第二十四話 秘密の第五皇女様⑨
「ろぉぉぉぉりぃぃぃいいいん。あぁぁん、あぁぁん」
ローリンの声を聞くと安堵したのか、わんわん泣き出す女騎士様。
「姫殿下、御無事ですかっ!? すぐにお助けいたしますっ!」
姫殿下? 随分と御大層な呼び方をされているけれど、この人そんなに偉い人なのかな? まあ騎士なんてやってるくらいだから貴族ではあるんだろうけど。
助けて貰いたいのは山々だが最優先事項は別にある。俺の無罪を証明する為、真犯人が逃げてしまう前に身柄を確保してもらわなければならない。
「そ、それよりもローリン! ヌココビーンだ! 奴を捕えるのが先だっ!」
「心配いりませんよべんりくん。ダンジョンの出口はすべて帝国兵が固めています。奴はもう袋の鼠です」
そうか、それはよかった。だったら一刻も早くここから出してもらおうと思うのだが、ローリンはどうやってこの土砂を取り除くつもりなのだろうか?
屈強な男達を連れてきても、これだけの量を掘って岩を砕いて外に運び出すなんて一両日で終わるとは思えない。
「それでは早速、今度こそこの私の爆裂まほ」
「ローリン! 今すぐそいつの口をふさげっ! 絶対になにもさせるんじゃねえっ!!」
ぽっぴんの張り切った声が聞こえてきたがそれを全力で阻止するように指示を出す。元はと言えばあいつの魔法でこんなことになったんだ。絶対に碌なことにならないのは目に見えている。
そう思っていると、ローリンの神妙な声が聞こえてきた。
「姫殿下……聖剣を使おうと思います」
え? 正拳? いやいや、いくらローリンでもパンチでこれだけの量の岩は砕けないでしょう?
ローリンのその言葉に女騎士も神妙な面持ちになる。なんか凄いことをやろうとしているのだろうか?
「な、なんですか?」
「我がレギンス家に代々伝わる聖剣、エクスカリボーンを使うと彼女は言っている」
んん~? なんですかそのパチモンみたいなネーミングの剣は? 大丈夫なんですかそれえ?
「本来であればレギンスの血を引くものでなければ扱うどころか、引き抜くことさえできない聖剣を、一年前彼女は偶然にも手にしてしまった。それ以来、彼女の戦場に於ける功績は目覚ましく、エクスカリボーンの能力を最大限に引き出せる彼女は、半年前の攻城戦で魔王城を吹き飛ばし、見事帝国軍を勝利へと導いたのだ」
わーい! なにその経歴~。 すごーい!
あいつマジでやばいな。あっちの世界でJKに戻るよりも、このままこっちの世界で英雄として生きていった方がいいんじゃねえの? ……いや待て、そんなことより……。
「もしかして……あいつの所為で魔王は引っ越しを余儀なくされたんじゃないですか?」
「!? そ、そう言われれば……そうかも?」
俺と女騎士様が驚愕の事実に気が付いている所にローリンが再び声をかけてくる。
「それでは行きますよっ! 強い衝撃波が襲いますけど、後でパワビタンZを飲ませてあげますから我慢してくださいねっ!」
「ちょっ! 待て待て待て待て! いくらなんでも城を吹き飛ばす一撃を喰らったら死んじまうだろうが! 別の方法を考えて」
「そんな時間はありません!」
え? なんで?
「べんりくん、これは硫黄臭です。つまり、そこから出ているガスは硫化水素です。広く開けている場所なら濃度もそれほど高くなく身体への影響は少なかったかもしれませんが、今こうやって密閉されている状態ではいずれ濃度も高くなり中毒死する恐れがあります!」
硫黄臭? そういやなんか、その臭いを感じなくなっているような? まさかっ!? 少しずつだが中毒状態に陥ってきているのか?
「あ、あわわわわわわわ、ど、どどど、どうしようローリンっ! ど、どどど童貞のまま死にたくないよぉぉぉおおおおっ!」
本当の死に直面したことに俺が慌てふためいていると、女騎士様が俺の前に立ち両手を広げて叫んだ。
「やってくれローリンっ! ベンリー殿は私がこの身を盾にして必ず守ってみせるっ!」
「姫殿下なにをっ!?」
「ちがうっ! 今の私はレギンス帝国第一近衛騎士団団長、ジュリア・レギンスだっ! やれっ! ローリンっ!」
「なんだったらこの私の最大最強の攻撃魔法で吹き飛ばしてもいいんですよっ!?」
馬鹿賢者! てめえは黙ってろっ!
