SAME転生
目が覚めると、何もない真っ白な空間に居た。
空間の端が全く見えず、どれくらい広いのか見当もつかない。
「……」
……ここは何処だ?
最後の記憶は……あぁ、そうだ。
死刑が執行されたんだよな。
って事は、ここは地獄か。
「お疲れ様です、鮫島海斗さん」
「誰ッ!?」
咄嗟に声のした方向を見る。
すると、そこには白い翼の生えた何者かが居た。
白く薄いローブを身に纏う赤髪の女性。
見るからに高貴な身分である事が分かる。
「わたくしの名前はヴィクトリア。今回、貴方の転生女神を務めさせていただきます」
「……転生女神?」
「えぇ、そうです」
ヴィクトリアと名乗った赤髪の女性は、何処からともなく木製の机と椅子を出現させた。
そして、ふわりと座ると机の上にある種類を手に取る。
一読。
「なるほど。これは地獄行きですね」
「……そうですよね」
「が、しかし……情状酌量の余地がないわけでなありませんね」
「……」
ヴィクトリアは手に持っていた書類を机の上に置く。
ルビーの様に美しい赤瞳がこちらを見る。
「さて、貴方には2つの選択肢があります。1つ――このまま地獄へと行き贖罪。2つ――異世界に転生し第2の生を得るか」
「え、転生ですか?」
「えぇ、そうです」
雲の様にフワフワとした床から1枚のホワイトボードが出現した。
ホワイトボードには何かを統計した折れ線グラフと棒グラフがあった。
「この世に存在できる魂の総数は予め決まっています。このグラフを見て分かるとは思いますが、世界によって出生率と死亡率に偏りが存在しているんですよね」
グラフ上にそれぞれの世界をイメージしたアニメーションのようなもの動き始めた。
天国のように平和な世界、地獄のように死体がそこら中に落ちている世界と様々だ。
ヴィクトリアは少しうんざりとした表情を見せながらホワイトボードを指で叩く。
「生物って死ぬのは簡単なのに、生まれるのには時間がかかるんですよね」
「え、でも……人口は増え続けてるって聞きましたけど」
「貴方の世界のように比較的平和な世界はそうなります。ただ、他の世界はそうではありません」
最近の日本は死亡率の方が高いらしいけど……そういう社会問題的な話ではないよな。
戦時中でも死亡率が出生率を上回る事は無かったらしいし、つまりは……世界大戦以上にヤバイ極端な何かが起きてる世界もあるってことか。
……いや待て、転生先の世界ってもしかして――――
「あのもしかして……」
「えぇ、そうです。このままでは輪廻が間に合わず“あの世”がパンクしてしまうので、貴方には転生して欲しいんですよね」
「で、でも……そんな危険な世界にただの非力なサラリーマンが転生したところで意味がないのでは?」
「そこで【チートスキル】です」
目の前に幾つかのカードが出現した。
ふわふわと浮くカードには【時間停止】【空間断裂】【無敵】など色々と記載されていた。
「……これは」
「貴方にはこの中から1つ【チートスキル】を選んで転生してもらいます。これらの異能を与える目的は1つ――――“世界平和”を実現してもらいます」
「俺にそんな大役を務められるとは思いませんが……それに、自分の他にこういった【チートスキル】を持った人が何人も居るのなら寧ろ荒れそうでは?」
「人選は慎重に行っています。女神の審判には嘘が通用しませんからね」
女神の審判……さっきの書類に色々と個人情報が書かれていたのか。
「ならもっと性格の良い善人の方が……」
「場合によっては殺しの選択肢を取れる人がいいんですよ。根っからの悪人ではなく、それでいて目的の為なら容赦なく邪魔者を始末出来る行動力。貴方は丁度その条件を満たしているんですよね」
「それは……」
「どうしますか?」
女神ヴィクトリアは真っすぐにこちらを見ていた。
その射抜くような視線からは逃げられる気がしないように思った。
「……分かりました。でも、期待しないでくださいね?」
「貴方ならそう言ってくれると思っていました。では――――スキルの選択をどうぞ」
浮遊するカードを1枚1枚手に取って確認してみる。
……見る限り、漫画とかのラスボスが持っていそうなヤバイ能力ばっかりだ。
そもそも、世界平和の実現が目的なのにこんな殺傷力のある能力が必要なのか?
