第38話 「ビレイの失態」
ーレイス領魔導部局長室ー
《…駄目です、オウルが沈黙しました…》
《クソッ‼まさかオウルの隠密魔法に勘づくとは⁉》
戦略には情報収集は不可欠だと考えている男がここにもいた、ビレイである
彼はカズヤとの直接の面識がない為敢えてこちらの手の内を少しだけフェルトに流し接近させたのだ
《…しかし彼奴が言った「生物兵器」とは…どの様なモノかは知らぬが向こうも探っていたみたいだな》
そう、僅かだが得た情報もあったのだ。
少なくともカズヤはワール達の不穏な動きに探りを入れていた可能性がある
これを知ると知らないとでは立てる策も全く違うモノになるのだ
《とにかくこの事を我が君に伝えないと》
ビレイは直ぐ様ワールの居室に向かったのである
。。。
ーバキィッ‼ー
《何と言う短慮な真似を!これでは私がドラグを…全王の座を狙っている事が露見してしまったではないかっ!》
ワールはビレイを殴りつけて激昂する
《…申し訳ございません、我が君。
しかしこの行動でカズヤがドラグ側でないにせよこちらを探っていた事が明らかになりました‼》
《ええぃ‼詭弁はもう沢山だ!ドラグの耳に入る前に決行するぞ!例の魔導具はどうした!》
《は、一両日中には完成するとの報を受けております》
《私が数百年練った策略がこんな形で露見するとは…完成を更に急がせよ!》
《畏まりました、我が君‼》
ビレイは急いで退室していく
《くっ、こうなれば実力行使もやむを得まい。禁術のグリモワールを使うやも知れぬな…》
ワールは隠し書庫を解放する呪文を唱え奥に消えて行った
ーカズヤの部屋ー
「あんな所に隠し部屋があったんだ…」
カズヤはPDAの画面をじっと見つめる
情報戦では一歩も二歩もリードしているカズヤにはワール達の企みは全て筒抜けであった
「実力行使となると魔法攻撃だよな…やっぱり」
そうなるとカズヤは人の姿に戻らざるを得なくなる
何故かと聞かれれば能力チェックの際A○フィールドをスケルトン体のまま発現しようとしたら出来なかったのだ
元の姿に戻れば発現可能な事を鑑みると受肉の状態がA○フィールドに何らかの影響を及ぼしている事が考えられる
「…出来れば隠し通したいから本当に追い詰められた時迄は我慢だな…」
カズヤは他にも対策を施して戦闘をシュミレートしていった
ーレイス領魔導部ー
《フェルトを拘束せよ!》
ビレイの命令でフェルトが拘束される
「一体何を…」
《黙れ‼カズヤより渡されたモノがあるだろう、ソレを今ここで出せっ!》
ビレイは部下に命じてフェルトのボディチェックをさせる
《ビレイ様‼これを》
部下はフェルトの腰にあった袋をビレイに差し出す
《これは何だ‼カズヤの作った魔導具か?》
ビレイは詰問するがフェルトは怯まない
「それはカズヤより貰った「菓子」です。
それを魔導部の皆さんに「お近づきの印」として「撒いて」仲良くなって欲しいと」
《嘘をつけ!そんな白々しい言葉には騙されんぞっ!》
そう言うとビレイは袋の中身をテーブルの上にぶちまけた
《さあ、これはどんな魔導具なのだ?さっさと吐けっ!》
ビレイはしてやったり感満々でフェルトに詰問を続ける
「…ですからそれは「菓子」という甘い食べ物ですよ。お食べになれば分かります」
《まだそんな事を…おいっ!》
ビレイは部下を呼んでフェルトの嘘を暴こうとする
《これを食せ!甘い食べ物だそうだぞ》
ビレイの命令に部下は恐る恐るビットを口に含む
《…どうだ?そんなモノが食べ物な訳が…》
《…甘~~いっ!》
ビレイがドヤ顔で部下の反応を待っていると突然部下が叫んだ
《何っ⁉》
《ビレイ様、これはとっても甘い食べ物です!》
《…え?》
「え?」
そう、カズヤがフェルトに渡したモノ…それは金平糖だったのだ
勿論本物のビットはフェルトに付けてあり、現在猛烈に分裂中だが一機でも侵入出来れば無限増殖可能なビットを
わざわざ危険を冒させてまで運んで貰う必要はなかったのである
ビレイは知らないが既にカズヤにはワール側の企みはほぼ筒抜けである
分かっていてビットを運搬させる事などあり得ないのだ
フェルトもその実驚いていた
カズヤの「念話」で尾行の事実は知らされてはいたがビットがフェイクだとは時間がないせいもあって伝えられていなかったのだ
ー「フェルトさん、万が一詰問されたら「これはお菓子だ」と突っぱねて下さいね」ー
フェルトはカズヤの指示通り突っぱね確認したら本当にお菓子だっただけである
「カズヤはこれを魔導部の部員達に配って仲良くなる様に、と渡してくれたんじゃ。何が問題だ?」
《ぐっ…構わぬ‼フェルトを投獄しておけ!》
ビレイは既にカズヤの術中に嵌まっていた
フェルトが投獄されるのも「計算内」である。
実は牢獄は脱出防止の為に他の建造物よりも堅牢なのだ
今後戦闘になった場合の保険でもあった
《クソッ‼俺をコケにしやがって‼》
ビレイはテーブルの金平糖を一握りして床に叩き付けるが既に後手だったのだ
本物のビットは分裂し部員各人と部屋全体に付いて情報を発信していたのだった