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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第四章 深き大森林での再会
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第50話 メンタルが削られる旅

「いやーやっぱり、パリィがお迎えに参上してなかったら、ドートの入国は難しいって感じでしたよ。こりゃー、ドートの水先案内人まで出来ちゃうって感じかなぁ。まいっちゃうなぁ」


 トゥームがグランルート族長へフラグタスまで向かうという連絡を入れると、中央王都とドートの国境にある町まで迎えの者を出してくれると返事が来た。


 国境の町で合流したのは、グランルート族の敏腕観光案内人ことパリィだった。


 現在、国境では、厳重な警戒態勢がとられており、人々の行き来が日増しに難しくなっている。


 それは、商業王国ドートの王が、中央王都からの援軍を拒んでおり、国境付近に厳戒態勢を敷いているからだ。


 ドートの王カルモラは、豪商上がりの王であるが故に他国へ『借り』を作ってしまうような状況を好まず、中央王都からの派兵を全て断り続けているのだった。


 王国の剣と呼ばれる騎士団を中心として編成された援軍は、すでに中央王都を出発してドートへ向けて進んでいた。だが、当初の『援軍としてドートへ入る』との命令は『国境に一番近い町で待機せよ』との命令に変更され、ドートへ入国することが許されていなかった。


 教会の修道騎士においても同様で、中央王都からの増援をドート国王の名で見送るようにとの要請が出されていた。装備を整えた複数の修道騎士が、許可なく国境を越えるともなれば、武力介入として言及される事もあるので、慎重な対応が求められる場面となってしまっている。


 三郎達も国境の町で追い返されそうになったのだが、ひょっこりと現れたパリィが、グランルート族からの正式な要請であると伝えると、ドートの警備兵達はあっさり引き下がった。


 エルート族やグランルート族は、ドート領内に居るとは言えども、その統治下にあるわけではない。しかし、共存しているという考えから、クレタス人の作ったルールに他の種族は理解を示し、クレタス人も他種族の生活や文化を尊重することでクレタス全土は成り立っている。


 グランルート族長がパリィを迎えに寄こしたのは、人族の事情を十分に理解した上での最善の判断だった。


「せっかくクウィンスが頑張ってくれてるのに、国境で足止めなんてされたら笑えないもんな。本当に助かったよ」


 三郎の言葉に、パリィは満面の笑顔で「いやいやーやっぱり、感謝なんかされちゃいます?」等と陽気な返事を返した。


 三郎達一行を乗せた馬車は、中央王都をたって三日目の昼を迎え、グランルート族の町フラグタスに到着しようかという所まで来ている。


 速馬車を教会でかりる時に再会した友獣ワロワのクウィンスは、整備の者達が車体を用意すると、自分が引くのが当然だと言わんばかりの態度で牽引する場所に自ら収まって見せた。


 その馬車は、ソルジからの旅路でお世話になったキャラバンタイプの馬車とは違い、積載量よりも風の抵抗を少なくする事を重視したデザインの車体で、各所の構造や強度も数段上なのが一目で分かる物だった。


 整備の者達が動揺している中、三郎はクウィンスにお礼の言葉を言いながらじゃれあっていたが、トゥームは冷静に近くの者に『クウィンスは速馬車の牽引をできるのか』と尋ねていた。


 整備の青年曰く、クウィンスは友獣ワロワの中でも俊足なので問題は無く、むしろ、率先して速馬車の牽引役を買って出ている事が驚きなのだそうだ。


 速馬車は、性格が頑張り屋さんなワロワに任せるのが普通で、クウィンスはどちらかと言えば、美味しいゴハンと安全な寝床の為に『のんびりとお手伝いする』スタンスのワロワだ。


 そんなクウィンスだが、自らやる気があるところを見せたとおり、五日ほどかかる距離を二日半程度で走破しようとしていた。それも、御者の者が驚いてしまうほど、颯爽と楽しそうにである。


「そういえばトゥーム、シトスとは連絡とれないままか?」


 車窓の外に堂々とたたずんでいる聖峰ムールスが目に入り、三郎はトゥームへ話しかける。


 ムールスの手前には、遠目ではあるが灰色の煙が帯状に上がっているのが見て取れるほどに、森林火災が広範囲に及んでいるのが分かった。


 魔人族の宣戦布告ともとれる情報を聞いてから、シトスとは連絡が取れなくなっている。グランルート族も同様で、グレーターエルート族やエルート族との連絡がつかないのだと、パリィも話していた。


「ええ、相変わらず遮断されるようにかき消されるわ。フラグタスまでは連絡が届いているのを考えて、あの煙から向こう側で大地への問題があるんだと思うのだけれど、憶測の範囲を超えないわね」


