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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第四章 深き大森林での再会
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第72話 電撃的に

「グレータエルートが森に侵入していた魔人族を掃討し、指揮官と思しき者を一名捕らえました。魔人族達は、多数の犬種の魔獣を使役しており、哨戒任務に当たっていたグレータエルートにも多くの死傷者が出たとの報告が入っています」


 ユスルは、静かな声で言うと、三郎達の表情を一人一人確認するように視線を動かす。


 エルート族に死傷者が出たとの言葉に、三郎達は表情を険しくしていた。中でも、トゥームの顔つきは一層真剣な物だった。


 教会の訓練において、エルート族が森の中で戦った場合、無類の強さを誇るのだと教えられていたからだ。


 それほどの強い力を持った魔人族が、クレタス内に侵入していたという事実に、トゥームは危機感を覚えていた。


「大地の精霊力を正常な状態へ戻して頂いたが為に、更なる被害を防げたのだと感じています。改めて、感謝の言葉を述べさせて頂きたい」


 ユスルがそう続けると、四名の長が恭しく頭を下げた。


「いえ、お役に立てたのでしたら、何よりと思います。しかし、死傷者も出ているとの事ですので・・・」


 三郎も、頭を下げて言葉を返した。


「三郎殿には心配される方がいたかの。ふむふむ、そう言えば命を助けられた二人がおりましたか」


 イーバは、三郎の声から誰かの安否を心配する様子を聞き取っていた。


 グレータエルートと聞いて、シトスやムリューは無事なのだろうかと言う思いが、三郎の中に浮かんでいたのだ。だが、この場で個人的な心配事を確認すべきでは無いだろうと判断し言葉を飲み込んでいた。


「確か、シトスとムリューでしたね。彼等の部隊は任務を終えて、現在こちらへ帰還中との事ですよ。魔人族との戦闘では、多大な働きをしたとの報告も受けています」


「そうでしたか」


 ユスルは、報告の中にシトスの部隊が含まれていた事を思い出し、三郎へ安心させるように伝えた。


 死者も出ていると聞いているので、三郎は不謹慎とは思いながらも、彼らが無事である事にほっと胸をなでおろす。


 シャポーやトゥームからも、安堵のため息がもれていた。


「では、話の続きですが―――」


 真面目な表情に戻ったユスルが、魔人族について三郎達へ語り始めた。


 五日ほど前、大地の精霊が静まり返りゲージが使用不能となった為、グレータエルートによる哨戒任務の班が編成されたのだと言う。


 フラグタス方面に出ていた班から、魔力による炎の壁の存在を知らされ、フラグタス方面の北と海方面である南へ向けて軍を展開する運びとなったのだ。


 その後、大地の精霊が正常に戻ると、森の南へ哨戒に出ていた部隊より救援の要請が舞い込む。そこで初めて、ピアラタのエルート族は魔人族の存在を知る事となった。


 ほぼ同時刻に、三郎達の存在についても報告として上がったのだと、ユスルは微かに表情を崩して付け加えた。


 軍本隊と哨戒部隊との連携により、魔人族の指揮官である女性を捕らえる事に成功したのだった。


「魔人族の指揮官は、戦闘の際にセチュバーの国名を口にしたそうです」


 ユスルは、憶測を交えず報告された事実だけを三郎達に語った。


 その指揮官をピアラタへ連行し、事実関係を聞き出す予定である事も伝え、ユスルは話を締めくくった。


「セチュバー・・・」


 トゥームは表情を曇らせて、セチュバーの名を口にする。


 エルートの長達の耳には、深い因縁の響きが聞き取れていたのだが、中央王都やソルジへの侵攻に対する感情であると察して、深く聞き返される事は無かった。


 しかし、三郎の脳裏には別の話が思い出されていた。


(トゥームの両親って、セチュバーに赴任して、侵略者の洞窟での任務中に行方不明になったって言ってたな。魔人族にセチュバーか、トゥームにとってはどちらも良い言葉じゃないよな)


