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騎士と姫君  作者: 曲尾 仁庵
姫君
82/95

妖精 -1-

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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 妖精はお城で一番高い塔の最上階にある小さな部屋の窓をそっと開きました。日没をとうに過ぎ、漆黒の空を無数の星と糸のように細い月が彩っています。

 怪物からの伝言を受け取った後、妖精は休まず飛び続けて、昼過ぎにはお城までやってきましたが、お城には幾重にも厳重に外から魔物の侵入を拒む魔除けが施されており、中に入ることができませんでした。裏庭にある、石壁の崩れた跡のある場所に気付かなければ、今でもお城の周りをうろうろとしていたに違いありません。石壁の崩れはすでに土を盛って塞いでありましたが、魔除けの力のほころびまでは直されていませんでした。妖精は魔法の力で土をすり抜け、お城の中に入ることができたのです。

 妖精が部屋の中の気配を探ると、ちょうど都合のいいことに、部屋にいるのは一人だけのようでした。その一人がお姫様であることを祈りながら、妖精は部屋の中へと飛び込みました。

 妖精の願いの通りに、そこにいたのはお姫様でした。小さな部屋の真ん中の、小さな木の椅子の上に、お姫様は座っていました。妖精のいる位置はちょうどお姫様のいる真後ろで、妖精からはお姫様の背中しか見えません。妖精は滑るようにお姫様の正面に回ると、


 ああ、よかった、お姫……さま――


 お姫様に声を掛けようとして、言葉を失いました。お姫様は新たに仕立てられた婚礼衣装を身にまとい、椅子に座っていました。わずかな身じろぎさえせずに、まるで人形のように。

 妖精はお姫様の顔の前にふわりと移動し、その手をかざしました。お姫様の目は開いていましたが、その紅い瞳には何も映っていないようでした。白磁よりもさらに白い肌は、血をすべて失ったかのようです。妖精は目を閉じ、奥歯を噛み締めると、目を開けて、ゆっくりと噛み含めるように言いました。


 いいかい?

 よく聞いて、お姫さま。

 あの怪物から伝言だ。

 必ず助けに行くから、それまで待っててくれってさ。


 妖精の言葉に、お姫様の瞳がわずかに揺れました。妖精はあわてず、ゆっくりと言葉を繰り返します。


 あなたを救うために、

 あの怪物は今、この城に向かってる。

 あの怪物はここに、

 あなたのもとに、

 向かっているんだ。


 お姫様の肌に、少しずつ血の気が戻っていきます。何も映していなかった瞳に、小さな光が灯りました。妖精はさらに言葉を重ねます。


 わかるかい?

 あの怪物は生きている。

 あの怪物は、生きているよ。


 ああっ、と安堵の声を上げ、お姫様は椅子から立ち上がると、じゅうたんに膝をついて座り込みました。その瞳から、喜びの涙がこぼれました。


_____________________________________

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