第一章:春暁・一回目の春
第一話:入学
秋川 一禾
歯磨きを終えて皺ひとつない制服に袖を通した。かなり大きい、こんなに大きくなるとは思えなかった。
着替えを終え荷物を持ち僕は靴を履いた。
「いってきます」だれもいないリビングに言った。
外に出ると桜が散り始めていた。
きれいだ。
目的地は家から30分ほどの萩ヶ丘中学校。
足取りがゆがむ、どうやら緊張しているらしい。
期待に顔がほころぶ、顔と足を揉みしだき、ただ歩く。
顔を撫ぜる風が心地いい。
きっちり着た制服の熱と混ざってぬるま湯につかっているような感じだ。
体育館
―話が長い。
校長っぽいおっさんがさっきから十五分くらいしゃべってる。
話の内容がなくなってきたのか同じようなことを三回くらい言ってる。
内容ないならしゃべんなよ。
前の人寝てるし、横も寝てるし。
教頭もうつらうつら、ほんとにここ入ってよかったのか?
早々に芽生えてしまった疑念と眠気を振り払い話が終わるのを待つ。
あ、終わったみたいだ。
立ち上がり教室に向かう、出入り口付近に貼られている紙を遠目から見るとどうやら僕は二組らしい。
体育館から出ると誘導している生徒にいざなわれるまま、二階に向かう。
教室
僕は今、窮地に立たされている。
教室に着き、座席表を見て席に座ったところで事態は起きた。
初対面の女子が「ねえ、君は転生って信じる?」と急に話しかけてきたのだ。
なんだこいつ、距離感バグってんのか。
とりあえず当たり障りのない返答を、
「え、なに急に。別に信じてないけど。」
しまった、間違えた。
初対面でいきなり嫌われてしまう。
彼女も驚いている。当然だ。
ここは早く言い訳を、と、言葉を出そうとしたら彼女の表情が変わった。
嫌悪感を全面に押し出した表情、ではなかった。
にやついた、からかっているような、顔。
彼女が口を開く、
「あははっ!君おもしろいね!初対面なのに塩対応じゃん!」
と言われ、またとっさに口をついて出てしまう
「いや、初対面でそんなこと聞いてくるのも変でしょ。」
本日二度目の失言。
「はぁ~笑った笑った!君、名前は?スマホある?連絡先交換しよ?」
ぐいぐいぐいぐい来るな、ほんと。
僕がスマホに手をかけた瞬間勢いよくドアが開き、とても大きい声がした。
「っおっはよぉ~!!!!」
うるさい。
このうるさい声は夏向、小学校の友達だ。
まさか同じクラスだとは思わなかったから嬉しい。
夏向はドア前の席に座っている僕と距離感バグ女に気付き話しかけてきた。
「あれ?一禾、もう友達出来たの?はっや!はじめまして!俺は夏向!観田夏向!12歳!よろしく!」
「いや急に話しかけられただけ、友達じゃない。あと年齢は多分みんな一緒だから言わなくてよかったでしょ。」
「あ、そっか。一禾賢いなぁ!」
「あはは!君たちおもしろいね!あ、私は梨十、春井梨十。12歳です!よろしく、夏向くん」
「よろしく!梨十!一禾もほら、自己紹介、早よ」
「は、なん」
「はーやーくー」
「...秋川、一禾。...12歳。よろしく」
「いやみんな12歳でしょw」
「お前まじでお前さ、」
「そんなことよりさ、俺お前と席となりだわ。よろしくな!」
「まじか!よろしく」
「え~私だけ近くじゃないじゃんハブやめてよ~ていうか連絡先交換しようよ~はぐらかさないでよ~」
なんか友達になったらしい、これで第一目標の友達をつくるは早々にクリア。
順調すぎて怖いくらいだ。
ちょっと話しているとまたドアが開いた。
「おーいお前ら席着けよー」
先生だ。みんないそいそと自席に戻っていく。
最後の一人が席に座った瞬間先生がしゃべりだす。
「あーえー、1年2組の担任となります、藤岡 宗次朗です。この一年間よろしく」
高鳴った胸の音にかき消されて、藤岡先生の続きの話も耳に入らなかった。
春が始まる。




