第三十四話 魔王の娘と時の歯車②
メイムノーム・リゲリア・フォン・デュ・ユーフィリア。
この長ったらしい名前がメームちゃんの本名らしい。
そしてメームちゃんは魔王の実の娘だと、目の前にいる眼鏡のイケメン魔族ビゲイニアが言っている。
にわかには信じ難いが獣王を倒した時のあの姿と戦いぶり、そしてソフィリーナが言っていた。
自分達と同レベルの魔力を感じたと……。
俺は柴犬の尻尾を引っ張って遊んでいるメームちゃんの姿を見ながら自嘲気味に笑う。
「フッ……つまり魔王の娘の婚約者である俺は、次期魔王候補ってわけか」
「いや、それはないです。人間風情が調子になるなよ、ぶっ殺しちゃうよ?」
さらっと酷いことを言うビゲイニア。口調も違うしなんか怖いよ。やっぱり魔族なんてそんなもんかちきしょう。
「そういや。聞きたかったんだけど」
「なんでしょう?」
「このおでこの紋章、これってなに?」
俺が前髪を上げておでこを見せると、ビゲイニア、破壊王、呪術王の三人はまたも驚き焦りの表情を見せる。ビゲイニアなんて目ん玉が飛び出して眼鏡のレンズ突き破ってるよ。まあ嘘だけど。
「そ……それは、婚約の儀を終えた者に浮かび上がる刻印。な……なぜ、おまえが?」
ん? 婚約の儀? どういうことだ? あー、これってつまり。
「つまりあれか……仮契約って言ってたから、婚姻届にハンコ押した状態って解釈でいいのか? そして今から証人として親のハンコを貰いに行くと」
「ま……まあそんな感じでしょうか」
落ち着け大神官、ずり落ちた眼鏡を直す手が震えているぞ。
そんな感じでいると見かねたローリンが横槍を入れてくる。
「人間のことを嫌っている魔族のあなた方が……いえ、私のことを忌み嫌っている魔族が敢えてお願いしたいこととは一体なんでしょうか?」
その問いにビゲイニアは苦々しい顔をしてローリンを睨み付けるも、すぐに自制して落ち着きを取り戻す。
「確かに、あなたに舐めさせられた苦汁は今でも忘れてません。ですが、事はそんな体裁に拘っている状況ではないのです」
「どういうことですか?」
「メイムノーム様のお命が危ない……そう言ったら、願いを聞き届けて頂けますか?」
なんて、嫌な奴なんだ。
野郎、手札は隠しつつ最強の切り札をいきなり切ってきやがった。
お願いの内容にもよると言いたいところだが、メームちゃんの命がかかっているなんて言われて放っておけるわけがない。
もちろん相手のブラフの可能性もあるし、出会って間もないメームちゃんの為に魔族の願いを聞く必要なんてないのかもしれない。
しかし、こんな超絶可愛いロリっ娘魔族を助けてと言われて、断ることのできるロリコン紳士などこの世にいるわけがないじゃないかっ! ずるいぞ眼鏡っ!
「いいだろう……ただし、おまえらの願いを聞くかどうかは話を聞いてからだ」
「ほぉ? それはつまり、内容次第では断ることもあると?」
「当然だ。もしそれが、俺の仲間達が危険に曝されるような内容であれば断る。その上で俺のやり方でメームちゃんを助けることにするっ!」
これが俺の精一杯の返答だ。全て俺には関係ないと突っぱねることもできたが、それができないからこその人間ってもんだ。
「いいでしょう。まあ、あれを見ればあなた方は絶対に断れないと思いますけどね」
「なんだと?」
怪訝に思っているとビゲイニアが破壊王に目配せをした。すると筋骨隆々の破壊王はメームちゃんの足を掴み軽々と逆さに吊り上げる。
「いやあっ!」
メームちゃんが声を上げ、柴犬も破壊王に向かってわんわんと吠える。
「きさま一体なにをっ!」
ローリンが剣の柄に手をかけるとビゲイニアはそれを制止した。
「動くなっ! 危害は加えません、黙って見ていてください」
次に呪術王に目配せすると、フードマントを被ったガリガリのオタクみたいな奴がメームちゃんの胸の前に両手を翳してなにやらぶつぶつと言い始める。真後ろから見ているとおっぱいを撫でまわしているみたいで思いっきり変態チックだぞこのキモオタ。
そして呪術王が手を止めるとメームちゃんの胸の中心が光り輝き始めた。
「な……なんだ一体!? おまえらメームちゃんになにをしたんだっ!」
「いいえ。我々がしたのではありません。これが、我々があなた方にお願いしたいこと! メイムノーム様の体内に入り込み、呪いの様に浸食していくこの異物を取り除いて頂きたいのですっ!」
それを見てソフィリーナが驚きの声を上げた。
「そ、そんな……うそ……どうしてそんな所に」
「な、なんだ? どうしたんだソフィリーナ?」
「べんりくん、ローリン……ごめん。これは思っていた以上に最悪の状況かもしれない」
ソフィリーナはそっと目を伏せ大きく溜息を吐くと、覚悟を決めたように目を見開きメームちゃんを見つめる。
そして何時になく神妙な面持ちで俺達に告げた。
「今、時の歯車が見つかったわ……」
メームちゃんの胸に食い込むように浮かび上がった歯車のようなそれは、虹色の輝きを放つのであった。
つづく。