 マフュがソルジに来た際に、三郎が知ったトゥームの過去である。


 確か、侵略者の洞窟の防衛状況を査察している最中、魔人族と遭遇して戦闘となったのだと、三郎は記憶している。


 それは、査察に同行していたセチュバーの士官が、深い傷を負いながらも逃げ延びて、報告した内容だったと聞かされていた。


「あの、少しばかり口をはさませてもらっても、良いでしょうか」


 緊張の為に口数の激減していたシャポーが、右手を上げておずおずとした口調で発言する。


 優しく目を細めたイーバが、シャポーの次の言葉をそっと促がした。


「ではですが、セチュバーの名前を聞いて思い出した事と、頭の中で繋がった事があるのです」


 全員の意識が、シャポーの話へ集中する。


「大地にかけられていた、巨大なパッケージ魔法の座標固定の解除をしまして、マジックカウンターと同様の事を行ったのです。その後に残った、魔力残渣の指向ベクトルが西に向いていたのを思い出したのです。残留魔力が非常に微細となるよう、魔法が組まれていたのですが、シャポーは確かに確認しました」


 シャポーは、努めて分かりやすくなるように説明した。つもりであった。


 エルートの長達は、流石な物で、シャポーの言葉に「ふむふむ」と相槌を打って理解を示す。


 トゥームも、騎士としての学びの中に、対魔法戦闘の訓練も十分に組み込まれており、シャポーの言わんとしている事が呑み込めていた。


 しかしながら、三郎だけが「ん?えーっと・・・ん?」と言って、話に取り残されてしまうのだった。


「大地への魔法を解除した後に、その魔力が少し残ってて、西の方角を示してたって言ってるのよ」


 見かねたトゥームが、三郎に小声で説明を加えてくれる。三郎は、ありがとうと右手で合図を返した。


「ソルジでも同様の現象があって、同じように魔獣が襲って来たと聞いていますので、どちらも同じ魔法が施行されたのだと考えられます。そして、施行元はセチュバーの地で間違いないのではないかと思うのです。魔人族が、魔導砂と言った魔道具を使ったのにも、セチュバーという人族の国が後ろにあるならば、シャポーの中でも納得がいくのです」


「魔導砂についてはさ、三郎殿達をピアラタへ案内した、グレータエルートの隊長から報告は受けてるんだけどもね。確かにね、あの魔人族達が、そんな物をせせこましく開発している姿なんて、想像もできないもんな」


 リボショラが、昔を思い出すように目を細めて言う。他の長達も同意を示した。


 五百年前に戦った魔人族の、豪胆で恐ろしい性格からは想像も出来なかったのだ。


「サブロー殿」


 イーバが改まった口調で三郎の名を呼んだ。


「はい、何でしょう」


 イーバの諭すような声に、三郎は背筋を正して返事を返した。


「今お聞きいただいたように、森の件は一応の決着を見ておる。そして、セチュバーの反乱についても、魔人族との繋がりがある以上、人族同士の争いでは収まらぬようになっとると感じるのだが、いかがかな?」


 イーバの言葉に、三郎は「確かに」と頷くことしかできない。


「助けが必要であるならば、其方を助けたいと願っている者を頼る、それもまた情けだと思うのだがね」


 イーバの言わんとしている意味を理解し、三郎は言葉を失った。


 それは、三郎達の一助となる事を、長達含むエルート族が望んでいるのだと言ってくれているのに他ならなかったからだ。


「すみません、ありがとうございます」


 三郎の絞り出すような声に、イーバは包み込むような優しい笑顔で頷き返した。


「では、早速ではありますけれど、今後の動きについて話し合わなければなりませんね。事は急を要しますもの」


 イーバの後を引き継ぐ様に、メルソファナが言った。いつの間に近づいていたのだろうか、メルソファナの後ろには、ゲージを持った兵士が二人控えている。


「軍の指揮権はね、意外かもしれないけれどもね、このメルソファナが全部持ってるのよ。五百年前もね『いかづち』の二つ名で魔人族に恐れられた人だったんだわ、この人」


 驚いた顔をしていた三郎に、リボショラが親切にも説明してくれた。


「あら、恐れられてただなんて言ったら、皆さん勘違いしちゃうじゃない。ふふふ、誤解しないでね、私は今も昔も親切な人で通っていますから」


 メルソファナの言葉を聞いて、イーバが耳を撫でている様子が三郎の目の端にちらりと映る。


 そして、雷の二つ名の示す通り、今後の動きについて電撃的な速さで決まってゆくのだった。

次回投稿は1月27日(日曜日)の夜に予定しています。

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