精神支配だとか、記憶操作とかの方がいいか?……ん?
すると、【SAME】と書かれたカードが目に入った。
……【SAME】? サメになれる能力とかか?
いやいやいや、そんなふざけた能力で世界平和なんて無理だろ……いや待て――――果たして、そんなふざけた能力をこの場にわざわざ用意するか?
「……まさか」
「決まりましたか?」
「はい」
【SAME】と書かれたカードを手に取る。
「サメになります」
「……? 鮫が良いのですか?」
「はい。サメです」
「……分かりました。貴方のイメージに則った鮫にしておきます」
「ありがとうございます」
すると、全身を光る粒子が包み始めた。
「貴方がこれから転生するのは――――願いを1つ叶える『聖杯』。それを求めて争い合っている世界になります」
「『聖杯』ですか……」
「えぇ。かつて別の転生者が偶然に造ってしまった世界のバグのようなものらしいです」
「壊した方がいいですか?」
「できれば。ただ、わたくしは『聖杯』が具体的に何なのか分かりません。見た目はおろか、その存在を認知する事すらできません」
「え、それは……実はそんなものなど無かったってオチじゃ」
「いいえ、あります。前任の女神が『ある』と仰っていました」
「その前任の女神様は今どこに?」
「過労で死にました」
えぇ……。
「という事で、わたくしは次の死者の魂を処理しなくてはいけないのでこの辺で」
「あ、あの!」
「どうかしましたか?」
女神ヴィクトリアはキョトンとした顔でコチラを見ている。
「……死ぬくらいならバックレてくださいね?」
「……ふふ、分かりました。そうしますね」
女神ヴィクトリアがニッコリと笑うと、意識がブラックアウトした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
温かい風が鼻をくすぐる。
木々が擦れる音が聞こえてくる。
「……ん…………」
ゆっくりと瞼を開ける。
すると、目の間には巨大なリスが居た。
リスは腹部から血を流していており、相当な傷を負っているのが分かる。
「……え、リス?」
「なんだ? 馴れ馴れしいなお前」
「ふぁっ!?」
ビックリして反射的に体がのけ反る。
そしてそれと同時に、強烈な違和感を覚えた。
「あれ、立てな……い――――あっ……」
立つ事ができず、胸ヒレがペチペチとしているのが見えた。
そう胸ヒレがペチペチしているのだ。
「そうか……俺はサメになったんだっけ」
「何をこえー顔でブツブツ1人で喋ってんだお前」
「あ、いやすみません……って何でリスと会話できてるんだッ!?」
「何言ってんだ?」
「あ、すみません」
「俺の名前はドランだ。それと、ただのリスじゃねーぞ――――リス将軍だ」
「……将軍?」
「そうだ」
すると、木々の奥から強烈な熱風が襲い掛かる。
そしてそれと同時に複数の悲鳴が聞こえて来た。
「なんだッ!?」
「しっ、あまりデカい声で喋るな……奴らにバレる」
神妙な面持ちでドランは木々の奥を見る。
ドランの緊張が伝わってきたのか、こちらまで体が硬直してしまう。
「……行ったか」
「あ、あの……ここで一体何が起きてるんですか?」
「なんだやはり避難民じゃないのか」
「違います。気が付いた時にはここにいて……」
「もしや、お前……転生者か?」
「……」
なんて答えて良いのか分からず黙っていると、リスのドランは困ったような表情を見せた。
どうやら何を話すべきかを悩んでいるようだ。
そして、数秒の沈黙のあと口を開いた。
「今現在、『鉄血豪鬼』が『動物楽園』に対して侵略戦争を仕掛けている最中だ。そしてここは『動物楽園』最東端の街『日光』だ」
「日光……」
「俺は日光防衛軍の将軍なのだが……」
ドランは自身の腹部に視線を落とす。
ドクドクと絶えず血が溢れ出ており、かなりの致命傷である事が分かる。
「この傷で戦闘の継続が難しくてな」
「……なるほど」
「ところでお前の名前は何て言う?」
「鮫島です」
「変な名前だな」
「日本では結構普通の名前ですけどね」
「……日本? 聞いたことない地名だな」
そう言うと、ドランは地面に腰を落とし座った。
「サメジマ、折り入って頼みがある」
「……頼みですか?」
「あぁ、『日光』を救ってはくれないか?」
「……そんないきなり」
ドランはこちらの目を真っ直ぐに見て来た。
そこには鬼気迫るものがあった。
「5000年程前、この世界に『転生者』と呼ばれる絶大な力を持つ何者かが唐突に現れた。かのもは海を割り、天を穿ち、荒れ狂う神話の時代を終わらせ、今の世界を創ったとされている」
ドランは額を地面につけるように頭を下げた。
「サメジマ、君ならこの国を救えるかもしれない」
「……」
「頼むサメジマ……」
どうする?
