冒険者ギルド
冒険者ギルドは、ロ・ランブルのメインストリートの裏側に位置する。
外見は木とレンガでできた、大きいだけの何処にでもある建物。
中は、受付やクエストボード、売店やモンスターや薬草の取引場の様になっており、端の方は酒場になっていた。
そこでたむろっている人間も、殆どが冒険者で一般の人は殆ど居ない。ぶっちゃけかなり治安は悪い。
そこの受付で働く、2人の受付嬢の姿があった。
片方は、リア・リクラスという二十代の女だ。
リアは元二級冒険者で、現在も受付嬢という形で冒険者ギルドに関わっている。
「暇だね。リッタ」
リアはもう1人の受付嬢に話しかける。
「そうですね。最近は王都の騒動もありましたから、物流も止まってますし」
もう片割れの受付嬢は、10代後半から二十代前半の年齢の黒髪の女だ。
元は"六聖神人"の1人、カルディナに使えるメイドだったが、数年前の騒動により、今は身を隠してギルドの受付嬢として働いている。
「あぁ、あのカルディナが処刑された直後王都が壊滅したって話ね」
「……はい」
「みんなカルディナを魔女とか裏切り者とか、言ってるけどさ、私はそんな事なかったと思うんだけどね。昔、冒険者時代に会ったことあるけど、とても悪い人には思えなかったんだ」
「……そう、ですよね……私も、そう思ってたんです……きっと、きっと」
カルディナが裏切られたあの日、丁度リッタは買い出しへと出掛けており、難を逃れた。
あの日、あの時に屋敷にいたら、自分はきっと生きていない。
わざわざ、メイドにすぎないリッタを捕まえる気にはならなかったのだろう。追っ手が来ることもなかった。
主人を裏切ってしまったこと、そしてなにより、セリを見殺しにしてしまったこと。
今でも罪悪感に押しつぶされそうになる。2人を見殺してしまい、自分はのうのうと生きている姑息さに嫌気がさす。
どうせなら、あの二人と一緒に死ねば良かったのに、その勇気もない。
確かにリッタ程度がどうにかできる事では無かった。
どうせ、無駄死にするくらいなら、逃げて生きて欲しい――カルディナとセリはそう思ってくれるだろうと、都合のいい解釈をしてなんとか精神を保ってきた。
「どうしたの? 急に元気なくなったけど……」
リッタが陰鬱な気分に浸っていると、リアが心配そうに声をかけてくる。
「すいません、なんでもないです、大丈夫です」
「そう、それならいいんだけど……てか、あの話聞いた? デスタの糞野郎の話し」
「いえ、何も聞いてないですね」
デスタ――彼は、王国に七人しかいない特級冒険者にして、この都市唯一の特級冒険者だ。
しかし、人格面に問題があり、黒い噂は絶えない。
「あれよ、エルフを洗脳して無理矢婚姻してたでしょ、少し前病気で亡くなったみたいだけど、その時にできた娘を奴隷商に売ったらしいの」
「本当ですか……それ、随分胸糞悪い話ですね」
「全く、なんであんなクズに限って無茶苦茶に強いんだか……」
リアは深いため息を吐いた。
デスタは、50人を超える冒険者パーティ――と言うよりは、冒険者集団を結成している。
実にロ・ランブルの四分の一程の冒険者が所属している。
しかし、その実態は盗賊となんら変わりない暴力集団にすぎない。
そのせいか、ロ・ランブルにおける冒険者に対する視線はかなり冷たいものだ。
「冒険者登録したいんだけど」
その時だった。
カウンターの向かいから声をかけられる。
その声は、リッタにとって何処か聞き覚えがある懐かしいものに感じるだろう。
「え……」
リッタが顔を上げると、そこにいたのは死んだはずのセリだった。