第20話 Vtuberとして大事なこと
――翌日。
朝食を済ませ、やることもなくただボーっとしていると、千冬さんが頬をつついてきた。
「どうしたんですか、千冬さん」
「今、暇だよね?」
「まあ、そうですね。やることが無くて。配信をやってもいいんですけど、こんな朝からやるのもなぁって気がして」
「それじゃ、ドライブ行こ」
「ドライブですか?」
「うん、気分転換にもなるでしょ」
「そうですね、行きましょう」
こうして俺は千冬さんとドライブに行くことになった。
これって、ドライブデートって認識であってますか。あ、違いますよね、はい。
本当は男である俺が運転してあげた方が良いのだろうけど、あいにく俺は自動車免許を持っていない。高校も卒業しているし、免許を取得できる年齢ではあるんだけどね。
♢
「それじゃ、どこ行こっか」
千冬さんは車を走らせた直後にそう聞いてきた。
こういうのって、車を発進させる前に聞くものじゃないの?
まあ、千冬さんらしくて可愛い気もするな。
「千冬さんのおすすめの場所とかありますか?」
「私のおすすめでいいの?」
「はい! むしろその方が良いです!」
「そう? それじゃ、私のおすすめの場所へレッツゴー!」
「お、おー」
結局どこに連れて行ってくれるのかは教えてくれなかったが、千冬さんはかなり上機嫌で鼻歌を歌いながら運転している。
車を走らせ始めてから5分ほどが経ったとき、千冬さんがある場所を指差した。
「ねぇ、見て」
千冬さんの指差す先に目を向けると、そこには街中の大型ビジョンに『兎野レオ』の姿が大きく映し出されていたのだ。
さらに、『バーチャライブの新人、超速でバズり中!!!』と書かれている。
今の俺って、そんな大事になってるの?
これがバーチャライブの力……。
「すごいなぁ……」
驚きのあまりシンプルな言葉しか出てこない。
そんな俺を見た千冬さんは嬉しそうに微笑んだ。
「葵くんの努力の成果だね」
「俺のっていうか、バーチャライブのお陰じゃないですか?」
「葵くんは本当に謙虚だね。もちろんバーチャライブの力も少しはあるかもしれないけど、大部分は葵くんの力だよ」
「そうですかね」
「うんっ、そうだよ!」
きっと千冬さんは俺に自信をつけさせようとしてくれている。
その気持ちがVtuberとしてデビューしたての俺にはかなり嬉しかったし、実際に少しだけ自分に自信が持てたような気がする。
千冬さんと一緒に行動していると、Vtuberとしてどうあるべきかというのが分かっていくようで楽しい。ワクワクする。
「さ、着いたよ」
千冬さんのおすすめの場所に辿り着いた。
時間のかかるものだと思っていたが、予想以上に早く着いた。
「ここは……」
「どう? 絶景だと思わない?」
そこには大自然が広がっていた。
すぐそばには全く濁りのない透明な川。
少し歩けば、絵に描いたように美しい山。
天気も快晴。
そのお陰でより一層美しさを感じられる。何より、落ち着く。
空気が美味しいってこういうことなんだろうな。
「近くにこんな綺麗な場所があったんですね」
「そうなんだよね! ここ、よく来るんだよね」
「綺麗ですもんね」
「それもあるけど、配信でうまくいかなくて落ち込んだ時とかにここに来ると気持ちを切り替えられるような気がするんだよね」
意外だ。
千冬さんでも落ち込んだりすることがあるのか。
兎野ウサはVtuberとしてずっと上手くいっているのだと思っていた。
「千冬さんでも配信で上手くいかないことってあるんですね。ずっと上手くいっていると思ってました」
「そりゃあるよ! あの発言は良くなかったなぁとか、もっとこうすれば良かったなぁとか、色々あるよ!」
「そういう時にここに来てるんですね」
「そう! そういうこと!」
たしかにここならどんなに気分が落ち込んでいてもリラックスできるし、気持ちを切り替えることが出来そう。
「ねぇ、葵くん。Vtuberにとって大事なことって何だと思う?」
千冬さんが突然そう聞いてきた。
いきなりことでどう答えていいのか分からなくなりそうだったが、頭をフル回転させ、自身の中で思いついたことを答える。
「毎日継続して配信すること……ですか?」
「ふふっ、やっぱりそう思うよね。デビューしたての子ってそういう考えの子が多いんだよね」
「違うんですか?」
「まあ、間違いではないんだけどね、1番大事なのはね、ちゃんと休みを取ることなんだよ」
「休み……ですか」
休みを取ることが1番大事、か。
毎日配信することが色んな視聴者を集めることにも繋がるから大事なのかと思っていた。
「ちゃんと休みを取らないと気づかないうちにストレスが溜まって、急に爆発しちゃうの。それに視聴者のみんなも推しには元気でいてほしいって思ってるから」
「なるほど、たしかにそうですね。ちゃんと休みを取ることを心がけますね!」
「うん、そうしてね」
その後もしばらく美しい大自然の中で落ち着いた時間を過ごした。
「よし、それじゃあ次は事務所に寄ってもいい?」
「用事ですか?」
「うん、すぐ終わるんだけどね」
「わかりました。それじゃあ、行きましょうか」
大自然を満喫した俺と千冬さんの次の行き先はバーチャライブの事務所に決まった。




