美紀との再会
スマホを取り出し「もうすぐ着きます」美紀にメッセージを送った。
大垣から2時間ほどで着いた。インターを降りてから京都駅の近くの駐車場に車を停め、1時の待ち合わせの改札口の前で待った。改札口に美紀が姿を現した瞬間、パッと表情が緩む。美紀も満面の笑顔で手を振りながら近づいて来た。二人は自然に「お久しぶりですね」「お久しぶりです」と笑顔で挨拶を交わしたが、心の中では再会の感動が静かに波打っていた。
車に乗り込み、お互い少し興奮しつつ軽い話をしながら、何となく清水寺へと向かった。
春とはいえ雨が降って寒かった。お互いに、「あの時は、もう会えないかもと思っていました」と本音をこぼし合い、再会の喜びをかみしめていた。
初めて二人きりで会う、緊張した初デートなのに、話は思っていた以上に弾んで、英一はホッとした。
清水寺の駐車場で車を停めた。やや緊張しながら英一は聞いた。
「美紀さん、キスしても良いですか」
美紀は黙って、うなずいた。英一から顔を近づけ軽くキスをした。
そして、ひと呼吸をおいて更に英一から強く唇を絡め合った。美紀も身体を寄せて来た。
しばらくして、美紀は
「ちょっと待って」と言って、呼吸を落ち着けようとして、手で顔を覆いながら深く深呼吸をした。車の中はしばらく沈黙があって、二人ともドキドキしながらお互いの顔を見たり逸らしたりしていた。
美紀は深呼吸を終えると、
「なんか…夢みたいですね」と少し恥ずかしそうに笑った。英一も
「ほんとに…もう二度とこういうことは無いと思っていた。」と正直な気持ちを口にした。
車の中で、再び静かに見つめ合った二人は、今度は自然と引き寄せられるように、もう一度深く唇を重ねた。今度は互いに会いたかったという、想いがあふれ出るように、ゆっくりと、でも強く確かめ合うように唇を重ねた。美紀の手が英一の肩に回り、英一も美紀を優しく、しっかりと抱きしめた。
これまでずっと胸の奥に秘めてきた気持ちが、一気にあふれ出し、言葉よりも抱擁がすべてを物語っていた。車の中には二人の静かな息遣いだけが響き、まるで世界が止まったような感覚になった。
お互いに少し満たされた二人は、少し顔を離してから、美紀が
「こんなこと…本当にしていいのかな…」と小さく呟くと、英一は
「今は、ただこの気持ちのままでいましょうよ」と優しく答え、またそっと額を寄せあった。
二人は、火照った余韻を残しながら車から降りて、参道を歩き清水寺へと向かった。
外は小雨が降っていて寒かったけど、二人は少し興奮気味だったので寒くは無かった。どちらからともなく手をつないで、坂を上った。坂道は、雨に濡れてしっとりとしていた。二人は、さっきまでの甘い余韻を心に残しながら、静かに歩を進めた。美紀がふと
「本当に来て良かった…」と小さく呟くと、英一も
「私も…ずっとこの日を待っていました」と答えた。
雨粒が木々の葉を打つ音が静かに響く中で、手をつないだまま、二人は肩を寄せ合いながらゆっくりと坂を上り続けた。冷たい空気の中でも、互いの体温が手のひらを通してしっかり伝わってきて、まるで二人だけの世界に包まれているような感覚だった。
清水寺の上から、遠くの山並みや町並みを眺めた。窓の外に広がる京都の景色はどこまでも静かで、雨に煙る山並みが幻想的に見えた。でも二人にとっては、その景色さえも、ただ通り過ぎる背景にしか思えず、心の中はさっきまでの抱擁の温もりがまだ残っていて。非日常の景色がさらに二人の気持ちを高ぶらせていった。
清水寺を見学してから、二人は近くで落ち着いた雰囲気の古民家風のお蕎麦屋さんに入り、窓際の席に座った二人。まだ少し興奮が冷めやらぬ様子で、メニューを見ながらも時折目が合い、自然と笑みがこぼれた。
「寒かったから、温かいお蕎麦がいいね」と里美が言うと、英一も
「うん、身体も心もホッとしたい感じだね」と応じた。頼んだのは、地元で評判の鴨南蛮そば。湯気が立ち上る器が運ばれてくると、二人とも
「おいしそう」と声をそろえ、しばらくは夢中で箸を動かした。
食べながらも時折目が合い、美紀が
「まさか、こんな風になるなんて思わなかったな」とぽつりとつぶやくと、英一も、
「本当ですね。人生、何が起きるか分からない」としみじみ言った。その瞬間、二人の間に穏やかで温かな空気が流れ、心の距離がまた少し縮まった気がした。
美紀がつぶやくように言った。
「スペイン旅行に一緒に行ったもう一人友達が、「声をかけなよ」と言ってくれたので、勇気を出して英一さんに声をかけたの」と、言った。
お蕎麦屋さんを出た二人は、特に行くところも無く京都周辺をドライブした外はまだ雨が降っていた。しばらく走ってから、英一はお寺の広い駐車場に車を停めた。雨で寒いので、観光客も少なく、駐車場にはあまり車が止まっていなかった。英一は、車を誰もいない所に停めて、どちらともなく抱き合って今の想いをそのままに、再び激しく唇を絡めた車内は雨音と二人の静かな吐息だけが響いていた。しだいに、窓が熱気で曇ってきて、車の中は二人だけの世界に入り込んでいるかのようだった。
美紀は、
「夢みたい」と、小さく言った。英一は、
「でも、これって現実になんだよね」と応え、さらに身体を寄せ合った。気が付けば、時間も周囲の景色も忘れ、ただお互いの温もりだけを確かめ合うように、何度も深く唇を重ねた。
外の雨はまだ止む気配がなかったが、二人の間には、もう何も隔てるものはないような親密さが満ちていた。