第二十一話 秘密の第五皇女様⑥
現場に着くと俺はあの日にあった事を順を追って説明した。
「なるほど、事の始まりはポプラ・スウィート・ミント女史が店の前で行き倒れていたのをきさまが助けたと」
「そうですよ。何度も説明しましたけどね」
「その見返りとしてきさまは……きさまはっ! か、かかか身体を求めたと言うのだなっ!」
だからなんでそうなるんだよ。この女騎士様ひょっとして馬鹿なのかな? それともなんかそういう凌辱願望でもあるの?
このやりとりは取調べの際に腐るほどやっているので、俺は女騎士の反応を華麗にスルーして話を進める。
「そんでぽっぴんが持っていた杖を落としたって言うから、ローリンと三人でここまで探しに来たんです」
「そこが引っ掛かるのだ。なぜきさまは見ず知らずのポプラ女史の為にそこまでしてあげたのだ」
「だから特に理由はないですって、ローリンも居たしまあ杖見つけてすぐ帰ればいいと思ったんですよ」
女騎士は「ふむ」と頷いて、なにか言いたそうにこちらをチラチラ見ている。実を言うと取り調べの時からそうだったのだが、ローリンの話を出すといつもこういう反応をするのだ。
ローリンに対して含むところでもあるのだろうか? 近衛騎士団長と聖騎士、なにかしらの因縁があるのかもしれないと、俺は意を決して聞いてみる。
「あのぉ? ローリンと知り合いなんですか?」
「んなあっ!? なにを藪から棒にっ!」
「いや、なんかローリンのことを気にしているみたいなんで」
「そ、そそそ、そんなことはないぞっ! も、もちろん、帝国随一の剣の使い手である聖騎士だからな。知っていることは知っているのだが、べ、べべべ、べつに個人的に彼女に対して何かしらの感情を持ち合わせるなんてことはこれっぽちもないからなっ!」
うわぁ……こんなに誤魔化すのが下手な人初めて見たぁ……。
顔を真っ赤にしながら慌てた様子で答える女騎士様、なんだかだんだんかわいく見えてきましたよ、ほんと。
それにしても……ここまでヌココビーンはまったく動く気配を見せていない。一体なにを考えているのか?
そう思い奴の方を俺は横目で見るのだが、なにやら兵士の一人と話しているだけで特に変わった様子もない。
これはもしかしたら俺の早とちりだったかもしれない。もう裁判は始まっているのだし、わざわざこんな所で今更足が付くかもしれない真似をする必要なんてないもんな。このまま俺の心配が杞憂に終わればいいとも思うのだが、それでは俺の反撃の切欠が生まれない可能性もある。
できれば今回の実況見分で無実を証明できるような、なにか証拠を見つけることができればいいのだが……。
そこまで考えて俺はあることに思いを巡らせる。
そもそもなんで俺は罪に問われているんだ?
ダンジョン内で勝手に商売をしていたことだって、ここは魔王の根城なんだから帝国領土じゃないんじゃね? まあそれはいいや。
それよりも意味がわからないのは、「爆発炎上事件」ってなんだよ? なんの法律に引っ掛かったんだ? 消防法か? そもそもあの爆発によって出た被害と言う被害なんてほとんど無いに等しい。
まず被害者がいない。だってあの場には俺とローリンとポッピンと屍人達、そしてネクロマンサー尾崎と三重死以外には誰もいなかったんだから。
被害があるとすれば爆発によって16階層の一部分が崩落したくらいで、それだって別に誰かが巻き込まれたわけでもないし。
だったらなんで爆発を起こしたぽっぴん自体にはなにもなく俺だけが逮捕されるのか。まったくもって意味不明だ。
じゃあ、俺をここに連れてきた意味は? ここで実況見分なんてやる意味はなんだ?
そもそも女騎士団長様が確認しているのは俺が全て取り調べの時に話したことばかり。まあそれの裏取りの意味もあるかもしれないけれど、それを今更やる意味は?
考えろ、考えるんだ俺。ヌココビーンは俺をここに連れ出してなにをやろうとしている……俺がここに来ることによってなにが起きるんだ?
俺はヌココビーンがなにかおかしな動きをしていないかともう一度奴の様子を注意深く窺う。
ん? あいつなんか今、女騎士のことをじっと睨んでいたような?
そんな俺の視線に気づいたのか。ヌココビーンはすぐに女騎士から視線を外すとニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながら言う。
「レギンス団長殿。この奥、まさに爆発があった場所はまだ危険な個所もありますゆえ、まず先に兵士を二人偵察に行かせてからの方が良いかと」
「う、うむ。それもそうだな」
するとなぜかヌココビーンが二人に「おいっ!」と指示を出す。兵士はその指示に従っていそいそとダンジョンの奥へと先に入って行った。
しばらくすると二人が戻ってきて安全が確認できたことをヌココビーンに報告する。
「どうやら大丈夫のようですね。それでは、その被疑者に犯行現場へと案内してもらいましょう」
そう言って俺を先頭にその後ろを腰縄を持った女騎士団長。そしてヌココビーン、兵士の順に進むのだが……。
「やっぱまだ硫黄の臭いがキツイな。これ以上は中毒を起こす可能性もあるからやっぱ危ないですよ」
俺が振り返るとそこには女騎士の姿だけしかなかった。
「あれ? 騎士団長さん。ヌココビーン氏と兵士は?」
「ん? 私の後ろをついてきていたのではないのか?」
女騎士も振り返るのだが、三人の姿が見当たらないことに動揺しているように見える。
おかしい、こんな一本道ではぐれるなんてことがあるだろうか? ヌココビーンの奴いったい……まさかっ!
「まずいですっ! すぐに引き返しましょうっ!」
「え? な、なんだ急にっ!? どうしたと言うのだ? それよりもはぐれた三人を探して合流した方が良いのではないか?」
「いいから早くっ!」
俺が叫んだ瞬間、進んできた道の向こうで閃光。直後耳を劈く爆音が響くと、轟音と共に大量の土砂と岩が降り注いできた。
つづく。




