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第5話 狐目令嬢と天気雨(前編)

 私が絢爛豪華に飾られた馬車に乗車しようとした時になってポツリと雨が降り出しました。

 空を見上げても雲はありません。

 天気雨です。


 周囲を囲む人々から次々と揶揄するような声が聴こえます。

 そうです、この国では天気雨は『魔女の結婚』と呼ばれ、不吉なものだとされているのです。

 もちろんそんな迷信を本気で信じている人などいませんが、話しのタネにするには充分でした。

 馬車に乗り込んで、扉が閉まってもガヤガヤとした喧騒は収まりません。

 

 そんな気まずい空気を察したのかエマが話を切り出します。


「さすが王族仕様の馬車ですね。中の席もフカフカです!」

「そうね、これなら道中腰を痛めることもないかもしれないわね」

「本当ですよ! 前回の道中なんて道がガタガタで最悪でしたから」


 外の喧騒が耳に入らないように気遣ってくれたのでしょう。


 今回の縁談が決まった時だって、私と共に遠い異国の地に移ることに何の不満も示さずに快諾してくれました。

 「むしろ私の方からお願いします!」と明朗に笑みを浮かべながら。


 本当に私にはもったいない素晴らしい侍女です。


「それでは、ソフィア・フォン・ノイラート公爵令嬢のご出立です!」


 パラパラとまばらな拍手が響きます。

 今回の出立のセレモニーだって規模はとても小さいです。

 ノイラート公爵家と懇意にしている貴族くらいしか見送りには来ませんでした。

 ですが、そちらの方が私にとってはありがたい話です。

 変に憐れまれることも蔑まれることもないのですから。


 そして私たちを乗せた馬車がゆっくりと動き出します。

 後ろには結納品を積み込んだ馬車が十台近く続きます。

 以前の時の倍の数の馬車ですが、王族相手の婚姻にしては馬車の数は少ないです。

 本来であればこの倍は結納品を詰め込んだ馬車が一列になって、権威を見せつけるように並んで進んでいくのです。


 この馬車の数からも、プロノワール王国がブランク王国を下に見ていることが分かります。

 これを見て気を悪くしないか、今から心配です。


 だからこそ……。


「ねえ、エマ。本当に私についてきていいの?」

「……と言いますと?」

「私は恐らくブランク王国に骨を埋めることになるわ。でもあなたは違う、あなたは選ぶことができるの。あなたには家族だって残っているし……結婚だってしていないでしょう? 私についてきてしまったら、女としての幸せを放棄することになるかもしれないのよ?」


 そうです、ここから私が向かうのは誰ひとり顔の分からない異国の地。

 言語だって違います。

 そんな地に、こんなに素敵で可愛らしい侍女を道連れのごとく連れていく、というのは気が引けるというものです。

 せめてエマだけでも幸せになってほしい。

 そう思うのは私の傲慢なのでしょうか?


「ガッカリです」

「そうね……私ったらこんなにも……」

「そうじゃなくて! ソフィア様が私を信頼してくれてないことに対して、です!」

「え?」


 声を荒げるエマの語気に私はたじろいでしまいます。


「私は本気です。本気でソフィア様にお仕えすると、例え地獄の果てだろうと付き従うと決めているのです。その忠誠を疑われることが私にとって何よりの不幸なのです」

「エマ……」

「大体、異国の地にソフィア様を一人にするなんて心配で心配で、この国に残ったとしても何も手につきません!」

「それはさすがに大げさではないかしら……?」

「いいえ本気です。信じてくれるまで何度だってお伝えします。私、ブランク語を勉強して少しなら話せるようになりました。慣れない異国の地で辛いことがあったなら、朝までだって相談に乗れます。だから私を傍においてください」


 真剣な炎を目に灯してエマは私を真っすぐに見つめます。

 思わず熱いものが胸の内から溢れ出てきそうになりました。


「ええ……ええ……もちろんよエマ」


 ああ、私は何て幸せものなのだろう。

 エマさえ傍にいてくれれば、どんな災難がこれから私に降りかかろうとも耐えていける。

 そう思えました。


 そして……何かあった時には絶対にエマだけでもこの国に返してみせると、胸の内の奥深くで、エマには悟られないように決意しました。

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