劇場
照明が消されると同時に立ち上がった拍手は、次第次第に静寂へと回帰していった。その静寂の中で幕が上がっていく。舞台の奥には白砂を想わせる幕が張られていて、黒い衣装を纏った一人の女が立ちすくんでいる。まるで操り手を失った人形のようなその静止は、見る者の心を掻き立てる何かがある。不穏なる静謐さが会場に満ち満ちて、いよいよ破裂しかけた瞬間、背景の白砂がぱっと地面に落ちた。砂粒の一つ一つが散らばったかのような錯覚が観客を襲う。床の上に導かれた視線が再び女の体躯に向かうとき、そこに現れたのは死装束の白であった。その代わりに背景はマレーヴィチの黒で占められていて、前後の色が入れ替わる形となった。その鮮やかなる交代劇に人々が息を呑む間もなく、女の足元に放られた黒い衣装は下手側に流れていき、同時に上手側から赤い衣装を纏った男たちが現れる。女の周囲に集った男たちは、僅かな静止の後に画一的な舞踏を始めた。それはどこかの民族的舞踏を模倣したようであり、また同時に無国籍的なものであって、つまりは新様式の舞踏だと言えた。男たちの舞踏の間も女は静止したままであり、ここに至ってようやく舞台上で行われていることの法則を観客たちは理解した。
対比、それこそが主題なのである。
やがて舞踏を終えた男たちは、女に向かって跪き、頭を垂れる。祈りが通じたかのように、女が初めて静から動へと転じた。地面に落ちたままであった白砂の上に立ち、いよいよ踊り始めるかと思われた。しかし次の瞬間、奈落から現れた姿見が立ち塞がった。その向こう側で女はたしかに踊り始めたのだが、見えるのは鏡をはみ出した手先や足先ばかりで、肝心の女の肉体の芯は見えない。客席の照明が僅かに灯され、姿見には観客たちの表情が映される。女の舞踏を思い思いに空想した観客たちは、皆が恍惚とした表情を浮かべている。巧みな計算の上に成り立った舞台は、いよいよクライマックスに向かおうとしていた。
そのときだった、一発の銃声が鳴り響いたのは。
そのあまりにも異質な破裂音を、しかし観客たちは演出と信じて疑わなかった。二発、三発と続くごとに男たちが倒れ、その腹や胸から血が溢れ出ても、逃げ出そうとする者はない。最後に姿見が貫かれて白砂が赤に染まっていくと、観客たちは総立ちになった。死は甘美なるものとして、万雷の拍手の中で迎え入れられたのであった。




