決闘
リアとセリは冒険者ギルドの裏手にある、空き地に移動した。
冒険者ギルドと、幾つかの家屋に挟まれたこの場所は滅多に人は通りかからない。
ここなら、好き勝手できる。
リアはセリに木でできた模造剣を渡す。
「木の剣を手放したら失格というルールで大丈夫?」
「わかった。問題はない」
リアは、セリに渡した木剣と同じものを手に持っている。
軽く剣を振ったり、構えたりする。
どうやら、彼女の現役時代の感覚は未だに衰えていない様だ。
「お嬢様、本当に大丈夫なのですか?」
心配そうに声をかけてきたのは、リッタだ。
「問題ない。さっきも言った通り私は随分と強くなったからね」
リッタはセリがどれ程の強者になったのか、まだ把握はしていない。
神人を殺し、王都の人間全てを消し去る程の猛者であると言うのを話で聞いただけにすぎない。
「それじゃあ……早速だけど、始めるよ」
リアはそういうと、木剣を構える。
「私も、準備はできてる」
セリもそれに応える様に、木剣を構えた。
「じゃあ、手始めに私からっ!」
リアは剣を構えて、正面から突撃してくる。
王都で戦った一級冒険者より数段遅いが、その辺の雑兵よりは遥かに洗練されていた。
セリのその一撃を、剣で防ぐ。
「驚いた……まさか、止められるなんて」
リアは隻腕の身体では、まともに斬撃を受け止めるなど不可能と考えていた。
だが、セリはそれを平気そうな顔で行って見せた。
もしかして、本当にセリは強いのかもしれない――ならば。
「身体向上、速度向上、限界突破――全能力向上 」
リアは幾つかの強化魔法を唱える。
強化魔法を幾つも付与する事によって、現役時代は何度か死地を乗り切った。
「もう一回!」
その動きは、先程のリアとは比べ物にならない程速かった。
王都で戦った冒険者よりも若干早いかもしれない程だ。
だが何も問題はない、この程度なら防げる。
「嘘っ……!?」
セリは先程と全く同じ要領で防いだ。
リアはセリが怪我をする様な、風斬などの剣技は使ってないのだが、体勢一つ変えずに、そのまま受け止めるのはおかしい。
「じゃあ、次は私から」
セリはそういうと、リアの木剣を弾き返して、腹部に潜り込む。
「は、早っ……!」
その動きは、身体強化しているリアと同等かそれ以上。身体強化魔法を一切使っていないのにだ。
間合いを取ろうと、背後に下がるが、咄嗟の事に反応しきれない。
「うっ!?」
セリが振り下ろしてきた木剣を防ごうとするが、打ち合った瞬間、衝撃で手から剣が吹き飛ばされた。
その打ち合いで瞬時に理解した。
単純な力でも、セリが圧倒的に格上だ。
「っ……え?」
次の瞬間、首筋にセリの木剣が当てられていた。
ほんの一瞬の出来事だ、気づけば瞬間には、そこに剣があったのだ。
「どう、登録試験は合格?」
リアは認めざるおえない。
この傷まみれの少女は、自分以上の実力者であると。
「あの、合格なんだけど……ごめん、まさかこんなに強いなんて思ってなかった」
リアが懸念していた唯の死にたがりではない様だ。
ならば尚更、一体何者なのだろうか。リッタと関係は深い様だが。
「一つ質問いい、一体貴方は何者なの?」
セリはその問いに少し考えるそぶりを見せる。
「たしか、冒険者って出生とかどうとか聞くのってマナー違反じゃ無かった?」
確かに、冒険者には訳ありの人間が多いためか、そういった事を聞くのは暗黙の了解でタブーとされている。
「そう、ね、ごめんなさい、余計な事を聞いてしまって」
リアは、そばにいたリッタに小声で尋ねる。
「ねぇ、あの子、一体何者なの?」
「えぇ、まぁ、その、秘密です、秘密」
リッタも言葉を濁して教えてくれなかった。
あの見た目からして、過去に相当悲惨な体験をしているのだろう。
ならば、その相手に対する復讐――このパターンが可能性が一番高そうだ。
真実は勿論わからないが。
「それじゃあ、冒険者登録お願いしていい?」
「えぇ、勿論。それじゃ、手続きの方進めるから、ついてきて……」
セリは、リアの後をついて、冒険者ギルドの裏口から中へと戻る。
「……カルディナ様、私にはあの娘を止められないのでしょうか」
リッタは二人の後ろ姿を見て、ぼそっと呟いた。
きっと、セリは復讐を終えるまで止まらない。
だが、そのいく先が明るいものではないのは、分かりきった事だ。
そして、それをリッタ如きが止められるものではないのだろう。




