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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第四章 深き大森林での再会
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第69話 セチュバーの侵攻

 三郎達が半時ほど歩くと、前方の景色に薄らぼんやりと、巨大な木のシルエットが浮かび上がってきた。


 トゥームは、ピアラタの町に入ってから粗相がないようにと、部隊長とパリィに礼儀などについての話を聞きながら前を歩いており、その後ろに三郎とシャポーが続いている。


 霞みの中に見えてきた大樹は、ピアラタの町の中心に位置する物だと、部隊長が三郎にも説明してくれた。


(エルート族が守る世界樹的なノリの木だったら、テンション上がっちゃうな。そんなのだったら、ファンタジー感めちゃくちゃ出て来るし。でも、世界樹って呼ぶには、もう少し巨大感が足りないか?もっとこう「天を貫く~」って感じが欲しいかなぁ。いやいや、実際にあったら、こんなもんなのかもしれないし)


 三郎は心の中で、勝手な期待感を膨らませるのだった。


 そして、ふと疑問がわく。


 三郎は、ピアラタへ入ってから真っ直ぐな道を歩いて来ていた。遮る物が無い状態にもかかわらず、進行方向にある巨大な木が、ここまで見えていなかったのだ。


「ここの空気って、多湿なのかな?でも、そんな感じでもないか。空気中に何かが舞ってるようでもないし」


 見通しが良いとすら感じていた三郎は、大きく息を吸ったりしてみながら首をかしげる。


 大気中に塵や埃が多い場合も、遠くの景色が霞んで見えるが、三郎の吸い込んだ空気からは埃っぽさなど微塵も感じなかった。むしろ美味しいと思うほどだ。


「確かに、大気中に水蒸気が多く含まれていると、遠くのものが霞んで見えるのですよね。でもです、同じように霞んで見える景色でも、ピアラタの空気はちょっと事情が違うみたいなのです」


 三郎の疑問に、隣を歩いていたシャポーが空を見上げながら答えた。


「事情が違う・・・ねぇ」


 三郎も同じように空を見上げて呟く。


「ピアラタの空気も物質には違いないので、近くでは分からない程度ですが、ほんの僅かに発光している様なのです。その僅かな光りが、遠くの景色を霞ませているのですよ。純粋に物質の持っているエネルギーが、ピアラタでは光って見えているようなのです!簡単にご説明しますとですね、高エネルギー体の発光現象や、薬液などの合成での発光現象を参考に考えてみたのですが、この次元にエネルギーを持ったものが混ざり込むことで、視覚的に発光していると認識できてしまうようなのですよ。詳細については、調べてみない事にはなのですが」


