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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第五章 クレタスの激闘
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第78話 魔装重兵

 マフュの率いる修練兵の部隊とグレータエルートの部隊は、常から共に訓練を積んでいたかのような動きを見せ、ソルジ北部に展開しているセチュバーの軍を圧倒していた。


 グレータエルートの作り出した小規模な砂嵐が、セチュバー軍の間を通り過ぎると、まるでそれに導かれるかのように、修練兵がセチュバー軍へと襲い掛かった。


 目や口に異物の侵入したセチュバー兵達は、修練兵の操る修道の槍の前に無残な屍となってゆく。


 砂嵐は殺傷力も無い目くらまし程度の精霊魔法であったが、修練兵が同時に突入することで、セチュバー軍に多大な被害をもたらした。


 辛くも砂嵐から立ち直ったセチュバー兵は、懸命に反撃を試みる。だが、敵に深く切り込まれた隊列の内側から、大地が大小さまざまに隆起し陣形が乱され、修練兵の勢いを止めることができない。


 中には、修練兵へと攻撃の矛先を向け動き出した部隊もあったが、上から襲い来る風の矢に翻弄される事となる。


 グレータエルートが、隆起した大地の上にその姿を現し、セチュバー兵の頭上から攻撃を仕掛けたのだ。


 迫りくる修練兵に加え、立体的に襲い来るグレータエルートの猛威に、セチュバーの軍は混乱の様相を強めていた。


「セチュバー軍は、対魔人族の訓練をつんでいる。この混乱も一時の物と考えよ。我らはこの機に乗じて突破する。西の軍の背後を突くぞ!」


 局地的には優位に進めているが、兵力の差はいまだに大きい。マフュは、修練兵達に気を引き締めるよう大声で檄を飛ばすと、目の前の敵兵を横薙ぎに切りはらった。


 しかし、マフュの心の中には、敵に対する疑念が浮かんでいた。


 エルート族の精霊魔法だとは言え、魔人族との戦闘を想定し訓練している軍が、これほど脆いものなのだろうか。


 中央王都を占領しているセチュバー軍が、敵軍の中にあって一番の戦力であろうことは分かるし、ソルジ攻めに回っている軍がそれよりも劣る部隊なのはあり得る。


 それでも尚、侵略者の洞窟を守り続けていた者達が、この程度であったのかと言う思いがぬぐい切れないのだ。


 その上、切り捨てているセチュバー兵達が、年齢的に若い者ばかりであるのも気になるところだった。


(・・・雑念を持てば、熟練兵と言えど剣先が鈍り命を落とす。私程度の若輩が、疑念を抱きながら戦ってどうする)


「負傷した者は離脱し、北門よりソルジ内部へ戻れ!後方から、別働隊が迫っている事を忘れるな!」


 マフュは疑念を心の奥に押し込むと、味方へ向けて指示を飛ばしながら、左胸部に固定されたゲージへちらりと視線を巡らせた。


 スルクロークから送られている、ソルジ全体の戦況を把握するためだ。研ぎ澄まされた視神経が、ゲージの情報を一瞬でマフュに読み取らせる。


 ソルジ側では、警備隊の部隊がスルクロークからの指示を受け、修練兵の後続から離れてソルジ北門へのルートを懸命に確保するよう動いていた。


 南のセチュバー軍は、遅れているとは言え後方より迫っている事に変わりなく、挟撃されれば形勢は逆転してしまう。


 負傷者やマフュ達から遅れ始めた者は、北門より速やかに退避し、ソルジ内部の防衛に加わるのが望ましいと判断できた。


 そして最後に、西側に展開していたセチュバー軍が、ソルジ内へ進攻しているとの情報も伝えられていた。


 オルガート、エッボス両名の活躍により、ソルジが即時に陥落するのは免れていたが、セチュバーの魔装重兵を軸とした攻撃の圧力に、戦線はソルジ深くまで押し込まれているようだった。


