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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第四章 深き大森林での再会
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第56話 魔導砂は珍しい物

 シャポー・ラーネポッポは、焼野原の真ん中を、先頭を切って進む。


 先頭とは言っても、すぐ横には三郎が歩いており、トゥームも襲撃があれば対応できるほど傍にいた。


 だが、シャポーは、次は自分の出番であると意気込んで、先頭を歩くのだ。


「なぁトゥーム、シャポー妙に張り切ってないか」


 三郎は、トゥームに近寄ると、シャポーに聞こえないよう小声で言う。


「そうね、緊張して固くなるよりは良いけど、力みすぎるのもどうかしら・・・」


 やれやれと言った調子で、トゥームは肩をすぼめた。


 どうやらシャポーは、三郎(実際は、ほのか)の活躍に触発され、緊張よりも興奮が勝ってしまっているのだった。


「まぁ、頑張ろうって所に水を差すのも野暮ってもんで。やっぱり、ここはひとつ、ドンと構えて見守るってのが大人って感じじゃないですかね」


 陽気な声でカラカラと笑って、三郎達の後ろからパリィが会話に入って来た。


 ずっと道案内として先頭を歩いてきたパリィだったが、燃え落ちて見通しの良くなりすぎたこの場所では、案内も何もあったものではないので後方に付いて歩いている。


 魔力の炎が燃え盛っていた場所でもあり、別の魔法が仕掛けられている事も考慮し、用心としてシャポーが『二番手』を進む事になった為でもあった。


 当然、先頭を行くのは、一行の中で戦闘に秀でたトゥームの役割となっていた。


 しかし、事あるごとに「そこに強い魔力反応が!」だの何だのと言って、シャポーが前に出るので、現在はこの形で落ち着いてしまったのだ。


 目的地は、少し先に見えている燃えていない森なので、迷うこともない。


 パリィが、聖峰ムールスの左側の麓を目指して進もうと方向も示していたので、見失うことも難しい大きな目印が堂々と三郎達の前にそびえ立っていた。


(魔人族の魔法が発動していた地ですからね。シャポーが気付かないと、サブローさまに危険が危ない事になるのです。シャポー・ラーネポッポ一世一代の本気モードなので・・・ん?)


 気合を入れて『魔力検知の視力』を発動していたシャポーの目が、地面に他とは異なった魔力の集積があるのを検知する。


 魔力の炎の壁があった場所全体に、まだ効力が消えて間もないため『魔力残渣』が多く、シャポーの目には魔法の痕跡がいたる所に見えていた。


 魔力残渣とは、魔法が行使された後、魔含物質が魔法の影響で変形変異を起こし、痕跡として残っている物を指す。


 大都市では、犯罪における魔法使用の有無から始まり、属性、特性や魔法の特徴等の捜査で使われたりもする。


 シャポーの目が検知した魔力の集積は、炎の魔法の痕跡とは違い、自然として存在する魔含物質が集まった様な物だった。


 それは、天然の魔力溜まりに近い様子であったが、手の平サイズと規模が小さく、魔力溜まりの発生しやすい窪地や谷といった地形的特徴からも外れている。


「あれは、何でしょうか・・・」


 小さく呟いたシャポーが、突然駆け出した。魔力の集まっている所で足を止めると膝を落とし、そこにあった砂を拾い上げる。


 砂は、シャポーの左手の上で干渉するような虹色の光を放っていた。


「それは、砂?突然走り出すから驚いたよ。って言うか、その砂の光り方って、どこかで見たような気がするな」


 追いついてきた三郎が、シャポーの手の平を覗き込んで言う。


「先に言ってから動いてくれないと、護れなくなってからだと困るわよ」


 トゥームは流石に訓練されているので、シャポーが駆けだした程度では驚きもしないし、距離も取られない。だが、安全の為に注意はしておく。


「すみませんです。違和感のある魔力溜まりがあったので、ついつい走ってしまいました。そしたら、こんな物があったのです」


 シャポーは謝りながら、左手を全員の見える位置に出した。


「何です、その砂は?敏腕案内役を長いこと務めているパリィも、深き大森林で始めて見るってもんですよ。というか、やっぱりそれは砂って呼んでいいんです?」


 覗き込んだパリィが、大森林には無い物だと言う。少なくとも、パリィは今までに大森林の中で見たことが無い。


「はい、これは『魔導砂まどうしゃ』と言われる砂なのです。百年以上前に軍事技術として研究されていた物で、実際に使った国は無かったと記憶しているのです。使われなかった理由は、魔導砂を作るのに天然のエネルギー結晶を使わなければならず、兵器として使うには大量の結晶が必要になるのと、生産の難しさがあったためだと書物には書いてあったのです。シャポーは、実物を師匠に見せてもらった事があるので分かったのですが、それもほんの一握りの小瓶に入っていた物で、現在は生産している者は居ないのだと伺っているのです」


