村人Oとその他大勢
短めです。
朝日に照らされ佇む彼女と風に揺れる青々とした草原はどこか神秘的で何人たりとも寄せ付けない、そんな雰囲気を醸し出していた。
救世主を探しこの場までたどり着いていた一行は、立ち尽くしたその場から足を動かすことも声を発することも出来ずただ茫然とその光景を見つめていた。
「うわっほい、人間がいたっ」
先ほどまで起こっていたーーーー自分で引き起こしたーーーー現象とそれを引き起こせる自分の新たな力の魔法について考え込んでいた月。
彼女は風が止んでからどこか騒がしい空気を不思議に思って周りを見渡し……
興奮したように声を上げた。
彼女の声を聴き動き出した一同は王子を先頭に慌てて両膝を地面に付け鞘ごと剣を外し、柄を相手に向けて差し出した。
慌てていたからか先ほどの神々しい光景を見ていたからなのか彼らは無意識にいや、本能的に神への剣礼をしていた。
「え、あ、ちょ、えぇ?」
勿論そんな礼法など知る由もない彼女はーーー跪く行為がどういうものかはわかっていたがーーーどうしたらよいのかわからず、ただ両手を胸の前に出し左右に振り”やめてくれ”と必死に表していた。
また反対に彼女の考えなどわからない彼らは、反応のない彼女の様子に慌てて取った礼にどこか不作法な部分があったのではと真っ青になりながら顔を下げ続けていた。
彼女と彼らが平行線を辿り事態が収拾し辛くなってきた頃にやっと、月は「あ、頭を上げてくださいっ」と正解を導きだすことが出来た。
頭を上げた彼らは剣を傍らに戻し跪いたまま彼女を見つめる、見つめられた彼女は頭の中では動揺に動揺を重ねたかのように慌て狂っていたが、面には出さず、じっと一団を見つめていた。
ななななななんでこの人たち私の前に跪いてるの?!
いや人間を見つけることが出来たのは嬉しいよ。
嬉しいんだけど、対応がおかしいよ???
私は王か神様ですか?!?!
ただのJKでただの引きこもりなんですけど?!
彼女の予想は真実にほど近いところまでは来ていたが、その真意を認めることが出来ず、とりあえずは跪かれるに相応する権威が表せるように堂々と振舞おうと顔を引き締め、跪く一団を見た。
一団の先頭には金の髪に金の瞳をした美しい少年。
甘いフェイスに凛々しさを足した、完ぺきといっていいほどの美しさだった。
その少年の向こう側にはこれまた色素の薄い容姿をした50人程の騎士達が膝をついている。
一同は彼女の一挙一動を見逃すまいと目を凝らしこちら見つめていた。
一同を見つめていてまず引っかかった点は
『日本が好きだって設定ではしてたんだけど、なんでこんなに西洋っぽい人たちばっかりなの?』という容姿に関する点だった。
彼女は気づいていないが好きな言語や食事は日本と設定したが、国は設定していなかった。なのでそこの国に住む人間が西洋顔でもなんら不思議はない。
次に彼女が引っかかった点は騎士達の鎧が西洋中期当たりの鎧に似ているという点だった。
金属でできているであろうそれは、現代の日本では博物館で見るようなものだった。
そういえば某見た目は幼子、中身は大人な眼鏡の少年が出てくる一日に何人も死ぬ話でも、こういう鎧で殺人を犯した者もいたなとどうでもいいことも思い出した。
このこと(?)からもここが現代の日本とは程遠い生活水準だということがわかる。
いや、魔法があるからそこまで変わらないのか?
もともと引きこもりの資質があった彼女はこれまでの17年の歳月をほぼ家で過ごしてきた。
それに加え彼女は研究者の気質をも携えており、気になりだすと止まらない性格であった。
そんな彼女はふと銃はどこで生まれどのように日本の種子島に流れ着いたのかが気になった。
その時に調べた情報によれば、中国では8世紀ごろには原型が生み出されていてそれが徐々に広がり、西洋では15世紀ごろには生産されるようになった、と調べた結果ではそうなっていたと記憶している
この知識と照らし合わせ、彼らが剣を携えていることからもここの武器の水準は拳銃が発明される15世紀以前水準であるということはわかる。
黙ったままこんな推測を淡々と立てていた彼女に、一団はまたもやどこかに何か彼女の気に障ることがあったかとガチガチに緊張していた。
そもそも彼らがこんなに彼女を恐れるのは、先ほど彼らの目の前で起きた現象ーーー風が彼女の周りを舞っていた現象ーーーが圧倒的な量の魔力と、その魔力を操作する技術によるものだと理解し、それをさも当たり前かのようにやってのけてしまった彼女に恐れ戦き崇拝の念を抱いているからだった。
そんな彼らの恐れには気が付かない彼女は、気安げに話しかけた。
「とりあえず、貴方達はどなたですか?私を知っているようで…」
そのあとに続く言葉が出なかったのは今まで黙ったままだった彼女が話し出したことに一団が大きく動揺を表したからだった。
ハッと何かに驚いた後、王子を中心に跪いていた一同は照らし合わせたかのように一斉にもう一度頭を下げた。
彼女が途切れた言葉を続けようかと迷ったところで、一団の先頭にいた美男子が「御無礼をお許しください!」と更に頭を深く下げた。
「う、うん、いいよ?それで……貴方達は?」
咄嗟に言葉を出したので敬語が取れてしまったが、一団の顔色を窺ってみても何の反応もない、これは敬語でないほうが自然なのか?と考えながら目線で発言を促した。
「私共はミリタリアの騎士であります。そして私はミリタリアで王子をさせて頂いておりますルーク・フランシス・アドルファスでございます。」
「ルーク・フランシス・あど…る…ふぃす?」
カタカナの発音とはなんとも難しいものだと思いながらも、ぶつぶつと口の中で練習してみる。
何度言ってもファミリーネームが流れに乗って言えない。
それにみかねた王子は「どうぞルカとお呼び下さい。」と言ってくれた。有難や有難や
「おっけ、ルカね」
もうさっきまでの堅苦しさはどこへ行ってしまったのか、彼女は『うわぁ、テンプレなオウジサマダァ』と心の中で苦笑しながらも、ふふふと優しく微笑んだ。
その笑みに緊張が解けたのか、王子もまた微笑んで話し出した。
「私達は救世主である貴女様を迎えに来たので御座います。」
「救世主??」
彼らの事情やこの世の情勢など微塵も知らない彼女は、救世主を迎えに来たという言葉に理解が追いつかない。
救世主とは誰のことだともう一度王子改めルカは「貴方様で御座います」と答えた。
理解はできない、いや、したくはないがそれでは話が進まないので、置いておく。
先を促せば出てくる出てくるこの世界の危機的状況。
そして、もう私達を救えるのはあなたしかいないどうか城に来てくれとほぼ半泣き状態で懇願された。
『面倒くさそうな匂いしかしない』と思いながらもお人好しと好奇心に釣られ頷いてしまい、共に城に向かうこととなった。