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凡人冒険者カゲルの日常系ダンジョン冒険日記 〜通りすがりのスゴイ人たち〜  作者: 二天堂 昔


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第7話『デビルボアはこう倒す』


焚き火の火が、ぱち、と鳴った。

その音に紛れて――「ドン」と、地面の奥が一回だけ鳴る。


「……え?」

俺が顔を上げた瞬間、暗がりの通路の向こうで、空気が裂けた。

石畳を砕く音。瓦礫が跳ねる音。鼻に突き刺さる、獣の臭い。

そして、巨体。

黒い剛毛、岩みたいな肩、赤い目、太すぎる牙。

「デ……デビルボア……ッ!!」


危険度A。上位種。第二層にいるわけがないやつ。

――なのに、いる。

しかも。

「ブゥゥゥウウウウッ!!」

視線が、俺に刺さった。

「いやいやいや!なんで俺にロックオンしてんだよ!!」

その瞬間だった。

ケルちゃんが、ぴくり、と耳を動かす。

三つの首が同時に鼻先を地面すれすれになぞる。

「クゥ……」低い唸り。警告。いや、命令に近い。

次の瞬間――ケルちゃんが、「ヴォン!!」と吠えた。


「ちょ、ケルちゃん!?そんな声出せたの!?」

俺の叫びが終わると同時にデビルボアの突進。

「ゴォオオオオオ!!」

地面が波打つ。風圧が顔を殴る。

俺は反射で逃げた。逃げながら叫ぶ。

「ちょっと待て!!こっちは休憩中だったんだよ!!」

その横で、にすけが焚き火から目を離さず、平然と言う。


「動物に好かれるのは才能だぜ」

「今それ言う!?才能の使いどころが命の危機なんだけど!?」


――ドンッ!!

その瞬間、ケルちゃんが前に出た。

三つの首が広がり、体の周りに蒼い炎が「ボワッ」と立ち上がる。

「ワン!」「ワン!」「ワン!!」

吠え声が、空間を“押す”。

そして蒼い炎の弾がデビルボアへ向かう。


ズドボァアアーーン...!!


全弾命中。突進の狙いが横にズレる。

そのズレた一拍で、武蔵がすっと前へ出た。

二本の木刀を交差させる。裸足の指が石畳を掴むみたいに食い込んだ。


「来い」


デビルボアの突進が、武蔵へ――いや、武蔵の後ろの俺へ向かう。

「だから俺を狙うなぁぁ!!」

――ドンッ!!

木刀と牙がぶつかった。


普通なら、吹き飛ぶ。木刀が折れる。人が割れる。

だが武蔵は、ぴくりとも揺れない。

突進の勢いが、そこで「止まる」。

止まる、というより……相殺された。

デビルボアが、動けない。

「……マジで? あの勢いが“停止”してるんだけど!?」


武蔵の肩越しに、にすけの声。

「壁に流せ」

武蔵が半歩だけ体を捻る。

デビルボアの体が、信じられない角度で“受け流され”、壁へ――

「ゴガァン!!」

蒼黒い壁に激突。瓦礫が落ち、粉塵が舞う。


……終わった?

そう思った、次の瞬間。

「ブゥゥゥウウウ!!」

立ち上がった。赤い目で、再び俺を睨む。

「しつこい!!俺、何かした!?顔か!?顔がムカつくのか!?凡人顔だからか!?」


ケルちゃんが、俺の横に回り込んでくる。

三つ首のうち一つが俺の背中を「ぐいっ」と鼻先で押した。

「え、押すな押すな!俺を逃がそうとしてる!?優しい!?いや今それどころじゃ――」

残り二つの首が通路側へ向き、低く唸り続ける。

視線はずっとデビルボア。逃がす、止める、守る、全部やる顔。


にすけが、今度は焚き火から視線を上げた。

「フィリーネ。貫通力最大の矢で前脚を狙え」

フィリーネはすでに弓を構えてる。空気の刃みたいな風矢を、二本。


「そうくると思ってたわよ」


……仕事が早い。怖い。


デビルボア、二回目の突進。

俺はもう避けるしかないと思って走る。

「助けてえええ!!」

――が、その前に。

ケルちゃんが、俺の進路の横へ滑り込む。

蒼炎が「ボワッ」と膨らみ、熱の壁みたいになる。

「ワフッ!」

短い鳴き声。

デビルボアの鼻先が、その熱に一瞬ひるむ。突進が“迷う”。

「……え、今の一瞬のために、蒼炎を壁にした!?犬っていうか戦術兵器じゃん!!」


その“迷い”の一拍で、武蔵が俺の前に立った。

二刀流の構え。裸足の指が、また地面に食い込む。


「来い」

「来なくていいよぉおおお!!」

ゴォオオオオオ!!

