第三十五話 魔王の娘と時の歯車③
「メイムノーム様のお身体はもう限界が近いのです」
ビゲイニアの言っていた言葉が俺の胸に突き刺さる。
メームちゃんの身体がもう限界だって……そう遠くない未来に命を散らしてしまうだなんて……。
「こんな運命の悪戯があるなんてね……神様だって予想できないわよこんなこと」
ソフィリーナのその言葉で店内には暗いムードが漂う。
「そうだな……まさかこんな……全部……全部てめえの所為じゃねええかあっ!」
「なっ!? なんでわたしの所為なのよ? イタタタ、ちょっと! こめかみグリグリするのやめてよおっ!」
「なにが運命の悪戯だぼけえっ! いい感じに誤魔化そうとしてんじゃねえよ。おめえらアホ女神達が酔った勢いでアホなことやったのが全ての原因だろうがっ!」
ソフィリーナは目を逸らしながら「チッ、覚えてたか」と呟いている。忘れるわけねえだろ、全部解決したら絶対にツケを払わしてやるから覚悟しとけよこの駄女神。
「それにしても、あのビゲイニアという男が言っていたことが本当だとしたら、どうやってこの歯車をメームさんの中から取り出せば良いのでしょうか」
ローリンがまじめな方向へ話を戻す。当の本人、メームちゃんは相変わらず俺の膝の上できょとんとしていた。
ビゲイニアの話を纏めるとこうだ。
メームちゃんは正真正銘魔王の娘で400年生きているらしい。とは言っても魔族は長寿なので人間の年齢に換算すると大体二十歳前後なんだとか。
そして今から15年前のある日、空から落ちてきた流星がメームちゃんの部屋に直撃したと言うのだ。
あわや命を落としかねない程の重傷を負ったのだが、医者達の懸命な治療により一命を取り留めたメームちゃんは、その日を境にどんどんと若返って行ったと言う。
おそらくは時の歯車の影響だと思うが魔族たちにはそれを知る由もない。日に日に幼くなっていく姿にこのままでは消えてしまうと、学者達はなんとかしようと様々な書物などを調べていたのだが原因はまるでわからなかった。
そんな折、別の問題が浮上する。メームちゃんの有り余る魔力が幼い身体を内側から壊してしまうと言うのだ。
今は魔王がその力を抑え込むための封印を施していると言うのだが、メームちゃんの感情が昂ぶったりした時など、一時的にその力が解放されてしまうことがあるらしい。獣王を倒した時なんかが正にそれだろう。
そしてこの約一年半の間に事態は動き出す。
聖騎士ローリンが現れると魔王城を破壊され住処と故郷を追われた魔族たちは、逃げるように謎のダンジョンへと移り住んだ。
しかし、そのダンジョン内では聞いたこともないようなチートアイテムを売っており冒険者達の助けになっているとか、そしてそのおかげでどんどんとダンジョンが攻略されていってしまっていると。
魔族やモンスター達は、またも人間たちに住処を追われることになるのではないかと戦々恐々する日々を送っていると言うのだ。
話を聞くにつれ、これではまるで人間の方が侵略者ではないかと思ってしまった。
開発の為に自然を破壊して、そこにいた獣達の住処を奪っていった現代人達とまるで変わらない。
……これって、そんなまじめなテーマの作品だったっけ?
まあそれはさておき、様々な情報を帝国中から集めていたビゲイニア達はある噂を耳にする。
【時の歯車】なるアイテムを探している男と自らを女神と名乗る女が居るという情報だ。
メームちゃんの胸に食い込んだ流星は歯車の形をしていたので、これではないかと気が付いたビゲイニア達はコンビニの様子を逐一観察していたらしい。
そしてネクロマンサーや三重死達がやられたのを機に、俺達が間違いなく女神の一行であると確信したビゲイニアは、俺達とコンタクトを取ろうとしていたところにメームちゃんが行方をくらまし、そして獣王が独断先行した為えらい慌てていたと言うのだ。
とにもかくにも、そうして俺達とコンタクトを取ることができたのだから結果オーライであろう。
「そういや、おまえは時の歯車を見つけてそれからどうするつもりだったんだよ」
俺はソフィリーナに問いかける。
「え? 見つければなんとかなるかなぁ、って思ってたんだけど」
「はあ? じゃあなんだ? 戻り方は知らないのかよ?」
「知ってたらとっくに戻ってるわよぉ」
へらへらと笑いながら手をパタパタと振るソフィリーナ、マジでこいつぶん殴ってやろうかな?
ついでに俺は前から疑問に思っていたことを聞いてみる。
「だいたい前から思ってたんだが、なんでおまえまで一緒にこっちに来てるんだよ?」
「そう言われればそうね。今まで考えてもみなかったわ」
駄目だこいつ……マジで駄目だこいつ。
駄女神の能天気っぷりに呆れ果ててなんだかもう涙がでる思いだよ。ローリンも額に手を当て俯き大きな溜息を吐いている。
そこで今まで黙って聞いていたぽっぴんが口を開く。
「さっきから皆さん、なにを話しているのですか?」
そういやぽっぴんにはなにも話していなかったな。ついでなので、俺達が異世界からやってきたことや、その原因が女神であるソフィリーナの所為であることなど、全て説明しておいた。
話を聞き終えるとぽっぴんは顎に手を当てながら、ふむふむと二回ほど頷いて言う。
「皆さん……厨二病なんですか? 妄想もほどほどにしてください」
はい信じてませんねこの人。まあ別に信じてくれなくてもいいけど、なんかすんげー憐れむような目で見られてるからムカつくんですけどぉぉおおおっ! て言うか厨二病ってこっちの世界にもあるの? だったらおまえは今まさにその年齢じゃねえかよ。
もう突っ込むのもめんどくさいな。それにしてもこれからどうすればいいのか皆で悩んでいると、突然誰かが店に飛び込んできた。
「あ、もう閉店してますんでまた明日来てくれませんか?」
俺は椅子から立ち上がりその人物に近づいて行くと、メイドの様な恰好をした女の人であった。
しかし、よく見ると頭から血を流している。いや、頭どころか全身傷だらけじゃないか。
「だ、大丈夫ですかっ! なにかあったんですか?」
「や、奴らをっ! ビゲイニア達の言う事を信じてはいけませんっ!」
メイドはそう叫ぶとその場で気を失ってしまった。
つづく。