「わかりました。騎士ジュリア。あなたのノブレスオブリージュ、聖騎士ジェイ・ケイ・ローリンが確かに受け取りましたっ! いきますっ! エクスっ! カリボーーーーーーーンっ!!」
あああああ! その名称と能力なんだかモヤモヤするぅぅぅぅうううっ!
そうして二人、眩い光に包まれたところで俺の意識は薄れてゆくのであった。
明り取りから見える空はとても青かった。今日は晴天なのだろう。判決を待つ身としては清々しい日とは言い難いが、それでも幾分かは晴れた気持ちになれた。
「ベンリー・コン・ビニエンス。出なさい」
守衛に促されて部屋を出ると、俺は裁判室へと歩く。これから判決を下されるってのに妙に落ち着いた気持ちなのはなぜなのだろうか。約1か月間に及ぶ勾留期間で、俺は悟りの領域にまで達したのかもしれない。いつでも賢者タイムに突入できるくらいには自分の中の邪念を振り払えたと思うよ。
被告人席に着くといつもと変わらない三人の裁判官。傍聴席には店のお客さん。ソフィリーナとぽっぴんはなんか丸めた紙を持ってウズウズしてるけど、絶対に「不当判決」って書いてある紙だろあれ。
そして、俺の弁護人席には正装をしているローリンがいた。
「うおっほん。それでは、これより判決を下す」
俺が緊張した面持ちでいると、真ん中の小太りの裁判官のおっさんが俺に目配せして、咳払いしながらちょっと意地悪な調子で言う。
「んんっ! まあ……一応形式上必要と言うだけなのでそんなに緊張しなくともよい。それと、今回は特別裁判員の方に来ていただいている」
はあ? なんで判決の日だけ裁判員なんて来るんだよ? 聞いてねえよそんなの? そんなのありかよっ!
裁判官のその発言に皆が訝しむのだが、法廷の後ろの扉から入って来た人物を見て全員が息を飲んだ。
「って……騎士団長じゃんっ!」
俺が突っ込みを入れるとローリンが俺の頭を押さえつけてその場に膝を突くように言う。
「な、なんだよローリン?」
「しっ! べんりくん。まだ気がついてないんですか?」
「なにがだよ?」
俺が不思議そうな顔をしていると、大きな溜息を吐いて呆れ顔でローリンが言う。
「はぁぁぁぁぁ。信じられません……帝国の名前と彼女の名前。普通ここで誰でもピンとくると思うんですけど」
え? 帝国の……名前……えっ!?
「皆、面を上げよっ!」
女騎士がそう言うと全員が膝を突いたまま顔を上げる。
「裁判長。この法廷に於いてはそなたが最高権威者である。それは皇女である私であっても例外ではない」
「はっ! はあ……皇女殿下しかし」
「構わないと言っている」
そう言われると裁判長はすごすごと一番高い位置に座り判決文を読みあげた。
「判決。ベンリー・コン・ビニエンス。帝国内に於ける無断での商売はこれを有罪とし、執行猶予付きの懲役刑三年並びに金貨1000枚の罰金刑と処す。ダンジョン地下に於ける爆発炎上事件については無罪。この事件に関しては、魔王軍の配下の討伐及び、不当に虐げられていた臣民の解放に貢献したことにより、この場で皇女殿下直々に勲章を授けることとするっ!」
その瞬間歓声が上がる。ソフィリーナとぽっぴんも諸手を上げて喜び、その手には「勝訴」と書かれた紙が持たれていた。
大団円の結末にいつまでも沸き立つ法廷内。おっさんが「静粛にっ! 静粛にっ!」と叫びながらあのハンマープライスみたいのを叩きつけてるけど、しまいには放り出して呆れ顔で拍手してるのがなんか笑えたよ。
俺が皇女殿下の前に跪いて見上げると裁判長が「無礼者っ!」と怒るのだが、それを笑顔で窘める皇女様。
「ベンリー・コン・ビニエンス。そなたの帝国への貢献に対して、レギンス帝国第五皇女、オルデ・リミーナ・ジュリア・ファン・レギンスより。名誉勲章を授ける」
長かった俺の法廷での戦いはこうして終わりを迎え、見事無罪放免となるのであった。