突進の牙が迫る。

武蔵の木刀が、交差した。


――ズン。

音が、重い。

突進が、止まった。

デビルボアが、本当に、ぴくりとも動けない。

ケルちゃんが武蔵の横で吠える。

「ワン!!」

まるで合図みたいだった。

止めた、今だ――って、番犬が言ってる。


「いけフィリーネ!」

にすけが叫ぶ。


「別にアンタの指示を待ってたわけじゃないんだから!」

フィリーネが放った貫通型風矢が、二本――線になる。

一本目。

左前脚の腿を、貫いた。

そのまま、右前脚まで。

二本目。

後ろ左脚を貫き、後ろ右脚まで刺さった。

「ギャァァァァ!!」

足が、四本とも“終わった”音がした。

突進の獣が、突進できない獣に変わる。


「……やりすぎじゃない!?いや助かったけど!!」

武蔵が、静かに言った。

「整った」

次の瞬間、武蔵の体がふっと消えたみたいに後ろへ跳ぶ。

距離を取って――二刀斬り。


スパァーーーン...!!


乾いた音が二発。

頭部へ、強い衝撃。

デビルボアの体が、膝から崩れ……そのまま、ぐったりと倒れた。

ケルちゃんがすぐ寄る。

鼻先でデビルボアの息を確認するみたいに嗅ぎ、三つ首が「うん」とでも言うように同時に頷いた。

「……お前、確認までやるの!?できる犬すぎない!?」

俺の声が裏返る。

「……気絶、したのか?」

武蔵が言う。

「脳に強い衝撃を与え意識を断っただけだ。」

「え、そんなことが可能なの...?」


そこへ、にすけがゆっくり近づく。

落ち着きすぎてる。こいつ、危険度Aだぞ?さっきまで死ねる突進祭りだったんだぞ!?

にすけは懐から、銀色に光る細い串を取り出した。

俺の目が点になる。


「……それ、何だよ?料理道具、なのか?」

にすけは、デビルボアの首の付け根を見ながら言う。

「ああ、これは神銀製の締め串だな。〆るための道具だ」

「“シメる”って言い方が怖いんだよ!!」


ケルちゃんが、その横で座った。

三つ首が、静かに見守っている。吠えない。騒がない。

まるで“ここからは儀式だ”って空気を作ってる。

にすけは淡々と、でも変に真面目な声で続けた。


「苦しませない」

「暴れさせない」

「血を抜いて、肉を守る」


焚き火の熱が揺れる中で、その言葉だけが妙に綺麗に聞こえた。

「うまい飯の前に、やることがある」

「命に、段取りを入れる」


俺は、さっきまで叫んでたのに、言葉が出なかった。

にすけが、〆串をデビルボアの首の付け根あたりに――静かに刺した。

――そして、抜く。

それだけ。

デビルボアの目の光が、すっと消えた。

力なく横たわる巨体。

……終わった、のか?