 難しい表情で、シャポーは魔導砂について語る。


「あぁ、どうりで見た事ある虹色の光だと思った。エネルギー結晶の砂バージョンなのか」


 三郎が、教会やカスパード家、店舗のランプ等で見ていた結晶の色を思い出す。


「エネルギー結晶の砂と言う表現は的確な表現なのです。しかし、シャポー達が日常で使っている人工のエネルギー結晶は天然の物と構造や仕組みが少し違うので、砕いても魔導砂にはならないのですよ」


 シャポーによれば、研究の始まった百年ほど前は、天然のエネルギー結晶が多く産出され使用されていたので、こういった軍事技術も研究されたのが分かると言う。


 しかし、現在は天然の結晶の埋蔵量自体が減っており、採掘場も少なくなっているので、研究はおろか生産すら考えられない事なのだ。


 それに、書物に残された研究結果には、生産の難しさから実用には値しないとまで書かれている。


 天然のエネルギー結晶を砂粒の大きさまで砕く際、多重の保持魔法を張り巡らせなければ魔力の消失を招いてしまう為、費用対効果が得られないのだと言うことだった。


 結晶構造や人工と天然の違いについても、シャポーは説明しようとしていたが、トゥームが合間合間で上手く先を促したおかげで『結晶についての講義』とならずに済むのだった。


「この魔導砂についてですが、炎魔法を補助するための術式が組み込まれている様なのです。簡単にご説明するなら『炎属性の魔導砂』と言う物だと考えていただければ良いと思うのです。炎の魔法を増長させ持続させるのに効果がある様です」


 しげしげと観察するように見ながら、シャポーは説明する。シャポーの目には、魔導砂の中に組み込まれた魔法の特徴が見えていた。


「とすると、この魔導砂は魔人族が持ち込んだ物で、広範囲を炎上させて、更に炎を持続できていた理由がこの砂って事になるのか。いくら魔人族でも、魔法の範囲と維持力が凄すぎるって言ってたもんな」


 シャポーが言っていた言葉を思い出しながら、三郎は首を捻る様にして言った。


「私も魔導魔装兵器についての座学で魔導砂について聞いていたけど、実用されていた場合の例として、こんな事象もあったわね」


 トゥームが、思い出すようにしながら言う様子を見て、三郎は(トゥームは騎士だったな)と再認識するのだった。


「うーん、そうですね。可能性としては考えられるのですが、魔人族が魔力補助となる物を開発して使うとは、知る限り想像できないのですよね」


 シャポーは、視力の検知特性を魔導砂の周波数に絞り込み、燃え尽きた森に目を向ける。


 反応が弱すぎて正確な量まで把握できなかったが、一面に魔導砂が撒かれていると言うことだけは分かった。


「まさかとは思うけど、この砂を取り除かないと、また魔人族に炎の魔法を使われて燃えるって事なのか?」


 三郎が、考えたくもないという表情をしてシャポーに聞いた。再び魔力の炎に対峙するなら、また森を焼かなければならなくなるのではと考えたのだ。


「いえいえ、魔導砂は一度使われれば再度使用は不可能な物なのです。現に、この砂も術式は残っているのですが、自体のエネルギーが薄れてますので、術式を連鎖的に発動する力は無くなっているのです。時間が経てば、この光も失われてただの砂粒になってしまうのですよ」


 実際、シャポーの手の上の砂も虹色の光をうしなっている粒が幾つも混じっていて、本来の機能を発揮する余力は残っていない様だった。


「放っといて良いってお話でしたら、安心するってもんですよ。やっぱり、シャポーさんは頼りになる魔導師さんって感じで、パリィは感心するって所ですよ」


 ゲージを取り出して、魔導砂についての対応を仲間に伝えなければと考えていたパリィが、シャポーの話を聞いて安心した声を上げる。


「た、た、た、頼りになるだなんて、い~、何時でも頼りにしてくださって結構ですので!ささ、さぁ、先を急ぐのです。ゲージが使えなくなった原因を探すのですです」


 顔を赤くしたシャポーが、ぱぱっと手をはらうと跳ねる様な仕草をしながら言った。頼りにされるのが嬉しかったのだ。


「そうだな、まだこの辺りはゲージが使えそうだもんな。もう少し先に進まないとだめかもしれないな」


 三郎が相槌を打つと、シャポーはくるりと向きを変えて「ですです」と言いながら先を急ぎ出す。


「だから、動き出すときは言いなさいってば、もう」


 やれやれと言った調子で、トゥームはまた肩をすぼめるのだった。

次回投稿は9月30日(日曜日)の夜に予定しています。

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