 逆に捉えれば、西のセチュバー軍の多くはソルジに侵入しており、後方から攻める千載一遇のチャンスであるとも言える。


「突破する!私に続け!」


 マフュの声に合わせ、一陣の風が砂を巻き上げながら、セチュバー軍へと強く吹きつけた。


***


「こいつは中々しんどい!若い頃は、もっとスタミナが持った気がするんだがな」


「寄る年波には、勝てない物ですね」


 エッボスの上げる声に、オルガートが淡々とした声で答えを返す。


 その間も休むことなく、嵐の様に修道の槍を振るっている二人から発せられた言葉とは、到底思えないやり取りだった。


 町並みを巧みに利用して戦闘している為、セチュバー兵に囲まれる事こそ無かったが、数の力で徐々に押されており、西門から教会までの道のりの半分まで攻め込まれている。


 戦線を絞る目的で町の各所に設置された兵士止めや障害物も、時間と共に破壊され、その効力を大部分の物が失っていた。


 二名の修道騎士の背後へ回り込もうとするセチュバー兵は、漁師や警備隊が何とか防いでいるものの、それも限界を迎えつつある。


 西門において、エッボスから直接指示を受けていた漁師や警備兵の中で、生き残っている者は誰一人いない状況となっていた。


「教会まで押し込まれなければ、勝ちって事でいいんだな」


 踏み込んで数名の敵兵を切りつけ、戻りざまにエッボスはオルガートへ確認する。


「そうですね。教会には負傷者等が沢山いますから、守りきれないでしょうし、人質にされれば手が出せませんからね」


 オルガートは返事を返しながら、流れる様に二人の敵兵へ止めを刺した。


 オルガートとエッボスは、互いにフォローし合える距離を保ち、道幅いっぱいに攻撃の手を広げている。


 攻め込まれている状況を判断しながら、防衛線を徐々に下げているのだ。


 しかし、じりじりと下げている防衛線を、大きく引き下げなければならない事態が二度ほどあった。


「ちっ、また出やがったか。何体準備していやがる」


 エッボスが吐き捨てるように言った正面には、五体の重装備をした兵士が立ちはだかっていた。


「あの中央にいる一体、打ち漏らしていたようですね。左肩防具の裂傷、私が切りつけた物で間違いありません」


 オルガートは、冷静な声でそう言うと、隙の無い目をして修道の槍を構えなおす。


 二人の前には、魔装重兵と呼ばれる重装兵が姿を現していた。


 オルガートとエッボスが、戦線を大きく下げる要因を作ってきた相手だ。


 人が装備しているとは思えない重厚な鎧の両腕に、通常の物の倍以上の厚みをした剣を備えており、鈍重に見える外見からは想像もできない程の速さで攻撃をしかけてくる。並みの兵士では、その突進を抑えることなど出来ない重兵士だ。


 弱点を上げるならば、エネルギー結晶の消費が激しく、長期戦への投入が難しいという部分だろう。


「エネルギー切れを起こしてただけで、補充を受けて戦線復帰しやがったのか。何度も相手してたら、こっちがエネルギー切れしちまうな」


 エッボスが毒づくのも仕方ない事だった。これまで二度に渡って、十数体の魔装重兵を打ち倒していたが、そのたびに大きく戦線を押し込まれていたのだ。


 しかし、オルガートは、その姿に微かな違和感を感じていた。


 ここまで戦ってきた魔装重兵と、どこか雰囲気が違う。肩に裂傷のある重兵からも、同様の違和感を覚えていた。


「何か嫌な気配を感じます。エッボス、お気をつけてください」


「おう、数が減ってるとは言え、面倒な相手であることに変わりはないからな」


 オルガートの忠告に、エッボスも慢心を感じさせない声で返事を返した。


 魔装重兵が、沈み込むような体勢を取り、エネルギーを脚部へと集中させる。重装甲を活かした突撃を仕掛けてくる前触れだ。


 オルガートとエッボスは、これまでの戦いの経験から、魔装重兵が動き出すよりも先に攻撃を仕掛けるよう動きだす。


(変わりがない?そうでしょうか、外見から感じるこの違和感は間違いない物です。何か見落として・・・これは!?)


 修道の槍の間合いへ踏み込む寸前、オルガートは自分の引っかかっている部分が何であったのかに気付くことができた。


「回避を!」


 オルガートは、そう叫ぶので精一杯であった。


 踏み込む足を軸に、前へ進む力を逃がして体を半回転捻る。修道の槍の重さを利用し、体幹のバランスを取ると、一連の動作で真横へと飛びのいた。


 オルガートが回避行動をとったのは、直感とも呼べる判断からだ。


 その刹那、オルガートの体が存在していた場所を、恐ろしいまでの速度で、魔装重兵の重装甲が通り過ぎた。


「うおおお」


 避けきれなかったエッボスの怒声が、鈍い金属音と同時に響き渡る。


 魔装重兵二体の体当たりを正面から受け、建物の壁が破壊される音と共にエッボスの姿は消えていた。


 魔装重兵二体も、同じく建物の中へと姿を消している。


「エッボス!」


 オルガートは敵の動きを見据え、声だけでエッボスの名を呼ぶが返事は返ってこない。


(正面から見ても分かりませんでしたが、脚部の装甲がこれまでの魔装重兵と異なりますね。速度が増しているのは、その為でしょう)


 魔装重兵の脚部は、前後に厚みを増しており、脹脛ふくらはぎの後方から魔力を放出することで移動速度を増している様だと、オルガートは分析した。


「よく避けられたものだ。流石は修道騎士オルガート・アルーマと言った所か」


 肩装甲に裂傷のある魔装重兵が、二体の魔装重兵と共にオルガートを囲むように移動し、数歩の距離をたもちながら武器を構えて言うのだった。

次回投稿は3月10日(日曜日)の夜に予定しています。

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