ケルちゃんが「クゥ…」と一度だけ鳴いた。

悲しいんじゃない。誇るでもない。

ただ、仕事が終わった音だった。



俺はへたり込んで、息を吐いた。


「……なにこの人たち」


「俺だけずっと逃げてたんだけど…気づいたら戦闘終わってるし。」


フィリーネが、弓を肩にかけながら言う。


「はぁ?」


「当たり前じゃない」


「アンタみたいなのが前に出たら、三秒で肉片よ」


「逃げて囮になってたほうが、まだ役に立つわ」


「いやフォローになってない!!」

「ってか、いまオトリって言ったな!?」


フィリーネは鼻で笑った。


「ふんっ、別にアンタが囮になってくれたから矢を練れる時間作れたわけじゃないんだから……」

「えっ、そうなの?俺、役に立ってたの、か?」

「まあ、そういうこった。おまえが魔獣に好かれてる間に俺たちは冷静に対処できた。

バランスのいいチームワークだったぜ?」とにすけ。


武蔵が無表情でぽつり。


「よい逃げっぷりよの」



「褒めてるのそれ!?」


俺が叫ぶと、フィリーネが肩をすくめた。


「少なくとも、死ななかったんだから上出来じゃない?」


「いや基準が低い!!」


その横で、ケルちゃんがとことこと近づいてきた。


三つの首のうち一つが、俺の肩に「ちょん」と顎を乗せる。


重い。


……でも、なんか安心する。


「……お前まで慰めるなよ」

「泣くぞ、俺」


ケルちゃんが「クゥ」と小さく鳴いた。

その様子を見て、にすけが倒れたデビルボアを見下ろす。


「よし、今夜は――牡丹鍋だ。

素材は揃った。あとは整えるだけだ」


俺はまだ地面に座ったまま、みんなを順番に見て震える声でつぶやいた。


「武蔵はあのすげえ突進止めるし」

「フィリーネは脚全部ぶち抜くし」

「にすけは魔獣を食材としてしか見てないし」

「ケルちゃんは勇敢に立ち向かうし」


少し間。


「……お前ら強すぎない?」


フィリーネが即答した。


「アンタが弱すぎるんじゃない?」


「!!」

俺が頭を抱えていると、にすけが腕を組んだ。


「でも、ちょっと気になることがある」


「ん?」


にすけは、倒れたデビルボアを親指で指した。


「今回、あいつ」


「最初からカゲルをロックオンしてただろ?」


「……していた」と武蔵。


「たしかにそうね。美味しそうに見えたんじゃない?」


「ぐ…、おれが何したっていうんだよ…」


嫌な予感がする。違和感センサーがざわついてる。


にすけが、にやっと笑った。


「ほかの魔獣でも同じことになるか、検証しないとだな」


「なんでそうなるんだよ!!」


「だってもし再現性あるなら」


にすけが指を折って数える。


「カゲルが逃げる」

「武蔵とケルちゃんが守る」

「その隙にフィリーネが脚を貫く」

「武蔵の一発でほぼ瀕死」

「最後は俺がやさしく〆る」


そして、ドヤ顔。


「勝ち確パターンってやつだな」


「俺を囮にする前提じゃねえか!!てかその顔やめてくれ!」


フィリーネが肩をすくめる。

「でも実際うまく回ってたじゃない。アンタ逃げるのだけは得意でしょ?」

「うぐ…、まあたしかにそれしか取り柄がないのは事実だけども!!」


武蔵がぽつりと言った。


「よい餌よの」


「餌!?!?」


ケルちゃんが「ワフ」と鳴いた。

三つ首の一つが俺の肩に顎を乗せる。

重い。

完全に慰められている。


「……お前までそう思ってるのか?」


にすけが笑った。

「安心しろ、ちゃんと守るさ」


「そういう問題じゃねえ!!」


フィリーネがくすっと笑った。


「まあいいじゃない。アンタが逃げてる間に終わるなら、楽だし」


「ひでえパーティだ!!」


焚き火が、ぱち、と鳴った。


にすけがデビルボアを見下ろす。


「まあなにはともあれ、今夜は牡丹鍋だ。期待できるぞ」


武蔵がうなずく。

「整っておる」


フィリーネも弓を肩にかけた。

「味はちょっと気になるわね」


ケルちゃんが三つ首で、

「ワフ」「ワフ」「ワフ」

と鳴く。

完全に賛成票だ。


俺だけが焚き火を見ながら思う。

(……なんか、俺の人生、変な方向に進んでる気がするんだが?)


ぱち。

焚き火がまた鳴った。

その音が、なぜかこう聞こえた。


――逃げろ、凡人。


でも。

同時にこうも聞こえた。


――面白くなってきただろ?


俺は小さくため息をついた。

「……俺、生きて帰れるのかな」


――つづく。




――あとがき――


カゲル「いや待て待て待て!! A級魔獣ってなんだよ!? 聞いてないぞ!!」


にすけ「落ち着け。いい肉だっただろ?」


カゲル「“だった”ってなんだよ!! まだ倒してる最中の話だろうが!!」


フィリーネ「アンタが弱すぎるのよ。もうちょっとマシに逃げなさいよ」


カゲル「逃げ前提なのかよ俺!?」


武蔵「……整っている」


カゲル「いや整ってる場合じゃねぇって!!」


にすけ「まあまあ。ちゃんと仕留め方は見せただろ?」


カゲル「見せ方がおかしいんだよ!! なんで“締め串サクッ”で終わるんだよ!!」


フィリーネ「結果的に倒せてるんだからいいじゃない」


カゲル「結果論で全部済ますな!!」


武蔵「次は“食”だな」


カゲル「いやもうその流れ怖いんだよ!!」


にすけ「安心しろ。うまくやる」


カゲル「その“うまく”絶対あっちの意味だろ!?」


フィリーネ「……まあ、ちょっと楽しみではあるけど」


ケルちゃん「わふわふわふふふ!」

尻尾ブルンブルン))


カゲル「お前もそっち側かよ!!」


――というわけで。


次回は

「デビルボアはこう食べる」


戦って終わりじゃない。

このパーティでは、そこからが本番だ。


それと少しだけ。


この話、実は漫画版(Kindle→凡人冒険者カゲルと検索)でも描いていて、今回みたいなシーンは絵で見るとまた違った面白さがあると思う。

にすけの手元とか、武蔵の動きとか、フィリーネの表情とか……たぶん、文字よりわかりやすい。


気が向いたら、そっちも覗いてみてほしい。

……たぶん、腹が減る。


カゲル「いや絶対減るやつだろそれ!!」



ではまた次の話で。

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