協力してもいいんじゃないか?
元々の目的が世界平和な訳だから最悪――――『動物楽園』以外を全部滅ぼせばいいだけだよな。
ネクタイを締めろ鮫島海斗。
今度こそは――――選択を間違えるな。
「分かりました」
「本当か!?」
「はい。ただ、私はここに来たばかりで何も知識がない状態なので、無事に争いを退けられたあかつきには色々と手助けをしていただきたい」
「無論だ」
「契約は成立です」
ドランは安心した表情を見せる。
握手をしようとヒレを伸ばしてみたが短すぎてできなかった。
気を使ってドランが右ヒレを手で持ちそれっぽい事をしてくれる。
……さてと、啖呵を切ったのはいいけど、これどうやって動けばいいんだ?
動こうとしてもヒレがペチペチするだけだし……いや、待て。チートスキル【SAME】を使えばもしや。
するとその時、上空を巨大な竜が横切るのが見えた。
「……そうだ、サメなら“飛翔”くらいできるよなッ!」
頭の中に自身が飛んでいる姿を想像する。
すると、風船のように体がふわりと浮いた。
いけたッ!
「ドランさん! 敵と味方の見た目を教えてください!」
「敵は紋章の付いた装備を着ていてる、味方はケモ耳が生えているからすぐ分かる」
「了解しました! あとコレ使ってください!」
念の為、『止血用の湿布』を想像しその場に置いておく。
サメはコラーゲンたっぷりと聞くしそれくらい出せるだろ。
木々を抜けるように垂直方向に急浮上し、街の全体像を確認する。
燃え盛るレンガの建物群と、逃げ惑うケモ耳の生えた人間に近い容姿をした者達。
そして、その後を追いかけているのはフィクション上のオーガに似た容姿の怪物で、全身には鉄製と思しき装備を身に纏っていた。
文明レベルは中世ヨーロッパに近いか。
ってか、さっきのリス将軍と似た容姿をしているのかと思ったけど、滅茶苦茶に亜人だな。
リス将軍はまた別の種族なのかな?
すると、凶刃を振り上げられ今にも斬り殺されそうになっている獣人が視界に映った。
「ヤバイッ!」
なにか遠距離攻撃は――――そうだッ!
即座に『スナイパーライフル』を想像する。
すると、背中にずっしりと何かが乗っかる感覚があった。
「サメなら“狙撃”くらいできるよなァ!」
狙撃をイメージしたその瞬間、耳をつんざくような甲高い音を響かせると飛翔体が前方へと撃ち込まれた。
そして、オーガの頭が吹き飛んだ。
「よし! 当たった!」
今しがた救われた獣人の娘が怯えた表情でキョロキョロと辺りを見渡していた。
そして、こちらの存在に気が付いたのか手を挙げて感謝の意を示してきた。
右ヒレを左右に動かし反応を返す。
胸の奥で熱い何かが燃えるのを感じる。
……誰かに感謝されたのはいつぶりだろう。
いや、今は感傷に浸っている場合じゃない。
先方と契約を交わした以上は、仕事はしっかりと遂行せねば。
背中に四角い大きな箱が出現する。
パカッと蓋が開くと『追尾型多弾頭ミサイル』が姿を見せた。
「さてと――――掃討戦を開始しますか」




