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1話

新作です。

よろしくお願いします。

 一章 合作


 どうやら俺には、小説を書く才能がないらしい。


 午前の授業が終了した昼休み。教室の白いカーテンが、五月の風に揺れていた。


 そろそろ進路を考え始めねばならない、高校二年生始まりの時期。俺は教室の片隅で、携帯に映し出された『小説新人賞一次選考通過者』の画面を見ながら、自分の程度の低さに失望していた。


 その画面に、俺の名前は記されていない。


「……まぁ、こんなもんか」


 つい独り言が漏れてしまう。小学生の頃から目指し続けてきた、小説家になるという夢。けれど無謀とも言えるその夢は、今日で終わりとなった。


「翔太郎、何ぼーっとしてんだ。早く『ギルゼノ』始めるぞ!」


 隣から友達の鏑木君が急かしてきた。彼のスマホには、ゲームのクエストに入る前の待機画面が開かれている。


「あぁ、ごめん。やろうか」


 彼の声を機に、俺の意識は現実へと戻される。

 鏑木君はがっちりとした体格で、完全なスポーツマンといった見た目をしている。


 けれど、それはあくまで見た目の話だ。実際は運動がさほど得意ではなく、どちらかというと漫画やゲームを趣味とするガチガチのオタク。


「小玉氏は最近、ぼんやりしていることが多いですな。何かあったんすか?」


 すると今度は、もう一人の友達である長塚君が心配の声をかけてくれた。彼のスマホにも、同じく『ギルゼノ』の画面が開かれている。


 丸メガネをかけたおかっぱヘア。鏑木君とは対照的で、低めの身長とか弱そうなヒョロイ身体。


 普段はこの三人で高校生活を送っているけれど、俺たちの中で一番ゲームが上手いのは、間違いなくこの長塚君だ。


 なんせ彼は、今俺たちがやろうとしている『ギルドゼノバトル』略して『ギルゼノ』というソシャゲの大会で、決勝戦まで登り詰めたことがあるのだから。しかも去年の話。


 最近やり始めたにわかの俺たちとはわけが違う。


「……なんでもないよ。早くやろう」


「そうっすか? まあ、ならいいんすけど」


 ちなみに俺が小説家を目指していることは、二人には話していない。理由は単純に、恥ずかしいからだ。いくら親しい中とはいえ、隠したいことの一つや二つはある。


 俺は気持ちを切り替えて、ゲームへと挑んだ。新人賞で、一次選考にすら通らなかった哀れな現実から、目を背けるように。


 そもそも、俺みたいな何の取り柄もない一般人が小説家になろうだなんて、無謀にも程があったのだ。宝くじで一等を当てたいと言っているようなものだもの。


 今まで自分なりに努力はしてきたけれど、現実を思い知らされた。人生というのは映画や演劇のように思い通りの展開なんてやってこない。


 今年の新人賞で結果が出なければ、小説家になる夢を諦めると決めていた。


 もういい。もうたくさんだ。仕方がない。


 そう心に言い聞かせ、夢を叶えたい気持ちから、そっと蓋を閉じた。


「あー、やられた!」


 鏑木君が敵にキルされ、開始早々に退場した。


「あっ、しくった……」


 次に俺が退場。


「ちょっとお二人さん、しっかりしてくださいよ」


 残るは長塚君のみ。まあ無理もないか。なんせ今やっているのは、上級難易度のクエストだもの。それも、かなりやりこんでいる上級者でも手を焼くほどの。


 ……仕方がない。あとは長塚君に任せるとしよう。


「……あっ」


 すると、先に退場して退屈そうにしていた鏑木君が、教室の端に目をやる。


「見ろよ。今日も一人でなんか描いてるぞ」


 鏑木君が目を向ける先。そこには、一人で絵を描いている女子生徒がいた。


「あぁ、赤根さんね」


 その女子生徒は、赤根美雨という一人のクラスメイトだった。


 いつも自席で一人、絵を描いている女の子。友達がいるのかどうかは定かではないが、彼女が誰かと話しているところを見たことがない。


 いつも一人で絵を描いている印象が強い人。逆に言えば、それくらいの印象しかない。


 ただ彼女の場合は、自らそれを望んでいるように思える。


 以前までは彼女も、クラスメイトの女子たちから話しかけられたりもしていた。でも赤根さんは「悪いけど忙しいから話しかけないでくれる?」と冷たい態度をとって追っ払っていた。


 それからというもの、ただひたらすら絵を描いていたいのではないかと思うほどに、周りに近づかれるのを強く拒んでいる印象がクラス内に植え付けられたのだ。おかげでクラスでも少々浮いていらっしゃる。


「赤根さんってそっけない感じはするけど、顔は可愛いよなぁ」


 鏑木君はそう言いながら、隅に座る赤根美雨を見つめていた。


 まあたしかに、顔立ちはかなり整っている。


 黒髪のボブヘアに、中学生にも映る小さな身体。ぱっちりと見開かれた大きな目は、童顔な彼女をさらに強調している。


 物静かでそっけない雰囲気のある彼女だが、その美麗な容姿も手伝ってか存在感がある。


 それもあり一部の男子からは憧れを抱かれ、逆に女子からは敵意を向けられているイメージだ。そういうところもクラスで浮いている理由なのだろう。


「いったい何を描いてるんだろうな」


「鏑木君、あまりジロジロ見るのは失礼だよ」


「あー、悪い悪い。ちょっと見惚れてたわ」


 がっちりとした強気な見た目とは裏腹に、意外と素直でかわいいやつだ。


 そんなことを考えていた矢先、今度は長塚君が口を開いた。


「なんか漫画家を目指しているらしいっすよ」


 長塚君は今、スマホの画面に目をやっていない。


「え、クエストは?」


 俺が訊ねると、長塚君はあっけらかんと答える。


「負けました。面目ねぇっす」


 マジか……。長塚君ならクリアしてくれると思っていたのに。


「何やってんだよ!」


「最初に脱落した鏑木君にだけは言われたくねぇっすよ」


 ごもっともだ。いや、それよりも……。


「赤根さんって、漫画家を目指しているの?」


 俺は長塚君に訊ねた。聞いたこともない情報だったため、少し興味が湧いたのだ。


「噂っすけどね。前に漫画を描いてるところを見たって、クラスの女子が言ってましたよ。まあ、僕はたまたまそれを盗み聞きしてしまっただけなんすけど」


「ふーん。そうなんだ」


 まあ、あまり人のことをコソコソと話すのもどうかと思い、話はそこで打ち切られた。


 そして俺たちはまた、クエストのリベンジに挑む。


 にしても、……漫画家か。俺は小説家志望だけれど、同じく作家の道を目指す者としては、少しばかり親近感を感じた。まあ俺は今、夢を諦めたばかりなのだけれど。


 何にせよ、赤根さんには諦めずに頑張って欲しいものだ。彼女と話したことはないけれど、なんとなくそんなことを思った。


 

 

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