 トゥームは、再度連絡を試みてから三郎へ返事をした。


「むむ~、直接問題の起こっている場所で解析の魔法を使ってみないと、シャポーにも詳しいことが分からないのです。でもですが、シャポーにできる程度の解析魔法で、分析がですね、できればの話なのです・・・けど」


 三郎とトゥームの会話に、魔導書へ目を落としていたシャポーが言った。自分に視線が集まったのに気付くと、語尾が自信なさげに自然と小さくなってしまった。


 中央王都を出発してからずっと、シャポーは魔導書とにらめっこをしていた。


 ゲージでの連絡が無効となってしまう原因を、シャポーなりに調べていたのだ。


「シトスさんが褒めるほどの魔導師さんなんですから、やっぱり、びしっと解析しちゃえるってもんですよ」


 悪気のない笑顔で、パリィがシャポーへ元気よく言う。


「そ、そうですよ、シャポーが頑張らないとダメなのです」


 そう言って、自分の気持ちを奮い立たせようとするシャポーの顔には、引きつった笑いが張り付いていた。


 どうやらシャポーは、魔術の検定試験前に緊張してしまうのと同じ心境に陥ってしまっている様子だった。


 三郎とトゥームは、シャポーがそんな状態であるのを理解しているかと、互いに目線だけで確認しあう。


 その間もパリィが、グランルート族は期待しているだの、エルート族の運命がかかっているだのと、シャポーへ鼓舞ともとれないプレッシャーを与えてしまっていた。


 シャポーは、何とか返事を返しながらも、顔から血の気が徐々に失せ、少し涙目になった瞳から光が消えていく。


 シャポーの頭の上に乗っていたほのかが、きょとんとした顔でシャポーを覗き込み、そのおでこをペシペシと叩いていた。


「解析もあれなんだが、俺はどんな手伝いをすれば良いのか聞いてないけど、パリィは知ってる?」


 これ以上は、シャポーのライフがマイナスになってしまうと感じた三郎が、一つ咳ばらいをするとパリィに話を振った。


 シャポー一人が抱え込んでいる問題では無いぞと、暗に気付いてもらいたいという意図も含んだ言葉だったが、ライフの減ったシャポーが気付けたかは定かではない。


「やっぱりアレじゃないですかね?精霊使い的なサブローさんには、与名の盟友としてほのかさんに助力を頼んでもらって、炎を制御できないかって所だと思うんですよ。まぁやっぱり、詳しいことは族長に聞いてもらうって感じですけど、グランルート族随一の敏腕のパリィの予想なんで、だいたい合ってると思いますけどね」


 シャポーへの無邪気なるメンタルアタックを止めたパリィが、三郎へ向き直ると少し考えるようにして言った。


 その言葉を聞いたほのかは、シャポーの頭の上で仁王立ちになると、どや顔をつくって胸を張る。


「いや、そこなんだけどさ、精霊使いになった覚えが、俺には全くないんだよなぁ」


 片眉を上げた三郎が、頬を指でかきながらパリィへ困ったような返事を返した。


 実際のところ、三郎は精霊の力を使う手立てを全く知らない。


「いやいや、始原精霊に名を与えたんですから、やっぱり、精霊使いって事になっちゃうのは当然なんですよ。本当、パリィは説明上手で参っちゃうなぁ」


 どこをどう説明したのか、という突っ込みが入りそうな説明をして、パリィは自画自賛の表情で三郎へ言う。


「いやいやいや、精霊魔法って言えばいいの?そういう物の使い方を教えてくれるとか、ちょっとした何かは無いのか?」


 パリィの適当ともとれる言葉に、少し焦りを覚えた三郎が聞き返す。


「いやいやいやいや、サブローさんほどにもなれば、やっぱり本能的に精霊への語りかけも出来ちゃうってもんですよ。期待も大きくなるってヤツじゃないですかね?」


 無邪気な笑顔で、パリィは三郎へ疑問形で投げ返した。三郎が言葉に詰まったのは言うまでもない。


 三郎とパリィの、平行線をたどるような会話の様子を、トゥームは半分呆れた様子で眺めていた。


 シャポーへ助け舟を出したかと思えば、その本人がプレッシャーを受ける羽目になっている事に、三郎自身気付いていないんだなと思いながら。


 見習い魔導師となんちゃって精霊使いのメンタルがごりごりと削られる中、馬車はフラグタスに到着しようとしていた。

次回投稿は8月19日(日曜日)の夜に予定しています。

5時でちょっと夜と言うには早い気もしますが、アップさせてもらいました。

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