第九十四話 プロデューサーから贈る言葉
さて、いよいよ本番まで1時間を切った。
最終ミーティングをするからと後の事は獣王に任せて俺はメンバー達を楽屋に集める。
「あれ? エミールは?」
「そう言えば見当たらないな? 私が探してこよう」
そう言ってオルデリミーナが楽屋を出て行った。
たぶん今頃未来からやってきた俺とやいのやいのとやっている頃だなと思いおかしくなった俺がにやけていると、それを見たソフィリーナが怪訝顔で俺の事を見ていた。
「なにをにやにやしてるのよ。キモいわね」
「うっせーな。思い出し笑いだよ」
「余計気持ち悪いわよ」
気持ち悪い気持ち悪いって失礼な奴だなまったく。
そうこうしていると楽屋の扉が開きオルデリミーナとエミールが入ってきた。
「な!? べんり? なぜそこに居る? おまえは後ろから来ていなかったか?」
「そうか? 俺は先に戻っただろ」
「嘘を言えっ! おまえは確かに後からついてきていただろうっ! なあエミール」
「え? そうでしたっけ? まあべつにどっちでもよくないですか?」
「よくはなあああいっ! なんなのだ? 二人して私をからかっているのかあああっ!?」
まあそんなこんなで大騒ぎして、いよいよ本番直前を迎えるメンバー達の気を引き締める為に、いや、もうそんな必要はないか。
こいつらの面構えを見ていたらわかる。少し緊張した面持ちではあるがそれは良い意味であって、その表情から不安や気負いは感じられない。皆のこのステージに懸ける思いが伝わってくるようだった。
「みんな、この一カ月間俺の無茶な要求に応えてくれて本当にありがとう」
本当に大変だったと皆が笑顔で答えてくれる。そして俺は卒業式の金八先生のように一人一人に声をかけていった。
「ソフィリーナ、おまえは歌でもダンスでも皆をよく引っ張ってくれたと思う。実質このグループのリーダーはおまえだったと思うよ」
「当然よ。私は女神なんだから、べんりくんもまあまあ頑張っていたと思うわよ」
まったく口の減らない奴だ。らしいっちゃらしいがな。
「ローリンはきめ細やかな配慮で、皆の精神的支柱になってくれた。そういう細かいケアはおまえならではだな。本当に助かったよ」
「そんな、私の方こそ皆に沢山支えて貰いました。そしてべんりくんが居てくれたからこそがんばれたと思います」
少し涙目になりながら言うローリン。おいおい本番はこれからだぞ泣くのはまだ早いぜ。
「ぽっぴん。おまえの頭の回転の速さ機転の利かせ方は、時に皆の悩みを解決させる頭脳として本当に役立ったよ」
「まあ私は人一倍賢いですからね。伊達に賢者ではないですよ。これから先も私の頭脳が必要でしょうから、特に依怙贔屓してくださいねべんりさん」
なんでおまえだけを依怙贔屓しないといけないんだよ。バナナチョコとりんご飴でおわりだからなまったく。
「リリアルミールさん、あなたのこのステージに懸ける思い。魔族と人間の架け橋になろうと言う思い。あなたの歌からはそれが心から伝わってきました」
「べんりさん。そしてオルデリミーナさんにエミールさん。あなた方には本当に感謝しています。必ずや、成功させましょう」
ニッコリと微笑むリリアルミールさんが本当に嬉しそうで、俺はなんだか目頭が熱くなってしまったよ。
「べんり。めーむは?」
「ああ、メームちゃんも、いっぱいがんばってくれてありがとう。お歌もダンスもいっぱい上手にできるようになったね」
「うん。べんりがうれしいならめーむもうれしい」
メームちゃんの頭を撫でてやると気持ちよさそうにニコニコと微笑む。メームちゃんの笑顔は俺の何よりの活力となるのだ。絶対にこの子は俺が護って見せる。そう思えるのだ。
「シータさん。突然の誘いを引き受けてくれてありがとうございました。あなたがいなければ皆ここまで上達することはなかったと思います。俺じゃあお手本なんて見せられないですからね」
「いいえ。お慕いする殿方からのお誘いです。当然気合いが入るってものですよ」
頬を染めながら答えるシータさん。え? お慕いするって俺の事? マジで? ひゃっはーっ!! と喜ぶのも束の間、全員のなにやら冷たい視線が俺に降り注いだので自重した。
「リサ」
「はい、べんりさん」
「ありがとう」
そして俺はオルデリミーナの方を向くのだが。
「ちょっとちょとちょとおおおおっ! 私だけ異常に短くないですか? え? なんですか? そういうプレイですか? あんま興奮しませんよそれ、どうせなら皆の前で叱咤してくださいっ! 私を侮辱してくださいよおおおっ!」
「うるせえな。おまえメームちゃんの周りをウロチョロしてただけで碌に練習してねえじゃねえかよっ! いいか、とにかく最後まで目立たない様に、皆に迷惑だけはかけないように。あと絶対にステージ上で脱ぐんじゃねえぞっ!」
まったくこいつだけは本当に褒める所が一つもない。
「オルデリミーナ。本当に色々と尽力してくれてありがとう。魔族の皆が参加することから、劇場の手配や警備の為に騎士団の人達まで動員してくれて。結局ほとんどのことをおまえに頼っちまった」
「なにを言うのだべんり。おまえだからこそ、私は……私はその……にゃ、にゃにを言わせるのだばかものおおおおっ!」
真っ赤になりながら悶えているオルデリミーナ。なんだこいつは、たまにこうやってわけのわからない反応をするよな。まあでも、彼女がいなかったら今回のお話は成立しなかった。本当に心強い存在だ。
そして俺は最後にエミールの顔を見つめると深々と頭を下げた。
「ありがとうエミール」
「え? 突然なんですかべんりさんっ! お礼を言うのは私の方です」
「いや、今回エミールがこうやって舞歌祭の話を持ってきてくれなければ、こうやって皆が手を取り合って協力して、そんでもってこんなにも仲良くなれることはなかったと思う」
「そんな、そんなことないです。遅いか早いかの違いだけで、必ず私達はこうやって手を取り合うことができたと、そう私は思います」
エミールの言葉に俺は頭を上げると彼女の顔を見上げた。
そこには、初めて会った時の引っ込み思案でなんの取り柄もなさそうな感じだった彼女ではなく、とても自信に満ち溢れたエミールの笑顔があった。
そうだな……。
「え? なんですか?」
「いやなんでもない……。よおしっ! しみじみするのはまだ早いぜ、ステージの本番はこれからだ。皆気合い入れて行けよっ! まぁぶるちょこっと。デビューステージの開幕だっ!」
そして誰からともなく円陣を組むと予め決めておいた掛け声を合わせるのであった。
『まぁぶるちょこっと。ちょっこっとぉぉぉぉおおお、オーっ!』
つづく。




