第3話 私が『狐目令嬢』と呼ばれるようになったわけ
夢を見ました。
私が学園にいた頃の夢です。
公爵家の令嬢という私の立場があってか、入学してすぐの頃は何人ものご令嬢とお話したりもしました。
でも皆一様に私の傍から離れていくのです。
理由はこのキツく吊り上がった目です。
私が普通にしても、相手からすれば威圧されているかのように感じてしまうようでした。
私が口下手なせいもあるのでしょう。
私はずっと不機嫌でいると思われて……皆私のことを怖がって……皆私の元から離れていきました。
それでも私は公爵令嬢です。
家の家格、それも関係して話しかければ怯えながらも話を聞いてくれる方もいました。
幼い私は考えました。
勉強を頑張って、学園の中で優秀な成績を納めることができれば、この状況も好転してお友達もできるのではないか、と。
それからの私は必死に勉強しました。
朝早くから、夜遅くまで。
その甲斐あってか、一年後には学内でも一番の成績を納めることができたのです。
やった、これで友人を作るキッカケができた!
当時の私は無邪気に喜びました。
そして程なくして無駄だと知りました。
成長期が訪れ、私のつり目はますます吊り上がり、物語に出てくる悪役令嬢のような人相になってしまったのです。
きっと夜遅くまで勉強していたせいもあったのでしょう。
視力は衰え、目を細めて遠くを見ることが増えました。
そのせいで睨まれている、と錯覚する方が続出してしまいました。
私が勉強している間に生まれていった貴族令嬢たちのコミュニティの間で──きっと私の成績に対する嫉妬もあって、私はこう呼ばれるようになりました。
『狐目令嬢』
始めは狭いコミュニティの中で、私を蔑むためだけに生まれた陰口でした。
しかし陰口はドンドンと広がっていくものです。
いつの間にか『狐目令嬢』という私の蔑称は社交界の間でも浸透し、あることないことが噂されるようになってしまいました。
本当の私を誰も知らないので、広まる事実無根の噂だけで私の人格が形作られていきました。
傲慢で……辛辣で……我が儘。
それが社交界に広がる私のイメージです。
社交界で広まってしまったイメージを覆すのは至難の業です。
何故なら相手にしなければいけないのは空気。
掴むことも引っ張ることも、ましてや吹き飛ばすこともできません。
公爵であるお父様も、家の名誉のため事実は違うのだ、と説いて回りましたが、それでも効果はありませんでした。
そして『狐目令嬢』、こんな蔑称を持つ私を妻にしようなどと考える奇特な人などいるはずもなく、私は結婚適齢期を過ぎても、ずっと独り身のまま。
私もカルマン子爵が愛していた相手と同じように、可愛らしく麗しい容姿をしていれば少しは状況が違ったのでしょうか?
いえ、そんなこと考えても無駄ですね。
このキツく吊り上がった目を変えられる人なんてどこにもいるはずないのですから。