40.まだいた
「ふわぁ~」
昨夜は夜中にお客さんが来たので少々寝不足だった。
なので、夕食を済ませた頃には欠伸が止められなかった。
令嬢としてははしたない行為なのだが……ついつい。
《リア、眠たいのか?》
「ん~、ちょっとね~」
《昨日は遅くに起きちゃったものね~。もうお休みしちゃう?》
「ん~……」
ヒューリーとミリアが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「今寝ると……また夜中に……起きちゃうような気がするから、もうちょっと頑張る~……」
とは言ったものの、かなり眠たい。
我慢するつもりだったが、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
◇ ◇ ◇
私は夢を見ていた。
例のあの夢だ。
今度はマリエッタがエメラルド公爵……父と恋をする夢だった。
父も攻略対象者だったんだな!?
マリエッタの守備範囲が広すぎてびっくりだよ!
まあ、マリエッタの好みは置いておいて、夢の内容はエメラルド公爵が娘が亡くなって悲しんでいたところから始まり、悲しみの最中にマリエッタと出会っていた。
天真爛漫なマリエッタが悲しんでいる父に明るく話しかけるのだ。
最初は戸惑う父だったが、マリエッタが何度も声を掛けてくるので、いつの間にか娘の代わりとして可愛がるようになる。
そして、それがいつしか愛しているようになっていた……とかいう内容だった。
◇ ◇ ◇
《……ァ、リア! 起きて、リア!》
「っ!」
誰かが運んでくれたのだろう、私はしっかりとベッドで寝ていたようだ。
そして、ヒューリーに起こされたようだ。
《リア、魘されていたよ》
「魘され……ああ、うん、凄く嫌な夢を見た」
《だろうね。あんなに魘されていて、良い夢だったって言われたら驚きだよ》
「ははは~」
今度は私、いつの間にか死んでたよ!
何やかんやがあって死ぬんじゃなくて、最初から死んでたよ!
九歳以降が山場だと思っていたのに、ここに来て九歳未満で命の危機があったよ!
「……」
《リア、大丈夫かい? 水を飲むかい?》
「ヒュー、ありがとう」
ヒューリーに渡された水を一気飲みして、少しばかり落ち着く。
落ち着いて先ほどの夢を思い出してみるが……これまた厄介な展開だった。
何せ、死因が不明なのだからな。
既に死んでいる設定だし!
しかし、事故死や暗殺、毒殺で死ぬ確率は限りなく低いかな?
夢とは違って今の私には護衛はいるし、精霊もわんさかいるし、何なら元暗殺者もこちら側に引き込んだ。
人為的なものは高確率で防げる……と思う。
となると、あとは病死かな?
解毒薬はいろんなものを用意したが、病気に効く特効薬はどうなのかな?
「ねぇ、ヒュー。ヒューが知っている病気を治す薬で、私がまだ作っていないものってある?」
《ん? どうしたんだ突然? そうだな~、薬作りに凝っていた頃にかなり作っているはずだから、作っていないのはほとんどないと思うぞ》
「そうなの? でも、一度ちゃんと確認したいから、私が持っている薬と照らし合わせてみてくれる?」
《リアが望むなら》
ヒューリーが了承してくれたので、早いうちに薬の在庫確認だけはしておこう。
二年後に向けていろいろ対策してきたが、ここに来て予定が狂ってしまった。
しかし、とにかくやれることは全部やっておきたい。
それにしても……攻略対象者はまだいたのだな~。
本当に予想外だ。