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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第四章 深き大森林での再会
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第74話 お食事処『呑気な精霊』

 『呑気な精霊』という名の店は、町の入り口と樹殿を結ぶ大通りから、少し奥まった所にあった。


 ピアラタの町並みは、自然に育った樹木の配置を基調としている為、人族の町とは違った造りをしている。


 その為、シトスから店の場所を知らされていようとも、パリィの案内無しではスムーズに見つけられなかっただろうなと、三郎に思わせる程だった。


 パリィは「ではでは、積もる話も有るでしょーから、パリィはこの辺で失礼させてもらうって感じで」と言い残すと、ピアラタの町へ姿を消して行った。


 おすすめメニューの書かれた立て看板の横を通り、店の扉をくぐる。すると、三郎達が来るのを承知していたかのように、シトスの待つ部屋へと案内されるのだった。




「では、改めて再会の喜びを」


 シトスの言葉を合図に、全員がグラスを傾けると、ささやかながらも再会を祝う宴が始まった。


 三郎のグラスには、冷えたシュレメーケと言う飲み物が注がれている。エルート族に愛飲されている酒だが、三郎の舌は日本酒を彷彿とさせる懐かしい感覚を覚えた。


 味もさることながら、悪酔いを絶対にしない酒だと言うので、ピアラタに来て以来、三郎は大変気に入っていた。


「シトスもムリューも、帰って来てすぐで、体的に大丈夫だったのか?」


 二人に怪我の無い事は、昼間に合った際に聞いていたが、疲れてはいなかったかと三郎は心配する。


「心配には及びませんよ。それに、再会を喜び合う時間が作れるのも、今くらいの物です」


 三郎の気遣いに、シトスが笑顔で返事を返す。


 シトスの言葉通り、三郎達は明日の朝になれば、グレータエルートの軍と共に中央王都へ向けて出発する事になっているのだ。


「それに、ずーっと直接会ってお礼が言いたかったから。三人は、私の事を見て知ってるだろうけど、私としては今日が初対面なんだよね。ふふふ、何だか不思議な感じ」


 ムリューが嬉しそうに、一人一人の顔を確認しながら言う。


「感謝の気持ちなら、ゲージで十分受け取ってるわよ。でも、こうして元気なムリューに会えて、私も嬉しいわ」


「れふれふ、しゃぽーもふれひいのれふ。もぐもぐ・・・ふわぁ、このサラダの味付け、とっても美味しいのです」


 トゥームに続いて、サラダを頬張りながら相槌を打っていたシャポーが、唐突に目を輝かせて言った。


 シャポーの前では、自分の顔程もある大きな豆に、ほのかが美味しそうにかじりついていた。


 ピアラタの野菜は、どれも瑞々しくて上質な物ばかりなのだが、確かにこの店の味は一味違うなと思いながら三郎も口に運ぶ。


「でしょー。皆がピアラタに来たら、絶対連れてこようってシトスと話してたの。これから出てくる料理も期待してて良いからね」


「ふふ、それは楽しみね」


「楽しみなのです」


 そう言って笑顔を交わすと、店の名前が面白いだの、出される料理や飲み物がどうのと、女の子らしい会話を楽しそうにし始める。


 ムリューとトゥーム、それにシャポーの三人は、ゲージで頻繁に連絡を取り合っていたので、まるで旧知の友の様に打ち解けていた。


 三郎は、トゥームやシャポーが楽しそうにしている様子を見て、安堵感を覚えている自分にふと気が付いた。


 思い返してみれば、深き大森林の異変に向かうと決めたのも自分であったし、初めて怪我をしたシトス達と出会った時、フラグタスまで送ると決めたのも自分であったと気付いたのだ。


