03-1.四夫人の茶会
怨霊騒動が終わった翌日、香月は茶会に招かれていた。
急遽開かれた茶会の主催者である淑妃、白 雪梅は目を輝かせながら、香月を歓迎した。香月に遅れて茶会の場に到着した貴妃、青 美雨も同様だ。
「賢妃。よくぞ怨霊を倒してくれました」
雪梅は香月を絶賛した。
「わたくしはなにもできませんでしたから」
「白虎宮の結界を維持していたと聞きましたが」
「自分の身は自分で守っていただけのことですわ」
雪梅は笑った。
その姿は上品だった。
「香月」
美雨は香月の名を呼んだ。
遅れて来たことを詫びることもせず、貴妃として当然の振る舞いだというかのように香月を格下と決めつけていた。
「貴女は宝貝を持っているというのは本当なの?」
「ええ、所持しております」
「そう。それなのに後宮に送られたのね。不憫なことよ。次期当主になるのも夢ではなかったでしょう?」
美雨は宝貝を所持していない。
四夫人の中で宝貝を所持しているのは香月だけだ。それが非常に羨ましかった。
青家は実力主義だ。実力さえあれば当主になれる。美雨も後宮入りが決まるまでは当主候補の一人だった。しかし、宝貝に選ばれず、先帝が死したこともあり、後宮入りが決まってしまった。
そのことを悔いていた。
「……徳妃は来ないのでしょうか?」
香月は美雨の質問に答えなかった。
それに対し、美雨はわかっていると言わんばかりの顔をした。
「来るわよ」
美雨はすぐに答える。
そして、持っていた扇子で顔を隠した。
「来ればすぐにわかるわ。あの子は臭いが酷いもの」
美雨の言葉の意味を悟る。
(徳妃は呪術を使っているのか)
香月は眉間にしわを寄せた。
四夫人の一角に座りながらも、呪術に手を染めているとは考えたくもなかった。
美雨の言う通りだった。
徳妃が白虎宮に足を踏み入れた途端、強い腐敗臭がした。藍洙とは比べ物にならないほどに強い臭いだ。思わず、手で鼻と口を覆ってしまう。
(耐えられない)
しかし、四夫人の茶会を抜け出すわけにはいかなかった。
美雨と雪梅も同様に酷い顔をしていた。
二人とも、片手で鼻と口を覆い隠し、それを誤魔化すように扇子を左手で持ち、顔を隠す。香月も真似をするように扇子を取り出し、顔を隠した。
(信じられない)
恐ろしい腐敗臭だった。
徳妃、朱 万姫は当然のように遅刻をしてきたことを詫びることもなく、席に座った。三人が扇子で顔を隠していることを気にもしていないようだ。
文でのやり取りはしていたものの、香月は注目を集めるとは思っていなかった。それぞれのやり方で怨霊に対峙する覚悟があるのだろうと、勝手に考えていたのだ。その予想は大きく外れていた。
「あの怨霊を倒すなんて! 香月お姉さまは素敵ですぅ!」
万姫は香月を褒め称える。
「万姫は震えているだけでしたの。怖くてしかたがありませんでしたわぁ」
十三歳の万姫は女官と下女に囲まれて震えていたようだ。次が自分の番ではないことだけを願いながら、必死に結界を維持していたのだろう。
「徳妃。はしたなくてよ」
美雨は万姫を注意する。
「徳妃は子どもなのですよ」
雪梅は機嫌が悪かった。
菓子を食べ、万姫を睨む。
「でもでも、万姫は香月お姉さまがすごいと思いますぅ! みんなだって、そうでしょぉ?」
万姫は子どものような口調で話す。
幼い容姿を利用してかわいらしさを売りにしているのだろう。妹の紅花と同じ年齢とは思えないほどに幼い。十歳の時に後宮入りをしたとは思えないほどに純粋なふりをする。それがかえって気持ち悪かった。
「それはそうよ」
美雨は否定しなかった。
「香月でなければ怨霊退治なんて荒業できなかったわ」
「でしょう? でしょう?」
「徳妃。言い方がはしたないわ」
美雨は万姫を注意する。
それに対して万姫は気にもしていなかった。
(徳妃は幼いな)
わざとらしさは感じられない。
年齢よりも幼い気がするのは気がするのは、気のせいではないだろう。知識を最低限しか教え込まず、後宮入りをさせられたのかもしれない。
(幼さゆえに呪術に手を出したか)
比較的簡単に扱うことができる呪術は魅力的に映ったのだろう。
万姫は呪術を使うことに抵抗がなかった。それがいけないことだと教えてくれる人はなかったのだ。
「貴妃、徳妃に注意をしても無駄ですよ」
雪梅は諦めているようだ。
「淑妃は諦めすぎなのよ。どうせ、今回の件も淑妃宮に籠っていたのでしょ?」
「それのなにがいけないというのかしら?」
「自分が狙われると思わなかったわけ?」
美雨は非難する。
それに対し、雪梅は気にもしていないようだ。
「思わなかったですね」
雪梅は断言した。
「恨まれるようなことをしていませんもの。お二人とは違って」
雪梅は文に書かれた通り、結界は張ったものの、警戒すらしていなかった。
「それに香月が祓ったのだからいいでしょう?」
雪梅は黄藍洙に対してなにもしていない。
助けもしていないが嫌がらせや見下すような言動もしていなかった。だからこそ、恨まれるはずがないと高をくくっていたのだ。
「三人が結界を張ってくれたおかげです」
香月は軽く頭を下げる。
「怨霊は祓えましたが、被害者も出ています」
香月の言葉は事実だ。
しかし、三人は動じなかった。
興味がないといった方が正しいだろうか。