 シャポーは嬉しそうに、三郎へ説明をする。が、三郎は参考に考えてみても全くピンとこなかった。


「ピアラタではエネルギーが光るのかぁ。うん、すごいなぁ」


 三郎の適当な相槌に、シャポーは「すごいのです」と満足そうに頷く。


「エネルギーが光るって言うなら、精霊のほのかなんて結構光っちゃうんじゃ・・・って、そういえば、ほのかってピアラタに入ってから見てないよな」


 言いながら、ほのかの姿を探して三郎は周囲を見回す。


「ほのかちゃんは、シャポーのフードの中で寝てるみたいなのです。入り口を通った時からずっとフードに入っているのですよ」


 シャポーは、背中に下がっているフードを指差した。


 確かに、シャポーのフードは、ほのかが入っている時の微妙な膨らみをしている。


「そっか。何か、ほのかだったら嬉しそうに飛び回ってそうな気がし―――」


「ぱぁぁぁぁぁ!」


 三郎の言葉を遮り、光る物体が大きな声を上げて、シャポーのフードから勢いよく飛び出した。そして、一行の間を縫うように飛び回ると、三郎の手元へ舞い戻った。


 三郎の手の上で、ほのかがご機嫌に踊って回転している。


 ほのかの周囲では、光が小さく結晶化し、三郎の手の上でくるくると回りながら光の粒をまき散らしていた。


「おお~、ほのか、すっごい光ってる」


「ほのかちゃん、キラキラなのですよ~」


 手の上でご機嫌に回るほのかを見て、三郎とシャポーが感嘆の声を上げる。


「え、それってほのかなの?何かと思ったわ。でも、すごく綺麗ね」


 トゥームも近づいて来ると、きらきらと輝くほのかを覗き込んで言った。


「ぱぁ、ぱぁ、ぱぁぁ」


 ほのかが、大成功と言わんばかりのどや顔をして、得意気に胸を張る。


「ん?ほのか、もしかしてびっくりさせようとして、シャポーのフードに隠れてたの?」


「ぱぁぁ」


「なんだ、ほのかはお茶目だなぁ~びっくりさせられたよ」


「ぱっ!」


「うんうん、光ってるから本当にびっくりし・・・」


 三郎は、ほのかと会話しながら、ふと周りからの視線に気づく。トゥームとシャポーに加え、部隊長とパリィまでもが三郎を不思議そうに見ていた。


「んん?皆、変な顔をしてどした?」


「いやぁ、サブローさん流石って思いましてね。ほのかさんの『ぱぁ語』を理解されてるって所が、やっぱり、与名の盟友は半端ない感じですかね」


 パリィが歯を見せて笑いながら言うと、トゥームとシャポーも微妙な顔をして頷く。部隊長は、尊敬の眼差しを三郎に向けていた。


「いや、理解って言うか。何となくなんだけど」


「ぱ~ぁ~♪」


 おじさんが、ぱぁ語を理解して間もなく、ピアラタの町に無事に到着するのだった。




 ピアラタの町は、グランルート族の町フラグタスと同じような建築様式をしていた。


 天然の生きた樹々の中が家として使われており、人々の生活の場となっている。道は色とりどりの敷石によって整備され、三郎の知っているどの町よりも歩きやすい物だった。


 手入れされた草木が街を美しく彩っており、三郎はエルート族の森に根ざした文化を肌で感じるようだった。


 だが、フラグタスとの決定的な違いがあるとすれば、その規模であろう。


 中央王都とまではゆかずとも、町としての規模はかなり大きい。


 建物として使われている木も大木ばかりであり、五階以上の居住空間を内包した樹木も多く、上を見れば木々の間にも橋が渡されているのが目に入る。


 浮遊木製の荷台を引いた馬車が行き交い、人族の町よりも洗練された雰囲気が伝わって来る。


 差し詰め森の中の都会と言った所だなと三郎に思わせるのだった。


 エルート族の人々は、三郎達の来訪を既知としている様子で、視線が合うと三郎達に笑顔で挨拶を送ってくれた。


「このまま直接、ピアラタの長の所に案内してくださるそうよ。サブローとほのかについてと、森での出来事について聞かれるみたい。格式ばった物ではないから、人族の作法で気を張らずにって部隊長が言ってくれてるわ。でも、失礼が無いよう注意して頂戴ね」


 トゥームが、物珍し気に町を眺めている三郎とシャポーに、部隊長から聞いた事を伝える。


 ピアラタの町に入ってからかなりの距離を歩き、一行は長の居る大樹へと到着した。それは、ピアラタの中心に位置する一際大きな木であり、三郎が世界樹とかだったらテンション上がるなと考えていた物だった。


(うん、長のお住まいでしたか。そう簡単に、ファンタジーさせてくれませんよね。ですよねー)


 三郎の軽い落胆を他所に、部隊長が案内役を別のエルート族の女性に引き継いでいた。


「サブロー、君達をここまで案内出来た事を光栄に思おう。助けが必要であれば、私含めエルート族の者を頼ってもらいたい。これからも君達の旅が、稔り多き旅となることを祈っている」