 今のこの時間が貴重なのだと思うと同時に、明日から危険な戦いの場へ、共に向かってくれるトゥームとシャポーに感謝の気持ちを覚えるのだった。


「そっか、女性陣は、ゲージでけっこうやり取りしてたみたいだもんな。俺も連絡してみようとは思ってたんだけどさ、いまだにゲージが上手く使えないんだよなぁ」


 そう言って、三郎は自分のゲージを取り出すと、シトスに見せた。


「トゥームさんから聞いてはいましたが、いまだにですか?」


「いまだに」


 シトスも怪訝そうな顔をして、三郎のゲージを覗き込む。


「こんな感じで、身分証は表示出来るようになったんだけど、連絡とったり、どこぞの情報をみたりとか、全然出来ないんだよね」


 そう言いながら、三郎は自分の身分証を表示させて見せた。当初は、身分証も気合を入れなければ表示出来なかったのだが、最近はかなり楽に表示させられるようになって来ていた。


「シャポーが、魔力操作の先生役をさせてもらっているのですが、なかなか上手くいかないのです。サブローさまが下手くそさんなのでは無くてですね、先生がダメダメなのですよ。サブローさまは、下手くそさんでは決してないのです」


 シトスと三郎の話に気付いて、シャポーが両手の握り拳を振りながら言った。


「サブローが下手くそさんって、何それ、ぷふっ」


「ムリュー、そこだけ拾っちゃダメよ、ぷふふっ」


 シャポーが真剣に言うのが可笑しかったのか、ムリューとトゥームの口から堪えた笑いがもれる。


「まぁ、シャポーは教えるの上手いと思うから、俺が下手くそさんってのは否定できないかもなぁ」


 実際に使えないのだから、自分が下手なのだろうなと、三郎も半笑いで答えた。


「ふむ、下手くそさんですか・・・」


 だが、真面目なシトスは、腕を組んで右手を顎に当てながら呟く。そして、次の質問を続ける。


「サブローが、ゲージを手に入れた時なのですが、すでにほのかさんと出会っていたのではないですか?」


「ぱぁ!」


 ほのかは、自分の名前が会話に出てきたので、嬉しそうに一声上げる。


「んー、確かにゲージを貰ったのは、フラグタスに寄った後だったから、ほのかとは一緒だったな」


「ぱぁ!」


 三郎は、時系列を思い出しながら答える。身分証の表示が出来た時も、ほのかの気付きがあったればこそだったので、間違いない。


「シャポーさんは、魔力操作として、ゲージの扱いをサブローにレクチャーしていたのですね?」


「していたのです」


 シトスの新たな質問に、シャポーは間髪を入れずに答えを返した。


「では最後の質問です。サブローは、精霊魔法の使い方をご存知ですか?」


「あーっと・・・精霊にお願いするような感じで語り掛ける、だっけ?」


「正解です」


 三郎の答えに、人差し指をピシッと立ててシトスが言う。三郎は、シトスが少しばかり酔ってるのかなと思いながらも、真面目に話の続きを聞いた。


「人族のゲージの扱い方と、我々エルートのゲージの扱い方には、少しばかりの違いがあるのですよ」


 シトスの思わせぶりな話し方に、三郎は、面白い物を見るような気分で「ふむふむ」と頷いて返す。


 シトスの話によれば、人族の体内のエネルギーは『魔力』に傾いていると言う。そして、エルート族の体内のエネルギーは『精霊力』に傾いているのだと説明した。


 三郎は、炎の壁と対峙する際、シャポーから教わっていた「魔力に支配された炎」と「精霊力に支配された炎」の違いを思い出しながら聞く。


 確か、自然の炎は、魔力や精霊力のどちらにも偏っておらず、支配される事で属性的な物が決まるのではなかったかと、三郎は記憶していた。


「サブローの体内エネルギーは、ほのかさんとの出会いによって、精霊力側に傾いているのでしょう」


 シトスの出した一つの答えに、一同から「おおー」と声が上がる。


「よって、魔力操作のようにゲージの中を操作する感覚ではなく、精霊に力を借りるように『語りかけてお願いする』感覚で行ってはどうでしょう。我々エルートがゲージを操作する時も、精霊魔法を使うように語りかけに近い感覚で行いますので」


