンドラってやはりサラマンドラだった。あらまあ不思議、ファンタジーのイラストでみるような魔獣に変化しているじゃないか。悔しいけどパリンより上位の魔法のかけ方だろう。認めてやるわ。ふんっ!
素直じゃないおばさんって思われているだろうね。そんなこと気にしなーい。パリンの方がかわいいし、魔法のかけ方もセンスがあるって。
不貞腐れ顔の私に気付いたアルフォードはサッサとサラマンドラに乗れといわんばかりに私を抱え込んだ。
「アルフォード、何を……」
いきなりのことで私は言葉を失う。
ドキンドキン……。ああなんか略奪結婚みたいで……い、いいわよ。アルフォード、やっちゃって!
アルフォードの腕の中でにやにやしてしまったけどバレていないよね。生意気なミラの分、これで帳消しだ。
サラマンドラの背に乗った私たちは一路……あれ、空の場合はどう言うのだろう……東側に位置する国エウルスを目指した。飛行中は風に体がもっていかれないようにうろこの隙間に体を埋め込んでいる。それにしてもこれじゃもう怪獣レベルといっていいだろう。パリンやマリスの肩に乗って首をうねらせているイメージなんてない。
眼下は白い雲だ。飛行機に乗ったときに見えるあの雲の景色だ。飛行機の窓から見える雲はまるでアルプスの少女ハイジが雲に寝そべっているかのようにみえるが、実際はそうでない。クッションだと思って飛び降りたら命はない。わかっているんだけどねえ。
隣で小さくなって体を震わせているのはマリスだ。どうやらこれ程の高所は苦手らしい。アルフォードも冷や汗をかいている。
しばらくするとエウルス国との国境が見えた。確かに両国の国境側には兵士が待機している。いつもなら国境警備隊ぐらいなものだろうが、この反応の早さを見ると相当敏感になっているものと思われる。
ゆっくりとエウルス国の山岳地帯へ降下するサラマンドラ。姿を隠しているものの物理的な風まで隠せないようで、羽をバサバサするたび、周辺の木々が大きく波打った。その後元の姿に戻ったサラマンドラは飛行に満足したらしくマリスの肩の上で首をうねらせている。マリスにもう大丈夫だと言わんばかりだ。
「さあて、エウルス国が本当に戦争を望んでいるのか探ろうぜ」
アルフォードの言葉に私たちも続く。ただ、このとき私たちはあることを忘れていた。
山を下りて街まで来たときは既に日も暮れかかっていた。身体を鍛えていない私は足腰がへとへとだ。そんな私を見てミラがふふっと笑う。
かっわいくなーい!
思わず声を出しそうになったとき、誰かが私たちを呼び止めた。後ろにはカイゼル髭のちょっと偉そうな人。やばい、役人か。
「あなた方は冒険者だとお見受けしました。そのいでたち、結構経験を積まれた方々であると思うのですが……」
そうだった……私たちは冒険者丸出しのいでたちだったのっだ。それにしてもカイゼル髭なんてこの世界にもあるのね。髭だけで立派な人間に見えてしまうのは何故だろう。
「俺たちに何か用があるのですか。俺たちは失業した冒険者です。仕事を探してここへきました」
自然体で話すアルフォード。
「そうでしたか。仕事ならあります。私はこの町の市長を務めておりますシビックと言います。詳細をお話ししますのでぜひともギルドへお越しください」
シビックと名のるカイゼル髭の男は特に悪意がないようで私たちをギルドへ案内していった。ギルドってどこも同じ感じだね。
掲示板に貼られている案件の紙。それもかなりの量だ。討伐だけでなく様々な依頼や募集の紙が貼られている。この量って……。
「この町の精鋭部隊は兵士へと駆り出されてしまいました。それなのにモンスター討伐を含め、案件依頼は増える一方です。引き受けるものがいないからこうなるのももっともなのでしょうが、なぜいつまでもやってくれないんだとクレームが殺到していまして……。どうか引き受けていただけませんか」
シビックはとても困惑しているようだった。そしてまじまじと私を見てこう言ったのである。
「この町には女傑セリカの生誕の地です。そう、あなたと同じ武器を持ち敵を薙ぎはらった女傑セリカです。彼女はこの町の英雄として崇められています」
いきなり女傑の話をされてとまどっている私。アルフォードとマリスもじっと私の方を見ている。
「そのいでたち、レア素材で作られた薙刀。どうみてもセリカと同じです。まるで生まれ変わりのようです。素晴らしい……この町は救われたも同然」
何だろう。なぜレア素材ってわかるのだろう。だって刃の部分は鞘をはめてあるのに。それから私は神じゃないからね。
「セリカだか何だか知らないけど私は女傑でも英雄でもないわよ。私はサユリ。セリカと全く関係ないわ」
ところがシビックはまた奇妙なことを言いだした。
「サオリさんでしたか。強そうなお名前ですね。その名前を聞いただけで男たちは震えあがるでしょう」
かっちーん!
ああ、なんでこうも間違えられるのか。
「私の名は吉田小百合。沙保里じゃないわよ。沙保里はレスリング女王。だから違うって」
少々むきになってしまったかな。もしかしてシビックは転生者なのか?
「レスリングが何か知りませんが、気分を害されたようで申し訳ありません……。転生者が以前来たときにサオリの話を熱っぽく語っていましたからてっきりその人かと」
そうなのだ。転生者はあちこちにいるのだ。しかもケントのパーティーのように異世界召喚者たちも混在している全くわけわからん世界なのだ。
ということでよそから来た冒険者という私たちは成り行きでこのギルドから案件を頂くことになってしまったのである。ただ、まだすっきりしないことがある。
「両国が戦争になるかもしれないこ状況下で相手の素性を確かめもせず、よく私たちにいきなり案件を提示する気になったわね。見かけだけじゃどんなじんぶつかわからないのに、不審者だと思わなかったの?別に私たちが怪しいものだと言っているわけじゃないのよ。ただ、見てくれだけで信じちゃっていることに疑問を抱くのよ。素性もよくわからない者を信用して、もしかしてあんたは何か企んでいるんじゃないの?」
そうなのだ。いくらなんでも人が良すぎる。田舎じゃそうしたこともあったが、最近は田舎でも不審者を警戒しているよ。
「おっしゃることはごもっともです……。でもどうかご理解ください。主だった冒険者たちは国境へ駆り出されてしまいました。今いるのは少々脛に傷持つ冒険者ぐらいです。彼らは過去にいろいろありまして兵士として駆り出されるような立場にありません。というより役人に目をつけられている存在です。それでも生活の為に案件を引き受けてくれます。こんな今だからギルドにも出入りしています。今回お願いする案件は少人数じゃできませんので、とにかく人手を探しておりました。あなたたちの素性を知ったところで他言はしないことを誓います」
うーん……。シビック市長の言葉を信じていいのかどうかわからない。
「サユリ、疑っていたら何もできないぞ。とにかくこの案件を受けてみよう。両国がこうなってしまったことに全く関係ないとは思えない。だったら受けるべきだと俺は思うぜ」
アルフォードはリーダーらしく自分の思いを述べた。そうね、アルフォードのいう通りだ。
「当然、そのやさぐれた連中も一緒にやるわよね。セリカが誰か知らないけど、これも何かの縁だと思うわ」
私の言葉にアルフォードも安心したようだ。
ともあれ、このようないきさつで私たちはエウルス国の探りを入れるはずがモンスター討伐の案件を引き受けることとなった。
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