第六十二話 届け熱き思いよっ!未来に向かって放てべんりの巻
「お、おまえは死んでいたはず……まさか、死んだふりを?」
驚く俺の姿に不敵な笑みを浮かべるとビゲイニアはゆっくりと口を開く。
「そうですね。なぜかあなたが眼鏡を埋め……」
「そうだっ! 俺は確かにおまえを埋葬したはず!」
俺の言葉に今度はビゲイニアが驚いた表情を見せる。
「え?」
「え?」
なにを驚いているのか、死んでいる振りをしていたおまえを俺は確かに埋めて墓前に花を供えてやっただろう。
「そ、そうですね。私の演技にあなた方はまんまと騙され」
「まさかっ! おまえひょっとして……」
「な、なんでしょう?」
「憑依型か?」
「は?」
俺の質問にきょとんとして呆けるビゲイニアであったが、そんな演技には騙されないぞ。今も俺達のことを罠に嵌めようと虎視眈々とその隙を狙っているのに違いない。
「まんまと騙されたぜ。俺はてっきり操作型だと決めつけて、本体が死んだから肉体の方は解放されたと思い込んでしまったんだ。おまえはそんな俺の心理を巧みに利用して、死んだ振りをしながら心の中でほくそ笑んでいたんだな! くそぉ、巧妙に仕組まれた心理トリックだぜ」
「さっきからなにを言っているのですかあなたは?」
「しらばっくれるなよ。俺は確かに埋めたんだ、おまえの本体を。それが今こうして掘り返されて眼鏡掛けに再び装着されているのを見るに、おまえは明らかに憑依型の眼鏡星人っ!」
「なんだそれは!? 眼鏡星人じゃねえよっ!」
な……んだと? 眼鏡星人じゃないだと? そんなはずはない、俺は出会った時からこいつの本体は眼鏡だと見抜いていた。
あの眼鏡を中指でクイクイっと直す仕草、あれは明らかに眼鏡星人特有の癖、中学の時同じクラスだったド近眼の前田君がそう言っていたから間違いない。
そう言えば前田君はよくUFOを食べていた。
「だったらお前は一体、何者なんだ?」
俺の問い掛けに固まるビゲイニア。やはり、おまえは別のおまえに、眼鏡型異星人に身体を乗っ取られて別の人格に操られているんだな。
そして「Who are you?」と言う言葉に、内に眠っている善の人格が目覚めて二つの人格が今しのぎを削っているのに違いない。そうそれは、まるで双子座のサ……。
「ビゲイニアだよっ! 単なる魔族だよっ! なんだよ、なんで私だけ眼鏡星人とかわけのわかんない宇宙人だと思われてんの? え? なに、馬鹿にされてんの!?」
「はあ? 単なる魔族なの? つまらん奴だな、なんの為に眼鏡してんだか」
「お洒落の為だよっ!」
ぷっ! お洒落で眼鏡掛けてんのかよ。ますます詰まらん奴だ。外見を気にして恰好つけてお洒落を気取る奴の眼鏡ほど痛々しいものはない。そういう奴に限って似合わないんだよな。
ただ眼鏡女子は良いものだ。本当に目が悪かったら尚良い、眼鏡を外した時に細目になるのが堪らなく良い物だと俺は声を大にして言っておきたい。
「おまえらを油断させてここに先回りする為にあんな小芝居までして、つまらん奴と言われるとは……」
「そういやなんでここにいるんだ? 迂回路とか近道はないって獣王は言っていたのに」
「ふふふ。獣王ごときには知る由もありません。大神官だけが行くことのできる“星読みの丘”の存在を、そしてそこからならば十二宮を通ることなくこの魔王の間へと続く回廊に来ることができるのですよ」
またこいつ獣王のこと馬鹿にしてるな。て言うか四貴死ってなんだったんだよ。完全に設定が破綻してるじゃねえか、まあもう細かいことはいいや、とりあえず早くこいつを倒して先へ進まないと俺は死んでしまう。
「ごちゃごちゃと御託を並べやがって、そんなことはどうでもいい。俺は今急いでるんでな、そこを通らせてもらおうか?」
「自分から聞いておいてなんなんですか。まったく、あなたとは会話になりませんね」
そうだ。言葉なんて必要ない、俺達は戦うことでしか分かり合えないのだから。
俺とビゲイニアは対峙し、お互いが攻撃を繰り出そうと構えた瞬間、エネルギー弾がビゲイニアに直撃して爆発する。
「行けべんりっ! ママに会ってくるんだっ!」
振り返ると成人化しているメームちゃんが、次のエネルギー弾を作り出して放つ準備をしていた。
やはりこっちの姿のメームちゃんも良い。なにしろスタイル抜群で超美人、あれ? この顔どっかで見たことあるな?
「で、でも、メームちゃん一人残して行くなんて」
「皆の思いを無駄にする気かべんりっ! おまえは15年前に言ったはずだ! 我の婚約者であると。だったら我を妻にするためにママに会って許可を貰ってくるんだっ!! 行けべんりっ! 皆の思いをその背に乗せて走れっ!」
俺は深く頷くとメームちゃんの思いに答えるべく踵を返して走り出した。
メームちゃん、俺は必ずメームちゃんの夫になる為に魔王に会ってくるよ、だからそれまで待っていてくれっ! 必ず許可を貰って君を迎えにくるからっ!
回廊を暫く走ると上り階段が見えた。俺は駆け上がるのだがしばらく行くと今度は下り階段。
上ったのにまた下るのかよ? 意味ねーじゃんと思うのだがしばらく行くとまた上り階段になる。
どうなっているのか? そんなことを繰り返している内に俺はもうどこをどの様に進んでいたのかもわからなくなり、息も切れ切れ、心臓も張り裂けそうな程に鳴り響き膝がガクガクと笑い始めると足が縺れて転んでしまった。
もう駄目だ。苦しい、立ち上がれない、膝も擦りむいて血が出ている重傷だ。もうパワビタンも無くなってしまったので回復もできない。ちきしょう、なんだかおでこが熱くなってきやがった。呪いが発動する前兆なのだろうか? ここまで来たのに、もうあと少しで魔王に会えるってのに、ちきしょう……悔しい……ちきしょう。
その時、薄れゆく意識の中で皆の声が聞こえた気がした。
―― 立ち上がれ、諦めるなべんり、ゴールはすぐそこだっ! ――
確かにそう聞こえた。もう、ゴールしちゃってもいいよね? いや駄目だ。それはあの世に逝っちゃう方のゴールだから駄目だ。
俺は震える腕で体を支え地面を這いながら進む。
すると急に明るくなったように感じ、目の前が真っ白になる。
その視線の先、白いドレスを身に纏った美しい女性がベッドに腰掛けているのが見えた。
あれは……メームちゃん? いや、そっくりだけども違う。と言う事はあの人がメームちゃんの……。
声を出そうとするのだが掠れてしまう。
「メ……ちゃ……」
目の前の女性は不思議そうな顔をして俺のことを見ている。
くそっ、意識が遠のく、もう駄目なのか? 俺は最後の気力を振り絞り声を上げた。
「け……結婚……して……ください」
女性は驚いた表情をしていたのだが、全てを理解し納得したかのように優しく微笑むと返事をした。
「はい。喜んで、べんりさん」
そこで俺は気を失うのであった。
つづく。