「そ、そうなのですね。精霊魔法の使い手は、ゲージの使い方も異なるのですね。シャポーも初めて知ったのです。ピアラタへ来てから、シャポーは自分の無知さ加減を再認識しているのです」


 シトスの言葉に、シャポーが感動して目を潤ませる。未知の知識を得る喜びと言う、魔導師のサガである。


「確かにそうかも。メッセージを送る時も『誰々にこう言うメッセージを送りたいからお願い』って気持ちで、ゲージの操作をしてるかも」


 ムリューも自分のゲージ操作を改めて考えてみて、感覚を言葉で伝えてくれた。


「ふーん、そうなのね。じゃぁ、せっかくだし私のゲージに何か送れるか試してみたら?」


 トゥームが自分のゲージを取り出し、三郎の前に差し出した。


「そうだな、軍の帰りを待ってる間に、精霊魔法についてちょっと教えてもらってたしな。案外上手くやれちゃうんじゃないか?」


 そう言って、三郎はゲージに向かって心の中で、メッセージが送りたいので手伝ってくれるよう語り掛ける。


「あっ、来た・・・って何よこれ、あはは」


 トゥームのゲージに反応があり、受け取ったトゥームが内容を確認して笑い出した。


 全員が何が送られて来たのか、とトゥームに問いかける。


「笑っちゃってごめんなさい。だってね『メッセージが送りたいです』って来たんだもの。何だか可笑しくなっちゃったのよ」


 一同から残念そうな笑いがもれた。


「いやいや、送れたって事実がすごくない?」


 三郎が、まともにゲージを使えるようになるには、もう少し時間がかかりそうであった。


***


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、明日の出発もあるからと解散となる。


 シトスとムリューが、樹殿まで送ってくれると言うので、三郎達はその言葉に甘える事にしたのだった。


「今日は、疲れてる所ありがとう。次は是非、シトス達がソルジに遊びに来てくれよ。まぁ、色んな事が終わったらになるけどさ」


 隣を歩くシトスに、三郎が礼を言う。


 二人の後方を、楽しそうに会話をしているトゥームとシャポーとムリューが歩いている。


「それも楽しそうですね」


 三郎の言葉を受け、少し考える間を置くようにして、シトスは返事を返す。


「あー、そっか。真実の耳があるから、人族の町は苦手な感じだったりするのか」


 三郎が、シトスの様子を察して言う。真実の耳は、その言葉の裏に隠された感情などが聴き取れてしまうのだ。


「いえ、そうではないのですよ。サブローも含め、トゥームさんにシャポーさんと出会えたことで、人族に対する認識が少しばかり私の中で変わりましたから」


 エルート族の間では、人族は嘘をつく生き物だと認識されていたなと、三郎は思い出す。


「トゥームとシャポーに比べて、俺は大して誠実でも純粋でもないからなぁ。実際のところ、俺の声がどう聴き取られてるのかって考えたら、もうね」


 そう言って、三郎は両肩をすぼめる。


「一言で言うならば『信用に足る響き』と表現すれば良いでしょうか」


「信用に足る、ねぇ」


 そんな会話をしているうちに、樹殿の近くまで到着していた。


「ではサブロー、明日からの行軍は厳しい物になるでしょうが、共に頑張りましょう」


「そうだな、共に・・・って、ん?」


 三郎がきょとんとした顔をして、シトスへ聞き返す。


「お伝えしてませんでしたか?私とムリューも、サブロー達と明日からの戦場を共にするのですよ?」


 三郎は、シトスとムリューが魔人族と激しい戦闘をしたと聞いていたので、一緒に来てくれるとは思っていなかったのだ。


 頼もしい仲間を得て、おっさんは明日、ピアラタを出発する。

次回投稿は2月10日(日曜日)の夜に予定しています。

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