冒険者
「冒険者? なりたくないんだけど……なんで?」
なぜ、冒険者にならなければいけないのだろうか。どうせ、この女神の気まぐれ適当発言だろうが。
『いえいえ、単純に面白そうだなと思いまして』
「私はそんな理由でならない」
『まぁ、流石に冗談です。しかし、冒険者としての身分は中々役に立ちます』
レヴィンが言うには、冒険者は各地を旅している者も多く、あちらこちらに移動する事になるだろうセリにとって、怪しまれない職業であること。
武器を携帯するより正当な理由になる。強力な力を持っているセリならば、モンスター討伐などでいい稼ぎ口になる。冒険者なら傷だらけの身体を聞かれた際の口実になる。
などと話を聞いてみれば、案外メリットが多くあった。
「確かにメリットあるけど、でも冒険者になることで、目立つかもしれない」
セリは身分的には、人族を裏切った魔女の義理の娘にして弟子なのだ。
まぁ全くの嘘偽りであるが、世間一般的にはそう思われている。
そうなると、あまり目立つのは勘弁したい。
『そこは目立たない様にするしかありませんね。そう難しい話でもありません。資金が足りなくなったら、ゴブリンなどを数匹狩って換金するだけでいいんです……冒険者ならゴブリンくらいよく倒しますしね。まぁ、単騎でドラゴンでも倒しでもしない限り有名にはなりませんから』
確かに目立たない様にひっそりとやるしかないだろう。
それに毎回盗賊から金品を奪ったり、最悪の場合その辺の旅人を襲うと言う盗賊まがいの事をしなければならないが、冒険者としての稼ぎがあるならば、そちらの方が望ましい。
「確かに、冒険者になるのはありかもだけど」
確かに今後のことを考えれば、冒険者の身分はかなり役に立つ。
セリの様な訳アリの見た目でも、冒険者界隈なら良くいる――言わばさほど目立つ存在でもない。
「あ、あの……セリさん?」
他者から目線だと、レヴィンの声は聞こえていない。
一人ぶつぶつと誰かと話すセリに、フィリアは困惑していた。
「ごめん、一人でぶつぶつ喋ってて」
「い、いえ、私は迷惑も何もしていませんので、そんなっ」
しかし、セリのこれまでの境遇を考えれば当然なのかもしれない。
自分より悲惨な目にあって、その苦痛を何年も味わい続けていたのだ。
普通は正気を失ってしまう。
セリはきっと、脳内で架空の人物を作り出して、それと会話をする事で、なんとか正気を保ってきたのだろう。
フィリアは、都合がいい解釈を勝手にする。
「それでだけど、冒険者になることにした」
一人会話の流れから察していたが、冒険者になるらしい。
「フィリアもくる?」
「い、いえ、あの……冒険者ギルドに行かないと言いますか、行きたくないと言いますか、その……」
フィリアは、冒険者ギルドだけには行きたくなかった。
この都市に来たくなかった理由を、それらに起因している。
「あの、私を奴隷商に売った父は、その……冒険者なんです」
「なるほど、そうだと冒険者ギルドに行きたくないよね」
「す、すいません。誘っていただいたのに」
「別にいいよ。冒険者ギルドには私一人で行ってくる」
セリは一人で、ギルドへと向かうことになりそうだ。
フィリア曰く、どうやら冒険者ギルドは、ここからそう遠くない場所にあるらしい。
夜はゆっくり休みたいし、今のうちに行って登録を済ませてしまおう。