 部隊長はそう言って、手の甲を三郎へ差し出す。三郎はシトスから教わっていた敬意を込めた挨拶だと気づき、自分の手の甲を合わせた。


 部隊長は思わず差し出してしまったエルート族の挨拶に、三郎が対応して見せたことに満足そうに頷き、軽快に身をひるがえして立ち去っていった。


 大樹の中へ迎え入れらる際、トゥームが武器類の携帯について案内役へ聞くと、そのままでも構わないとの答えを返される。


 廊下は広い作りとなっており、天井も見上げるほどに高い。腰に剣を下げたエルートの兵士ともすれ違い、三郎はここが巨大な樹の城なのだと理解した。


 三郎達は暫く歩き、上の階にある客間へと通される。


 部屋は広く、壁際にはエルート族の調度品が並べられた棚が据え付けてある。柔らかなクッションのソファや、木目の美しい工芸的な大テーブルが並べられていた。


 窓には大きな磨りガラスがはめ込まれており、外からの光りを優しく室内へ取り込んでいる。照明の類は一つも見当たらず、全ての物が淡い光を放つピアラタならではなのだなと、三郎に思わせた。


 客間まで案内してくれた女性は、長達の支度が整うまで暫くお待ちくださいと言い残して部屋を後にした。


「なぁ、今の案内役の人『長達おさたち』って言ってなかった?」


「そういえば部隊長が、年長の者達が長になると言っていたから、一人とは限らないのかも。国という形をとっていないのなら、ありえるのかしらね」


 三郎の問いに、トゥームが半分納得したような返事を返す。三郎は、会ってみれば分かるかと言って、考えるのを止めることにした。


 シャポーは、部屋に並べられた品々を興味深げに眺めて回っている。その頭の上で光り輝いているほのかが、シャポーの真似をして調度品を眺めるふりをしていた。


「少し時間もありそうだし、教会本部の総務部とスルクローク司祭に、ピアラタへ招待されていると連絡を入れておくわ」


 修道の槍を壁際に置くと、トゥームはゲージを取り出してソファーに腰を下ろした。


「そうだな、心配されるといけないから、お願いするよ」


 三郎も相槌を打ち、トゥームの隣に腰を落ち着けた。


「はぁ~、あの透明な瓶に彫られている文字は精霊文字なのです。書物で読んだけなので詳しく分かりませんが、氷の精霊に対して働きかける文章のようでした。瓶に入れた液体を精霊に冷やしてもらうのでしょうか。精霊の瓶だなんて、王室でも持っていない一品なのですよ」


 シャポーが、調度品の感想をこぼしながら、三郎達の元へ戻ってくる。


「へぇ、相当珍しい物が並んでるんだ」


「ですです」


 三郎の言葉に、シャポーが頷きながら向かい側のソファに座った。


 調度品に興味を引かれて、三郎がソファから立ち上がろうとした時、隣に座っているトゥームが険しい表情で声を上げた。


「中央王都が・・・セチュバーの軍に占領されているわ。クレタスに内乱が起こっている」


 トゥームのゲージには、教会本部が全ての教会関係者へ発信した情報が映し出されていた。


 そこには、中央王都を守っていた王国の盾騎士団の壊滅と、教会本部にて防衛戦が行われており、援軍を求める旨が伝えられている。


 中央王都国王以下、トリア要塞国と高原国家テスニスの両国幹部が人質となっており、慎重な対応を要するとの厳命も書かれていた。


「セチュバーって西側の国だよな。魔人族の侵入を抑える役割をしてる『守衛国家』とか言われなかったか?そんな国が内乱?」


 トゥームの鬼気迫る声を受けて、三郎の体にも緊張が走る。


 三郎にとって、戦争やクーデターと言った物は、遠い国で起こるテレビの向こうの世界だった。しかし、トゥームの様子が、三郎の身近に起こっている事実であると理解させる。


「うそ、ソルジにまで!」


 突然立ち上がったトゥームが、ゲージを見つめて絞り出すように言う。


「ソルジ!?ソルジがどうしたって?」


 トゥームの言葉に、三郎も立ち上がり詰め寄るように問いただす。脳裏に嫌な予感が浮かぶ。


「セチュバーの軍が、ソルジにも攻め込んでいるわ」


 震える声で発されるトゥームの答えに、三郎は言葉を失った。

次回投稿は1月6日(日曜日)の夜によていしています。

年末につき、1週あけさせていただきます。良い年末をお過ごしください。


そして、誤字修正をしていたら0時過ぎてしまいました。申し訳ないです。

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