謁見
翌日、セリは冒険者ギルドの一角――室長室に呼び出されていた。
豪華な家具に包まれた空間の主、ギルド長は初老の白髪の男性だった。
「君が例のセリ君だね? 私の名前は、トラク・マイゼン。知っての通りギルド長だ」
トラクと名乗った男は、セリに問いかけてくる。
「そう、私がセリで間違いない」
「では、本題に入るが、デスタの件だ。本来はこのような事態は、極刑……っ」
トラクの発言を聞いたセリに、明確な殺意が湧いたのを感じとる。
これも長年も冒険者としての感というものだ。
「まぁ、そう警戒しなくとも、別にそのような事はしないと約束する」
トラクのその発言を聞いたセリの警戒が少し解けた様だが、完全に油断しているわけでも無さそうだ。
少しでも妙な動きをすれば、襲いかかってくる程度の気迫は感じる。
「まぁ、デスタもデスタでやっている事は盗賊と変わらなかった。だが彼奴を止められる猛者も他には居ない……寧ろ殺してくれた事に感謝しているくらいなんだ」
「……つまり?」
「お咎めはなしだ。それどころか、此方としても報奨金を渡すつもりでいる――第一、あのデスタを殺せる様なセリ君を敵に回したくはないからな」
「ありがとう……そうしてくれると助かる」
トラクは、懐からぱんぱんに膨れ上がった麻袋を渡してくる。
中を見てみると、少なくはない額の金貨や銀貨が詰まっていた。
平民の家族が、一年くらいは働かずにのんびりと暮らせる程度の金額だ。
「そう多い量は用意できなかったが、ほんの気持ちだ……受け取ってくれ」
「そうさせてもらう」
セリは、受け取った麻袋を服の内側にしまう。
これから、旅をする上で重宝する事になるだろう。
「こちらからは以上だ。他に気になる事はあるかね?」
「いや、特には……後帰っても良い?」
「あぁ、元論構わない」
特段この男と交わす会話もない。
セリは、部屋を後にする。
扉の外に出ると、そこに待っていたのはフィリアだった。
「セリさん、大丈夫でしたか?」
心配そうな表情を浮かべている。
「大丈夫だったよ。あと、お金貰った」
セリは、麻袋に詰まった金貨と銀貨を見せる。
「よ、良かったです……これだけお金があったら暫くは安泰ですね」
「うん、宿には困らなそう」
そう言えば、時間的にも夕食の頃合いだ。
昨日から気絶する様に、ギルド長に謁見する今のいままで眠り続けていた。
それなりに――いや、かなり空腹だった。
「お腹が空いた……ご飯食べにいきたい」
「それなら、リッタさんが作ってくれてるみたいですよ。部屋まで戻りましょう」
セリはフィリアに腕を引かれて、リッタの自室に向かっていった。