第三十六話 ドМメイドは幼馴染?①
「メイム様っ!」
パワビタンZで回復して意識を取り戻したメイドは、ガバっと上半身だけ起こしてメームちゃんの名を呼ぶ。
その表情は酷く狼狽しているようにも見えた。
「あ、あのぉ? 大丈夫ですか?」
恐る恐る話しかけると俺の存在に気付いたメイドさんは、少し警戒しながらもゆっくりと辺りを見回して、安全な状態であることを確認すると話し始めた。
「す、すみません。どうやら気を失っていたようですね。あなた方は?」
「俺はこのコンビニのオーナーをしているベンリー・コン・ビニエンスと言います。後ろの奴らはここの従業員です」
一応ローリンの名は伏せておく。もしもこの人も魔族だった場合、話がややこしくなりそうだからだ。
メイドさんは俺達に丁寧にお礼を言うと気を失う前のことを思い出したのか、慌てた様子で俺達に質問をしてきた。
「ここに先ほど、ビゲイニアと名乗るメガネが来たと思うのですが、あいつら何か話して行きましたか!?」
「え? ビゲイニアさんのことを知ってるんですか? あなたはいったい……」
「はっ! 申し遅れました! 私の名前はリ……」
そこまで言ってメイドさんの動きが止まる。なにやら視線は俺達を飛び越えた向こう側に行っているような……。
そしてメイドさんはぷるぷると震えだすと飛び上がって叫び声をあげた。
「きゃああああああああああっ! メイちゃあああああああああんっ! 私ですぅぅぅうううっ! リサですううううっ! 探しましたよぉぉぉぉおおうるあああああっ!!」
メイドさんは俺達を掻き分けて泣き叫びながら、そして涎を垂らしながらメームちゃんに飛びつこうとするのだが、その瞬間「ビビビッ!」と頬を張られてその場に倒れ込んだ。
更にメームちゃんはメイドさんを見下ろすと「ぺっ」と唾を吐きかけて俺の元に駆け寄ってくる。
うわぁ……なんだか知らないけど、うらやま……じゃなかった、酷い仕打ちだな。
メームちゃんが抱っこをせがむので俺は抱き上げると、なにやらほっぺたをぷくーっと膨らませてぷんすかぷん。大変ご立腹の様子である。
「べんり! めーむ、あいつきらいっ!」
「うむ。見ていてなんとなくそれは感じ取ったよ」
あんな仕打ちを受けながらもメイドさんは「これは愛情の裏返しこれは愛情の裏返しこれは愛情の裏返しこれは愛情の裏返し」と小さな声で繰り返し、なにやら頬も紅潮して嬉しそうにしているので、まーた変なのが来てしまったよと俺達はげんなりするのであった。
そんなこんなでこのメイドさんは、「リサさん」と言うらしく、メームちゃんのお世話係をしている者だと言っている。
「3日ほど前にメイちゃんの姿が見えなくなって、もしかしたら若返りが急激に進行して消えてなくなってしまったのかと気が気じゃありませんでした」
涙ながらに語るリサさん。
「私こう見えてメイちゃんとは幼馴染で、保育園の頃からずうっと一緒なんですよ」
「へ、へぇ……それは随分と長い付き合いですね」
メームちゃんって400歳だったよな? 保育園って何年前の話?
「その頃から私はメイちゃんの召使いとして身の回りのお世話をしていて……ぐへへ、メイちゃんが成長するにつれて、お着替えの時や入浴の時なんかはそれはもうあのわがままボディを嘗め回すように堪能できて、でゅふふふ、役得役得ぅぅぅぅううっ! ハッ……すみません、少々取り乱してしまいまして」
その瞬間メームちゃんがリサさんの顔にまた唾を吐きかけるのだが、リサさんは喜びを噛み殺したような表情でふるふると震えながら、それをハンカチで拭い丁寧に包んでビニール袋に入れていた。
やばい、こいつ確実に変態だ。レズでドMの超ド変態だ絶対。あのハンカチ持って帰ってなにをするつもりなんだっ!? 俺も欲しいっ!
このド変態を前にこの場に居る全員がドン引きした。
正直関わり合いになりたくなかったのだが、入って来た時に言っていたことがやはり気になる。極力深入りしないように必要なことだけ聞き出してとっととお引き取り願えと全員が俺に視線を送って来た。俺が聞くのかよ……。
「あ、あのぉ……ちょっとお聞きしたいことが」
「はいなんですかっ! メイちゃんのスリーサイズですかっ!?」
「それは俺も興味あります! ぬふぉおぅっ!」
その瞬間テーブルの下で脛を蹴られる俺、正面に居るのはローリンだからこいつだろう、革靴のつま先で思いっきり蹴りやがってぇぇぇぇ!
不思議そうな顔をしているリサさんに、俺は涙目になりながらもう一度聞き直す。
「い、いやあの……さっき言っていた。ビゲイニアさんのことを信じるなと言うのはどういう意味ですか?」
「はぅ、そうでした。それを誰かに伝えようと私はここまで来たのです、実は私聞いてしまったんです。四貴死の方々がメイムノーム様のお命を狙う算段をしているのをっ!」
なんだと? そんな馬鹿な。あの人達はメームちゃんを救ってくれって俺達に頼みに来たんだぞ。このメイドは一体なにを言っているんだ?
「はあ? またまたぁ。その逆ですよ。あの人達はメームちゃんのことを本気で心配して俺達に救いを求めに来たんですよ?」
「それが奴らの狙いなんですよっ! そうやってあなた方と一緒にメイムノーム様を手に掛けるつもりなんですっ!」
必死の形相で俺達に訴えかけてくるメイドであったが、正直そんなことを言われてもな。俺は少しかまをかけてみる。
「じゃあ逆に、あなたがメームちゃんの敵ではないという証拠はありますか?」
「は? はあっ!? なにを言っているのですか! 私はメイちゃんの幼馴染」
「ですから、そうであると証明できるのですかっ?」
少し強めの口調で言うと、リサさんは黙り込み俯いてしまった。
「で……できません……けれど、メイちゃんに聞いてみてくださいっ! 私は絶対にメイちゃんの敵なんかじゃないですよね? ねっ!」
皆がメームちゃんに視線を送ると、メームちゃんはゆっくりとメイドに向かって中指を立てるのであった。
つづく。




